【後編】VR/AR/MRが実現するWithコロナ時代の未来技術とは ──エキスパートだらけのカンファレンス「TechFeed Summit #1」
VR/AR/MRの技術融合はどうなる?
▶︎【前編】VR/AR/MRが実現するWithコロナ時代の未来技術とは
及川:最初に比留間さんから、VRからARに移り、今またVRにも関わっているという話や、本来であれば一体化するんじゃないかという想いを語っていただきましたが、こうした技術の融合に対して、どう考えていますか?
比留間:以前、Microsoftのイベントで、HoloLensを説明するセッションで登壇者が「ARとVRの違いはCGの濃度だ」と説明した内容が一番自分の中で響いています。100%になるとVRになるが、1%ずつ減らしていくとだんだんARに近づき、10%くらいで初期のARになる。ARとVRの違いはパラメータの違いでしかないというその言葉が、自分の中ですごく腑に落ちたんですね。
最終的に一つになると思った理由はそこにあって、実際にSFものを見ていても、ARとVRが同じように語られることが多い。インターネットが当たり前になったら、あえてインターネットについて取り立てて言わなくなった。そんなかんじになっていくのではないかと感じています。
及川:なるほど。たしかにそのパラメータの違いというのはわかりやすい例えですね。
前本:人に会う場が、ケースバイケースでARやVR、MRになっていくと思いますね。濃度の問題で、遠くの人に会う場が仮想空間になるということもあると思うし、現実空間でその人のホログラムに会ったりとか。立体映像で話した方がわかりやすい場合は、映像で会話するなど、場合によって使い分けていくんじゃないかと思います。そこはまさに濃度の問題かなと。
いっこう:濃度の問題は僕も同感です。ただ、マーケティング的な言葉としては、VR・AR・MRは今後も区別されていくんじゃないかなと思います。例えば、AR的な表現をしているものに対して、これはMRだと伝えるプロダクトも世の中には結構あります。
正しくはホログラムじゃないものでも、ホログラムという言葉の方がわかりやすいんですよね。なぜかというと、これはARだと説明してもPR効果が出ないから。マーケティング、PRの言葉として使うことは今後もあるんじゃないかと思います。
及川:その濃度の違いを開発者視点で考えた場合、ARからVRに行く方が多い・やりやすいのか、VRからARに行く方が多い・やりやすいのかなど、その違いはありますか?
前本:基本的に作り方は一緒だと思います。ただ、VRの方がデザイン要素が多く、全部作りこまなくてはいけないので、比較的作業量が多いかも知れません。背景まで全部世界感をCGで作る必要があるか、現実を重視する必要があるのかなどの差はあります。
及川:ARは現実がベースにあって、そこにエフェクトなどをかぶせればいいけど、VRは全部作りこまなくてはいけないわけですものね。
いっこう:さらにVRの場合は、ゴーグルに合わせてパフォーマンスチューニングをしっかりやってあげないといけないですね。でも、いわゆるゲーム業界にいた人であれば、どっちにも行きやすいとは思います。あとはUnityで開発することが多いので、普通にUnity使っていたのであれば、行きやすいと思います。
比留間:体験の作り方には、それぞれ結構違いがあると感じています。VRはその空間の中でワープしようが飛ぼうが何をしようと自由にできですが、ARは地に足をつけていないといけない。そこでどう上手く体験を作っていくか、開発者としても別の頭を使っている瞬間がどこかにある。
基本的なベースを作っていくのは同じなんですが、体験を作っていくときにそれらの違いを感じますね。
及川:皆さんのお話には、すごく説得感がありますね。面白くて魅力的だと思う一方で、コンテンツを作ったり、ユーザー体験的なものを考える際に、難易度が高いものもその真ん中あたりにあったりするんじゃないかなと想像したりしました。
【Q&A】エキスパートから寄せられた質問を紹介
Q.5GとxRをセットで見ることが増えてきているが、エキスパートのご意見を伺いたい。
前本:以前は、5Gの世界観を見せるという特区の開発が多かったですね。これから現実に使われていくので、実装して伝えていくことが多くなるのかなと。
及川:それは、どんな世界観を作ったんですか?
前本:当時は5Gがない時代だったので、5Gの特性について伝えるコンテンツデモを作っていました。2~3年前は多かったと思います。
比留間:5GとxRは「5Gがあるから、AR/VRでこういうことができるよね」「AR/VRでやるには、5Gくらいのスピードがないとできないよね」みたいなニワトリとタマゴ的な議論になることも少なくないですね。
各社が5GとAR/VRをかけ合わせているのは、AR/VRにこそ、5Gが生きる道を見出しているからと感じています。今後その両輪ができてくると、VRは全てサーバーサイドでレンダリングしたものを低遅延で送ることが可能となり、デバイス側も高頻度なVRが体験できる。今後、二人三脚で発展していく分野なのではないでしょうか。
前本:これまで屋内のWifiでしかできなかったコンテンツの共有が、外でもできるようになってきますよね。
及川:事業者からすると、5Gならこのレベルで動くと前提してサービス設計できることは、有利に働きそうですね。
いっこう:ただ、5Gに対応しているデバイスはまだ少ないですね。クアルコムは今対応しているものを作っていて、これからだんだん出てくると思いますが、まだ普及まで時間がかかるのかなと。5Gが普及するまで、もう数年かかると思うので、どんどんユースケースを作ることで、5G×xRで意味があるものが生まれることに期待しています。
Q.アフターコロナやWithコロナ時代に、VRに期待されている面がたくさんあると思います。AR/VRでこんな面白いことができる、新しい生活ができるという提案はありますか?
具体例があれば教えてください。
いっこう:MESONさんが「CES 2020」で展示していたARショッピングはその一つの形だと思います。
比留間:ありがとうございます。CESでは、AR/MRグラスを使って家をショップにしてしまい、実際の服のかんじをチェックしながら買い物ができるオンラインショッピング体験を展示しました。
その場所を別の空間にして、何かをするといういいユースケースになったと感じています。特に立体的に見えるとか、サイズ感がチェックできるということがその場にいながらできるというのは、AR/VRの一つのメリットだと感じています。
及川:昔、Googleが出したProject TangoというARデバイス、私すごく期待していたんですすが、ハードウェアの投資(利用者側の購入コスト)が大きすぎて、サービスが終了したことがあったんです。そこでも典型的なデモ例として、家具などを自分の部屋に置いてみるといったことをやっていた。
今まさにネットショッピングで済ませたいが、実際に見てみないとサイズ感わからないというニーズや課題がある中、AR/VRは確実に役立つ。そのわかりやすい事例だなと思いました。
いっこう:引っ越しや大物家具の買い替えの際に、ARでサイズを測るとか置いてみるといった利用シーンは結構あると思っています。実際にオンサイトで会って話すことができない状況の中で、不動産の内見をVRにしているケースもある。
ただ、VR空間で内見したとしても、契約したり、購入する決めの一手にはなかなかならないんですね。実際に行ってみようというフックにはなるけど、やっぱり一発で買っちゃおうとはならない。そこはまだ難しいと感じています。
VR/AR/MRのブレイクスルーに欲しい「もう一つ」は?
及川:最後に、「もう一つこれがあったら、もっとこんなことができるのに」と考えている技術的なブレイクスルーについて聞かせてください。
前本:アップルがヘッドセット向けの視力矯正システムに関する特許を出願したことがニュースになっていました。メガネぐらいデバイスが小さくて軽くなれば、ARグラスも普及するだろうし、世界観が変わりそうだなと。
及川:普及のためのカギは、普段使いするかどうかだとよく言いますよね。
いっこう:そういう意味で僕は普段使いしたくなるコンテンツかなと。例えばLINEのように、家族や友達とのやりとりに使っているもの。親世代はLINEを使うために、ガラケーからスマホに乗り換えている。それくらいの必然性、使わざるを得ない状況にならないとやっぱり普及やブレイクするのは難しい。それがxRのデバイスに入ってくるといいなと思います。
比留間:持っていること自体がステイタスであるとか、かっこいいというのも重要ですね。アップルが作っているからいいよねとか、iPhoneだから使うとか。そもそも持つことに興味がある、価値を感じてることも一つのポイントなのかなと。
かっこいいから使ってみたら、後から便利だと気づいたり、使うからコンテンツが増えていくというようなスパイラルを踏んでいくのもある。持ちたいから持つというフックも必要だと考えています。
及川:ありがとうございます。この続きは、ぜひTechFeedコミュニティなどで議論していきましょう。
エキスパートだらけのライトニングトーク
エキスパート・トーク後は、「日本を世界一のIT国家にする」をミッションに掲げるTechFeedらしく、コロナ渦を先端テクノジーで対策しようと立ち向かう3人のエキスパートによるライトニングトークが行われた。
トップバッターは最近、Elasticという会社にジョインし、TechnicalPM、エバンジェリスト的な仕事を務める傍ら、内閣官房 IT 総合戦略室 政府 CIO補佐官でもある「GovTech」エキスパートの鈴木章太郎氏。政府のテクノロジー活用やコロナ対策の活動事例などについて語った。
続いてのLTは、「JavaScript」エキスパートのkyo_ago氏による「フロントエンドのリソース管理の話」。複雑なキャッシュ機構やリソースの履歴管理、ロールバックの難しさや課題についての提案、その利点などを紹介した。
そして、最後のLTは「データビジュアライゼーション」エキスパートの矢崎裕一氏による「コロナ渦におけるデータ可視化」について。コロナに感染した人数データを可視化・ビジュアライズし、感染状況マップを作成した際の課題や取り組みが語られた。