ITエンジニア×デザイン思考――顧客の潜在的課題やニーズの可視化を目的としたオーダーメイド研修
短期間で即戦力として活躍できるIT人材を育成するためのプログラムTECH PLAY Academyは、オーダーメイド研修も行っているのをご存じでしょうか。去る5月29日に開催した「デザイン思考研修」もその1つです。
「デザイン思考」と聞くと、デザイナーじゃないから関係ないという声が聞こえてきそうですが、「ユーザーのニーズを捉え、困っていることを探って、アイデアを創出する」思考プロセスだとわかるとその印象が変わると思います。
一般社団法人デザインシップ代表理事の広野萌さんを講師に迎えて行われた今回のデザイン思考研修には、パーソルキャリアのエンジニア含むDX推進担当者ら12名が受講。本研修から約2ヵ月後に、講師の広野さんとパーソルキャリア テクノロジー本部シニアエンジニアの清田さんに振り返りのトークセッションを実施。
そこで本記事では、「デザイン思考を使わないという選択肢はもうありません」と言わしめたデザイン思考研修のエッセンスをご紹介します。
広野さんがデザイン思考主義者だったら講師の依頼はしなかった
――清田さんがこの研修を企画した背景や目的について教えてください。
清田:弊社は-人々に「はたらく」を自分のものにする力を-をミッションとし、「転職」だけでなく人々の「はたらく」にフォーカスしたサービスを展開していますが、「転職支援事業」がメインのため、既存事業や既存システムを中心に考えがちです。
もちろんそれも大切ですが、DXを推進する人は長期的視野でビジネス変革、組織変革を目指すために、新しいことを知る/チャレンジする「探索」と既存ビジネスを進化させ深める「深化」の2つの活動が必要だと考えています。
そこでDXに必要な要素を学ぶ研修「DX組織開発研修(基礎編)」を設計しました。その研修では、主に新しいことを知る/チャレンジする「探索」の考え方を学ぶために5つの分野・5人の講師にご協力いただき、受講者が「認知の範囲の外に出ること」を目標の1つとしています。
「デザイン思考研修」はその研修セットの1つです。「感情から考えるイノベーションの起こし方」を学ぶことで、弊社のHRビジネス動向やシステム思考にプラスして、一歩違う視点を持ってほしいという意図があります。
パーソルキャリア株式会社テクノロジー本部シニアエンジニアの清田馨一郎氏
2002年システム開発会社に入社し、PGから叩き上げでPMまで経験。2014年にパーソルキャリア株式会社(旧社名:株式会社インテリジェンス)に入社し、マーケティング部門のKPI集計、内製BIの開発・運用を行った。現在は同社で、テクノロジー本部 デジタルテクノロジー統括部 データ&テクノロジーソリューション部 シニアエンジニアとして従事している。
広野さんに講師をお願いした理由は、広野さんが「デザイン思考主義者」ではなかったからです。一見、理にかなってないように思えるかもしれないですが、デザイン思考の優れた部分だけではなく、不向きな点も整理して伝えてくれると考えたんです。一例を挙げると、「0→1を作るのにデザイン思考は不向きだけど、改善には威力を発揮する」などです。
参加するメンバーのマインドが、「デザイン思考さえやっておけば何とかなる」となってしまうのは本意ではないので、概念から理解させてくれる点が講師選びの基準でもありました。
パーソルキャリアエンジニアリング組織社員の「はたらく人生」techtectはこちら。
某お笑い芸人 がデザイン思考を説明したら
バズワードとしても知られる「デザイン思考」。聞いたことがある、概念が何となくわかるといった理解レベルの方に読んでほしい投稿が、「ミルクボーイがデザイン思考を説明したら」。今回講師を努めた広野さんが、ネタ風にデザイン思考を説明したユニークな記事です。
一般社団法人デザインシップ代表理事の広野萌(はじめ)氏
大学卒業後にヤフー株式会社入社。2015年にオンライン証券「FOLIO」を共同創業し、Chief Design Officerに就任。2018年に一般社団法人デザインシップ設立し、代表理事に就任。法律・医療・自動運転・エンタメなど幅広い業界の新規事業立ち上げ、デザインを支援している。
素材や道具を使わないオンライン特化企画への変更が功を奏する
――今回の研修はリアルタイムコラボレーションが可能なデザインツールFigmaとオンラインミーティングツールZoomの組み合わせで開催しましたが、参加者の方々の反応はいかがでしたか?
広野:講師と受講者の会話やレジュメスライドの共有はZoomで、ワークショップはFigmaと内容に応じて使い分けました。
12名の受講者はあらかじめいくつかのチーム分けをした上で研修をスタート。アイスブレイクとして、グループ会社のパーソルテンプスタッフのマスコット「テンプりん。」をお手本なしで描くワークショップにチャレンジしていただきました。
社員研修とのことでしたが、いい雰囲気を醸成できて、ときおり笑い声も聞こえるリラックスムードで進行できました。
清田:オンライン越しのコミュニケーションとなるZoomでの研修では、講師と受講生に距離が生まれてしまうという懸念があったんですが、意外なことに広い会場で行うオフライン型の集合研修よりも、講師がより身近に感じられたという感想が聞かれました。 オンライン形式そのものに対しても、概ね好意的な反応だったという印象を持ちましたね。
広野:デザイン思考研修では、実際にものを作って、それを相手にフィードバックしてもらう楽しさがあります。「ビジネスは机上のものだけじゃない」を実感してもらう、デザイン思考の核の部分を体験いただくようなイメージです。
これまでやってきたオフラインでの研修では、段ボール紙や折り紙などの素材を選ぶところからスタートするんです。ですが、今回はオンラインでの実施……。各自でこういった素材を準備していただくのはちょっとハードルが高いと考えました。
となると、オンラインで代替できるツールや仕組みが必須です。そこで思い切って素材や道具を使わない企画に視点を変えて、Figmaで絵を描くことにしました。どういう反応になるかは直前まで心配だったんですが、みなさん楽しそうにしてくださってひと安心しました。
一方、オンライン形式の良い点を講師視点で挙げると、受講生のアウトプットがその場で確認できることです。アウトプットに「デザイン思考」を活用してくれている様子が見て取れ、その点でも安心できました。
この先、VRが普及したらオンライン形式でプロトタイプ作りも夢ではないですね。可能性もぐんと広がります。
――研修を終えてみて気づきなどを教えていただけますか。
清田:ロジックも必要だし、デザインも必要であることが改めて理解できました。世の中の課題などをとことん突き詰めていくと、そこから何かが生まれてくる。そのきっかけ作りとして、デザイン思考は有効ではないかと思っていました。今回の研修で、ロジックとデザインは対立構造ではないことがスッキリ整理できたのが一番の成果ですね。
今までの自分になかったのが、手がけたプロダクトを「好きになってもらう」「ファンになってもらう」という発想です。私はエンジニアなので、「作ることが満足」で完結していたなと気付かされました。
生み出したプロダクトがどう使われるのかに関心がないというわけではないんです。ただ、これまであまり重要視はしていなかったかもしれません。 今回の研修を通じて、「作ったものを愛してもらわなくちゃ!」と気付くことができたことは、大きな収穫でした。「効率が良くなる、早くなる」にプラスして、「ファンを増やす、愛される」今後しっかり意識していきたいですね。
デザイン思考の浸透には正しい概念の理解が必要不可欠
――最後に「デザイン思考」を現場で活用していくためのヒントをうかがえますか。
広野:前提として、チーム内で必要な情報が適切に共有されているということが大切です。その次に、「なぜデザイン思考を使うのか?」「デザイン思考を使うとどのような効果が得られるのか?」という核になる観点を、チーム全体で理解してから活用することが重要です。その上で、自律分散型のように各メンバーが自分の力で考える。
これらを徹底することで、仮に別の「○○○思考」などの考え方が出てきたときにも、「デザイン思考」は核の部分で使い続けられると考えます。なぜなら、人間らしい部分にフォーカスし、潜在的なニーズをつかみ、イノベーションを起こすという本質的なところは変わらないからです。フレームワークなどの手法にとらわれず、最適な形で使っていただければと思います。
清田:今後、現場で「デザイン思考」を活かすには、正しい概念の理解からだと思っています。その上で、デザイン思考とロジカルシンキングの両方をバランスを取りながら活用する。これが非常に重要と気付きました。デザイン思考を使わないという選択肢はもうありません。
デザイン思考が語られる際は、UberやAirbnbなどのCtoC企業が引き合いに出されますが、研修を通じて「われわれはCtoC企業ではないから、デザイン思考を活用できない」という説は通用しないと考えました。
つまり、サービスを提供された側が受け入れられるか、楽しめるか。ユーザーがずっと使いたいと思えるかと気にかける。この点は、業務システムであろうと何だろうと考えなくちゃいけないと思考が変わりましたね。そういう意味では大変身した気分でもあります。
また、インタビューのワークショップでは、顧客の潜在的な課題を、デザイン思考を活用して顕在化・可視化させる可能性を感じました。インタビューやヒアリングにおいて顧客の深層心理を上手に引き出すことで、使い勝手の向上などにつながるのではないかと思いました。今後、実践していきたいです。