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はじめまして! バリューチェーン本部の花ヶ崎雄太と申します。 新卒1年目の12月に一般社団法人コンピュータ教育振興協会(ACSP)の主催する3次元CAD利用者技術試験の準1級を受験し、合格いたしました。 今回はそれについて、 ・3次元CAD試験とは ・受験の理由と感想 ・出題される問題の概要と傾向 ・実際の学習方法 ・合格のコツ の5つに分けてご紹介します。 本記事の想定読者 ・3次元CAD利用者技術試験に興味がある/取得の予定があるが、CADの操作については未習得な人 ・仕事や学業で製造系の業界や学問に携わっており、これからCADを習得予定の人 ※なお本記事では「CADそのもの」やそれに関連した個別の用語についての説明は行いませんが、想定読者向けに難しいと考えられる単語には一部注釈をつけています。 1. 3次元CAD試験とは 試験概要 ここは公式から引用します。 『「3次元CAD利用技術者試験」は、3次元CAD を利用するエンジニアや学生が身につけておくべき知識と技能が証明できる、3次元CAD試験制度です。』 『3次元CADシステムを利用した機械系・製造系のモデリング・設計・製図などの業務に従事することを目指す方、もしくは従事して間もない方を想定して試験を行います。3次元CADを学び、知識と操作の基礎的な部分を習得し、設計の補助業務やオペレーターを目指す方が対象です。』 2025年度 3次元CAD利用技術者試験 概要 より引用。 つまり3次元CADをこれから積極的に利用していこう、という方に向けての試験ということですね。 ちなみに本試験は製造業でCADを使用する方向けであり、建築業向けではないようです。 2級について ~準1級受験には事前に2級の取得が必要~ 準1級を受験するためには事前に2級に合格している必要があります。 具体的には準1級の申し込み期限の前日(準1級試験日の1か月ほど前)までには2級を取得している必要があるので、準1級以上の取得を目指す方はまずは2級を取得しましょう。 2級は比較的難易度の低い選択式の試験で、CBT形式でテストセンターで実施されます。 難易度は高くはありませんので、公式の販売している書籍( https://www.acsp.jp/ACSP_books.html )を学習して過去問演習を重ねれば十分合格可能です。 私の累計の学習時間は 15時間 ほどです。 2級を学習することで、その後のモデリングでも用いる基本的な用語や手法を知ることができます。 2級にはモデリングの実技はありませんが、できれば2級もCADを触りながら学習したほうが学習効率が高いと思います。 準1級について 準1級は年に2回、例年7月と12月に開催されます。 いつでも受けられる2級とは違い年2回のみの開催ですので、機会を逃さないように注意しましょう。 準1級では実際に会場にPCを持ち込み、モデリングの実技を行います。 詳しくは後述しますが、問題は2次元図面を読み取って パーツモデル*1 を作成する形式です。 そうして作成したモデルの体積、表面積などを測定し、解答群の中から最も近い値をマークシートに記入する形式で試験が行われています。 試験時間は120分と長めです。 ーーーーー *1 パーツモデル :単一の部品を3DCADで作成したモデルのこと。 ーーーーー 2. 受験の理由と感想 なぜ受験したのか? 率直に言えば、業務上必要だったからです。 私の所属する部署はCADをメインの商材として扱っており、CADの基礎知識/技術を身に着ける必要があります。 そのため業務上の要求として最低限「2級」の資格を取得することとなっていました。 しかしOJTの方からのアドバイスや、より高みを目指したいという思いから、私は準1級に挑戦することにしました。結果的に、私の所属するバリューチェーン本部の新人14人のうち、準1級を取得したのは私含め2人でした。 受験してよかったか? 結論としては、よかったです。そう思う観点は3つあります。 1.CADの基礎知識および基本的なコマンドを習得することができた。 準1級では、要求されるコマンドは基本的なものがほとんどです。試験問題がスムーズに解けるようになる頃には、基本的な形状(例えばテレビリモコンなど)なら難なくモデリングできるくらいのスキルが十分につきます。 2.扱うCADに関する理解が大きく深まった。 学習・受験に利用するのはそれぞれの受験者が利用しているCADですから、そのCADについての設定や効率的な使用方法、得意や苦手などの理解が大きく深まります。 今回私は「NX」というCADを使って学習と受験を行いましたが、学習の過程でNXならではの強みや特異な点を複数感じ、理解することができました。 3.単純に楽しかった。 個人的には重要な観点だと思います。 CADで形状を作るのが、なんだか砂山で城を作っているような感覚で楽しかったです。 またモデリングの時間が早まることや、それまで気づかなかったモデリング方法に気づくことなどで自分の成長をひしひしと感じられます。 今回の学習と受験経験を通して、仕事を行うモチベーションという点で「楽しい」という感覚が重要だと実感できました。 3. 出題される問題の概要と傾向 ここでは準1級における具体的な問題の概要と傾向、主な使用コマンドについて紹介します。 問題の概要 準1級では、 準1級と1級で共通の問題が2問 と、 準1級のみの問題が1問 の、 合計3問 出題されます。 どの問題にも共通なのが、最終的な問題の解答は「モデルの完成」ではなく、「 完成したモデルからのパラメータの測定値 」であることです。 具体的には各問題につき3~5問の設問があり、「点Aから点Bの長さを測定し、選択肢から最も近いものを選べ」「立体Cの体積を測定し、選択肢から最も近いものを選べ」といった出題がなされます。 指示や図面に従ってモデリングをし、その最中や完成後にパラメータの測定を行い、マークシートに記入する、までが、基本的な解答の流れです。 (1) 共通問題-1 座標や形状、モデリング方法についての指示があり、指示通りにモデリングを行う形式です。 基本は指示に従えばよいので、練習を繰り返すことでコマンドを理解し、モデリング速度を上げることが重要です。 主な要求コマンド スケッチ、押し出し(和・差・積)、回転、直方体、円筒、球、エッジブレンド、面取り、シェル、データム平面(無限平面)、トリムボディ、ミラージオメトリ、パターンジオメトリ、線 ※コマンドの名称はNX準拠のため、CADによって異なる可能性があります。 (2) 共通問題-2 3面図*2 を読み取って、その図面の通りにモデリングを行います。 無限平面*3 を使った複雑な押し出しが求められることが多く、効率よく解くためには、経験に基づく「閃き」が必要です。個人的には準1級範囲で最も癖が強いと感じています。 また実際の現場で作ることは決して多くない形状だと思いますので、問題に慣れるまで時間がかかります。 主な要求コマンド スケッチ、押し出し(和・差)、直方体、エッジブレンド、面取り、データム平面(無限平面)、トリムボディ、円錐、点セット ※コマンドの名称はNX準拠のため、CADによって異なる可能性があります。 ーーーーー *2 3面図 :正面図、側面図、上面図の3種の図面。3次元形状を3方向から投影した2次元図面であり、この3つを見ることで3次元形状の作成が可能。 *3 無限平面 :CADではXYZ平面以外にも任意の平面が作成可能。この平面で立体を切断する手順は超頻出。 ーーーーー (3) 準1級問題 共通問題-2と同じく、3面図を読み取ってその通りにモデリングを行います。しかしこちらの方が”現実にありそうな”形状が出題されるので、比較的イメージはつきやすいです。 ただ複雑なスケッチやコマンドの使用をせざるを得ない場合もあり、要求されるモデリング力は高いです。 主な要求コマンド スケッチ、押し出し(和・差)、回転、直方体、円筒、エッジブレンド、面取り、シェル、ドラフト、データム平面(無限平面)、トリムボディ、点セット ※コマンドの名称はNX準拠のため、CADによって異なる可能性があります。 4. 実際の学習方法 コマンドを知る 私はまず、コマンドを知ることから学習を開始しました。 最初はそもそも必要なコマンドがバーのどこにあるのか、似たようなコマンド(例えば、パターンフィーチャとパターンジオメトリ)のうちどれを使えばいいのかなど、全くわかりません。 そこで最初は、準1級の共通問題-1をじっっっくり時間をかけて解き、「どのコマンドがどこにあるのか」「どのコマンドをどの順番で使えば目的の形状を実現できるのか」を学習しましょう。 共通問題-1は問題文の中で使うコマンドや座標を指示してくれているので、「コマンドの所在の把握」や「そのコマンドで何が起こるのか」の学習に向いています。 ちなみに私は最初、共通問題-1を1問解くのに4時間かかりました(笑)。 とにかく演習あるのみ コマンドについてある程度把握出来たら、あとはとにかく問題を解きまくります。 問題は基本的には過去問です。 公式の書籍には過去問が1年分(前期と後期の2回分)掲載されているので、演習に使用できます。 また 試験の公式サイト ( https://www.acsp.jp/cad/3d_past_web3d.html )では、過去問において出題された形状のモデリング結果が掲載されています。図面から正解の形状が想像もつかないときや、行き詰まった際に参照するととても役立ちます。 さらに、 日経クロステック ( https://xtech.nikkei.com/dm/article/COLUMN/20120605/221476/ )では当試験の例題が複数掲載されているので、そちらを利用して演習するのもよいでしょう。 問題に取り組む順番は 共通問題-1:~15分で解けるようになるまで 準1級問題:~60分で解けるようになるまで 共通問題-2:40~60分で解けるようになるまで をおすすめします。 共通問題-2と準1級問題は図面の読み取り力も必要になりますが、共通問題-2では図面で隠された部分(点線部分)に三角形の入れ子構造を作ることが要求されます。しかしコレには非常に癖があり、図面に慣れていない状態でいきなりやるのは難しいです。 そのため、手順が多い代わりに比較的オーソドックスな準1級問題で実力をつけてから取り組むのがおすすめです。 合格までの累計学習時間は? 私の場合は合計 70時間 ほどです。 業務時間での学習が認められていたため、平均1日2~3時間の学習を約1.5か月継続しました。 ただCAD経験ゼロの状態から開始し、初期はコマンドの学習に丸1日費やすこともありましたから、CAD使用経験が少しでもあるならこの時間は短くなると思います。 5. 合格のコツ 最後に私の経験から役立ったと感じた具体的な合格へのコツを、いくつかかいつまんでご紹介します。 準1級受験用のコマンドバーを作る CADによって異なるとは思いますが、私の利用するNXではコマンドのバーをカスタムで作成することができたので、試験で使うコマンドを集めてカスタムバーを作成して使っていました。 コレがあるだけでいちいちコマンドを探す手間が省け、また慣れも早かったので解答の高速化が実現しました。 また副次的に「カスタムバーを作成する」という設定面での学習ができたのも良かったと感じました。 同一形状を作るうえでも、複数の実現方法があると知る 単なる円筒を作成するうえでも、 ・円をスケッチして押し出し ・長方形をスケッチして回転 ・円筒コマンドの利用 など 複数の実現方法 があります。 これが試験問題ともなると、各形状を実現する方法が非常に多岐にわたります。 その中でどの方法が自分に合っているのか、どの方法が効率がよいか、といった部分は、問題を解くうちに経験的に身についてきます。 例えば上の例であれば基本的には「円筒コマンドの利用」が最速でしょう。 たくさん演習問題を解いて、自分に合ったモデリング方法を学びましょう。 またその方法が実際の業務や研究で使用するものならなお良いですね。 設問の順番通りにモデリングを行う 上の事項に関連して、同一形状を作るうえでも色々な順番で実現することが可能です。 しかし「試験の合格」を意識する場合は、設問の順番通りにモデリングを行うことをおすすめします。 指示がある共通問題-1は当然として、共通問題-2、準1級問題にも効率の良いモデリング順が存在します。これは設問の順番に従えば実現できるようになっています。 例えば 設問(1):点Aと点Bの距離を測定 設問(2):面Cの面積を測定 の場合、面Cを作る過程で、点Aと点Bも完成していることが多いです。 そしてここで先に、 設問(2)の面Cのところまで作った後に設問(1)を解いて間違っていた場合、まず間違いなく設問(2)も間違っているので、面Cのところまで作り直しになってしまいます。 しかし先に設問(1)の点Aと点Bを作成し解答しておけば、 間違っていても早く気づくことができる*4 のです。 ーーーーー *4 間違っていても早く気づくことができる :モデリング結果が違うときには「測定結果」が「解答の選択肢」と大幅に異なることが多いため、モデリングのミスには比較的気づきやすいです。 ーーーーー まとめ 今回は、3次元CAD利用者技術試験の準1級の受験や学習について、新卒1年目の目線で解説しました。 学習コストは大きいですが、準1級に合格する程度の知識/技術があれば、基本的なモデリング能力を身に着けたと十分言っていいくらいのスキルは得られます。 また単に学習するだけでなく、その中で実際の設計に活かせる経験も手に入ったと思います。 今後はさらにモデリング力を高めるために1級の取得を目指します。1級はアセンブリの知識やさらなるモデリングの高速化が求められるため、引き続き経験を積んでスキルアップを志向します。 私たちは一緒に働いてくれる仲間を募集しています! 電通総研 キャリア採用サイト 電通総研 新卒採用サイト 執筆: @hanagasaki.yuta レビュー: @yamashita.tsuyoshi ( Shodo で執筆されました )
こんにちは。Drawer Growth グループの江良です。 キャディが「製造業 AI データプラットフォーム」の構想を打ち出してから半年ほどが経ちました。 caddi.com このコンセプトの実現にあたっては、「AI」の部分だけでなく、「データ」の部分を支える仕組みづくりも重要になってきます。今回は、私が携わっているプロジェクトで導入した Apache Iceberg とその使いどころについて紹介したいと思います。 製造業におけるデータ活用の難しさ 本題に入る前に、まずは背景について少し補足します。 (Iceberg の話だけを読みたい人は「採用したアーキテクチャ」のところまでスキップしてください。) モノづくり産業における会社には多種多様なデータが存在する 製造業の世界で登場するデータにはさまざまなものがあります。 詳しくは キャディ、製造業AIデータプラットフォームとしての、第二章。|加藤/キャディCEO でも紹介されていますが、具体例を挙げると以下の通りです。 分類 具体例 構造化データ ・実績データ(見積実績、受注実績、発注実績、製造実績、検査実績、出荷実績、請求実績、在庫実績など) ・マスタデータ(顧客情報、製品、仕入れ先、工程、設備情報、検査器具、チャージなど) 半構造化データ ・CAD 非構造化データ ・図面 ・写真 ・文書(仕様書、不具合報告書、議事録など) (会社の規模にもよりますが)少なくとも十数種類 〜 百数種類のデータが企業内に存在することがイメージできるかなと思います。 当然ながら、それぞれのデータのスキーマは異なります。データのサイズや更新頻度も様々です。実績データに関しては、一億件近くの規模のデータが存在するケースもあります。 データのフォーマットは会社ごとに異なる 図面は、書き手の意図を確実に読み手に伝達するため、JIS 規格に基づいて標準化されています。一方で、表題欄と呼ばれる図面のメタデータ(図面番号、尺度、部品名称、設計者名、承認者名、使用する材質など)を記載する欄の様式は各社が自由に設定できます。 CAD に関しても、どのソフトウェアを使用しているかは各社でバラバラです。 実績データやマスタデータの管理方法は当然各社で異なります。PLM/PDM や ERP といったソフトウェアで管理されていることが多いですが、製造業全体で「標準」と言えるような規格はありません。 データの「活用」に向けたハードル こういった多種多様なデータを活用するためには、まず、非構造化データや半構造化データをなんらかの方法で構造化する必要があります。その上で、データ同士をなんらかの方法で紐づけて、データ同士の連関がわかるようにする必要があります。 データのフォーマットは会社ごとに異なり、さまざまなバリエーションがあります。そのため、「データ同士がどうすれば紐づくか」も一意には決まりません。 ここまでの話をまとめると、 さまざまなスキーマのデータを柔軟に取り扱うことができ、 データ同士をどのカラムで紐づけるべきかを柔軟に選択でき、 大規模なデータセットを取り扱える こういった要件を満たすことが、製造業におけるデータの「活用」を実現する上では求められます(製造業に限った話ではないかもしれませんが)。 データを活用するための一般的な解決策 さて、ここまで説明してきたような課題を解決するためにはどうすればいいでしょうか?一般的には、データエンジニアリングによるアプローチが考えられるかなと思います。 三行くらいで簡単にまとめるとこんな感じ。 データエンジニアリングを専門とするチームを組成し、 データレイクに生データを集め、 ETL パイプライン等を通じてデータを活用可能にする Snowflake 等の登場により、企業がデータ分析を始める際のハードルは大きく下がってきている印象があります。しかしながら、こうしたことを実現するためには、依然としてデータエンジニアリングを専門とするエンジニアが手を動かす必要があります。 改めて、先ほどまとめた課題を再掲します。 さまざまなスキーマのデータを柔軟に取り扱うことができ、 データ同士をどのカラムで紐づけるべきかを柔軟に選択でき、 大規模なデータセットを取り扱える (加えて、製造業に特有のユースケースに特化した機能を提供できる) 上記のような機能を SaaS として提供することで、データをよりかんたんに活用できる状態にしたい、そのための方法を考えてほしい、というのが、ぼくの所属するチームのここ半年のミッションでした。 データレイクハウスの登場 先ほど、データを活用するための一般的な解決策としてデータレイクについて触れました。大規模なデータセットを活用していく上で、データレイクのアーキテクチャは有効ですが、一方で課題もあります。 代表的な課題としては、データの一貫性に関する課題があります。データはあくまで GCS 等のストレージに配置されているだけの状態にあるため、RDBMS でいうところのトランザクションのような概念はありません。そのため、複数のプロセスから同時に書き込みをするとデータが壊れてしまう可能がありますし、中途半端に書き込みがされた状態のデータが予期せず参照されてしまう可能性もあります。 こうした課題から、近年、データレイクハウスと呼ばれるアーキテクチャが注目されてきています。 データレイクハウスアーキテクチャは、データを保存するストレージのレイヤと、データに対して SQL を実行するクエリのレイヤを分離し、その間にメタデータのレイヤを設けているのが大きな特徴です。メタデータのレイヤを設けることで、ストレージ上のデータをテーブルであるかのように抽象化したり、ACID トランザクションを実現したりすることができます。 www.databricks.com それぞれのレイヤで採用できる代表的なツールは以下の通りです。 メタデータのレイヤでは、Open Table Format と呼ばれる仕様に従ってデータが管理されます。この仕様に従ってデータを保存することで、トランザクションなどの便利な機能が使えるほか、クエリのレイヤでどのツールを使うか(Spark、Hive、Flink、Trino など)がユースケースに応じて選択可能になります。 採用したアーキテクチャ 前置きが長くなりました。キャディでの Iceberg の使いどころについての話に移ります。 キャディでは、CADDi Drawer が扱うデータのうち、構造化データを扱うサービスにて Iceberg を使用しています。構造化データのうち、特に実績にまつわるデータはレコード件数が多い傾向にあります。スキーマが不定だったり、紐付け項目が一意に定まらなかったりするという特徴も相まって、RDBMS を素朴に利用してアプリケーションを設計すると、中長期的に期待するパフォーマンスが出せないのではないか、という懸念がありました。 一方で、データの更新頻度は少なく、データの追加操作がメインのユースケースであることから、「RDBMS 以外の選択肢は本当にないのか?」を検討し、紆余曲折を経て Iceberg に辿り着きました。 各レイヤで何を採用したか 先ほど、データレイクハウスアーキテクチャはクエリ、メタデータ、ストレージの 3 つのレイヤで構成される、ということについて説明しました。それぞれのレイヤで採用できるツールにはいくつか選択肢がありますが、CADDi Drawer では Trino、Iceberg、GCS(Google Cloud Storage)を採用しました。 Open Table Format が掲げるテーマとして代表的なものに「バッチとストリーミングの統合」があります。ストリーミングのユースケースを満たすなら、Apache Spark を採用し、Structured Streaming 機能を活用するといった選択肢も考えられます。 iceberg.apache.org ですが、SQL のインタフェースを通じてデータをクエリできれば十分であり、検討時点ではストリーミングのユースケースが見当たらなかったため、比較的導入コストの小さい Trino を採用しています。(リリースまでのスケジュールが非常にタイトであったこと、今回ユーザに提供する機能はあくまでベータ版であったこと、といった事情もあったりします。) Iceberg に関しては AWS など BigTech 各社が力を入れていることから興味を持ち、採用を決めました。 データレイヤーに関しては、キャディでは Google Cloud を全面的に採用していることから GCS を採用することに決めました。 「ベータ版としての提供なのであれば BigQuery でもいいのでは…?」という考えも頭をよぎりましたが、不特定多数のユーザーに BigQuery を用いた機能を解放するとクエリコストのコントロールが難しくなりそうなため、候補からは外しました。 アーキテクチャの詳細 アーキテクチャ図は以下の通りです。 構造化データを扱うマイクロサービスは、キャディの中では珍しく Java を採用しています。静的型付けのある言語で開発したかったのと、Trino や Iceberg などのライブラリとの親和性の高さから採用を決めています。 処理の大まかな流れは以下の通りです。 ユーザがアップロードした CSV をパースして Iceberg に保存する 図面の解析結果を一定間隔のバッチで受け取り Iceberg に保存する Iceberg のデータを用いてデータの紐付けを解決し、「図面に紐づく構造化データ」を UI に表示できるようにする 緑色の線が「ユーザが CSV をアップロードしてから Iceberg に登録されるまで」の流れを表し、赤色の線が「図面の解析結果が Iceberg に登録されるまで」の流れを表しています。別のジョブを通じてデータ同士の紐付けを解決して Iceberg に書き戻し、この「解決済み」のデータを REST API から返却して、ユーザ向けの画面に表示しています。 Trino は GKE クラスタ上に用意した専用のノードにデプロイして稼働させています。コーディネータがクエリを受信し、実行計画を立てて、ワーカに対して指示を送ります。ワーカはコーディネータからタスクを受け取り、データを実際に処理します。 Iceberg Catalog としては Databricks 社の iceberg-rest-image を利用しており、こちらも GKE クラスタ上にデプロイして稼働させています。カタログの情報は AlloyDB に永続化し、ファイルの実態は GCS に保存しています。 github.com Iceberg Catalog にも選択肢がいくつかあります。詳しく知りたい方は下記の記事を参照ください。 bering.hatenadiary.com 大量のデータの INSERT 操作は、パフォーマンスの観点から Iceberg Java API を通じて実施しています。 iceberg.apache.org 所感 Iceberg および Trino を採用したことにより、 テナントごとに異なる、さまざまなスキーマのデータを柔軟に取り扱うことができる データ同士をどのカラムで紐づけるべきかを柔軟に選択できる 大規模なデータセットを取り扱える といった、当初目的としていたアーキテクチャ特性を満たすサービスを構築できました。 データの書き込み性能のスループットに関しては、1000 万件規模のデータの登録が 15min 程度で完了し、読み込み性能に関しても一般的な Web アプリケーションとして違和感のないレスポンスタイムで安定して結果を返すことを確認できました。 今後の課題 ここまで、Iceberg 導入の背景と使いどころについて説明してきました。 直近のゴールは達成できたものの、今後取り組みたいこと、改善したいポイントはたくさんあります。 全社を横断したプラットフォームへの進化 Iceberg を使った仕組みは、現在、あくまで CADDi Drawer の中の一機能という立ち位置です。将来的には CADDi Drawer のデータだけではなくCADDi Quote のデータも横断して取り扱えるよう、アプリケーションとプラットフォームに分割し、アプリケーションを横断して利用できるようにしていく必要があります。 また、こちらのインタビューでも語られている通り、製造業 AI データプラットフォーム CADDi には、今後も新規アプリケーションを追加していくことを想定しています。 www.fastgrow.jp 「3 年で数十個」 という目標を達成する上で、Iceberg を使った基盤を全社を横断したプラットフォームに進化させていく取り組みは急務といえます。 Iceberg の機能をもっと使い倒したい Iceberg にはトランザクション管理に関する仕様が定義されています。この仕様に従って実装されたクエリエンジンを利用することで、更新データの競合が疑われる場合に該当の操作を abort し、データの一貫性を保証することができます。 現時点ではデータの追記(AppendFiles)しか利用していないため、下記の資料で解説されているような同時書き込み時における課題には直面していません。 speakerdeck.com また、Iceberg には in-place table evolution という仕様が定義されています。これはテーブルのスキーマを ALTER TABLE 文を発行して変更したり、テーブルのパーティションを行うキーを後から変更したりすることができる、という機能です。 iceberg.apache.org 現時点では、一度定義したテーブルのスキーマを変更するような機能を提供していないため、この課題には直面していませんが、早晩対応が必要になりそうな予感がしています。 また、Iceberg を全社を横断したプラットフォームに進化させていく上では、各アプリケーションのデータベースに永続化されているデータを、ストリーミング処理を通じてニアリアルタイムに連携できるようにしていく必要も出てきそうです。 やることがたくさんあって大変なわけですが、これはこれで「Iceberg の真価を発揮できるチャンスがたくさんある」と言い換えることもできそうです。 マルチテナント SaaS におけるテナント分離の課題 書籍『マルチテナント SaaS アーキテクチャの構築』でも語られている通り、SaaS を提供する事業者としては、異なるテナントのデータが誤って参照されてしまうことのないよう、テナントの分離を強制する仕組みの構築が重要となります。 CADDi Drawer では、Iceberg のスキーマをテナントごとに作成し、テナントごとのテーブルをスキーマ内に作成することでデータを物理的に分離しています。異なるテナントのデータを参照できないようにする仕組みはアプリケーションのレイヤに実装しています。 こういった仕組みはアプリケーションのレイヤだけでなく、インフラのレイヤにも導入し、多層的なテナント分離を実現したいところです。ですが、現在採用している Iceberg Catalog にはそういったアクセスコントロールに関する機能はないため、やむなく断念しています。 Apache Polaris では、RBAC モデルをベースとした柔軟なアクセスコントロールの仕組みが提供されるようです。現時点では Incubation のステータスにあるため採用を見送ったのですが、正式版がリリースされた際には載せ替えを検討しています。 polaris.apache.org Iceberg の利用を検討している方は動向をウォッチしてみると良いかもしれません。 おわりに いかがだったでしょうか。 Iceberg の採用を検討している方の参考になれば幸いです。 最後に宣伝で、キャディではエンジニアを採用しています。本記事を読んで、「製造業の AI データプラットフォーム」構想に興味を持った方、今後の課題を一緒に解決していきたいと感じた方はぜひご連絡ください。 recruit.caddi.tech
こんにちは!アマゾンウェブサービスジャパン合同会社で、製造業のお客様を支援しているソリューションアーキテクトの森です。 2025年 1月 29日にオンラインセミナー「AWS re:Invent Recap – インダストリー編 製造業編」を開催致しました。 製造業のお客様のクラウド活用はエンジニアリングチェーン、サプライチェーン、サービスチェーンなど様々な領域で進んできています。昨年から注目されている生成 AI の活用も各領域で進んでおり、re:Invent 2024 でも関連するセッションが多数公開されました。本セミナーでは、製造業でクラウドの活用をご利用・ご検討いただいているお客様を幅広く対象として、 re:Invent 2024 で発表された最新の事例及びサービスを分かりやすくご紹介しています。セミナーの開催報告として、AWS の製造業におけるフォーカス領域である、プロダクトエンジニアリング、スマート製造、スマート製品&サービス、サプライチェーンのパートでご紹介した内容や、当日の資料・動画などを公開します。 re:Invent 2024 製造業向けサマリー アマゾンウェブサービスジャパン合同会社 シニア事業開発マネージャー 舛重 国規 [ 資料 ] AWSの製造業領域における取り組みは、プロダクトエンジニアリング、スマート製造、スマート製品&サービス、サプライチェーンの各領域において、横断的に生成 AI・機械学習の技術を組み合わせて展開されています。 re:Invent 2024 の Keynote では Amazon CEO Andy Jassy による、Amazon での AI 活用事例、製造業各社による生成 AI 活用の事例が紹介されました。また、AWS 独自の産業データファブリック (IDF) フレームワークを中核とした、製造業向けソリューションの展開や、Expo ホールでの e-Bike スマートファクトリーのデモを通じて、製品品質向上や生産効率化への具体的なアプローチを紹介しました。組み込みソフトウェア開発においては DevOps アプローチの導入など、製造業のデジタル変革を促進する様々な取り組みが紹介されました。 プロダクトエンジニアリングに関わるサービスおよび事例アップデート アマゾンウェブサービスジャパン合同会社 シニアソリューションアーキテクト 吉廣 理 [ 資料 ] このセッションでは、プロダクトエンジニアリング関連の最新動向と事例をご紹介しました。CAD、CAE、PLM の 3つの主要ワークロードにおけるクラウド活用の利点として、リソースの柔軟な調整による無駄のない投資、並列処理による計算時間の短縮、HPC に最適化された EC2 インスタンスの提供などを例にあげています。事例として、Autodesk 社の 3D Generative AI 基盤モデル開発、Iveco グループのバーチャルエンジニアリング、サムスンエレクトロニクスの半導体工場設計、Astera Labs の半導体設計、Realta Fusion の核融合開発など、様々な業界のお客様の取り組みが紹介されていました。また、 AWS Parallel Computing Service (PCS) や Research and Engineering Studio on AWS (RES) などのサービスが紹介され、プロダクトエンジニアリングの効率化と高度化を支援する AWS の取り組みを紹介しました。 スマート製造に関わるサービスおよび事例アップデート アマゾンウェブサービスジャパン合同会社 ソリューションアーキテクト 岩根 義忠 [ 資料 ] 製造業は労働力不足、技術伝承、カーボンニュートラルの対応、品質向上など、様々な課題に直面しています。このセッションでは、特にこれらの中から、労働力不足と技術伝承の課題に注目し、 AWS IoT SiteWise を中核とした産業データファブリック (IDF) のアプローチを紹介しました。成功事例として Total Energies のバイオガスサイトを 1ヶ月で IoT SiteWise に接続して OT/IT の統合を進めた取り組み、Gousto のデータ駆動型 食品工場の取り組み、Rehrig Pacific Company の製造プロセス最適化、フォルクスワーゲンのデータプラットフォーム構築の事例を紹介しました。これらの事例から データ統合とその活用において、スモールスタートで始めて改善を重ねていく手法の有効性を強調しました。また、 AWS Outposts によるハイブリッドクラウド活用や、IoT SiteWise の新機能である生成 AI アシスタントなど、AWS サービスを活用した具体的なソリューションについてもご紹介しました。 サプライチェーンに関わるサービスおよび事例アップデート アマゾンウェブサービスジャパン合同会社 ソリューションアーキテクト 水野 貴博 [ 資料 ] このセッションでは製造業のサプライチェーンに関する最新動向と事例を紹介しました。サプライチェーン管理において、データの統合とリアルタイムな可視化、AI や機械学習の活用による予測精度の向上、そして管理全体の状況が一目で分かるコントロールタワーの構築が重要なトレンドとなっていることを紹介しました。具体的な事例として、自動車業界における企業間データ連携の Catena-X における BMW と AWS との協業の取り組み、Moderna の医薬品サプライチェーン最適化、北米トヨタのデジタルトランスフォーメーションの取り組みを紹介しました。サプライチェーンに関連する AWS Professional Service のコンサルティングメニューとして倉庫自動化最適化支援 (WAO) を、AWS サービスのアップデートとして AWS Supply Chain の機能拡張(Amazon Q 対応および QuickSight との統合)をご紹介しました。 スマート製品&サービスに関わるサービスおよび事例アップデート アマゾンウェブサービスジャパン合同会社 ソリューションアーキテクト 村松 謙 [ 資料 ] このセッションではスマート製品サービスに関する最新トレンドと事例をご紹介しました。IoT デバイスの市場規模は急速に拡大しており、2030年までに世界で 55億台に達する見込みで、エッジ AI 市場も 2026年までに 380億ドルの規模に成長すると予測されています。re:Invent 2024 ではブリヂストン、LGエレクトロニクス、KONE、富士通など様々な企業が AWS のサービスを活用して、製品開発、運用保守、顧客サービスの向上等で成果を上げていることを紹介されました。また AWS からは、GitLab への Amazon Q Developer 機能の統合や AWS IoT SiteWise の新機能など、スマート製品&サービス分野に関連するサービスのアップデートについても紹介しました。特に AI やエッジコンピューティングの活用が、製造業のデジタルトランスフォーメーションにおいて重要な役割を果たしていることが強調されていました。 おわりに 本セミナーでは AWS re:Invent 2024 における製造業のプロダクトエンジニアリング、スマート製造、スマート製品&サービス、サプライチェーン領域における最新の事例を紹介しました。また、お客様とデジタルトランスフォーメーションを推進する AWS の取り組みやサービスアップデートを紹介しました。データの活用や処理の高度化、自動化などによって、現在の業務をより効率的に行うことができる可能性はあります。中長期的な視点でのロードマップを検討する際、クラウドの効果的な活用が鍵となります。DX やクラウド利用に関してAWSにぜひご相談ください。お客様と共にソリューションを検討し、ご支援をさせていただきます。 本ブログは事業開発マネージャーの舛重国規、ソリューションアーキテクトの吉廣 理、岩根義忠、水野貴博、村松 謙、森 啓が執筆しました。 AWS の製造業に対する取り組みを紹介するウェブサイトもございます。 こちら も是非ご参照ください。
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