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1. はじめに こんにちは、ソリューションアーキテクトの戸塚と中本と宇加治です。 AWS Summit Japan 2026 の AWS Builders’ Fair にて、パデルフォーム分析アプリを展示します。パデルを知らない方向けに簡単に説明すると、テニスとスカッシュを合わせたような、壁に囲まれた小さめコートで 2 対 2 のダブルスだけで行うラケットスポーツです。この展示は、テクノロジーでスポーツ体験を拡張し、競技者の感覚や経験だけでは捉えにくいフォームの違いを可視化する取り組みとして、多くの方に触っていただきたい内容となっています。 このブログでは、展示の概要、使用している技術スタック、AI 駆動の開発手法、そしてこのシステムが解決する課題と他インダストリーへの応用可能性についてご紹介します。エンジニアの方もたくさん参加されていると思うので、ぜひ技術的な観点からも楽しんでいただければ嬉しいです。 2. AWS Summit Japan 2026 について AWS Summit Japan 2026 は、2026年6月25日から26日まで幕張メッセで開催される、クラウドと AI イノベーションの最前線を体験できる 2 日間の無料イベントです。260 以上のセッションに加え、AWS Village、ワークショップ、Partner Solution Expo など多彩なコンテンツが用意されています。AWS Builders’ Fair エリアは、AWS エンジニアが自作した “遊べる” デモを体験しながら、AI・IoT・サーバーレスなどの活用事例を学べるハンズオン型の展示ゾーンとなっています。来場者は自由にブースを回り、生成AI・IoT・サーバーレスなどを組み合わせたインタラクティブなデモを、実際に触ったり遊んだりしながら体験できます。 3. パデフォーム分析アプリ展示概要 このアプリは、 Meta Quest (VR ヘッドセット)、 HaritoraX (モーションキャプチャデバイス)、カメラによる骨格推定技術( MoveNet )を組み合わせ、バーチャル空間でパデルの球出しを受けた際の動作を計測・分析する仕組みです。 単にスイングを記録するだけではなく、身体の各部位の動きやタイミングの差分をとらえ、トッププレーヤーのフォームと比較評価できるように設計しています。 3.1 体験の流れ VR 空間で球出しを受ける — Godot で構築された 3D 空間内でプレー リアルタイムモーションキャプチャ — HaritoraX + カメラで動作データを取得 フォーム分析 — DTW(Dynamic Time Wrapping) アルゴリズムでトッププレーヤーのフォームと比較 ※ 結果表示 — 5 指標のスコアカード + 生成 AI によるアドバイス VR、Haritora、カメラの3つのソースを統合して、最終的に 5 つの指標として評価するように実装しています。 写真: VR 空間でプレーする体験者の様子 図: 5つの評価指標を算出するための各データソースの役割 ※骨格推定には OpenPose や MoveNet といったスポーツ動作分析の標準手法を使っています。時系列比較の DTW は、 Ba č i ćらが 2022 年の VISAPP でストローク分類に使用しています。プロとの比較は Stanford の Liu が 2025 年に DTW によるプロ対アマ比較 を行っています。フェーズ分割はバイオメカニクスの標準的なアプローチとなっています。 写真: リアルタイムモーションキャプチャのデータ確認画面 ゲームとして楽しめるだけでなく、トレーニングにもなる設計を目指しています。プレイヤーは VR 空間の中でさまざまなボール(レボテやコントラパレットを含む)に対応することになり、楽しみながらフォームの改善ポイントを発見できます。 3.3 トッププレーヤーの教師データ 事前計測には、パデルトッププレーヤーとして久留広平選手、内海信仁選手、瀧田瑞月選手、内海和心選手に AWS オフィスへお越しいただきました。計測で取得したデータは、すでにアプリ内の教師データとして実装されており、体験者は彼らのフォームとの差異を比較できるようになっています。 この仕組みの面白さは、単に「上手い・下手」を判定することではありません。トッププレーヤーの動作を基準にすることで、打点の入り方、身体の回旋、重心移動、準備動作の速さなど、普段は言語化しにくい技術要素を、比較可能な形で捉えられる点にあります。 また、コーチングや自己改善の文脈でも活用しやすいのが特徴です。感覚に頼りがちなフォーム指導に対して、再現性のある比較軸を持ち込めるため、競技経験者はもちろん、これから上達したいプレーヤーにとっても新しい学習体験になり得ます。 写真: 計測結果のスコアカード画面(数値化 + 生成 AI アドバイス) 3.4 トッププレーヤーからのコメント 教師データ計測に協力いただいた選手から、本システムを実際に使用した感想をいただきました。システムの可能性を評価する前向きなコメントに加え、今後の活用方法に関するアイデアも頂戴しました。 ■ 久留 広平選手(日本代表) コーチの視点では、フォームや身体の使い方を指導する際に選手がイメージしている動作と実際の動作に乖離が見られるケースがあり、そのような場面でデータに基づくフォーム分析を活用することで、効果的な指導につなげられると感じました。 ■ 内海 信仁選手(ベテラン日本代表) 日本は世界から30年のビハインドがあり、中東、東南アジアは英語が話せるアドバンテージでどんどん差を埋めていますが、日本はそれが出来ていません。それをテクノロジーで埋めていくというのは日本らしさがあってとても素晴らしいと感じました。 ■ 瀧田 瑞月選手(2018〜2023 日本代表 2025年 Jr 日本代表サブコーチ) 率直に、これからの可能性にとてもワクワクしました。パデルに限らず、エンターテインメントやコーチング、競技力向上など、さまざまなカテゴリーで活用できる可能性を感じました。今後どのように発展していくのか、とても楽しみです。 ■ 内海 和心選手(日本代表) 自分の足りないところやいいところを見つけてくれるところが面白いと感じました。プロと比べて何が劣っているかとか見つかるところが今後の成長に繋がりそうだと思いました。 4. システムアーキテクチャ 4.1 全体構成 この展示は、スポーツテック、XR、センシング、コンピュータビジョンを横断する実験でもあります。Meta Quest による没入的な体験、HaritoraX によるモーションキャプチャ、カメラベースの骨格推定による姿勢解析を組み合わせることで、単一センサーだけでは捉えきれないフォーム情報を多面的に扱えるようにしています。VR アプリ構築には、Unity や Unreal Engine なども候補にあがりましたが、今回は費用も極力抑えることを考え、完全無料でオープンソースの Godot を採用しました。Godot は、Python に似た独自の言語「GDScript」を使います。文法がシンプルで読みやすいため初心者でも学習しやすい設計になっています。もちろん C# や C++ も使うことができます。今回はこの GDScript 等を Kiro の力を活用することで、自然言語でのやりとりでこのような VR アプリのオブジェクトや VR 空間での挙動までもプログラミングしているので、GDScript の学習コストはかかりませんでした。 本システムは以下のコンポーネントで構成されています: 図: システム全体概要 レイヤー 技術 用途 VR / 3D 空間 Godot Engine VR空間内でのパデル球出しシミュレーション。自然言語(Kiro)で開発 VR デバイス Meta Quest VR ヘッドセットによる没入体験 モーションキャプチャ HaritoraX 身体トラッキング(全身の動きを取得) 骨格推定 MoveNet (TensorFlow Hub) カメラ映像からリアルタイム骨格推定(17 キーポイント) フロントエンド Tauri v2 + React + TypeScript + Vite デスクトップアプリ(結果表示・操作 UI) バックエンド バックエンド Python FastAPI + Uvicorn リアルタイム分析 API(WebSocket 対応) フォーム比較 DTW (Dynamic Time Warping) 時系列データの非線形マッチングによるフォーム比較 クラウド AWS CDK (ECS Fargate + ALB + S3 + DynamoDB) 評価処理のオフロード、スコア永続化、ランキング AI フィードバック Amazon Bedrock スコアに基づくパーソナライズされた改善アドバイス エッジ側で動くアプリケーションは AWS IoT Greengrass の OTA (Over the Air)アップデート を使ってアプリ配信をする仕組みをとっており、複数拠点にあるアプリを遠隔で更新できる様にしています。また計測後のフィードバックは骨格推定を含んだ動画も見れるようになっており、動画配信は Amazon CloudFront を活用してレイテンシーが抑えられる形にしています。 図: エッジ側を含めた AWS 構成 4.2 AI 駆動の 3D 開発: Kiro × Godot 今後、3D や VR の需要はさらに高まっていくと見られます。一方で、3D プログラミングは従来、空間座標やベクトル演算、物理エンジンの理解など専門性が高く、参入障壁が高い領域でした。 今回のプロジェクトでは、Godot Engine を使った 3D 空間のプログラミングを、Kiro(AI コーディングアシスタント)を用いた自然言語プログラミングで実施しています。たとえば「ボールを放物線で飛ばしてラケットの当たり判定を追加して」「壁に当たったらレボテ(跳ね返り)する物理を実装して」といった指示で、3D 空間の挙動や空間認識のロジックを実装できました。 これにより、3D/VR 開発の経験が浅いエンジニアでも、アイデアを素早くプロトタイピングし、スポーツシミュレーションのような複雑な 3D アプリケーションを構築できることを示しています。AI 駆動の開発が、従来は専門家の領域だった 3D プログラミングの民主化を進める一例と言えます。 4.3 モーションキャプチャデータ連携の技術的課題 本システムの開発で最も技術的に挑戦的だったのは、異なるモーションキャプチャソースからのデータ統合です。 具体的には以下の課題がありました: 座標系の統一: HaritoraX(慣性式)、Meta Quest(光学式)、MoveNet(画像ベース)はそれぞれ異なる座標系・スケールで動作データを出力します。これらを統一的な骨格表現に変換する必要がありました。 データ同期: デバイスごとにサンプリングレートが異なり(カメラ 30fps、HaritoraX 100Hz 等)、時刻同期とリサンプリングの仕組みが必要でした。 欠損補間: オクルージョン(身体の一部が隠れる)時のデータ欠損を、他デバイスのデータで補間する戦略を設計しました。 リアルタイム性: 分析結果を体験者にすぐフィードバックするため、WebSocket 経由でのストリーミング処理パイプラインを構築しました。 これらの課題に対して、Kinesis 経由でデータを送りつつ UNIX タイムの時間同期、骨格情報との相対位置によるキャリブレーションにより統合し、クラウドと連携して分析する — これはまさに AWS が得意とする領域です。 5. 今後の可能性 5.1 このアプリが解決する課題 スポーツの世界では、トップ選手の技術は見えているようで、細部まではなかなか共有されません。コーチングの現場でも、「もっと腰を回して」「タイミングが遅い」といったフィードバックは、指導者の主観に依存し、再現性に乏しいものでした。 本システムは以下の課題を解決します: フォーム指導の属人化: 感覚的な指導を定量データに置き換え、再現性のある比較軸を提供 上達実感の欠如: スコアの時系列推移を記録し、小さな改善も可視化 トップ選手の技術の暗黙知化: 動作データとして記録し、比較可能な形でアクセス可能に フィードバックの即時性: リアルタイム計測 → 即座にスコア表示、改善ポイントを AI が提示 エンゲージメントの低下: VR ゲームとして楽しみながらトレーニングできる体験設計 5.2 他インダストリーへの応用可能性 本システムのコアである「モーションキャプチャ × AI 比較分析 × リアルタイムフィードバック」は、パデルに限らず幅広い分野に応用可能だと考えています。以下にユースケースを示します。 インダストリー 応用例 期待効果 スポーツ全般 テニス、ゴルフ、野球のスイング分析、サッカーのキック分析 定量的なフォーム改善、怪我予防 リハビリ・ヘルスケア 理学療法での動作評価、リハビリ進捗の定量モニタリング 回復度の客観的評価、遠隔リハビリ 製造業 作業員の動作分析、熟練工の技能伝承 品質向上、教育期間短縮 エンターテインメント ダンスや演技のフォーム評価、モーションキャプチャ活用 パフォーマンス向上、ゲーミフィケーション フィットネス パーソナルトレーニングのフォームチェック、ヨガのポーズ評価 トレーナー不在時の自己改善 介護・高齢者支援 歩行分析、転倒リスク評価 早期異常検知、予防介護 技術的には、DTW による時系列比較は人間の動作全般に適用可能であり、教師データ(基準動作)を差し替えるだけで異なるドメインに展開できます。AWS のクラウドインフラ(AWS Lambda, Amazon S3, Amazon DynamoDB,Amazon Bedrock, AWS IoT Greengrass等)を活用することで、スケーラブルかつ低コストな運用が可能です。 5.3 今後の展望 今回の展示はデモでありながら、今後の展開余地が大きい取り組みでもあります。 プレーヤーごとの癖や成長過程の可視化 ショット別の比較分析(フォアハンド / バックハンド / ボレー / バンデッハ) レベル別の推奨フィードバック コーチとの振り返り支援(セッション動画 + スコアの共有) 「どのトッププレーヤーのフォームに近いか」のパーソナライズ分析 マルチスポーツ対応(テニス、バドミントン、ゴルフ等) 写真: 教師データとして協力いただいたパデルトッププレイヤーの皆様 6. ぜひ会場で体験してください AWS Summit Japan 2026 の AWS Builders’ Fair は、遊び心あふれるテクノロジー展示を実際に見て、触って、開発者と会話できる場です。パデルフォーム分析アプリも、スポーツとテクノロジーが交わる体験を、できるだけ直感的に楽しんでいただけるよう準備しています。 ブースでアプリを体験いただいた方には、Amazon Padel ステッカーを配布予定です。AWS Summit Japan 2026 に参加される方は、ぜひ Builders’ Fair に立ち寄って、トッププレーヤーとのフォーム比較を体験してみてください。 AWS Summit Japan 2026 公式サイト: https://aws.amazon.com/jp/summits/japan/ 著者について 戸塚 智哉(Tomoya Tozuka) / @tottu22 飲食やフィットネス、ホテル業界全般のお客様をご支援しているソリューション アーキテクトで、AI/ML、IoT を得意としています。最近では AWS を活用したサステナビリティについてお客様に訴求することが多いです。 趣味は、パデルというスペイン発祥のスポーツで、休日は仲間とよく大会に出ています。 中本 翔太(Shota Nakamoto) ネットワークチームに所属するソリューションアーキテクトで、サービス業界のお客様を中心にご支援をしています。 宇加治 邦生(Housei Ukaji) サービス業界のお客様を中心にご支援をしています。好きな AWS サービスは Kiro CLI です。
本ブログは株式会社電通総研とAmazon Web Services Japan が共同で執筆いたしました。 電通総研様が開発された リアルタイム 3DCG ソリューション「UNVEIL」 において、「1,000 名の同時接続」と「100〜500ms の低レイテンシー」という厳しい要件を、わずか約 1 ヶ月の準備期間で大規模 GPU 環境を構築し、乗り越えた事例をご紹介します。 まず、「UNVEIL」 についてご紹介します。「UNVEIL」とは電通総研様が開発されているブラウザでのリアルタイム 3DCG メタバース/仮想空間のソリューションで、現実に近い高品質な 3D 体験を、多人数同時参加で提供する商用向けサービスです。 (出展: 株式会社電通総研) お客様の状況と課題 電通総研様は、「UNVEIL」の商用展開に向けた取り組みの一環として、2025 年 12 月に実施された社内イベントでの活用を計画されていました。同イベントでは、1,000 名の同時接続と、レスポンス 100〜500 ms 程度という要件がありました。 課題は、 大規模な GPU 環境( Amazon EC2 の g4dn 系、g5 系インスタンス)を効率的に構築する ことでした。イベント駆動型のワークロードであるため、コスト効率を保ちながら、必要な規模の環境を短期間で立ち上げる必要がありました。 戦略1: コスト最適化のためのリージョン選択 当初はアジアパシフィック (東京) リージョンで基盤を構築されていましたが、大規模な GPU 環境を構築するにあたり、 コスト効率 の観点から、海外リージョンの活用を検討しました。 Amazon EC2 の料金はリージョンによって異なるため、コスト効率の良い米国東部 (バージニア北部) リージョンと米国西部 (オレゴン)リージョンが候補として浮上しました。また、リージョンに依存しないアプリケーション設計を採用されていた点も、海外リージョンを選択できた大きな理由でした。 リージョン g5.xlarge のオンデマンド料金 ($/Hour) ※ アジアパシフィック (東京) 1.459 米国東部 (バージニア北部) 1.006 米国西部 (オレゴン) 1.006 ※ 2026 年 3 月時点の料金 戦略2: レイテンシーを考慮した実測テスト 海外リージョンを活用する際の最大の懸念は、日本からのアクセスにおけるレイテンシーでした。電通総研様は、 机上の計算だけでなく、実際のアプリケーションで測定する というアプローチを採用されました。 まず 米国東部 (バージニア北部) で検証を実施しましたが、日本からのアクセスでは遅延が大きく、ユーザー体験に影響があることが判明しました。次に米国西部 (オレゴン) で検証した結果、米国東部 (バージニア北部) よりもレスポンスが改善され、目標のレイテンシー数値に抑え、視聴体験を損なわない範囲に収まることを確認できました。この結果から コスト効率とレイテンシーの両面で最適な米国西部 (オレゴン) リージョンを採用 することが決定しました。 テストに向けた環境構築において、AWS の各リージョンで同一のサービスや API が提供されていたため、環境を別のリージョンへ再現することが容易でした。加えて、 Amazon EKS をはじめとするマネージドサービスを活用していたことで、リージョン間の環境移行も約 1 週間で完了し、迅速な検証が可能になりました。 戦略3: 複数回の事前テストによるリスク軽減 イベント本番での失敗を避けるため、 複数回のテスト を実施しました。数百台規模での動作確認を実施することで、以下のような潜在的な問題を事前に発見・対処することができました: 数百台規模のオートスケーリング起動が問題ないことの確認 (スケール起動検証) Service Quota の事前確認と調整 Amazon VPC の IP アドレス設計などインフラ面での考慮事項の確認 リージョンごとのレイテンシー特性の把握 また、大規模な GPU 環境を構築する際のキャパシティ確保の観点から、g4dn 系と g5 系の複数世代の GPU インスタンスタイプを混在させる構成を採用しました。単一のインスタンスタイプに依存せず、複数のインスタンスタイプを組み合わせることで、特定のインスタンスタイプで必要な台数が確保できない場合でも、他のインスタンスタイプで補完できる柔軟な環境を実現しました。 ソリューション概要 UNVEIL は、Amazon EKS を中心としたアーキテクチャで構成されています: フロントエンド: Amazon CloudFront + Amazon S3 による高速コンテンツ配信 アプリケーション層: Amazon EKS 上で動作する MatchMaker(ユーザーと GPU サーバーを割り当てる仕組み)、GPU サーバー、TURN/STUN サーバー 監視層: Amazon CloudWatch による包括的な監視 ユーザーは Amazon CloudFront 経由でアクセスし、MatchMaker が利用可能な GPU サーバーに割り当て、Unreal Engine でレンダリングされた映像を WebRTC 経由で配信します。 導入効果 2025 年 12 月のイベントでは以下の成果を得ることができました: 最大 1,000 台規模 GPU インスタンスを稼働 既存の東京リージョンと比較してコスト効率の良い環境構築を実現 電通総研様からは、「1,000 人規模のスパイクアクセスに対しても、インフラをオートスケーラブルに増減できることを検証できた点が大きな成果でした。未使用時にコスト増となり得る GPU リソースを、利用人数に応じて自動的にスケールできることを確認し、品質とコストの両立の可能性を示せました。また、事前検証によりボトルネックを特定できたことも、商用化に向けた重要な学びとなりました。一方で、アプリケーション面では大規模・多人数同時利用時の考慮が十分でなく、一部挙動が不安定となる課題も確認でき、改善項目として整理できました」とのコメントをいただきました。 大規模 GPU 環境構築の学び 今回のプロジェクトから得られた重要な学びをまとめます: 1. コスト最適化のためのリージョン戦略 海外リージョンの活用により、コスト効率の良い大規模 GPU 環境を構築できます。 2. 実測ベースの意思決定 複数リージョンで実際にレイテンシーを測定し、机上の計算だけでなく実際のアプリケーションでの検証が重要です。 3. 複数回の事前テストの重要性 複数回のテストを実施し、各テストでボトルネックを特定することで、イベント本番のリスクを最小化できます。また、g4dn 系と g5 系など複数世代の GPU インスタンスタイプを混在させることで、大規模環境でのキャパシティ確保の柔軟性を高めることができます。 4. イベント当日の運用設計 イベント開始前に十分な台数を確保し、Amazon CloudWatch による包括的な監視で問題の早期発見を実現します。 まとめ 今回は、電通総研様の UNVEIL において、大規模 GPU 環境を効率的に構築するための戦略的アプローチをご紹介しました。 電通総研様の「まず試してみる」という実践的なアプローチと、事前テストで計測したデータに基づく意思決定が、短期間でのシステム構築を可能にしました。大規模な GPU 環境を構築される際は、ぜひ今回ご紹介した戦略を参考にしていただければ幸いです。 AWS では定期的に技術イベントを開催しております。ぜひご参加ください。 https://aws.amazon.com/jp/events/ 執筆者 株式会社電通総研 事業開発室 姫野 智也氏、孫 辰氏 Amazon Web Services Japan: ソリューションアーキテクト 本多 和幸
本記事は、2026年 1 月 22 日に公開された “ Game development infrastructure simplified with AWS Game Dev Toolkit ” を翻訳したものです。翻訳は Solutions Architect の鷲見啓志が担当しました。 注釈: AnyCompany Gamesは、ゲーム開発における一般的な課題と解決策を説明するために作成された架空の会社です。 分散したチームでゲームを開発している場合、バージョン管理、ビルドシステム、クラウドインフラストラクチャのセットアップという課題に直面したことがあるのではないでしょうか。この記事では、AnyCompany Games の事例を例に、 AWS Cloud Game Development Toolkit を使用して、完全なゲーム開発パイプラインを数週間ではなく数時間でデプロイする方法を紹介します。 多くのインディーゲームスタジオと同様に、AnyCompany Games は大きな野望を抱く小規模なリモートチームから始まりました。業界暦の長い5人のベテランが、没入感のあるロールプレイングゲーム( RPG )体験を創造するという共通のビジョンを持って集まりました。しかし、彼らはすぐにゲーム開発における共通の課題に直面しました。彼らの野心的なプロジェクトには、堅牢なインフラストラクチャが必要だったのです。 AnyCompany Games のチームには、特別なものを作り上げる才能とビジョンがありました。彼らの前に立ちはだかる最大の問題は、インフラストラクチャの欠如でした。手元にあるハードウェアでは、ビルド時間が長くなり、ビルドはよく失敗していました。アーティストはシェーダーの読み込みに1時間以上待たされ、大容量のアセットの共有やバージョン管理が開発を遅らせていました。 彼らの開発に求められる環境は本格的なものでした。 Perforce P4 などのバージョン管理用サーバー、Unreal Engine Horde などの継続的インテグレーション・継続的デリバリー( CI/CD )ツール、そしてこれらすべてを支える基盤となるネットワークインフラストラクチャが必要でした。このシナリオは、ゲーム業界ではよく見られるものです。大容量なアセットを含む複雑なゲームには、スケーラブルなインフラストラクチャが必要ですが、大多数のゲームスタジオは、オンプレミスでスケーラブルなインフラを維持するのに苦労しています。 チームがクラウドソリューションを検討する中で、 Amazon Web Services( AWS ) は有望な選択肢であることが分かりました。AWS は必要に応じてリソースのプロビジョニングと削減を可能にし、大規模なハードウェア要件に対応できました。しかし、1つの課題が残っていました。それは、AWSリソースをゲーム開発ツールと効率的に連携するように設定することでした。 ここで Cloud Game Development Toolkit が登場します。これは、 AWS for Games によって開発された、公開されているオープンソースリポジトリに格納された Terraform モジュールと Packer テンプレート専用のコレクションです。この記事では、このツールキットが AnyCompany Games や同様のスタジオが開発ツールを AWS インフラストラクチャとシームレスに統合するのにどのように役立つかを探ります。 クラウドインフラストラクチャ構築の前提条件 多くのクラウドコンピューティング初心者の開発者と同様に、AnyCompany Games は AWS アカウントの作成から始めました。アカウント作成が完了すると、チームはゲーム開発のニーズに最適なクラウドインフラストラクチャについて調査を行いました。 その時、彼らは Cloud Game Development Toolkit を発見しました。このリポジトリは、AWS 上で重要なゲームインフラストラクチャコンポーネントのデプロイを効率化する、カスタマイズ可能な Terraform と Packer のテンプレートを提供していました。 ネットワーク基盤の構築 クラウド基盤を構築する最初のステップは、ネットワークアーキテクチャの作成でした。リソースは複数のアベイラビリティーゾーンにわたって高可用性を確保する必要がありました。 ネットワークインフラストラクチャを構築するための Amazon Virtual Private Cloud( Amazon VPC ) リソースをデプロイするために、彼らは Terraform AWS プロバイダー のリソースとデータソースを使用しました。これらのプロバイダーを使用して、複数のアベイラビリティーゾーンにわたってパブリックサブネットとプライベートサブネットをデプロイし、仮想プライベートクラウド( VPC ) からのインターネットアクセス用のインターネットゲートウェイ、およびプライベート AWS リソースからのアウトバウンドインターネットトラフィックを開始するための Amazon VPC NAT ゲートウェイを作成しました。ルートテーブルがこれらのサブネット間のトラフィックフローを管理し、適切なネットワークセグメンテーションを提供しました。 開発ツールやサービスへの信頼性の高いアクセスを提供するため、AnyCompany Games にはドメイン管理が必要でした。彼らは自社ドメイン用に Amazon Route 53 ホストゾーンを設定し、以下を実現しました。 一元化されたドメイン管理 DNS レコードの自動更新 他の AWS サービスとの統合 AWS Certificate Manager を通じた SSL 証明書管理 このネットワークと DNS のインフラストラクチャ基盤により、AnyCompany Games はゲーム開発ツールとサービスをサポートするために必要な、安全でスケーラブルな基盤を手に入れました。彼らは Infrastructure as Code( IaC ) アプローチを使用して、インフラストラクチャ構成をバージョン管理し、異なる環境間で一貫してデプロイしました。 AnyCompany Games は Infrastructure as Codeとしてインフラストラクチャをデプロイし、Perforce を使用するためのネットワークインフラストラクチャの準備ができました。 以下のアーキテクチャ図は、この記事全体を通じてこのアーキテクチャ内に配置される Perforce と Horde リソースをホストする基盤を表しています。 図1: ネットワークアーキテクチャ クラウドでのバージョン管理に Perforce P4 サーバーを使用する ゲーム開発における重要なコンポーネントはバージョン管理であり、AnyCompany Games には、大容量のバイナリアセット、複雑なブランチ戦略、そして分散した労働力に対応できる堅牢なソリューションが必要でした。Perforce P4 サーバーが適切な答えとなるでしょう。しかし、そのセットアップに貴重な開発時間が奪われてしまいます。 Cloud Game Development Toolkit の Perforce モジュール の 例 を使用して、彼らはわずか数行のコードでバージョン管理システム全体をデプロイすることができました。 terraform apply コマンドを実行するだけで、Perforce サーバー、コードレビューシステム、認証サービスがクラウド上で稼働しました。 Perforce モジュールは3つの統合されたコンポーネントをデプロイしました。P4 サーバーは、バージョン管理のパフォーマンスに最適化された Amazon Elastic Block Store( Amazon EBS ) ボリュームを備えた Amazon Elastic Compute Cloud( Amazon EC2 ) インスタンス上で実行されています。次に、P4 Code Review と P4 Authentication Service の両方が、 Amazon Elastic Container Service( Amazon ECS ) の共有クラスター上のタスクとして実行され、安全な認証とコラボレーション機能を提供しています。 セットアップには数週間ではなく数時間しかかからず、モジュールはチームが P4 One クライアントを接続するための接続文字列と設定詳細まで提供しています。 このツールキットは、Perforce の認証のセットアップを自動化し、Helix Authentication Extension のインストールを処理し、P4 Authentication Service をデプロイし、安全なアクセスのための認証サービスを設定しています。 Perforce をデプロイした後、AnyCompany Games の分散チームはついに効果的にコラボレーションできるようになりました。シアトルのアーティストが大容量ファイルをチェックインする一方で、フロリダのプログラマーは同時にエンジンの変更作業を行うことができました。 以下のアーキテクチャ図は、P4 Server、P4 Code Review、P4 Auth サービスを含む、AWS 上の Perforce のデプロイ構成を示しています。 図2: アーキテクチャ図 Horde でビルドパイプラインを加速する 次の課題は、Unreal Engine プロジェクト用の CI/CD パイプラインのセットアップでした。チームには、現在のハードウェアを置き換えるための2つの選択肢がありました。高額で最新のハードウェアを購入し、必要な容量を見積もるか、AWS クラウドの従量課金モデルを活用して、必要に応じてサーバーをプロビジョニングおよびデプロビジョニングするかです。 バージョン管理に使用した Cloud Game Development Toolkit を見直してみると、チームは、すぐにデプロイ可能な専用 CI/CD ツールも含まれていることを発見しました。Unreal Engine を使用していたため、彼らはツールキットの Horde モジュール をデプロイすることに決めました。 Hordeとは? Unreal Engine Horde は、Epic Games によって開発された、ビルドとテストの自動化のための専用 CI/CD システムです。Epic Games によって設計され、Unreal Engine と統合するように作られており、Fortnite などの主要タイトルの開発に使用されています。Unreal Engine Horde は、プロジェクトのビルドとコンパイル方法を定義する Unreal Engine ビルドグラフシステム( Unreal BuildGraph )を標準で理解しています。これにより、汎用的な CI/CD ツールと比較して、Unreal ビルドプロセスとのより優れた統合が可能になります。 Horde は、アセットコンパイルやシェーダー処理などのリソース集約的なタスクの管理など、ゲーム開発に特化して最適化された分散ビルド機能を提供することで、CI/CD パイプラインの強化を支援します。これらの機能は、 Unreal Build Accelerator のリモート実行機能と組み合わせることで、ビルド時間の短縮を可能にし、チームの生産性を向上させることができます。Hordeの機能の詳細については、公式の Unreal Engine Documentation を参照してください。 ツールキットの例 を使用して、AnyCompany Games は AWS 環境に Horde を迅速に追加することができました。 Horde モジュールは、Horde サーバー用の Amazon DocumentDB( MongoDB互換 ) クラスターと Amazon ElastiCache クラスターを自動的にデプロイし、サーバー設定用の環境変数を提供し、Auto Scalingグループを使用したエージェントのデプロイをサポートしています。 全体的に見ると、CI/CDに関するチームの要件も実現しています: Horde Controller – ビルドジョブとエージェントを管理する中央サービス ビルドエージェント – 実際のビルド作業を実行する Auto Scaling EC2 インスタンス Perforce 統合 – バージョン管理システムへのシームレスな接続 Webインターフェース – ビルドを監視するためのユーザーフレンドリーなダッシュボード 認証 – 既存システムと統合された安全なアクセス制御 Horde のデプロイにより、2つの要件が満たされました。第一に、チームは Unreal Build Accelerator を使用できるようになり、Wine を使用して Linux マシン上で Windows ターゲットへのコンパイルを分散することで、ビルド速度の向上を実現しました。第二に、Horde の機能により、ゲームクライアント、マルチプレイヤーサーバー、エディターを含む異なる環境向けのビルドを構成するツールが提供されました。 以下の拡張されたアーキテクチャ図は、サポートするAWSサービスとともに、Amazon ECS上で実行されているPerforceとHordeの両方を示しています。 図3: 拡張されたアーキテクチャ図 Cloud Game Development Toolkit がもたらす効果 AnyCompany Games にとって、Cloud Game Development Toolkit は単に技術的な課題を解決しただけでなく、開発プロセス全体の変革を支援しました。パイプラインのセットアップ後、チームは実際のゲーム開発に集中できるようになりました。Cloud Game Development Toolkit は、インフラストラクチャの構築を簡素化し、ゲームの開発ニーズに合わせてAWSリソースを自動的に設定しました。 AnyCompany Games にとって、Cloud Game Development Toolkit は以下のような重要なメリットを提供しました: ゲームに特化した最適化 – ツールキットは、Unreal Engine 、大容量バイナリアセット、分散チームに必要なアプリケーションを、ベストプラクティスを組み込んだ状態でデプロイしました。 Infrastructure as Code( IaC ) – IaCを定義できる機能により、チームは変更を追跡し、構成をテストし、環境を確実に複製できるようになりました。 組み込まれた AWS ベストプラクティス – AWS ベストプラクティスが組み込まれているため、チームはゲーム開発を優先でき、ツールキットはより安全で、スケーラブルで、再現可能なインフラストラクチャを実現しました。 スケーラビリティ – AnyCompany Games が成長を続けるにつれて、インフラストラクチャも共に成長できます。ビルドエージェントを5台から50台に拡張することは、簡単な設定変更で実現できます。オンプレミスで同じ結果を達成するには、サーバーラックのプロビジョニングとデプロビジョニングに数か月を要するでしょう。 スタートアップとして、コスト管理は AnyCompany Games にとって重要でした。ツールキットによるAWSベストプラクティスの実装により、費用の最適化も実現しています: Auto Scaling – オフピーク時にリソースを縮小 スポットインスタンス – ビルドエージェントが EC2 スポットインスタンス を使用し、コンピューティングコストを最大90%削減 適切なサイジング – インフラストラクチャコンポーネントが実際のニーズに合致 従量課金制 – 多額の初期ハードウェア投資が不要 リポジトリのフォーク – スタジオの成長と変化に合わせてリポジトリを拡張可能 インフラ管理ではなく、ゲーム制作に集中 AWS で Cloud Game Development Toolkit を使用することで、架空の AnyCompany Games は、インフラストラクチャの習得に時間を費やすのではなく、彼らが最も得意とすること、つまり革新的なゲームの創造に集中できるようになりました。 Cloud Game Development Toolkit を使い始めるには、まずインフラストラクチャの課題を特定します。それがバージョン管理、ビルド自動化、またはその両方であるかを見極めましょう。Amazon VPC と Route 53 モジュールを使用してネットワーク基盤をデプロイし、次に Perforce モジュールでバージョン管理を追加します。チームメンバーがアセットを共有して作業できるようになったら、ビルド自動化のために Horde モジュールを実装します。このプロセス全体を通じて、スタジオ固有の要件に合わせて Terraform モジュールを調整してください。 AWS の豊富なドキュメントとサポートリソースを活用することで、さまざまな規模のゲームスタジオが自信を持ってクラウドへの移行を開始できます。Cloud Game Development Toolkit は、業界のベストプラクティスと一般的なゲーム開発ワークフローに沿った事前設定済みテンプレートを提供することで、この移行を簡素化します。AWS の担当者に連絡して、貴社のゲームスタジオがクラウドを始めるためにどのようにサポートできるかをご確認ください。 参考資料 ゲームスタジオのクラウド移行を加速する準備はお済みですか?準備ができているようであれば以下のリソースも併せてご参照ください: Building Games with Unreal Engine and Horde on AWS Deploying Perforce with AWS Cloud Game Development Toolkit AWS for Games — Cloud Game Development Toolkit はオープンソースプロジェクトです。AnyCompany Games は、ゲーム開発における一般的な課題と解決策を説明するために作成された架空のスタジオです。AWS および AWS ロゴは、米国および/またはその他の国における Amazon.com, Inc. またはその関連会社の商標です。 Basim Siddiqui Basim Siddiqui は、AWS で3年以上働いているソリューションアーキテクトです。ゲーム業界に焦点を当て、あらゆる規模の新規および既存の AWS ゲーム顧客にベストプラクティスと技術的なガイダンスを提供しています。彼は、ゲームスタジオが可能な限り最高の体験を創造できるよう支援するため、新しい AWS クラウド技術を学ぶことに情熱を注いでいます。 Issac Accord Issac Accord は AWS のソリューションアーキテクトで、ゲーム業界の顧客と協力して、既存の AWS フットプリントの改善と強化に取り組んでいます。 Josh Albert Josh Albert は、ゲーム業界に特化したソリューションアーキテクトです。新規および小規模なゲームスタジオが AWS サービスを活用して、より効率的にゲームを構築し、開発サイクルを強化できるよう支援することを専門としています。







