イノベーターに学ぶ、これからのデジタル人材に求められること ──NTTが“枠”にとらわれない新卒社員研修を実施
今回の研修を通じてイノベーターから学び、実践してほしいこと
今回の研修はコロナ禍を考慮し、Zoomを活用したオンライン形式で、講義やワークショップを実施。オープニングでは、研修のファシリテーターを務めるTECH PLAY ACADEMY宮崎から、イベントを通じて達成してほしいゴールが示された。
・デジタル技術における基礎や事例を知ることができる
・社外で活躍するイノベーターとはどんな人間なのかを理解する
・これからの自分に取り入れられる点を見つけられる
また、講義を受ける上で「自分事化しながら講演を聞く」「積極的に講師とコミュニケーションを取る」「感じたこと・学んだことをどんどん言語化」という3つをグランドルールとし、研修スタート。
アイスブレイクを兼ね、「これまでの研修を通じて得た一番の学び」についての投稿を呼びかけると、「ロジカルシンキング」「相手が理解しやすい物事の使い方」「問題に対する取り組みは初期の考えの深さが大切」「物事を多角的に見る」といったコメントがチャットで投稿された。
科学技術で地球貢献を実現するリバネス丸幸弘氏のイノベーター講義
今回の研修スタイルは、イノベーターによる講義が各90分、その講義を受けて受講生がグループに分かれてデスカッションを行い、講師に質問や意見を交換することで、それぞれの気づきや学んだことを高めていくスタイルで行われた。
午前中の講義で登壇したのは、株式会社リバネス 代表取締役 グループCEO 丸 幸弘さん。東京大学大学院在学中に創業し、日本で初めて「先端科学の出前実験教室」をビジネス化。社会課題を解決する200以上のプロジェクトを立ち上げ、70社以上のベンチャー企業の立ち上げと経営に携わるイノベーターである。
丸さん率いるリバネスは社員全員が研究者であり、企業理念は「科学技術の発展と地球貢献を実現する」。そして丸さん自身が創業時に掲げたビジョンは、「研究者であり続けたい」。壁にぶち当たったときには必ずこれらの理念・ビジョンに立ち戻り、自分の中で問いを立て直し、課題を考えるという。そしてこのプロセスこそが人を成長させると強調する。
このプロセスは「学問」に身をおく中で得た力であり、情報や知識を詰め込む「勉強」からは決して得られない力だという。自分の中で問いを立て直し、課題を考えることの重要性を伝えてくれたのは、大学時代の恩師だった。「自ら疑問や不思議を見いだして、自分で自活自発的に動いていく。100人いたら100通り学問はある。人と違うことをしていいんだって、初めて思った瞬間でした。そこで、僕は決めました。一生問いを続け、人と違うことをやって一生過ごしていこうって」
自分は100歳までどんなビジョンで生きていきたいか、どんな死に方をしたいのか。それを考えてみてほしいという丸さんの投げかけに、受講者からチャットにコメントが投稿されていく。
「僕のビジョンは死ぬまでずっと最新技術を利活用することです」
「ひそかな夢は、好きな夢を見れるサービスをつくることです」
オンラインだということを感じさせない丸さんの臨場感ある講義に、受講者たちが引き込まれていくのが伝わってきた。
イノベーションの種は、QPMIサイクルを繰り返すことで生まれる
90分間、丸さんの熱弁は止まらない。自らのビジョンのもと、「理系離れ」「ポスドク問題」といった課題に立ち向い、創業した経緯とともに、丸さんの熱い想いも語られた。
「課題を明確にすることは重要。そして同時に課題に取り組む情熱が必要です。問いと情熱があると勝手に体が動く。個人のクエスチョン。個人のパッション、ここが起点です。世界を変えるビジネスはたった1人の熱から生まれる。熱いやつが絶対に世の中を変える。。そして、良質な課題(Quesstion)と情熱(Passion)を持っていれば、仲間が集いミッションが生まれ(Mission&Member)、最後には必ず新しい価値を生み出すことができる(Innovation)。これが、リバネスが考え出した『QPMIサイクル』という概念です。」
「自らQとPから世界を変えるビジネスを生み出していく。これをアントレプレナーと言いますが、決して企業の社長を指す言葉ではありません。リバネス では社員全員がアントレプレナーとして活動しているので、自らのQとPをどんどん回しながら、仲間を増やし、新しいビジネスを創出することができる。こうした文化を持った会社なんです。
起業家でなくても、むしろ実は大企業の中にこそアントレプレナーが必要だと、私は考えています。皆さんは、おそらく今、入社したてで気持ちがすごく熱い状態だと思います。重要なのは、その自らの熱を発信する、発信し続けて消さないようにすること。消えそうになったら、仲間と語り合う場を作り、熱を消さないようにしてください。情熱は一度消えると、再度つけることは非常に大変だからです」
アントレプレナーとして、延長上にない未来を創造するには、全く違う技術や考えと出会うことが必要になる。最後に丸さんは、次のように呼びかけ、講義を締め括った。
「自前主義から脱却して、外との組み合わせで、全く違う飛び地に入る。そして、新しいコトを興す。これが21世紀型のイノベーターです。DXは情報革命の最終型であり、これからは知識革命が起こり、情報の上に成り立つ知識社会となっていくでしょう。
21世紀の仕事は知識製造業という考え方が重要になってきます。ぜひ皆さんは、自ら知識を集め、自ら新しい知識を生み出し、自ら実装する人となってください。そこに正解はありません。学び続け自ら答えを出し、そして現在の延長上にない未来を創っていってください」
チームで感想共有し、講師・丸さんに聞きたいことを質問
講義後はチームに分かれ、メンバー同士で感想を言い合い、講師への質問を考える「感想共有会」の時間が設けられた。各チームから講師に寄せられた様々な質問の中から、いくつか紹介したい。
Q.講演の中で「組み合わせの技術は、若い人だからこそできる」というのはどういう意味なのか知りたい。
例えば研究を20年続けていると、固定化された考え方になってしまい、新しい発想がしにくくなる。だからこそ、新しく来た人の新鮮な考え方は多角的に見えるんです。1年目がいきなり突拍子もないことをやり始めて、変革に繋がる可能性もある。それを我々はビギナーズラックと呼び、入社1~2年でそれを使わせるようにお勧めしています。
Q.丸さんが今のNTT東日本に勤めるとしたら、まず何を変えたいか。どんな事業に着手したいか、その理由も聞きたい。
ずっと研究してきたのに眠っている知財や技術を教えもらって、技術を組み合わせたい。 ホールディングスと、その下に小さな会社をいくつか作って、1人ずつ若手を社長にして走らせます。あと新入社員募集じゃなくて、新入社員で社長をやりたい人募集とか。全部教えますよ、帝王学を。面白そうじゃないですか?
介護AIで超高齢社会に挑むエクサウィザーズ石山洸氏の講義
午後のイノベーター講師は、「AIを用いた社会課題解決を通じて幸せな社会を実現する」を理念に、AIプロダクトの開発と実用化に取り組んでいる株式会社エクサウィザーズの代表取締役社長 石山洸さん。石山さんがAIベンチャーを立ち上げるまでの軌跡や、どのようなAIプロダクトとしているのかが語られた。
石山さんは大学時代、9.11後のアメリカに行ってみたいという好奇心から、AIプログラミングの経験がないにも関わらず、カーネギーメロン大学の人工知能プログラミングコンテストに応募。2週間で人工知能のプログラミングを覚えて予選を通過、本選でもいいスコアを出すことができたという。
そこで出会った東工大の先生に勧められ、修士からは理転し、東工大の大学院に進む。大学院では修士2年間でAIに関する論文を多数発表。だが、「論文を書くだけで世の中は変わらない、社会に実装しなければ」と実感。さらに、パーソナルコンピュータの父と言われるアラン・ケイの講演で聞いた「メディア・レボリューション」の話に影響を受ける。
「グーテンベルクの活版印刷技術(テクノロジー)によって、聖書(メディア)が大量に印刷されるようになった。聖書が普及したことで、民衆の識字率(リテラシー)が向上し、宗教革命(レボリューション)が起こります。このテクノロジーとメディア、リテラシー、レボリューションが四位一体で変革を起こすという話に刺激を受け、自分のライフワークにしようと思いました」
AIを実装し、社会を変革するという決意を胸に、卒業後はリクルートに入社する。デジタル化を推進した後、AI研究所を設立。2017年にリクルートを卒業し、AIベンチャーに活動の場を移す。
「超高齢社会」をAIやサイエンスで解決したい
エクサウィザーズでは、AIやサイエンスを活用し、介護や医療など「超高齢社会」における課題に取り組んでいる。
「日本の人口動態は、1970年代まで、50歳以上が2割、50歳以下が8割で均衡していました。しかし、シンギュラリティーが到来すると言われる2045年には、50歳以上が6割、50歳以下が4割になると言われています。この超高齢社会を支えるためにはテクノロジーが必要です」
実際に提供しているサービスは、スマホで動画を撮影するだけで、AIが歩行状態を見える化し、アドバイスしてくれる「ケアコチ」や、2021年4月にリリースされた介護記録AIアプリ「CareWiz 話すと記録」だ。
CareWiz 話すと記録はスマホをポケットに入れたままでも、利用者とケアした内容を発話するだけでAIが介護記録に関連する言葉だけを読み取ってくれる。介護ソフトとの記録連携や情報共有も可能なため、業務効率化も図れる。実際に導入した利用者に聞くと、スタッフ1人あたり「1日40分の時間を削減」できているという。
エクサウィザーズでは、さらにAIを利活用した介護における課題を解決するために、介護施設だけでなく国・自治体との連携を進めている。介護現場で必要とされるサービス開発をするだけでなく、サービスと制度改定の連携を意識して取り組んでいるのだ。
フィクションを作る力、フィクションをノンフィクションにする力
最後に、「雇用の未来」の共著者であり、エクサウィザーズの顧問も務める英オックスフォード大学教授のマイケル・A・オズボーン氏が挙げる、人間が身につけた方がいい「未来のスキル」を紹介。
単にAIを活用して自動化を図るだけでなく、社会課題解決のように多主体で課題を解決するためにはフィクションを作る力「心理学」スキル、そしてそれをノンフィクションにする力「戦略的学習力」が求められると語った。
石山さんの講義を受けて、感想共有とQ&Aタイム
石山さんの講義への質問はイノベーションを生み出す考え方や投資、マインド、介護事業に関すること、情報収集など、多岐にわたって寄せられた。常識に囚われない思考法やアドバイスに気づきを得た受講者も多かったと感じられるQ&Aタイムだった。
Q.サステナブルの観点で社会問題を解決するビジネスにおいて、その投資の収支がマイナスとなる場合、社会的価値と自社利益の優先度をどう考えたらいいのか
これはよくぶつかる問題で、自分のやりたいことをするのか、会社にとって儲かることをするのか、社会的に価値があることをするのかのトレードオフ。苦渋の決断で選択をする方法もありますし、その三つの世界の関係性に対して、新しい次元を作り、トレードオフじゃない世界を作る方法があります。
アラン・ケイの有名な言葉で、「未来を予測する最善の方法は自ら未来を創ることである」が示すように、新しい価値の次元を生み出すこと。高度経済成長時代は適切な資源配分をすればよかったけど、今は新しい付加価値を生むことが求められます。もちろんどちらかをどちらを選ぶかは、自分次第。それは好きな方をぜひ選んでいただければと思います。
Q.日々トレンドを読むために日々意識していること、情報を得るときに自分の中で決めている条件・ルールがあれば教えてほしい
資本主義世界では、自分にとって儲かることを考えながら技術トレンドを探るのが一般的です。でも、台湾のIT担当大臣オードリー・タンさんは逆の発想をしていて、苦しんでいる人をどうしたら助けられるかをを前提に社会のトレンドを読んでいるそうです。
そのためにやっていることは2つのコミュニティを作ること。何か困ってる人のコミュニティと、それをテクノロジーでを解決してくれるコミュニティですね。2つのコミュニティを通じた情報収集から、課題解決に取り組むというアプローチはとてもいいと思います。
他人に目標を立ててもらうワークショップ「タニモク」
続いての研修は、他人に考えてもらうことで、自分にない発想や新しい解決法の切り口を知るワークショップ「タニモク」。今回は、入社以降の自分の状況と研修を受けて感じていること、プライベートの話も織り交ぜながら発表し、他のグループメンバーに目標を立ててもらうというもの。
その際、定量的な目標を指標に落とす必要はなく、主観的で大胆に無責任に考えること、ざっくばらんに話し、質疑応答を受ける。それを受けて、他の人が目標を考え絵に描き、本人にプレゼンを行う。
最後に今日の気づきをまとめ、目標を宣言し合う。効果を高めるコツは、すぐにアクションできることや1週間後までに行動するにできるようなこと、半年後までに準備できることを決めることだ。
クロージングでは、最初に置いた3つのゴールへの達成度や研修の感想などをチャットに書き込み、これからの決意を固め、研修は終了となった。
<寄せられた感想コメント>
・丸さんの話を聴き、仕事でもプライベートでも熱量を持って行動してみようと思った。
・石山さんの新しい軸でトレードオフする発想法が勉強になった。
・二人ともお金ではない軸を持っていた。僕も自分なりの自分軸を大切にしていきたい。
・大きな社会問題も小さな疑問と熱量で解決できる。自分の軸をぶらさずに進みたい。
・学問を意識していこうと思った。
・熱量を持って続ける、コトを仕掛けるなど、自分主体の行動を大切にしていきたい。
イノベーター研修にこめた想い〜NTT東日本デジタルデザイン部より〜
組織横断で「チームDX」として、NTTの枠にとらわれないマインドを持った人財を育成するという目的のもと、イノベーター研修を実施しました。
デジタル分野の最前線でビジネスをけん引しているイノベーター達の考え方や視点を学び、「世の中にはこんな考え方の人がいるんだ」と知ってもらうことに意味があると考えています。入社後の導入研修でイノベーターの考え方に触れることで、今後のNTT東日本のビジネスに新たな風を生んでくれると信じ、イノベーター研修を実施しました。我々としてもこれは前例のないチャレンジングな取り組みでした。
昨年度は、緊急事態宣言の影響も受け、研修の実施方法を対面から急遽オンラインに変更せざるを得ない状況だったこともあり、e-ラーニング等の自学自習形式の研修プログラムがメインとなってしまいました。
今年度は昨年度の経験を踏まえ、リモート実施ではあるもののグループワークを中心にした形式に切り替える等、一連の研修プログラムの見直し・改善を実施しました。
そんな中でも、昨年度に引き続き必ず実施したいと考えていたのがイノベーター研修です。受講生からの評判が良かったことはもちろんですが、研修事務局としてもNTT東日本である程度仕事をし、良くも悪くもNTT東日本に染まる前にイノベーターの考え方等に触れておくことが効果的という想いもあり、継続して実施することにいたしました。
・石山さんを選んだ理由
前回、NTTグループの外の知識を知ってもらいたいという想いで石山さんにご講演いただきました。石山さんのご講演は非常に人を惹きつけるものがあり、受講者からも非常に好評だったため、昨年に引き続きお願いをさせていただきました。今回もご自身の理念に基づきデジタル技術を駆使しながらどうやって社会課題を解決しているのか、また社会課題を解決していく上での必要な視点や考え方等を中心に非常に興味深い内容でご講演いただき、受講者からの評判もとても良かったです。
・丸さんを選んだ理由
何名かご紹介いただいた中で、理念に基づくイノベーション創出をしていて、これからの時代における知識の重要性を強く伝えていただける方とお聞きし、今後のNTT東日本を担っていくであろうデジタル人財にピッタリな内容になるのではないかと思い、お願いをさせていただきました。実際、すごい熱量で「勉強」と「学問」の違いについてや、課題を明確にするだけでなく課題に取り組む「情熱」の重要性等、刺激的な内容だったので、NTTグループ内で仕事をしていただけでは中々巡り合えない考え方や視点に触れられたのではないかと思います。このイノベーター研修は研修プログラムの終盤に持ってきていて、実際に各職場に配属となる直前に実施していますので、ここで感じたことや想いを大事に各職場で頑張っていってほしいなと思います。
・2年目に期待すること、こう育てていきたい
2020年度に初めてデジタル人財という形で育成を始めた訳ですが、実際に1年経ってみて、当初の期待以上に各職場で活躍をしてくれています。デジタル人財という今までにない枠ですので、当然ながら周りにはその道を辿ってきた先輩もいません。彼らはそんな中で先駆者として試行錯誤しながら自ら道を切り開き、着実に自分たちの力を発揮しています。今後、彼らがNTT東日本を背負って立つと思いますので、そんな彼らの活躍をサポートしていけるように、研修事務局としても従来の手法にとらわれず、彼らに必要な知識・技術を提供していけるような方法や施策を検討していきたいと思っています。
・デジタル人財の育成展望
今後の事業展望を考えたときに、NTT東日本としてはこれまでの回線・音声事業等のみではなく、ビジネスを通じて地域活性化への貢献や事業運営のデジタル化等が重要になってくると考えています。これらを実現していくには、デジタル技術が必要不可欠となりますので、デジタル人財への期待は今後益々高まっていくと同時に、必要となってきます。このような事業を支えていくためのケイパビリティを備えた人財育成をしていきたいと考えています。
<受講者の声>
・参加者:中村さんのコメント
今回の講演を通じて、個人の理想の追求と社会に興味を持つことが、必ずしも相対するものではなく、互いに影響を与え合うものだと感じました。今後の目標としては、自分の興味がある知識、課題に積極的に取り組むことです。その結果、コミュニティや社会の課題にも、自分の興味や視野を広げていきたいです。
・参加者:山田さんのコメント
丸さんの講演で、情報社会から知識社会へ変容していくという言葉が心に残りました。知識には自分の情熱が込められているので、自分の価値を高めるために好きなモノ・コトをより研ぎ澄ましていきたいと思います。
自分が何を実現したくてNTT東日本に入社したか、初心を忘れずに情熱を持ち、日々の業務に従事します。
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