Honda×AWSが仮想空間でクルマをつくる──車載ソフトウェア開発体制"Digital Proving Ground"爆速開発がスタート!~後編~
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こちらの記事は【後編】です。
ぜひ【前編】もご覧ください!
AWSとHondaがタッグを組んだ理由とは?
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社
グローバルオートモーティブ事業本部 本部長 池本 明央氏
「ソフトウェア爆速開発!? クルマは仮想空間で磨き上げろ」というタイトルで開催されたHondaとAWSによるセミナー。そのトップバッターとして登壇したのは、アマゾン ウェブ サービス ジャパン グローバルオートモーティブ事業本部 本部長の池本明央氏だ。
AWSはHondaと10年以上に渡り、コネクテッドカー(インターネットへの常時接続機能を具備した自動車)の領域で、共同作業を行ってきた。2022年の中頃より、新たに取り組んだのが、組織横断(クロスドメイン)による開発ができるフレームワークの構築である。
その取り組みについて、昨年12月に米ラスベガスで開催されたAWSのグローバルイベント「re:Invent」で発表。「Hondaのチャレンジは世界の中でも高い評価を得ました」と池本氏は言い切る。
AWSはなぜ、Hondaを選んだのか。AmazonおよびAWSはフライホイールと呼ぶビジネスモデルを採用している。フライホイールとは、顧客に対して様々な価値を提供して満足度を高めることで、さらに顧客や売手を増やして売り上げを伸ばす。ビジネスのサイクルが持続可能な成長を遂げられるというビジネスモデルである。
池本氏は「このビジネスモデルで一番、大切になるのがパートナー」だと強調する。AWSはこのホイールを一緒に実現していけるパートナーを常に探していたところ、Hondaが最も「本気でイノベーションを起こしたい」という熱い思いを持っていたという。「AWSとしても、手を組まないわけにはいかないと感じました」と、池本氏は力強く語った。
Hondaが爆速開発のパートナーにAWSを選んだ理由
本田技研工業株式会社
ソフトウェアデファインドモビリティ開発統括部
コネクテッドソリューション開発部 部長 野川 忠文氏
続いては、Hondaのソフトウェアデファインドモビリティ開発統括部 コネクテッドソリューション開発部 部長の野川氏が登壇し、HondaがAWSを選んだ理由について紹介した。Hondaでは、開発プロセスにおいて、まずソフトウェアを定義した上でハードウェアを決めていく。
現在は、ソフトウェア・デファインド・ビークル(SDV)という考え方を推進しているという。SDVをプラットフォームとして、どのように活用するのか。
「AWSは元々、Amazon(インターネット通販)を支えるインフラとして生まれ、外向けにサービスとして提供したもので、今やAmazonの事業を支えています。これは我々が今つくろうとしているSDVプラットフォームと同じ。SDVをそのような存在に育てていくには、技術はもちろんですが、経験やカルチャーが重要になる。だからそれを学べるAWSを選んだのです」(野川氏)
Hondaは4輪のクルマだけの会社ではない。二輪、汎用機、ジェット機もつくっている。今では宇宙での乗り物という話も出てきているという。
「最終的にはSDM(ソフトウェアデファインドモビリティ)まで広げていきたいという想いで開発を行っています」(野川氏)
これまではクルマはハードをつくり、車内システムをつなげてから、車外とつながるシステム(コネクテッドサービス)の検証などを行ってきた。だが、それではIn-Car/Out-Carのソフトウェア開発のスケジュール感が合わない。
それらを解決するためにHondaが考えたのが、「デジタルプルービンググラウンド(DPG)」である。プルービンググラウンドとは、クルマのテストコースのことだ。SDV開発者はそれぞれ時間や場所、スキル、担当する車両などが異なる。
そのさまざまなSDV開発者が、いつでもどこでも簡単に開発できるバーチャルな環境がDPGである。
「まずは車載ソフトウェアの仮想開発環境からつくります。最終的には一般ユーザーからのデータをもとにニーズを取り込み、そのデータを利活用しながら価値を継続的に生み出していけるようにする。それがDPGの目指す姿です」(野川氏)
車両開発に関わる全ての人が協調するための基盤「GDP」をつくる
アマゾンウェブサービスジャパン合同会社
グローバルオートモーティブ事業本部
シニアソリューションアーキテクト 渡邊 翼氏
続いて登壇したのは、AWSのシニアソリューションアーキテクトである渡邊翼氏だ。AWS のソリューションアーキテクトとして製造、自動車業界の顧客を支援している。渡邊氏は、「初めて乗った車は、Hondaの軽バン『アクティ・トラック』です」と笑みを浮かべ、セッションを始めた。
これまでの発表にもあったように、自動車の開発は従来のハードウェア中心からソフトウェアが主導する形、SDV化へとシフトしている。「優れたソフトウェアを早く開発していく能力が重要になってくる」と、渡邊氏は指摘する。
だが自動車のソフトウェア開発の現場には、一貫性のない開発環境、多数のツールを利用、複雑な環境セットアップ、長いフィールドバックループ、ハードウェアに依存した開発など、開発スピードや品質向上を阻害する要因がある。
それらの車載開発における課題を解決するのがクラウドだ。まずは仮想ECUによるハードウェアに依存しない開発が可能になる。
次に柔軟でオンデマンドな開発環境の提供により、環境構築や管理の手間を削減し、開発業務に専念できるようになる。さらに先進機能の開発に最新技術を活用できるようになる。
「データ分析や生成AIなども、イチからセットアップすることなく利用できます」(渡邊氏)
具体的な利用例についても紹介された。AWSでは車載開発で一般的に採用されているBlackBerry社のQNX OSが利用可能だ。QNX OSのAmazon Machine Imageを使うことで、AWSの仮想サーバ上で開発できるようになっているのだ。
続いて渡邊氏は、本題のHondaとAWSが共同で進めているDPG開発の説明を行った。DPGの開発では、AWSがもつプラットフォームエンジニアリングという考えを適用していくという。
「プラットフォームエンジニアリングは、車の機能や製品開発を行っているチームのツールや制約などの認知負荷を軽減し、かつ開発効率を向上させ、ビジネスの価値になることに、より注力できることを目指す考え方です」(渡邊氏)
DPGのアーキテクチャは以下スライドのとおりである。この中で黄色い枠で囲まれた部分が、先の4人のHondaエンジニアが発表した部分だ。
「いずれもクロスドメインで開発していることがわかると思います」(渡邊氏)
DPGの利用例についても、具体的に紹介された。例えばIVI(車載インフォテインメント)の開発であれば、開発者ポータルからIVIの開発環境を作成し、アプリケーションとバイナリをビルドする。
また、同じクラウド上にIVIターゲットを作成し、そこにビルドしたものをデプロイしてテストするということができるようになる。「こうした開発環境を開発者向けに提供することも、プラットフォームの役目です」と、渡邊氏は語る。
DPGでの各ECUの開発環境は、AWSサービスカタログとAmazon EC2 Image Builderを使用して提供される。仮想および物理的なターゲットを統合する自動化されたパイプラインにより、再現性のある一貫した結果が生成できるようになる。
クラウド上でECUの開発環境をつくるといっても、課題はたくさんある。ECUも種類はさまざまで、求められる開発環境の要件は異なるからだ。
このような課題はあるとはいえ、AWS上で開発環境をつくることは、環境構築期間の短縮やライセンス管理の開放など、さまざまな効果がある。
その効果をもたらすための爆速開発には、車載開発とクラウド双方を理解している人材育成が欠かせない。そこでAWSでは、ハイブリッド人材を増やすための支援も行っている。
DPGは自動車業界に影響を与えるプラットフォーム。「それをHondaと進められるのは、特別な経験。AWSとしても誇れる仕事です。これからもいろいろな企業の力を借りながら、日本の自動車業界の進化に貢献していきたいですね」と渡邊氏は意気込みを語り、セッションを締めた。
【Q&A】参加者からの質問に登壇者が回答
セッション後は、参加者からの質問に登壇者が回答した。抜粋して紹介する。
Q.開発者ポータルではAWSサービスカタログとEC2 Image Builderを使ってECUを提供するということだが、Amazonマシンイメージ(AMI)だけでは足りないということなのか?
渡邊:AMIで車載の開発環境をつくることもできますが、開発者のやりたいことによっては、それだけでは足りない場合もあると思います。そういった際にAWSサービスカタログとEC2 Image Builderにいくつかの周辺サービスを組み合わせ、それぞれのお客さまのニーズを満たす環境を提供しています。
Q.車両を仮想化する場合、CAN通信やイーサネット通信を模擬(好きな信号を好きなタイミングで送る等)する必要があるが、そういったことはAWSで可能か?
渡邊:AWSで全て実現できるものはありません。例えば仮想CANなど、AWSだけで実現できないものは、自動車のツールベンダーと組んでいくことが考えられます。