NTTデータのアーキテクトが社会問題に着手したら?──ITアーキテクトが持つべき「日本を変えるデザイン思考」を解説
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安心・安全な「移動」と「暮らし」を未来に向けて守り続ける
株式会社NTTデータ 第一公共事業本部
モビリティ&レジリエンス事業部 企画担当 部長 岩附 賢氏
今回登壇したNTTデータのアーキテクトたちは、公共事業を手がける公共・社会基盤分野の第一公共事業本部 モビリティ&レジリエンス事業部に所属している。クライアントは中央省庁、地方自治体といった公共機関であり、まさに社会インフラの開発を担っている。
モビリティ&レジリエンス事業部で部長を務める岩附賢氏は、オープンニングセッションで、2つの視点で事業部のビジョンを推進していると語った。1つは航空機やドローン、自動車といったモビリティ、移動にフォーカスした未来。もう1つは収集したデータを活用し、災害予測など暮らしに活用していくことだ。
「私たちは先進技術を活用しながらも、人を中心に考え、人の心理に寄り添いながら潜在的なニーズを見つけ出す。その結果として、日本をより良く変えていく。そのような開発の実現を心がけています」(岩附氏)
【航空】飛行機の安全性向上・効率化、ドローン・空飛ぶクルマの社会実装へ
式会社NTTデータ 第一公共事業本部
モビリティ&レジリエンス事業部 航空システム統括部
開発担当 課長代理 水主 雄大氏
最初の事例領域は「航空」だ。NTTデータでは、航空機が航行する高高度から、ヘリコプターやいずれは実現するであろう空飛ぶクルマが飛ぶ中高度、ドローンが飛ぶ低高度領域と、空の全領域における航空の安全と効率に対し、IT技術を活用して推進している。
NTTデータは、航空機の領域においては1970年代ごろから取り組んでおり、航空管制システム関連での、技術やソリューションの提供を行ってきた。そのソリューションは大きく「離陸・航行中・着陸」と3つの領域からなる。
水主氏は、自動車や飛行機といったモビリティが大好きで、プライベートでも飛行機の写真を撮影している。自宅にアンテナを設置して飛行機が発する信号をキャッチし、Raspberry Piを使って飛行機のトラフィックを可視化する実験も行っているという。「今の仕事は天職」と嬉しそうな表情で、3つのシステムを紹介していった。
まずは離陸時のTEAM(Trajectorized enhanced aviation management/航空交通管理処理システム)だ。
「飛行機は一度飛び立つと、すぐに止まることができません。そのため空や空港が混んでいるときは旋回などして待機する必要がありますが、安全性、環境面、時間といった観点から非効率だろうと。そこで混雑状況を把握し、出発を制御するシステムを開発しています」(水主氏)
続いて紹介されたのは、航行中のTEPS(Trajectorized En-route Traffic Data Processing System/航空路管制処理システム)だ。飛行機は航空管制官の指示で航行しているが、その指示をサポートするためのシステムであり、一言で説明すれば「衝突防止」である。
トラブルが発生した際でも変わらず動作するよう、ハードウェアは3重に、ソフトウェアも2重に冗長化されており、ボタン1つで変えられる綿密なシステムである。
3つ目のICAP(Integrated Control Advice Processing System/管制支援処理システム)も2つ目のシステムと同様、航空管制官の指示をサポートする。航空機に関するすべての情報を3次元に時間軸を加えた4次元で提供することで、衝突などのトラブルを防ぐ。
続いて、航空管制のさらなる安全性向上や効率化に向けた3つの取り組みを紹介した。まずは、「音声認識AI」の活用だ。
先述のとおり、飛行機の航行は管制官の指示、リアルな音声での指示伝達により決まる。この発話をAIが把握し、自動でテキスト化などができれば、入力支援、誤読・誤認識検知などにつながると考えた。
しかし、実現には課題がいくつかあった。一般的な会話とは文法が異なる、ノイズが含まれている、特定の地点を示す言葉があるなどだ。そのため、既存AIでは対応が難しいと判断。NTTグループの強みを活かし、グループの研究所が開発したAIエンジン「SpeechRec」を活用することとした。
「課題は他にもありました。音声データを取得するためには、各地に点在するRCAG(※)と呼ばれる施設に足を運ぶ必要があること。教師データが少ないため、Data Augmentationなどの手法を使い、データを増やす必要もありました。現在では認識率はかなり上がっていると手応えを感じています」(水主氏)
※RCAG :Remote Center Air-Ground Communication/遠隔対空通信施設
2つ目は産学官連携で臨む、低炭素航行に対する取り組みだ。空港が混雑しているなどの場合、飛行機は上空で待機する必要がある。しかし、こちらも繰り返しになるが止まることはできない。そのため空港の近くで旋回するなどして、タイミングを測っている。
一方で、事前に到着スケジュールの詳細が把握できれば、直前の旋回ではなく、もっと前から速度を落とすとの対応が可能となり、エネルギー消費量が5分の1にまで削減する可能性がある。
このようなシステムをE-AMAN(Extended-Arrival Management)と呼び、大学や研究所でもテーマとして取り組んでいるそうだ。そこでNTTデータでは、アカデミックな機関ならびに国とも連携し、同マネジメントシステムの社会実装に向けた研究開発に取り組んでいる。
3つ目はビッグデータ解析による新たな価値創造だ。航空機からはスライドで示されたように、多くのデータが取得でき、ペタバイト(10の15乗)オーダーにもなる。
先の事例と同様、加工や変換などを行い、解析・マイニングすることで、管制官の疲労の可視化や、管制業務の新たな支援につなげる。
「航空領域においても、AI技術を活用する動きが高まっています。そのためドメイン知識に加え、データサイエンス領域の知見をかけ合わせたデータインテリジェンス領域でのビジネスや新しい価値創出が、今後さらに求められると考えています」(水主氏)
続いて紹介されたのは、中高度領域の取り組みについてだ。ヘリコプターは視界不良、強風などで航行不能になることも多く、以前は定期便のような輸送ルートがあったが、現在は廃線になっている。
一方で、離島や山間地域が多い日本において、同高度でのモビリティによる輸送の実装は、社会的意義が強いと水主氏は強調する。そこで注目されているのが空飛ぶクルマだ。
ヘリコプターよりも低い、高度150~500m付近を飛行するため、悪天候の影響を受けにくい。さらには低騒音、将来的には自動運転となるため運行費用が安価、滑走路不要などメリットが大きい。
そこでNTTデータでは、2025年に開催される大阪・関西万博の場で飛行を実現すべく、取り組んでいる。日本では初となる空飛ぶクルマ専用の空域や経路(コリドー)の整備に向けて、他企業や大学など産学官連連携のNEDOプロジェクトを発足した。
【自動車交通】人の動きを把握し、路線バスが抱える課題をドラスティックに解決
株式会社NTTデータ 第一公共事業本部
モビリティ&レジリエンス事業部
第一システム統括部 開発担当 課長 盛合 智紀氏
続いて登壇した盛合智紀氏は、冒頭に「いい意味でNTTデータらしくない、新たな価値探索に向けてクイックに動いている取り組みや、実際のソリューションを紹介したい」と語り、セッションをスタートした。
新型コロナウイルスが浸透して以降、多くの人がリモートワークを行うようになった。その結果、鉄道やバスといった公共交通の利用率は大きく下がった。路線バスにおいては、一時期は利用率が50%まで低下。不採算路線の廃線も進んでいる。
一方で、特に路線バスは生活に密着した公共インフラである。そのため自治体によってはバス会社の赤字を補填することで、路線を維持しているケースもある。実際、前橋市では年間3億円の補助金を、バス事業者に支払っている。
さらに、利用者が少ない路線でもバスを走らせていることは、運転手の長時間労働問題にもつながっていると指摘。このように路線バスはさまざまな課題を抱えており、「運行方法などをドラスティックに変える時期に来ている」と、盛合氏は解説する。
国も同様の考えであり、予算を見ても明白だと、盛合氏は説明する。具体的な解決策としては、人の移動が多いところに路線を集中する。逆に、少ない路線は廃止。乗り合いタクシーなど、デマンド交通も導入し、定期的に走る路線バスとの役割分担を加速させる必要があると語る。
ただし、路線バスはあくまで街づくりの一環としての地域交通であり、単なる移動手段ではないこともポイントだと盛合氏。キーワードは国土交通省の議論でも度々上がる「リデザイン」であり、コンパクト&ネットワークシティの考えで進めることが重要だと説明した。
このような状況を踏まえ、NTTデータでは人の移動の実態を把握するソリューションを開発・提供している。利用イメージならびに分析対象は大きく2つに分かれる。まずは学校や病院など地域の代表的な施設に、どのエリアから移動しようとしているのか。人の移動目的を知る。
もう1つが実際の移動情報である。スマートフォンからの情報を利用することで、どこからどこへ、どのような移動手段を使ったのか、人数も把握することが可能だ。
SuicaやPASMOといったICカードからのデータを得ることで、どのバス停で降りたのか、両データを重ねることで、利用者の少ないバス停や路線の廃止検討や運行計画の最適化につなげている。
さらには効率化やコスト削減に加え、利用者を増やす施策も行っている。例えば、以下のスライドで示した「共同経営支援機能」のサービスでは、一つの運行事業者ではなく複数が共同経営を行うことで、最適な交通網を実現した。結果として、業績アップにつなげる。
病院に通う高齢者や塾などに向かう子どもたちの利用時に、乗り降りを保護者や家族に通知するような仕組み、いわゆる見守り機能を提供することで、これまで自家用車を利用していた人の利用転換を狙う。
紹介した取り組みは、今まさに国交省の事業として前橋市に導入されており、前橋市での成果も含め、今後は同様の課題を抱える地方自治体に展開していくことが期待される。盛合氏は仕事の特徴ややりがいについて、次のように話した。
「単なるIT技術やソリューションの提供だけに留まることなく、仮説立案など企画段階から自治体の方々とディスカッションを重ね、実際に課題解決を実現するであろうアイデアを提供する。結果として良き街づくりに貢献する。これこそが我々の部署の特徴であり、日々、挑戦していることでもあります」(盛合氏)
この取り組みは、顧客から上がってくる要件定義書を待つ事業の進め方でもないという。フットワーク軽く、積極的に顧客先を訪ね、仮説構築も含めコンサルティングのような立場で、事業を進めていく。そうしてこちらも従来のNTTデータらしくない、アジャイルでクイックに仮説検証を重ねていく。
開発もアジャイルで進めているが、特にオンラインにおけるチームのコミュニケーションに課題を感じており、改善対策やさらなる自動化を実現していきたいと意気込みを話した。
さらに今後は各種プロモーション活動においても、ホームページやコンセプトムービーを作成したり、展示会にも参加したいとのこと。KPIなども設け、戦略的に事業を展開していく。次のように述べ、セッションを締めた。
「コロナ禍も含めた現在の状態は、ある意味チャンスだと私たちは捉えています。その上でどこでも誰でも移動を諦めない社会、街、インフラづくりを、ITの力で加速させていきたいと考えています」(盛合氏)
【防災】先進技術を防災DXに活かし、プラットフォームを構築
株式会社NTTデータ 第一公共事業本部
モビリティ&レジリエンス事業部 第二システム統括部
危機管理ソリューション担当 課長 高阪 容平氏
ゲリラ豪雨や長雨による河川の氾濫や土砂崩れなど、多くの人が自然災害が増えたように感じている。実際、1980年と比べると、発生件数は3.5倍となっており、2019年における国内風水害被害額は過去最大の2兆1500億円にもなる。最後に登壇した高阪容平氏は、防災への取り組みについて、以下のように語っている。
「NTTデータでは、以前から防災・レジリエンス事業に取り組んではいましたが、今後はさらに注力していこうと考え、2021年に発表した中期経営計画FY2021で、施策を明確に打ち出しました」(高阪氏)
以前は自治体の内部で仕事をした経験もあるという高阪氏は、未だにFAXが使われているようなアナログな環境を振り返り、「それぞれの組織や企業が個別に情報を扱っているため、市民一人ひとりに有益な情報が伝わっていない」と、現場の課題を指摘した。
課題解決に向けては、デジタルプラットフォーム「D-Resilio」を構築。地方自治体や中央省庁、インフラ事業者などに提供。平時から発災、復興までと7つのフェーズでさまざまな顧客の課題解決にデジタル技術を活用し、取り組んでいる。
続いて高阪氏は、実際の防災事例を紹介した。場所は愛媛県の佐田岬半島。与えられたミッションは、災害発生時に素早く安全な避難ルートを把握すること。同地域は集落が点在しており、高低差も大きく入り組んでおり、人力による目視で行うのは難しかった。そこでドローンを飛ばし、撮影した映像から判断することとなった。
導入を進める上では大きく3つの課題があった。1つ目は、強い風の日や雨の日が多いこと。山岳地帯も含め、避難道路の総延長が約123kmにも及ぶこと。これらの条件に耐えうる、国産の機体ならびに装備で対応した。
2つ目はドローンが撮影した道路状況の映像を、確実に伝える無線通信システムの確立だ。
「撮影場所から電波を受ける基地局までは、直線距離で最大15km。間には標高約400mの山があるため、そのままでは電波が山に当たってしまい、届かない状況でした。しかしドローンは高度150mが上限との制約があるため、地上から山を超える高さまで飛ばすことはできません」(高阪氏)
そこで考えたのが山頂からドローンを飛ばし、映像電波を中継するというアイデアである。
3つ目は、ドローンの扱いになれていない職員でも扱えるように飛行は自動とした。また、災害箇所の確認においても人が行うのではなく、AIが担うシステムを設計した。
こうしてできあがったのが以下のシステムである。現在は撮影機14機、中継機9機が配備され、有事に備えている。
被災箇所をAIが画像判断する技術はさらに発展しており、将来的には衛星が撮影した画像から迅速に土砂崩れや河川の氾濫状況をスピーディーに把握できるという。先述したプラットフォームを活用することで、各地で正確かつスピーディーな避難経路の誘導ができる時代になるだろうと、高阪氏は展望を力強く話した。
なお、このような未来の実現にはNTTデータがパートナーとアライアンスを組み開発している、デジタル3D地図「AW3D」が使われている。衛星が撮影した画像にNTTデータが持つ、高速かつ高精度なAIによるデータ処理などを重ねることで実現する。
【Q&A】参加者からの質問に登壇者が回答
セッション後は、イベントを聴講した参加者からの質問に登壇者が回答した。
Q.音声認識AIの精度向上で苦労した点は?
水主:教師データを揃えることが大変でした。特に、取得したデータから手作業で発話している部分を抽出する作業には苦労しました。
Q.実装における課題も含めた、地方におけるデマンドバスのこれからは?
盛合:路線バスに比べて大きな範囲をカバーできるため、今後は間違いなく広がると考えています。実際、導入する自治体の数は増えてきています。
一方で、なぜデマンドバスが有効なのかを、住民に説明する際に苦心している自治体が多いように感じています。コストパフォーマンスや路線バスとの役割分担といった観点から我々が支援していければと考えています。
Q.ドローンが一般・実装化されるためには何が必要か
高阪:多くの制約が緩和されること、機体の安定です。というのも、我々の取り組みでも何度か海や山に落ちたことがあるからです。気象が悪い状況下でも安定して飛ぶことのできる、機体の開発が必要不可欠だと感じています。
Q.ちょい乗りサービスの導入など、公共交通に関する取り組みについてさらに聞きたい
盛合:デマンド交通の利用者を増やすには、見守り促進がポイントだと考えています。さらには、公共交通以外の何かを組み合わせる、リデザインすることで利用者が増えるのではないか。一般的にはそのように言われています。
我々が着目しているのは、クロスセクター分析です。現在運行している公共交通がなくなったときに、どのような影響ができるのかを定量的に示す。そうすることで維持もしくは廃線、あるいはデマンド交通に代替えなどの判断の一助になると考えています。