佐々木俊尚氏が語る 「AIとビッグデータ、そして第4次産業革命が変える産業の未来」

2018/06/28(木)19:00 〜 21:00 開催
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佐々木俊尚氏が語る「AIとビッグデータ、そして第4次産業革命が変える産業の未来」イベント開催レポート

 

6月28日、愛知県名古屋市のJRゲートタワーカンファレンスにて、作家・ジャーナリストとして活躍する佐々木俊尚氏による特別講演「AIとビッグデータ、そして第4次産業革命が変える産業の未来」を開催いたしました。

昨今、AI(人工知能)やビッグデータなど、産業を大きく変革する「第四次産業革命」や「インダストリー4.0」が話題になっています。そこに登場する重要なキーワードであるIoTやAI、そしてそれらが実現させる第四次産業革命とは、どのようなものなのか? 今後実現が予想される未来への展望、そして理解の難しいAIの仕組みについて、佐々木俊尚氏にわかりやすく解説していただきました。

 

AIやIoT、インダストリー4.0が産業の構造自体を変える

 

講演の冒頭で佐々木氏は、まず今回の講演の核心であるAIやビッグデータ、IoT、そして第4次産業革命といったキーワードは、すべて同じ世界観のものであると定義づけ、それら全てを理解するには、この大前提をしっかりと認識することが必要だと語り始めました。

今は、産業やビジネスが大きな方向へ変化しつつある時代。その変わりゆく先にIoTやAI、第4次産業革命などがあるけれど、それは単に見え方が違うだけで、ひとつの同じ世界観を表しているものと佐々木氏。そこから徐々にそれまでの産業革命の話、そして講演の核心である第4次産業革命のことへと話題が移っていきます。


第4次産業革命のポイントは生産システムにある。そしてそれは19世紀の終わりに起きた第二次産業革命に匹敵する大きな変化をもたらすかもしれないと、佐々木氏は予測しています。
AIやIoT、インダストリー4.0は産業の構造自体を変え、川のように上流から下流へ流れる従来のモノやサービスではない統合された一つの空間、ビオトープ(生物生育空間)のようなものになるというのです。その空間の中に消費者も企業もユーザー企業も全てが含まれ、産業やビジネスはその空間自体を設計、デザインするという方向に変わってゆくのではないかというのが佐々木氏の考えです。

具体的な例として、工場のない家電メーカーである「Cerevo」を挙げ、彼らがどのようにグローバルサプライチェーンを活用したのか紹介。中国のグローバルサプライチェーンであるBaidu、アリババ、テンセントらがリードする流通の変革についても語っていただきました。
さらに、日本の製造業の代表ともいえる自動車メーカー、トヨタのUber提携についても触れ、その狙いと将来についても解説。佐々木氏からは、将来的に、自動車はスマホのような単なるハードウェア端末になるという衝撃的な言葉も。

佐々木氏は、やがて自動車産業は流れている情報をコントロールするフローのビジネスになると示唆。自動車を所有するという概念がなくなり、自動車は公共交通機関になる。そうなれば、自動車メーカーは車というハードを提供するのではなく、メーカーや消費者、車と社会、それら全体がコントロールされた空間をデザインするようになるはずだと予測。
こうしたサービスの事例として台湾の「Gogoro」によるEVスクーターを使ったサービスを詳しく紹介してくださいました。

 

世界の潮流に取り残される。意思決定が遅い日本の産業構造

 

日本ではIoTが正しく理解されていないのが大きな問題。アナログの世界をどのように情報化するかが大切なのに、スマホで操作させるだけの家電も少なくないのが現状だと指摘する佐々木氏。では、IoTの有効活用とはどのようなものなのか、すでに成功しているアメリカの下水道の事例やGoogleの自動運転車、そして日本ではまだ発売されていないアマゾンのスマートスピーカー「エコールック」など様々なジャンルの現状を教えてくださいました。

さらに、話題のZOZOスーツについても、どのようにIoTを活用しているのか紹介。ZOZOスーツの優れた点は、生産システムをうまく高度化・IT化して、低コストかつスピーディに、リアルタイムのカスタマイズを実現したということであり、それがインダストリー4.0の本質であると結びます。
しかし、日本の企業は意思決定に時間がかかるため、こうしたグローバルな産業の潮流から取り残されてしまうのではないかと佐々木氏は警鐘を鳴らします。その潮流に乗るには、まずビッグデータの解析など高度な技術が必要であり、そこに欠かせないのがAIなのだと佐々木氏。ここから話題はAIへと移ります。

 

AIの役割は情報を分析して、様々な傾向や特長を抽出すること

 

佐々木氏によると、AIについてはまだまだ誤解が多いのが現状。AIが人間の仕事を奪い、さらに人間を超える知性へと進化するから危険などと言われているが、その可能性はなく、AIの本質はもっと違う所にあると佐々木氏は強調されていました。

AIの正しい理解のために、初期のAIであるエキスパートシステムからマシンラーニング、さらにそれを高度化したディープラーニングなどを紹介してくださる佐々木氏。AIによる猫の認識といった具体例を織り交ぜながら、AIの基礎であるパーセクトロンやオートエンコーダーが概念的をわかりやすく解説。かつてないユニークな内容の話に、参加者の方々が強く興味を惹かれている様子がうかがえました。

AIは結局、人間が気づけない特長や傾向を見つけてくれるもの。どんなに高度化しても人間の知性にはならない。もし、人間を超える知性を作るのであれば、より違うアプローチで新しいAIを作る必要がある、というのが佐々木氏の考えです。

AIの役割は集められたデータを分析して、様々な傾向や特長を抽出すること。そしてAIを支援材料に、産業の構造をビオトープのようにひとつの空間としてデザインし駆動していくことが、今後の産業に一番重要。モノを作るのでもなく、サービスを作るのでもなく、モノやサービス、そして企業や消費者が渦巻く空間全体をデザインすることが必要になるそうです。

その一方で、いまだにモノづくりの幻想にとらわれ、よいモノを作れば売れると信じている日本。しかし、もうそんな時代ではなく、将来的には自動車さえも端末化していく。端末とクラウドがつながる空間、サイバーとアナログが合体した空間をいかに素晴らしくデザインするか。そのなかでAIによる支援を生かしていく。そうした構造がこれからの産業界には必要なのではないかと、佐々木氏に講演を締めくくっていただきました。