【レポート】国家課題に最新テクノロジーを駆使してイノベーション起こす!ドイツの改革事例を用いたAccenture流メソッド
2018年2月14日(水)19時30分より、「【エンジニア&ITコンサルタント向けイベント】国家課題に最新テクノロジーを駆使してイノベーション起こす! - ドイツの改革事例を用いたAccenture流メソッドを公開&ワークショップ -」が開催されました。
エンジニアとコンサルタントを対象にアクセンチュアが主催する本イベントには、定員を上回る申込みが殺到。当日は抽選により約50名が参加しました。
イベントの内容と登壇者は次の通りです。
「Human Serviceの観点から見た日本の現状」
アクセンチュア株式会社 立石英司さん
「ドイツにおける労働市場改革」 アクセンチュア株式会社 大寺伸さん
それでは内容を紹介します!
Human Serviceの観点から見た日本の現状
1人目登壇は立石さんです。
立石英司(たていし・えいじ)/アクセンチュア株式会社 公共サービス・医療健康本部 マネジング・ディレクター。1970年生まれ、長崎県出身。九州大学卒。1996年、新卒でアクセンチュアへ入社。
立石さんはまず日本の社会保障の現状を共有します。
「みなさんもよくご存知のとおり、日本の課題としては少子高齢化が進行していることが挙げられます。2060年になると人口は8000万人代まで減少し、65歳以上1人を1.2人で支える状況になると予測されています。当然のことながら、GDPとは『1人当たりの生産性』×『全体の人口』ですので、この人口の変化はGDPの減少を導きます。
日本での社会保障制度は大きく2つの考え方によりなりたっています。まず、保険です。これは『保険料を払ってリスクを分散する』という考えです。例えば、年金は『長生きするリスク』を保険料でカバーしようとする制度だと捉えることができますよね。
もうひとつは、公的扶助です。これは財源である税金を再分配することで全体を支えていく考えです。代表的なものに生活保護の制度が挙げられます。
実はOECDのレポートによると、発展途上国が新たに社会保障制度を構築しようとする場合、日本をモデルとするケースがほとんどなんです。しかし、その日本では状況が刻々と変化しているわけです」(立石さん)
立石さんは2つの社会保障についてさらに続けます。まずは年金です。
「年金は保険料の発想による社会保障だと先ほど申し上げました。しかし、実際には約50%は税金が投入されています。現在、給付開始のタイミングは65歳ですが、将来的には68歳、73歳とシフトしていくでしょう。
また、現在は最終的に給与の50%くらいを補償する制度設計がされていますが、この比率も昔から比べると 下がっているのが特徴です。
日本の年金は、7000万人強の被保険者がいる皆保険制度です。また、受給者数も3000万人代にものぼります。そのため、業務処理が膨大な点が大きな特徴です。他国では州単位での保険だったりするため、この数字はとてもめずらしいものです。つまり、日本の年金は、業務の効率化が重大な課題となっているわけです」(立石さん)
次に生活保護です。
「生活保護の受給者数は2015年をピークに減少に転じており、現在その数は216万人ほどです。
ただ、私たちが見落としてはならないのは『生活困窮者』です。生活困窮者は、生活保護を受給するほどではないものの、年収の中央値である428万円の2分の1以下、つまり214万円を下回る年収の人々を指しています。様々な統計がありますが、この生活困窮者は3000万人、つまり人口の4人に1人ではないかと指摘されているのです。
生活保護は税金を再分配する形の社会保障であり、また短期的なものではなく継続した支援となる性格があります。ですから、生活困窮者が生活保護を受けないで済むように支えていくことが日本の社会の大きなテーマなのです」(立石さん)
「ヒューマンサービスについて考えるとき、『年金』『生活保護』『教育』『労働』の4つをセットにしなければならないと考えています」と立石さんは続けます。
「教育に関連する支出は高くないのが日本の現状です。
さらに労働に関して、実は日本では人口1人当たりのGDPは他国に比べて高いとは言えません。違和感を持つ方も多いかもしれませんが、最新の統計では日本は20〜24位くらいの数字のものが多いですね。
失業率は低い数字で安定していますが、労働している生活困窮者は失業者には含まれませんので、この数字をどのように扱うべきかという課題もあるわけです。
生産性が低く、人口が減少する日本ではGDPは落ち込んでいきます。新しい社会保障制度改革を実施しようとしても、財源となる税金がないのです。
すると、小さな資金の投下で、いかに大きなインパクトを及ぼせるかを考えなければいけません。そこで、ポイントとなるのが『エコシステム』なんです。
これはこの10年間のアメリカのトップ企業の変遷からも読み取ることができます。2007年のアメリカの時価総額トップ10と、2017年のトップ10では、実に7社も入れ替わりが起こっています。アップル、アルファベット、マイクロソフト、Amazon、フェイスブックなどに代表されるそれらの企業は、『わかりやすいモノを販売する企業』ではなく、多くのパートナーと連携する土台を作り、技術を提供することで成長を続けていると捉えることができますよね」(立石さん)
最後に立石さんはこうした課題への取り組みについて次のようにまとめます。
「こうした日本の現状を鑑みて、政府としても『デジタルガバメント』を推進しています。そこで注目すべきは『官民協働を実現するプラットフォーム』を構築し、多様な主体によるサービス提供を促進するという方針が掲げられている点です。
私たち民間企業はどのように官民協働を実現すればいいのでしょうか?
現代は変化の激しい時代です。従来まではビジネス開発の流れとして、戦略立案に3ヶ月を費やし、そこから行動に移っていました。しかし、現代のデジタルビジネス開発においては、とにかく速くトライアルとエラーを繰り返すことが肝要です。
ただし、国の予算が通るまでには1年近い時間が必要です。そこで、従来型の方法でのビジネス開発と、集中的なトライ&エラーを繰り返すビジネス開発の両方を組み合わせてチャレンジすることが必要だと私たちは考えています。この方法を『ツースピード型のビジネス開発』と呼んでいます。
様々な制度設計は省庁や担当部署によってわかれている『建売』のような形になっています。しかし、実態の全体の解明のためには、様々な制度を越えて対応を考えなければいけません。例えば、社会保障制度について考えるときには、生活保護だけについて考えてもダメで、労働や教育についても組み合わせて考えなければいけないのです。
民間企業である私たちは、社会保障制度を持っている国と連携し、本当に国民の支援をするにはどうすればいいのかを考えて提案することがこれからの時代に求められるのだと私は考えています」(立石さん)
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