TECH PLAY

JavaScript

イベント

マガジン

技術ブログ

1. はじめに Amazon Connect Customer は音声/ビデオとチャットを個別のチャネルとしてサポートしており、それぞれ独自の API を備えています。ネイティブウィジェットやカスタムウィジェットを使う場合、各チャネルは独立して動作します。一般的なコンタクトセンターのシナリオではこれで十分です。 しかし、顧客とエージェントのやり取りが通話だけでは済まない場合はどうでしょうか? たとえば、顧客がローン申請の最終手続きのために電話をかけてきたとします。エージェントは事前承認を確認しますが、顧客は書類を確認して署名する必要がありますが、郵送された書類はまだ届いていない状況です。エージェントは顧客に電話を切って郵便を待つよう伝えるか、別でチャットを開始するしかありません。複数のやり取り、異なるエージェント、場合によっては数日の遅延が発生します。 もし通話中にエージェントが書類を送信できたらどうでしょうか? 顧客はその場で署名して返送できます。同じエージェント、同じやり取りで済ませられ、数日ではなく数分で完了することができるでしょう。 本記事ではこのような課題を扱います。音声/ビデオとチャットを統合し、シームレスな顧客体験を実現するソリューションを紹介します。 1.1. Amazon Connect Customer で実現できる理由 根本的な課題はシンプルです。ライブ通話中に顧客がエージェントとテキストメッセージやファイルをやり取りするにはどうすればよいか、ということです。 Amazon Connect Customer は必要な API とツールを提供しています。StartWebRTCContact API で音声・ビデオ通話を開始し、DescribeContact API でエージェントが応答した後のエージェント ID を取得できます。コンタクトフローは特定のエージェントにルーティングするための属性をサポートしており、チャットウィジェットは初期化時にコンタクト属性を受け取れるため、チャット開始時にアプリケーションからエージェント ID を渡せます。 これらの機能はいずれも新しいものではありません。新しいのは、それらを組み合わせる方法です。カスタム UI がアクティブな通話からエージェント ID を抽出し、チャットのルーティングロジックに渡します。チャット中も顧客は同じエージェントに接続されたままで、切断や別のキューでの待機は不要です。 1.2. ビジネス価値 1 回の顧客・エージェント間のやり取りでチャネルを統合することで、具体的な効果が得られます。 顧客にとって: コールバックや転送、別のキューでの待機が不要になります。先ほどのローンの顧客は、数日ではなく数分で申請を完了できます。 運用面: エージェントが顧客対応をエンドツーエンドで完結できます。重複作業、引き継ぎの手間、フォローアップタスクによるエージェントの負荷がなくなります。 コンプライアンス面: すべての音声・チャットのやり取りが 1 人のエージェント、1 人の顧客、1 つのケースに紐づきます。規制の厳しい業界では、チャネルをまたいだコンタクトレコードの紐づけにより監査が容易になります。 2. ソリューションのアーキテクチャ このソリューションは、カスタムフロントエンドを 3 つのレイヤー (ホスティングと配信、認証と認可、リアルタイム通信) で AWS サービスに接続します。 2.1. 概要 以下の手順は、図の番号付きラベルに対応しています。 ステップ 1 — 認証。顧客がユーザーインターフェースにログインします。フロントエンドが認証情報を Amazon Cognito ユーザープール に送信し、検証後に ID トークンが返されます。 ステップ 2 — 認可。フロントエンドが ID トークンを Amazon Cognito アイデンティティプール に渡し、 AWS STS の AssumeRoleWithWebIdentity を呼び出します。IAM ロールが Amazon Connect に対する最小権限を付与し、一時的な認証情報がフロントエンドに返されます。これは重要な設計上のポイントです。フロントエンドは長期間有効なシークレットを保持せず、すべての認証情報はスコープが限定され、短期間で失効します。 ステップ 3 — 音声・ビデオ通話。顧客が通話を開始します。フロントエンドは一時的な認証情報を使って StartWebRTCContact API を呼び出し、WebRTCQueueRouting コンタクトフローをトリガーします。このフローが対応可能なエージェントに通話を割り当て、 Amazon Chime SDK のミーティング設定を返します。フロントエンドは Chime SDK セッションを初期化し、リアルタイムの音声・ビデオストリームを管理します。同時に、フロントエンドは DescribeContact API を呼び出してアクティブなコンタクトからエージェント ID を取得し、ローカルに保存します。 ステップ 4 — 同じエージェントとのチャット。顧客がチャットを開くと、フロントエンドは保存済みのエージェント ID を Amazon Connect Customer チャットウィジェット に渡します。チャットウィジェットは Amazon Connect Customer のホストエンドポイントから読み込まれます。チャットコンタクトが ChatAgentRouting コンタクトフローをトリガーし、エージェント ID を使って通話中の同じエージェントに直接ルーティングします。このステップで、音声/ビデオとチャットが 1 人のエージェントに集約されます。やり取りが終了すると、フロントエンドは StopContact と DisconnectParticipant API を呼び出してセッションを適切に終了します。 2.2. フロントエンドコンポーネント ユーザーインターフェースは 5 つのコンポーネントで構成され、それぞれ異なる役割を担います。 Authentication State Manager は、Cognito ユーザープールのフローを通じてログインを処理し、ID トークンを生成します。 Credential Manager は、そのトークンを Amazon Connect Customer API にスコープされた一時的な AWS 認証情報と交換します。 Session Manager は通話のセッション全体を管理します。暗号化されたセッションコンテキストをローカルストレージに保存し、通話の開始を制御し、チャットウィジェットのルーティング先となるエージェント ID を取得します。 WebRTC Manager はリアルタイムメディアを管理します。StartWebRTCContact の呼び出し、Chime SDK セッションの初期化、音声/ビデオストリームの管理を行います。 Chat Widget は Amazon Connect Customer のホストエンドポイントから読み込まれます。Session Manager からエージェント ID を受け取り、チャットを同じエージェントにルーティングします。コンタクトの作成、WebSocket 接続、メッセージング、ファイル添付など、チャットのライフサイクル全体を処理します。 2.3. バックエンドサービス バックエンドは 3 つのレイヤーの AWS サービスで構成されています。 ホスティングと配信: Amazon CloudFront がセキュリティヘッダーとキャッシュを使って UI をグローバルに配信します。Amazon S3 に静的アセットを保存します。 認証と認可: Amazon Cognito ユーザープール、Amazon Cognito アイデンティティプール、AWS STS、IAM が連携します。フロントエンドには必要最小限の権限のみが付与されます。 コミュニケーション: リアルタイムのやり取りが行われるレイヤーです。StartWebRTCContact API が WebRTCQueueRouting フローをトリガーしてエージェントを割り当てます。API は Amazon Chime SDK の設定を返し、フロントエンドがリアルタイムの音声・ビデオを確立します。DescribeContact API でエージェント ID を取得し、ChatAgentRouting フローがチャットを同じエージェントにルーティングします。StopContact と DisconnectParticipant API でセッションをクリーンアップします。 3. 前提条件 デプロイには、以下の準備が必要です。 AWS アカウント ファイル添付が有効化 された Amazon Connect Customer インスタンス AWS CDK v2 のインストールと設定 Node.js v20.x 以降 適切な権限で設定された AWS CLI 4. ソリューションのデプロイとクリーンアップ ソリューション全体は AWS CDK アプリケーションとして GitHub リポジトリ にパッケージ化されています。このスタックは CloudFront、S3、Cognito、IAM ロール、Amazon Connect Customer コンタクトフローなど、すべてをプロビジョニングします。 README にリポジトリのクローン、依存関係のインストール、Connect インスタンスの設定、スタックのデプロイ、テストユーザーの作成、統合体験の検証まで、各手順が記載されています。 以下のステップバイステップのデプロイ手順に沿って進めてください。テストが完了したら、不要な課金を避けるためにすべてのリソースを削除してください。 5. まとめと次のステップ 本記事では、1 回の顧客・エージェント間のやり取りで、Amazon Connect の 1 人のエージェントを通じて音声/ビデオとチャットを統合する方法を紹介しました。この方法は StartWebRTCContact と DescribeContact API、コンタクトフローのルーティング、Amazon Chime SDK、標準のチャットウィジェット、Amazon Cognito と AWS STS による短期間有効な AWS 認証情報など、既存の機能を組み合わせたソリューションです。 これは 1 つのアプローチにすぎません。完全な柔軟性を求める場合は、音声/ビデオとチャットのカスタムウィジェットをゼロから構築することもできます。Amazon Connect API ( StartChatContact でチャットを開始、 CreateParticipantConnection で WebSocket 接続を確立、 SendMessage でメッセージング、 StartAttachmentUpload と CompleteAttachmentUpload でファイル共有) を使えば、すべてのインタラクションをきめ細かく制御できますが、実装の複雑さが増します。可能な限り Amazon Connect Customer の組み込み機能を活用し、必要な部分だけカスタマイズすることをお勧めします。 まず、書類への署名、ビジュアルトラブルシューティング、フォーム送信など、顧客がタスクを完了するために複数のタッチポイントを必要とするケースを特定しましょう。 GitHub リポジトリ からソリューションをデプロイし、実際に動作を確認してみてください。その後、1 つのチームと 1 つのユースケースでパイロットを実施し、導入前後の対応時間、初回解決率、顧客の手間の変化を測定しましょう。そのデータをもとに、ソリューションが自社のカスタマーサービス運用に適しているかを評価しましょう。 6. 関連資料 ソリューションの GitHub リポジトリ Amazon Connect Customer 管理者ガイド: アプリ内、ウェブ、ビデオ通話、画面共有機能のセットアップ Amazon Connect Customer StartWebRTCContact API Amazon Connect Customer DescribeContact API Amazon Chime SDK for JavaScript Amazon Cognito デベロッパーガイド Amazon Connect Customer 管理者ガイド: ウェブサイトにチャットユーザーインターフェースを追加する 著者について Ying Qian は、コンタクトセンター技術分野で 19 年以上の経験を持ち、ソリューションアーキテクト、テクニカルプロジェクトマネージャー、ICT リードエンジニア、オペレーションエンジニアなどの経験があります。AWS ではサービス担当ソリューションアーキテクトとして Amazon Connect Telephony & Resiliency SME チームをリードし、AWS Well-Architected Framework の原則に沿った Amazon Connect の導入を支援しています。仕事以外ではジョギング、家族とのアルプスハイキング、ボーデン湖での水泳を楽しんでいます。 Nelson Martinez はシドニーを拠点とする Applied AI シニアソリューションアーキテクトです。コンタクトセンター、ユニファイドコミュニケーション、IP テレフォニー、ネットワーキングの分野でオーストラリアと米国にまたがり 31 年以上の経験を持ちます。AWS で 5 年以上にわたり、クラウドコンタクトセンターと Applied AI ソリューションを専門とし、グローバル規模で業界をリードする実装を直接お客様と進めています。 翻訳はテクニカルアカウントマネージャーの高橋が担当しました。原文は こちら です。
こんにちは、駅メモ!開発チームエンジニアの id:hayayanai です! 最近、 VoidZero から Vite+ がリリースされました。 Vite+ は Vite 8、Vitest、Oxlint、Oxfmt などを統合した「Web のための統合ツールチェーン」です。 駅メモ!は現在 Vue + Vite 7 + Vitest + ESLint(チーム独自ルール有り)+ Prettier + Stylelint で開発されており、Vite+ のツールはまだ導入していません。 AI で開発が高速化した現代、数十倍速いと謳う Vite+ のツールチェーンは気になります。 ただ、そもそも各ツールがどれくらい Vue 対応しているのか、どう設定すれば良いのかがわからなかったので、テンプレを使って確認することにしました。 Vite+ 経由の vp create vue と従来の pnpm create vue@latest で生成されるプロジェクト設定を比較し、Vue プロジェクト特有の注意点を整理します。 検証環境 プロジェクトの作成 Vite+ 経由 従来の create-vue 生成される設定ファイルの比較 Vite+ プロジェクトの構成 従来の create-vue プロジェクトの構成 共通: eslint.config.ts 共通: Lint 実行順 Linter 比較: Oxlint vs ESLint 検証用コンポーネント Oxlint の結果 ESLint の結果 CSS/Style Lint について 型チェックの違い テスト Formatter 比較: Oxfmt vs Prettier Vue SFC のフォーマット対応 全体比較表 まとめ Linter 型チェック Formatter CSS Lint 検証環境 vp v0.1.16 (Vite+) create-vue v3.22.2 (pnpm create vue@latest) Node.js v24.14.1 pnpm v10.33.0 プロジェクトの作成 Vite+ 経由 vp create vue vue-viteplus ◇ Which package manager would you like to use? pnpm ◇ pnpm@10.33.0 installed ◇ Which agents are you using? Claude Code ◇ Which editor are you using? VSCode ◇ Set up pre-commit hooks to run formatting, linting, and type checking with auto-fixes? Yes Generating project… Running: pnpm dlx create-vue ┌ Vue.js - The Progressive JavaScript Framework │ ◇ Project name (target directory): │ vue-viteplus │ ◇ Use TypeScript? │ Yes │ ◇ Select features to include in your project: │ Vitest (unit testing), Linter (error prevention), Prettier (code formatting) │ ◇ Select experimental features to include in your project: │ Replace Prettier with Oxfmt │ ◇ Skip all example code and start with a blank Vue project? │ No Scaffolding project in /Users/yanai/project/vue-viteplus... │ └ Done. ✔ Merged vue-viteplus/.oxlintrc.json into vue-viteplus/vite.config.ts ✔ Merged vue-viteplus/.oxfmtrc.json into vue-viteplus/vite.config.ts Wrote agent instructions to CLAUDE.md Rewrote imports in 4 files ✔ Merged staged config into vue-viteplus/vite.config.ts ◇ Dependencies installed ◇ Code formatted ◇ Scaffolded vue-viteplus 出力を見ると Running: pnpm dlx create-vue とあり、内部で create-vue を呼んでいることが分かります。create-vue でプロジェクトを生成した後に、Vite+ が以下の変換をかけています。 .oxlintrc.json → vite.config.ts の lint ブロックにマージ .oxfmtrc.json → vite.config.ts の fmt ブロックにマージ vite / vitest の import パスを vite-plus に書き換え pre-commit フック( vp staged )の設定を統合 つまり vp create vue は create-vue のラッパーで、生成物を Vite+ 向けに変換しているだけのようです。 従来の create-vue pnpm create vue@latest vue-create-vue ┌ Vue.js - The Progressive JavaScript Framework │ ◇ Use TypeScript? │ Yes │ ◇ Select features to include in your project: │ Vitest (unit testing), Linter (error prevention), Prettier (code formatting) │ ◇ Select experimental features to include in your project: │ none │ ◇ Skip all example code and start with a blank Vue project? │ No Scaffolding project in /Users/yanai/project/vue-create-vue... │ └ Done. こちらは従来通りのシンプルな Scaffold です。create-vue 側でも「Replace Prettier with Oxfmt」の選択肢が出ますが、今回は Oxfmt との比較のため Prettier を選びました。 生成される設定ファイルの比較 以降のコードブロックは主要部分の抜粋です。 Vite+ プロジェクトの構成 package.json { " scripts ": { " dev ": " vp dev ", " build ": " run-p type-check \" build-only {@} \" -- ", " build-only ": " vp build ", " type-check ": " vue-tsc --build ", " test:unit ": " vp test ", " lint ": " run-s lint:* ", " lint:oxlint ": " vp lint . --fix ", " lint:eslint ": " eslint . --fix --cache ", " format ": " vp fmt src/ " } , " devDependencies ": { " eslint ": " ^10.1.0 ", " eslint-plugin-vue ": " ~10.8.0 ", " eslint-plugin-oxlint ": " ~1.57.0 ", " eslint-config-prettier ": " ^10.1.8 ", " vite ": " catalog: ", " vite-plus ": " catalog: ", " vitest ": " catalog: " } } vite.config.ts: import { defineConfig } from "vite-plus" import vue from "@vitejs/plugin-vue" export default defineConfig( { staged : { "*" : "vp check --fix" , } , fmt : { semi : false , singleQuote : true , } , lint : { plugins : [ "eslint" , "typescript" , "unicorn" , "oxc" , "vue" , "vitest" ] , env : { browser : true } , categories : { correctness : "error" } , options : { typeAware : true , typeCheck : true } , } , plugins : [ vue() ] , } ) defineConfig を 'vite-plus' からインポートしていて、Vite の設定に加え lint (Oxlint)、 fmt (Oxfmt)、 staged (pre-commit フック)の設定が1つのファイルにまとまっています。 vite と vitest は、 pnpm-workspace.yaml の catalog: により @voidzero-dev のものに解決されています。 従来の create-vue プロジェクトの構成 package.json { " scripts ": { " dev ": " vite ", " build ": " run-p type-check \" build-only {@} \" -- ", " build-only ": " vite build ", " type-check ": " vue-tsc --build ", " test:unit ": " vitest ", " lint ": " run-s lint:* ", " lint:oxlint ": " oxlint . --fix ", " lint:eslint ": " eslint . --fix --cache ", " format ": " prettier --write --experimental-cli src/ " } , " devDependencies ": { " eslint ": " ^10.1.0 ", " eslint-plugin-vue ": " ~10.8.0 ", " eslint-plugin-oxlint ": " ~1.57.0 ", " eslint-config-prettier ": " ^10.1.8 ", " oxlint ": " ~1.57.0 ", " prettier ": " 3.8.1 ", " vite ": " ^8.0.3 ", " vitest ": " ^4.1.2 " } } .oxlintrc.json: { " plugins ": [ " eslint ", " typescript ", " unicorn ", " oxc ", " vue ", " vitest " ] , " env ": { " browser ": true } , " categories ": { " correctness ": " error " } } .prettierrc.json: { " $schema ": " https://json.schemastore.org/prettierrc ", " semi ": false , " singleQuote ": true , " printWidth ": 100 } 共通: eslint.config.ts 前述の通り vp create vue は内部で create-vue を実行しているため、eslint.config.ts は両プロジェクトで同一です。 import { defineConfigWithVueTs, vueTsConfigs, } from "@vue/eslint-config-typescript" import pluginVue from "eslint-plugin-vue" import pluginVitest from "@vitest/eslint-plugin" import pluginOxlint from "eslint-plugin-oxlint" import skipFormatting from "eslint-config-prettier/flat" export default defineConfigWithVueTs( { name : "app/files-to-lint" , files : [ "**/*.{vue,ts,mts,tsx}" ] } , ...pluginVue.configs[ "flat/essential" ], vueTsConfigs.recommended, { ...pluginVitest.configs.recommended, files : [ "src/**/__tests__/*" ] } , ...pluginOxlint.buildFromOxlintConfigFile( ".oxlintrc.json" ), skipFormatting ) ただし、Vite+ プロジェクトではこの eslint.config.ts に落とし穴があります。 Vite+ の公式ガイド では .oxlintrc.json の使用は推奨されておらず、 vite.config.ts の lint ブロックへ設定を集約する方針です。実際、 vp create vue で .oxlintrc.json は vite.config.ts へマージされた後に削除されています。 しかし eslint.config.ts の buildFromOxlintConfigFile(".oxlintrc.json") はそのまま残っています。存在しないファイルを参照すると eslint-plugin-oxlint: could not find oxlint config file: .oxlintrc.json と警告が出て空配列を返すため、ルール重複の無効化が効きません。 つまり、Oxlint と ESLint で同じ違反が重複報告される状態になります。 回避策は2つあります。 1つ目は vite.config.ts から lint ブロックを直接インポートする方法です。 eslint.config.ts は TypeScript ですから、 vite.config.ts の default export から .lint を取り出して buildFromOxlintConfig に渡せます。 // eslint.config.ts import viteConfig from './vite.config' // 変更前: ファイルが存在しないため機能しない ...pluginOxlint.buildFromOxlintConfigFile( ".oxlintrc.json" ), // 変更後: vite.config.ts の lint ブロックをそのまま渡す ...pluginOxlint.buildFromOxlintConfig(viteConfig.lint), 2つ目は vite.config.ts の lint ブロックを削除し、 .oxlintrc.json に設定を一本化する方法です。 vite-plus の issue によると、現状の実装では .oxlintrc.json 等の専用設定ファイルが優先され、 vite.config.ts はフォールバックとして使われます。 .oxlintrc.json があればそちらが読み込まれます。 { " plugins ": [ " eslint ", " typescript ", " unicorn ", " oxc ", " vue ", " vitest " ] , " env ": { " browser ": true } , " categories ": { " correctness ": " error " } , " options ": { " typeAware ": true , " typeCheck ": true } } eslint.config.ts の修正が不要で済みますが、Vite+ の「 vite.config.ts に集約する」方針とは外れます。 共通: Lint 実行順 2026年4月時点で、create-vue は Oxlint をデフォルトで同梱しています。前述の package.json にある通り、 pnpm lint ( run-s lint:* )で lint:oxlint → lint:eslint の順に直列実行されます。 create-vue 側では eslint-plugin-oxlint が .oxlintrc.json を読み取り、Oxlint と重複する ESLint ルールを自動で無効化してくれます。 # Vite+ vp run lint # → vp lint . --fix ... Oxlint(vp経由) # → eslint . --fix --cache ... ESLint(直接呼び出し) # create-vue pnpm lint # → oxlint . --fix ... Oxlint(直接呼び出し) # → eslint . --fix --cache ... ESLint(直接呼び出し) vp lint は Oxlint だけを実行する組み込みコマンドで、ESLint は Vite+ に統合されていません。 そのため、テンプレートでは ESLint を eslint コマンドで直接呼ぶ構成になっています。 Vite+ のタスクランナーを活用したい場合は、 vite.config.ts の run.tasks に定義を移行すると良さそうです。 run.tasks で定義したタスクはデフォルトでキャッシュが有効なため、入力ファイルに変更がなければ再実行がスキップされます。 なお、 run.tasks のタスク名は package.json の scripts と重複できないため、移行する場合は package.json 側の lint スクリプトを削除します。 // package.json の lint 関連スクリプトを run.tasks に移行する例 run: { tasks: { lint: { command: 'vp lint . --fix && eslint . --fix --cache' , input: [{ auto : true } , '!.eslintcache' ] , } , } , } , eslint の --cache を使うと .eslintcache が書き出され、 vp run がそれを入力の変更と見なしてタスクキャッシュがヒットしません。 input で '!.eslintcache' を指定し、キャッシュファイルを変更検知の対象外にすることで併用できます。 キャッシュ機能については ESLint ではなくタスクランナー側のもので十分かもしれませんが、 --cache の有無による差異は今回未検証です。 Linter 比較: Oxlint vs ESLint 検証用コンポーネント 検証用に、意図的に Lint 違反を仕込んだ Vue コンポーネントを用意しました。 < script setup lang = "ts" > import { ref } from "vue" // unused expression (correctness) const x = 1 x // prefer-as-const (typescript) let y = "hello" as "hello" const items = ref ([ { id : 1 , name : "Apple" } , { id : 2 , name : "Banana" } , ]) </ script > < template > <!-- v-for without :key --> < li v- for = "item in items" > {{ item.name }} </ li > <!-- v-if and v-for on same element --> < div v- for = "item in items" v-if= "item.id > 0" :key= "item.id" > {{ item.name }} </ div > </ template > < style scoped> .unused-class { color : redd; } </ style > Oxlint の結果 # Vite+ vp lint src/components/LintTest.vue x eslint(no-unused-expressions): Expected expression to be used , - [src/components/LintTest.vue: 6 : 1 ] 5 | const x = 1 6 | x : ^ `---- x typescript-eslint(prefer-as-const): Expected a ` const ` assertion instead of a literal type annotation. , - [src/components/LintTest.vue: 9 : 20 ] 8 | // prefer-as-const (typescript) 9 | let y = 'hello' as 'hello' : ^^^^^^^ ` ---- Found 0 warnings and 2 errors. Finished in 369ms on 1 file with 132 rules using 10 threads. # create-vue pnpm exec oxlint -c .oxlintrc.json src/components/LintTest.vue ...(同一の 2 件) Found 0 warnings and 2 errors. Finished in 24ms on 1 file with 116 rules using 10 threads. Oxlint は <script> 内の違反を検出しましたが、 <template> / <style> の問題はスルーされています。Oxlint は .vue ファイルの <script> ブロックしか Lint しないためです。 oxc の互換性ページ にもある通り、Vue/Svelte/Astro 等のフレームワークでは script ブロックのみが対象です。 vue プラグインを有効にしても、script ブロック内の Vue 関連ルール(ref の使い方など)しか動きません。 SFC テンプレートの Lint 対応は oxc#15761 で追跡されていますが、まだ実装されていません。 また、Oxlint には ESLint の JS プラグインを読み込む JS plugins 機能もありますが、eslint-plugin-vue は動きません。 JS plugins の 制限事項 に「Custom file formats and parsers (e.g. Svelte, Vue, Angular)」は未対応と明記されています。 eslint-plugin-vue はカスタムパーサー( vue-eslint-parser )で .vue ファイル全体をパースしてテンプレートの AST をルールに渡す仕組みのため、この制限に該当しています。 ルール数の差(132 vs 116)は、 typeAware: true で型情報を使ったチェック(floating promise の検出等)が追加されるためです。 なお、Vite+ テンプレートの typeCheck: true は Vue プロジェクトでは実質的に使えないようです。 vp lint src/ のようにディレクトリを指定すると .ts ファイルもチェック対象になります。 しかし、 .ts から .vue をインポートしている箇所で tsgo がモジュール解決に失敗し TS2307: Cannot find module エラーが出ます。 上の検証でファイルを直接指定しているのはこの問題を回避するためです。 ESLint の結果 # Vite+(eslint-plugin-oxlint が機能していない) vp exec eslint src/components/LintTest.vue src/components/LintTest.vue 6 : 1 error Expected an assignment or function call and instead saw an expression @typescript-eslint/no-unused-expressions 9 : 5 error 'y' is never reassigned. Use 'const' instead prefer-const 9 : 5 error 'y' is assigned a value but never used @typescript-eslint/no-unused-vars 9 : 20 error Expected a `const` instead of a literal type assertion @typescript-eslint/prefer-as-const 19 : 3 error Elements in iteration expect to have 'v-bind:key' directives vue/require-v-for-key 22 : 30 error The 'items' variable inside 'v-for' directive should be replaced with a computed property that returns filtered array instead. You should not mix 'v-for' with 'v-if' vue/no-use-v-if-with-v-for ✖ 6 problems ( 6 errors, 0 warnings) # create-vue(eslint-plugin-oxlint が正常動作) pnpm exec eslint src/components/LintTest.vue src/components/LintTest.vue 9 : 5 error 'y' is never reassigned. Use 'const' instead prefer-const 9 : 5 error 'y' is assigned a value but never used @typescript-eslint/no-unused-vars 19 : 3 error Elements in iteration expect to have 'v-bind:key' directives vue/require-v-for-key 22 : 30 error The 'items' variable inside 'v-for' directive should be replaced with a computed property that returns filtered array instead. You should not mix 'v-for' with 'v-if' vue/no-use-v-if-with-v-for ✖ 4 problems ( 4 errors, 0 warnings) Vite+ 側は Oxlint で検出されている no-unused-expressions と prefer-as-const も ESLint から報告されて6件。前述の通りルール重複の無効化が効いていません。 create-vue 側は eslint-plugin-oxlint が正常動作し、Oxlint との重複ルールが ESLint 側で無効化されるため4件。 どちらも、 eslint-plugin-vue により <template> 内の Vue 固有の問題も検出されています。 CSS/Style Lint について 検証用コンポーネントの <style> に color: redd; というタイポを仕込みましたが、Oxlint でも ESLint でも引っかかりませんでした。 どちらのテンプレートも CSS の Lint は対象外のようです。 Vue 公式のツーリングガイドの Linting セクション でも案内されているのは eslint-plugin-vue による JavaScript/テンプレートの Lint だけで、CSS/Style の Lint には触れていません。 CSS の Lint が必要なら、これまで同様 Stylelint と Vue プラグインを別途入れることになりそうです。 型チェックの違い pnpm type-check はどちらも vue-tsc --build で同じです。 Vite+ 側は vite.config.ts に typeAware: true (型認識 Lint ルールの有効化)と typeCheck: true (tsgo 経由の型チェック同時実行)の設定があります。 ただし前述の通り tsgo は .vue を読めないため、 .vue の型チェックには引き続き vue-tsc が必要です。 テスト どちらも Vitest です。 Vite+ ではインポートパスが 'vitest' から 'vite-plus/test' に、コマンドが vitest から vp test に変わりますが、設定内容やテストの書き方は同じです。 Formatter 比較: Oxfmt vs Prettier Oxfmt は Prettier との出力互換を謳っており、JavaScript/TypeScript の conformance test を 100% パスしています。 Vue SFC のフォーマット対応 <template> と <style> もフォーマットできるのか気になったため、わざと崩した Vue ファイルで試しました。 <!-- フォーマット前 --> < template >< div class = "foo" >< p v-if= "true" > hello </ p ></ div ></ template > < style scoped>.foo{ color : red ; font-size : 16px ; display : flex ; justify-content : center }</ style > <!-- フォーマット後(Oxfmt / Prettier どちらも同一の結果) --> < template > < div class = "foo" >< p v-if= "true" > hello </ p ></ div > </ template > < style scoped> .foo { color : red ; font-size : 16px ; display : flex ; justify-content : center ; } </ style > Oxfmt でも Prettier でも <template> と <style> をフォーマットでき、出力結果は同一でした。乗り換えて問題なさそうです。 公式ドキュメント によると Prettier の約30倍の速度とのこと。小規模プロジェクトだと体感差はありませんが、大規模プロジェクトでは差が出そうです。 全体比較表 項目 Vite+ ( vp create vue ) create-vue ( pnpm create vue@latest ) Linter Oxlint ( vp lint ) + ESLint Oxlint + ESLint ESLint 設定 同一 (ただし eslint-plugin-oxlint の修正が必要) 同一 Vue template lint ESLint 経由で対応 ESLint 経由で対応 CSS lint なし なし typeCheck tsgo が .vue を読めず実質使えない なし テスト Vitest ( vp test ) Vitest Formatter Oxfmt ( vp fmt ) Prettier (Oxfmtも案内される) ビルド Vite ( vp build ) Vite ( vite build ) 設定の統合 vite.config.ts に集約 個別ファイル ( .oxlintrc.json , .prettierrc.json ) Pre-commit フック .vite-hooks/pre-commit → vp staged なし (要別途設定) まとめ vp create vue と pnpm create vue@latest で生成されるプロジェクトを比較した結果をまとめます。 Linter Oxlint は .vue の <script> ブロックしか Lint できない <template> や <style> は対象外 Vue template の Lint には引き続き ESLint(eslint-plugin-vue)が必要 これは Vite+ でも create-vue でも同じ create-vue は Oxlint をデフォルトで同梱している ESLint 連携の落とし穴 Vite+ テンプレートでは .oxlintrc.json がマージ後に削除されることへの対応が無く、ルール重複の無効化が壊れる vite.config.ts の lint ブロックを import するか、 .oxlintrc.json に一本化することで対処できる Lint 実行 どちらも Oxlint → ESLint の直列実行 型チェック typeCheck: true は Vue プロジェクトでは実質使えない tsgo が .vue をインポートした .ts ファイルで TS2307 エラーを出すため .vue の型チェックには引き続き vue-tsc が必要 Formatter Oxfmt は Prettier と同一の出力 <template> / <style> もフォーマットできる Prettier からの乗り換えで困ることはなさそう CSS Lint どちらのテンプレートも対象外 必要なら Stylelint を別途入れることになる Vite+ を選ぶメリットは Linter/Formatter 単体の差分よりも、 vite.config.ts への設定一元化と vp コマンドによる統合にありそうでした。 Vue 固有の Lint や型チェックについてはまだ ESLint + vue-tsc 頼りなため、Oxlint の Vue テンプレート対応や tsgo の .vue サポートが整えば、設定が楽になりそうです。 今回はテンプレートの設定比較だけでしたが、気になるのはやはり実際のプロジェクトでの速度差です。 次回は Vue ファイルが約2000個存在する駅メモ!のフロントエンドで、Lint/Format/ビルドがどれくらい速くなるか実測してみます。お楽しみに!
はじめに こんにちは。医療プラットフォーム本部ビジネス基盤グループでエンジニアをしている熊本です。 ブログへの登場は久々となりますが、2019年に新卒で入社して以来、長らくプロダクト開発のエンジニアをしてきました。そんな私は現在、医療プラットフォーム全体のMA(マーケティングオートメーション)、SFA(営業支援)、CRM(顧客管理)といったITツールおよび業務フローの設計・改善を通じて、事業パフォーマンスの向上を担う開発組織のマネージャーを務めています。 メドレーでは、患者・生活者と、病院・有床診療所、医科診療所、歯科診療所、調剤薬局といった各医療機関向けに事業・プロダクトを展開していますが、今回は、これらの事業を支えるITツールの Salesforce を kintone へ移行したプロジェクトについてお話しします。 背景 SFAが抱えていた課題 弊社では長年、医療プラットフォームにおける複数の事業部門で共通のSalesforceを利用してきましたが、運用を続ける中で以下のような課題が顕在化していました。 最新・正しい情報の把握が困難 :正規化されていないデータや重複管理による情報の分散 データ分析の壁 :分析を見据えた設計になっておらず、プロダクト側の利用状況との突合など、柔軟なデータの加工に工数がかかっていた 非効率な業務フロー :複数ツールの併用や重複する項目の存在などを背景に、手動での転記やダブルチェックが発生している状態 システム管理の属人化 :目的が不明な項目が乱立し、メンテナンス・レポート作成ができる人が限られている状態 また、130個近くのライセンスを保有していたため、これらの課題を踏まえるとコスト過多な状況にも陥っていました。 全ての顧客体験をプロダクト側が理解し、設計責任を持つ 私たちは、 営業・カスタマーサクセスといった顧客活動から、契約・請求に至るまでを「一連のプロダクト体験」として捉え 、その設計・実装にエンジニアが深く関わることを大切にしています。 この考えに基づき、単なるツールのリプレイス(お引っ越し)ではなく、より良い顧客体験につながる合理的で整理された事業オペレーションを実現するため、 業務・データ・ツールを一体でエンジニアが設計し直す 。これが本プロジェクトの重要なポイントでした。 取り組み 体制構築とアーキテクチャ設計 前述の通り、Salesforceはこれまで複数の事業部門で活用してきました。1人で各事業の業務フローや必要データを把握し再設計するのは困難ですし、何より私たちが大切にしている考え方も踏まえ、プロダクトエンジニアが各事業に深く潜り込んで再設計すべきだと考えました。そこで、各事業領域からプロダクトエンジニアを1名ずつアサインする体制としました。私はPMとして全体設計や車輪の再発明が起きないよう各部門の連携をコントロールする役割を担い、各環境のデータ設計・構築はその事業領域担当のエンジニアが主導する形をとりました。 kintoneは責務分離やメンテナビリティを考慮し、事業領域ごとに環境を分けるアーキテクチャを採用しました。また、kintoneへの移行に伴い、コストや親和性を加味してMAツールの移行も行いましたが、本記事では詳細を割愛させていただきます。 医療プラットフォーム本部の組織体制 ツールの移行イメージ 業務理解と要件定義 まずは、日々の事業活動の中で発生するデータや、業務上必要となるデータ、およびそのフローの現状とあるべき姿を描くため、事業部とコミュニケーションを重ねました。長年利用してきたこともありデータ項目が膨大となっていたため、「このデータをどう活用するのか」を重点的に会話し、そもそも不要ではないか、より活用しやすくするにはどうすべきか、などの整理に時間をかけました。 データ設計 特に工夫したのは、DB観点での「正規化」とユーザー観点での「入力のしやすさ」のバランスをとったデータ設計です。kintoneはDBとUIが一体型であるため、このバランス調整にとても苦労しました。一般的なRDBMSではデータの履歴を残すために専用のテーブルを設けイミュータブルモデリングなどを採用する場面でも、kintoneだとテーブル≒アプリとなるため、テーブルを分けることは単純にユーザーの画面遷移や入力箇所を増やすことに直結してしまいます。こういった場合は完全な正規化をするのではなく、普段の商談管理で使用するアプリとその商談ステータスの履歴を管理するアプリを分け、それぞれのアプリに同類のフィールド(RDBMSのカラムをkintoneではフィールドと呼びます)を設置することを許容しつつも、JavaScriptを用いた自動転記の仕組みを作ることで、ユーザーは商談管理アプリだけに入力していれば良いようにするといった工夫をしました。 泥臭く戦ったポイント:データ移行と同期システム ここからは、エンジニアとして特に苦労した2つのポイントをご紹介します。 1. 冪等性と再現性を追求したデータ移行 100名以上が利用するシステムにおいて、特にデータ移行には慎重を期しました。具体的な方法としては、Salesforceのスキーマをkintoneのスキーマに変換し、データをマッピングした結果をCSVに出力するという一連の処理を、CLIコマンド等の整備によりスクリプト化しました。 データ移行では、一度kintoneに投入した後、UAT期間中に事業部からのフィードバックを受けて設計を見直し、再投入が必要になるケースがありました。また、リハーサル目的で、本番移行前にも何度でも再実行できる仕組みが必要でした。そのため、前述のように一連の処理をスクリプト化し、「再現性」を確保しました。さらに、「冪等性」も重要なポイントでした。今回のケースでは、それぞれのアプリにユニークキーを設けて常にUPSERT処理を行うことで、元データが同じであれば、何度実行しても同じ状態を再現できるようにしました。 kintoneへのインポート処理自体はレコード数に比例して一定の時間がかかってしまうものの、事前に手順化しリハーサルを重ねたことで、本番稼働前日の夜間作業で無事に移行を完了させることができました。ただし、(一定の想定範囲ではあったものの)移行作業直前にSalesforce側でデータの更新や削除が行われたことで、kintone側で関連データ同士の紐付けがうまく設定できないケースも発生しました。これはエラーログを見て個別に対処するしかなく、大変苦労した部分でもありました。 2. Salesforceとkintoneの双方向同期システム Salesforceは長年活用してきたことから、いわゆるSFAとしての機能だけではなく、請求や契約管理としての役割も担っていました。今回のプロジェクトでは事業部側が利用するSFAとしての機能はkintoneへ移行しつつも、請求や契約管理といったバックオフィス領域に関しては将来的な販売管理システムへの移行も見据えてスコープ外としていました。よって、これまでは一つのシステムの中で顧客・商談から契約・請求まで一元管理していたものを分離したため、システム間でデータを連携させる必要がありました。 詳細は省きますが、Salesforceに残った契約・請求関連データの一部は、営業やカスタマーサクセスなどの事業部側と契約・請求処理を担うバックオフィス部門の双方向による書き込みが業務上必要であったため、単にkintoneから必要なデータを一方向で送るだけでは要件を満たせませんでした。そのため、SFA領域とバックオフィス領域のハブとなる「商談」などのデータに関しては、Salesforceとkintone間で一部のスキーマ定義を揃え、両システムを一定間隔で同期させる仕組みとしました。 具体的な仕組みとしては、両システムのスナップショットを一定間隔で取得し、前回との差分を検知して互いのシステムへ反映し合う形をとりました。 ここで壁となったのが、「準リアルタイム性」の要求と「データの競合」です。両方のシステムで日常的にトランザクションが発生するため、「同じレコードの同じ項目が、それぞれのシステムで同時に別の値へ書き換えられる」可能性がありました。この競合状態を安全に解決するためのロジックを構築する必要があり、非常に苦労しました。 この対応にあたっては、当初想定していた対象項目が、本当に準リアルタイムで同期が必要なのかを関係者と徹底的に精査しました。その結果、同期間隔の調整や同期対象の大幅な絞り込みができ、現在は安定して稼働する仕組みを実現できています。 ※ データ移行や同期処理のディープな話は盛りだくさんな内容となってしまうため、また別の機会にブログ化できればと思います! 成果 80%以上のランニングコスト削減 契約・請求などを担う組織の必要分を除き、90個ほどのアカウントを削除することができました。kintoneの費用を加味しても、全体のランニングコストとして80%以上削減することができました。 BigQuery集約によるデータ分析・可視化の実現 Salesforceのレポート機能の制約から解放され、より柔軟なデータ活用ができるようになりました。 KPIダッシュボードの構築 :Looker Studioなどのアセットと連携したデータの分析・可視化が可能に 自律的な分析文化 :勉強会の開催やマニュアル整備のおかげもあり、事業部メンバーが生成AIも活用しながら、より自律的かつスピーディなデータ分析が可能に 横断的分析 :kintoneの顧客・商談データ、契約データ、プロダクトデータなどをBigQueryに集約し、多角的な分析を実現 また、横断組織にあるデータ戦略グループが、最近「自然言語でBigQuery等のデータを分析できる社内システム」をリリースしました。今回のプロジェクトによるデータ整備とこのシステムが組み合わさり、よりスピーディにデータ分析を行える環境づくりが加速しています。 関連記事: データ分析AIエージェントの実践 - Slack × Devin × Context Engineering 今後の展望 本プロジェクトによって多くの成果を得られましたが、私たちはまだ「業務やデータの一部をツールの移行と共に再設計し、基盤を整えた」に過ぎません。 今後はこの基盤を活かし、KPIなどの定量的なデータや現場ヒアリングを通じて事業の課題・ボトルネックを特定し、継続的に改善を回すサイクルを作っていきたいと考えています。 また、日々顧客と向き合う事業部のメンバー自身が、データ活用や拡張性を見据えて自律的にツールを改修できる状態こそが、組織のアジリティを最も高く保ちながらスケールできる理想の形だと考えています。その実現に向けて、エンジニアリングの専門性を持つ私たちビジネス基盤グループが、誰もが改修・改善しやすい仕組みづくりを牽引していきたいと考えています。 まとめ エンジニアが事業の深い部分に入り込み、業務・データ・ツールを一体で再設計するプロジェクトについてご紹介させていただきました。 メドレーでは、「医療ヘルスケアの未来をつくる」というミッションのもと、エンジニアがビジネスの根幹に関わり、プロダクトと事業を共に成長させる文化があります。自ら課題を発見し、設計から運用までをエンジニアとしてのリーダーシップを発揮しながら一気通貫で推進できる方を絶賛募集しています。 メドレーで働く|株式会社メドレー メドレーでの働き方や人事制度、求人情報など、採用に関する情報をご紹介します。 www.medley.jp 少しでも興味を持っていただけましたら、ぜひメドレーの採用ページをご覧ください!

動画

書籍