【レポート】国家課題に最新テクノロジーを駆使してイノベーション起こす!ドイツの改革事例を用いたAccenture流メソッド

イベント

ドイツにおける労働市場改革

続いては大寺さんからドイツにおける事例の紹介です。

大寺伸(おおてら・しん)/アクセンチュア株式会社 公共サービス・医療健康本部 マネジング・ディレクター。2002年、新卒でアクセンチュアへ入社。

大寺さんは、まず各国が抱える雇用に関する課題として次の5つを挙げます。

  • 優秀な人材が自分の活躍できる場を求めてボーダレスに動き回るようになった
  • 貧困が拡大し、格差が広がっている
  • 二十世紀型の社会保障制度が崩壊しつつある
  • デジタルの進化が従来型雇用を崩壊させつつある
  • 国際紛争や政治不安に端を発する難民問題が世界中で生まれている

「デジタル時代において、現在の行政の在り方が限界を迎えつつあるわけです。ただ、求められているのは『政府が何かを与える』というモデルではありません。

企業や市民、民間事業者の各プレイヤーが自立して動きつつ、それぞれの最適なバランスを確保するための新しい雇用エコシステムを社会基盤として作り上げることが必要です。そこで政府に期待されているのは、プラットフォームの運営者としての姿です。今、こういった議論が盛んに行われているのです。

これまでの雇用行政におけるIT投資とは、業務の効率化に過ぎませんでした。しかし、市民と企業に関する膨大な情報を保有している政府には、雇用を生み出すことに直結させられる新たな投資を実現することが今後はポイントになっていくと私たちは想定しており、この新しいIT投資を私たちは『雇用テック』と呼んでいます。

しかし、いくら世の中で変化の必要性が叫ばれているとしても、数百億円規模の予算で運営される政府の基幹システムにいきなり手を入れるのは、ご想像の通り難しいのが実情です。そこで、先ほど立石が申し上げたように『ツースピード』の考えに基づき、基幹システムと周辺領域を切り分けてサービスデザインを実施しています。

現在、各国政府で雇用に関する情報基盤の整備が進められています。さらに、他国での労働市場を見てみると、政府がデータを公開することなどで、民間事業者が参入し、市場が活性化しているのです」(大寺さん)

続いて大寺さんは、アクセンチュアが実際に参画しているドイツでの事例を紹介します。

「東西ドイツの統一後、高い失業率が問題となっていたドイツでは、その解決のためにハルツ改革が実施されます。これを支えたものの一つが『IVLM(Integrated Virtual Labor Market)』と呼ばれる統合労働市場を実現する新しい社会基盤でした。

このIVLMは公的部門が扱う情報範囲を拡大しより広範なデータを活用した雇用のマッチングを提供するものです。ILVMを活用することで、民間事業者だけではカバーしきれない雇用情報を、連邦雇用庁がカバーできるようになりました。IVLMを利用すれば、ドイツの求人全体の実に70%にアクセスできるようになったのです。

ドイツにおいても、例えば失業保険給付などの重要なデータを扱う基幹システムを簡単に改革することはできません。この取り組みが『ツースピード』と『エコシステム』の考えのもとに構築されていることは、注目すべき点といえるでしょう」(大寺さん)

さらに大寺さんはこのIVLMにおける各プレイヤーにどのような効果があったのかを次の通り説明します。

「求人企業」と「市民」の間

  • 官民の求人情報が統合されることで、労働市場全体を俯瞰することができる
  • 情報の対称性が確保され、売り手と買い手の双方が可視化されるので透明性が高い
  • 求人検索から応募までの手続きを、ベテラン職員の介在なしにセルフサービスで提供できる
  • スキルやプロファイリングなどを分析することで、仕事とのマッチ率も表示される

「政府」と「企業」の間

  • 大企業の人事システムと連携したことで即時性の高い求人情報を収集、蓄積できる
  • 蓄積した情報から現在需要が高い、もしくは将来的に需要が高まる職種やスキルを分析
  • 教育機関の担当者に対するトレーニングをしたり、職業フェアを開催したりして企業や市場が求める人材供給を支援する

「市民」と「民間事業者」の間

  • マッチングが成立しなかった場合に、足りなかったスキルなどがフィードバックされる
  • 足りなかったスキルなどを補うための研修プログラムが提示される

「政府」と「民間事業者」の間

  • 民間事業者のパイを奪うだけの関係にならないよう、IVLMの情報を利用することが可能
  • 民間事業者が求職者とマッチングを成功させた場合には、インセンティブを支払う

最後に大寺さんは日本における現状とその打破に関して次のように語り、講演を終了しました。

「1人当たりのGDPや労働生産性が低いことは、立石からも伝えた通りです。しかし、人口動態を大きく変えることは難しいですよね。つまり、この状況を改善していくためには、就業率や生産性の向上に取り組まなければいけないんです。

まず、就業率の観点で考えると、これまでは女性の就業継続や職場復帰の支援、若者の就業促進などが政策課題でした。これらももちろん重要であることは変わりません。しかし、今後は、例えばドイツの事例のように必要とされるスキルを柔軟にマッチングできるシステムを作り、労働力がスムーズに移転できるようにすることで就業率を改善する。また、市場や企業で求められているスキル情報を社会に還元し、これを踏まえたスキルを育成し、生産性を高めていくことなどが新たな政策課題だといえるでしょう。

こうして、スキルを磨くことがよりよい雇用につながるエコシステムを構築することが課題解決の鍵だというのが私たちの考えです」(大寺さん)

次のページ :
ワークショップ「事例を踏まえた日本における労働市場エコシステムの検討」

1 2 3

関連するイベント