ブリヂストンが取り組むDX戦略とデータ分析の現在地 ─リアル×デジタルで価値を創造する”Solutions for your journey”
アーカイブ動画
各領域で得たデータを水平展開して新たな価値を創造する
事例紹介に先立ち、タイヤのIoTセンサーの開発や、データサイエンスを活用したソリューション開発に携わる石附将武氏が登壇。ブリヂストンのDXについて紹介した。
2017年に1月にデジタルソリューションセンターを設置し、2019年にはモビリティ領域のデジタルデータに強い、オランダの企業を買収。2020年からは「Bridgestone 3.0(第三の創業)」と位置付けた独自のソリューションプラットフォーム 「Bridgestone T&DPaaS」を掲げ、着実にDXを進めている。
「ブリヂストンではこれまで、ゴムなどの素材や、タイヤなどの製品の開発・製造技術、社会やお客様との接点などの各領域においてそれぞれDXを進めてきました。そうして得たデータをエンジニアリングチェーンに戻し、新たな製品開発や商品戦略にフィードバックしていくのが、これからのブリヂストンのDXです。リアルとデジタルをつなぎ、さらにお客様や市場も含めた水平展開を進めることで、新たなソリューションや価値をお客様や社会に提供していきます」
▲株式会社ブリヂストン デジタルAI企画部 石附 将武氏
冒頭紹介した「Bridgestone T&DPaaS」のT&DPaaSとは、Tire&Diversified Products(化工品) as a solutionの略だ。石附氏が説明したようにブリヂストンは、タイヤ、モビリティ領域等に携わる多様なアセットをデジタルでつなぎ、新たな価値を創造(提供)していこうとしているのである。
世界初のタイヤセンシング技術 CAIS® を実現
続いて石附氏と同じ部署でAIアルゴリズムの開発など、各種データ分析を行っている倉元俊輝氏が登壇。ブリヂストンにおけるデータ分析の事例を紹介した。
▲株式会社ブリヂストン デジタルAI企画部 倉元 俊輝氏
「タイヤが地面に接している面積は、はがき一枚分ほどしかありませんが、車が地面と唯一接する重要な箇所です。人間にとって足のようであり、我々が足裏から地面の状況を察知し、歩き方や走り方に反映しているように、タイヤでも同じことができないだろうか。これが、タイヤセンシングソリューション開発の原点です」(倉元氏)
ブリヂストンではタイヤに取り付けたセンサーから得たデータを分析することで、「摩耗」「空気圧」「路面状態」といった情報を獲得。同情報をもとに、各種ソリューションなどの付加価値として提供している。
摩耗や空気圧の状態が常に把握できていれば、事故を未然に防ぐことや燃費向上、タイヤ交換の効率化などに繋がる。路面状態の把握は、冬季の道路管理に貢献する。センサーをつけることで目視での判断が必要ないため、夜間でも道路状況が把握できるからだ。
同技術はすでに世界初の実用化ソリューション「CAIS®(カイズ:Contact Area Information Sensing )」として広まっており、「乾燥」「半湿」「湿潤」「シャーベット」「積雪」「圧雪」「凍結」といった7つに路面状態を判別すると同時に、瞬時にドライバーや対策本部などに伝えている。
タイヤセンサーでは「ひずみ」を測定する「Smart Strain Sensor(スマートストレインセンサー)」も開発した。同センサーで得たデータを、先と同じくブリヂストン独自のアルゴリズムで分析することで、タイヤにかかる荷重や摩耗といった情報の取得を実現している。
航空会社の整備業務効率化に貢献
2つ目の事例は、冒頭で石附氏が説明したとおり、顧客の声をフィードバックしたことで生まれたDXと言える。JALとの協業から生まれた事例だ。
「既存データをもとにデータ分析やDXを進めるのではなく、お客様にどのような課題があるのか。ヒアリングするところからスタートしたのが、同事例のポイントです」(倉元氏)
顧客であるJALと共に業務を見直す中で、タイヤ交換におけるいくつかの課題が分かった。突発的な交換、交換時期の集中、まだ使用できるタイヤの交換などだ。
そこでタイヤに関するデータならびにJALから提供されたデータを分析し、タイヤのすり減り状況を予測するアルゴリズムを構築。交換時期を明示するソリューションの開発に繋げた。
ロードサービスの待ち時間をベイズ回帰モデルで最適化
ブリヂストンでは「BSN(ブリヂストン サービスネットワーク)」というロードサービスを、全国約930もの事業所ネットワークを活用し、24時間体制で提供している(24時間対応の店舗は約220)。3つ目の事例は、このサービスを利用するユーザーの待ち時間を最小化するデータ活用事例だ。
用いたデータはロードサービス5年分。データ量は数万件におよび、説明変数(原因変数)は、地域、時間、トラブル・車両の種類、店舗の営業形態などさまざまな因子の影響を加味し、それに基づいて待ち時間を予測するベイズ回帰モデルを構築。これまでは現場責任者の経験に任せていた利用者への対応を、店舗場所の最適化により改善することが可能となった。
データ分析を実現するブリヂストンのデジタルプラットフォーム基盤
ブリヂストンのデジタルプラットフォームは大きく2つからなる。タイヤに関するプラットフォーム、モビリティに関するプラットフォームだ。
前者は3つに細分化されており、装着タイヤ、点検結果など、タイヤに関する情報の可視化に特化した「Toolbox(ツールボックス)」。先に紹介した事例で活用されている、タイヤの空気圧や温度をリアルタイムで遠隔監視する「Tirematics(タイヤマティクス)」。環境への考慮などから、今後普及が進むと考えられるリトレッドタイヤの情報管理を行う「BASys(ベイシス)」だ。
「リトレッドタイヤとは、すり減った部分のみを張り替える技術ならびにタイヤです。再生タイヤとも言われ、原材料の使用量は新品タイヤに比べ3分の1未満です。廃タイヤ削減にも繋がりまかすから、社会的価値の高い製品ならびに事業であるといえます」
モビリティに関するプラットフォームは、2019年に買収したトム トム テレマティクス社(現、ウェブフリート・ソリューションズ)のプラットフォームを活用する。
欧州ではすでに88万台のモビリティが利用しているプラットフォームであり、車両にデバイスを取り付けると位置情報だけでなく燃費やメンテナンス管理など、モビリティに関するさまざまな情報を取得し可視化する。その結果、ドライバーは運転や荷降ろしなどの業務に集中でき、業務効率化に寄与する。
「いま紹介したプラットフォームを、我々は世界共通のプラットフォームとして整備しています。そしてこのような統一基盤をベースにしながら、それぞれの地域やお客様のニーズをヒアリングしフィードバックすることで、最適なソリューションを開発。このフィードバックループをまわすことで、DX、イノベーションを加速していきます」
社内の教育体制を整備し、さらにDXを加速する
倉元氏は日々の業務で感じた課題、そこから考える今後の取り組みについても触れていたので紹介する。
「大きくは3つあり、まずは『データの蓄積・管理』です。そもそもデータが存在しない。あったとしても紙媒体で記録されていたり、フォーマットや格納方法・場所が統一されていないなど。データとして活用するには整形などが生じるため時間を要するケースが多く、この課題が最も根深いと考えています」
一方ですでに解決策を打っていることも説明した。クラウドサービスの導入、前出のようなプラットフォームの整備だ。
2つ目は「データ分析へのリテラシー」である。データがあれば何でもできるといった過度な期待や誤解が大きい。同じく、データ分析に関する知識不足による間違ったデータ活用をしてしまった結果、逆に業務効率の悪化や、アウトプットの質低下が見られたという。
こちらの課題もすでに対策を打っていた。データサイエンス研修を新入社員に必須とすること。工場で働く従業員も含めた全社員に対するeラーニングの実施だ。
3つ目は「データサイエンティストの不足」であり、内外どちらにも該当する課題である。解決策としては先の教育に加え、よりデータサイエンスを深めたい社員に対しての教育だ。
具体的には社内でのラーニングに限らず、大学などより高いレベルの講習が受けられる体制を整備。社内人材の育成に限らず外部人材との連携や発掘にも注力しており、CAISはまさに大学との共同研究で実現したという。
オンラインイベント参加者の質問に答える「Q&A」
最後に、今回のオンラインイベントの参加者から寄せられた質問ならびに、両者の回答を紹介する。
Q.タイヤとサーバーの通信経路はどうしているのか
直接繋いではいません。まずはタイヤから車に搭載したデバイスにRF周波数帯で飛ばし、そこから先は一般的なキャリアの回線でサーバーに飛ばしています。
Q.データの蓄積や分析はクラウドサービスを利用しているのか
今回紹介したプラットフォームはAzure(マイクロソフト)を利用していますが、AWS(アマゾン)やGCP(グーグル)なども使っています。クラウドには便利なツールもそれぞれ備わっているので、機械学習ではこれといった具合に使い分けています。
Q.1日に蓄積されるデータ量は?また、クレンジングの頻度やタイミングはどうか
データ量は日によって異なります。タイヤ内センサーの中で信号処理を行うことで意味のある特徴量に集約するなどの対応をしてボリュームを減らし、コストを抑えています。
Q.路面センシングでのノイズの影響や対策について
ノイズは当然発生しますので、対策は永遠の課題です。ローパスフィルターで取り除く。路面状況により反応するS/N比の大きい特徴量やロバストな機械学習モデルを構築するなどの対策を講じています。
Q.AI・機械学習モデル、アルゴリズムの品質や安全性や評価はどうしているのか
絶対に不良を起こしてはならないタイヤのQAをそのまま適用するとアジャイルに進められないので、テーマに応じてビジネス領域のメンバーと一緒になって考えています。アルゴリズムは時間と共に精度が落ちていくので、定期的にブラッシュアップするよう取り組んでおります。
Q.ビジネスとして実現するテーマの割合について知りたい
具体的な数字は答えられませんが、高くはありません。ただ我々は新しいビジネスの創出という観点だけでなく、社内業務の改善も目的としてデータ分析に取り組んでいます。