【レポート】データサイエンスとインターネット・オブ・シングス - 第4回データアントレプレナーカンファレンス -

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【レポート】データサイエンスとインターネット・オブ・シングス - 第4回データアントレプレナーカンファレンス -

2018年7月13日(金)13時「第4回データアントレプレナーカンファレンス -データサイエンスとインターネット・オブ・シングス-(Data Entrepreneur Conference 2018 - Data Science and IoT -)」が、電気通信大学にて開催されました。

主催のデータアントレプレナーコンソーシアムは、文部科学省 科学技術人材育成費補助事業 データ関連人材育成プログラム の採択を受け、データサイエンスのトップレベル人材を育成しています。その一環として開催された今回のカンファレンスは4年目を迎え、データサイエンス、人工知能、サイバーセキュリティ、そして今回のIoTとデータ関連の第一人者を迎えて毎年開催されています。

- イベントは、当日に参加希望者もあり満席で、注目度の高さを表していました。プログラムは下記の通りです。

第1部 セッション
「データアントレプレナーフェロープログラム紹介」
国立大学法人電気通信大学 田村 元紀 先生

「インターネットコネクティビティ論」
国立大学法人電気通信大学 清洲 正勝 先生

「IoTプロダクトの研究開発手法」
国立大学法人電気通信大学大学院 沼尾 雅之 先生

第2部 キーノート
「ResearchKitを用いた大規模臨床研究」
順天堂大学附属順天堂医院眼科学教室 猪俣 武範 先生

第3部 パネルディスカッション
「情報通信技術が浸透する医療の未来」

データアントレプレナーフェロープログラム紹介

- 最初に、データアントレプレナーコンソーシアムの責任者であり、電気通信大学産学官連携センターのセンター長である田村先生の講演で、第1部がスタートしました。


田村 元紀(たむら・もとのり)/新日本製鐵株式会社を経て、文部科学省、東北大学、東京工業大学、東京農工大学にて産学官連携に関する研究を推進後、電気通信大学に着任。産学官連携センター センター長、産学官連携支援部門長 教授。プログラムマネージャ(講座責任者)。博士(工学)東京大学。技術士(金属部門)。

- 田村先生は、電気通信大学が展開する「データアントレプレナーフェロープログラム」の概要を紹介しました。

田村 「データメジャー、つまりGoogle、Apple、Facebook、Amazonの4社の時価総額は、2010年代前半に石油メジャーを抜きました。このような現代において、情報活用能力を備え創造性に富んだ人材の育成が求められています。

私たちの事業の特徴は、産学官が連携したコンソーシアムを作って人材育成プログラムを実施している点です。データサイエンティストとしての素養を持ち、新たな価値を生むビジネスを創出できる人物像を目標としています。そのために、対面学習と実践学習を重要視しています。今まさに、このイベントが開催されている講義環境は、発想豊かなグループワークができるようにデザインされており、本学独自の約600冊を越える専門書からなるデータサイエンス関連のライブラリも設置しています」

- この「データアントレプレナーフェロープログラム」はどのような方が受講するのでしょうか。田村先生はさらに詳細を続けます。

田村 「私たちの人材育成プログラムは、電気通信大学の学生だけでなく、他大学の学生、社会人の方、博士研究員の方など選考に合格された方は皆、一定の履修をしていただくと修了することができます。また、職を持たない学生であれば、修了後の審査を経て、研修報奨金として最大50万円を支給する制度を設けています。

7月現在、コンソーシアムに参画、連携していただいている機関は20を超えており、現在も参加希望の機関との調整が続いています。コンソーシアムメンバーは現在も募集中ですので、賛同していただける機関がありましたらお待ちしています」

インターネットコネクティビティ論

- 続いて、データアントレプレナーコンソーシアムの中心的な委員のお一人で、電気通信大学の清洲先生の講演です。


清洲 正勝(きよす・まさかつ)/電気通信大学産学官連携センター 特任助教。同校人工知能先端研究センター 客員研究員。一般財団法人インターネット協会インターネット利用アドバイザー。プログラムフェロー(講座研究者)。『データサイエンス論』講師。情報処理学会、人工知能学会正会員。

- 清洲先生の講演は、IoTに関連してインターネットの接続性についてマクロからミクロまで概観することをテーマとしたもの。最初に重要な用語の後に、マクロの視点からインターネットを紹介していました。

清洲 「地球規模の通信において、最も長距離なものは、全世界を取り巻く海底ケーブルと衛星通信です。海底ケーブルでは、KDDIが1964年に初めての太平洋間通信を達成し、2016年には、NECと伴に60Tbpsの回線を設置しています。有線が行き届いていない地域には、無線による通信衛星が有効に活用されています。

この通信の中でどのようにインターネットはつながっているのでしょうか。一番大きな幹線は、インターネットバックボーンと呼ばれています。日本の場合は、NTTコミュニケーションズが、アジア地域唯一の国際Tier1 ISPというカテゴリに属しており、全世界をつないでいます。

国内に目を向けると、IX(インターネットエクスチェンジ)と呼ばれる接続拠点が存在しており、ISPの相互接続を実施しています。 主要なIXは、通信事業者3社が主体となった組織などが設置しています」

- 続いて、清洲先生は、データメジャーのインターネットのトラフィックについて述べた後、私たちの身近なレベルにおけるインターネットについて説明しました。

清洲 「最近では、コネクテッドという言葉がよく使われるようになりました。これは従来までインテリジェントやスマートと呼ばれていた接頭辞とほぼ同義と捉えることができます。自動車、住宅、工場、都市などさまざまなモノが対象となっています。

インターネット接続に目を向けると、DUN、ISDN、xDSLなどを経て、現在はFTTxと呼ばれる光の回線が主流です。今年の初めに下りの速度が、10Gbpsの商用回線が展開を始めました。これまでの下り通信速度と比較するとその速度は指数関数的に上がっていることが分かります。

無線通信に関しては、Wi-Fiでは、IEEE802.11 acと言う規格を多くの人が利用していると思います。IoTの分野においては、acよりも長距離かつ省電力で機能する、IEEE802.11 ahという規格であるW-Fi HaLowが注目されています。伝送速度は、基本的にacと同程度ですが、長距離に対応しているため、広いエリアでのIoTに活用できることになります。

移動通信に関しては、2020年春に商用スタートする計画がある5Gに関心が集まっています。下りの速度は最大10Gbpsとなることが予定されています。このように伝送速度が高くなると、IoTデバイス側での処理性能を高く持てる点が大きなポイントになります。それによって、できることが大きく広がって行きます」

- 清洲先生は、さらに距離の短い回路の視点から続けます。

清洲 「人々の暮らしには、生活家電や情報家電があふれています。その中には、特に意識せずともインターネットに常時接続されているものも多数あります。

これらインターネットの接続機器には、電子回路がありその上にICが搭載されています。大きい基板の場合はcm、mm、ICの場合はµm、nmという配線長の世界です。これらの回路を利用してどのようにIoTの開発を進めていくのかと言うと、方法の一つとして開発用のマイクロコンピュータが挙げられます。代表的なものには、Raspberry Pi、Intel Edison、NVIDIA Jetson などがあります。さらにこの上に各種のセンサーを組み合わせて、IoT機器を開発し、商品化、製品化して行きます。

現在では、研究開発機関、教育研究などの組織や地域にプロトタイピングのための施設の開設が進んでいます。これによりトライアンドエラーでリーンに開発することが可能になっています」

- さらに清洲先生は、今後100年に向けた取り組みとして、惑星間インターネットと身体インターネットを紹介し、最後に「人類が豊かな生活を送ることができるように、法律にも記載されている、インターネット・オブ・シングスの実現 を産学官で推進することが重要だ」と講演をまとめました。

IoTプロダクトの研究開発手法

- 第1部の最後は、沼尾先生による講演です。


沼尾 雅之(ぬまお・まさゆき)/電気通信大学大学院情報理工学研究科 教授。東京大学工学系研究科修士課程修了。博士(情報理工学)東京大学。日本アイ・ビー・エム株式会社東京基礎研究所を経て、2008年から現職。国立情報学研究所客員教授、ものこと双発学会理事。

- 最初に沼尾先生は、自身の研究室について紹介します。

沼尾 「この2018年に電気通信大学は100周年を迎えましたが、私の研究室もちょうど10年目となりました。

これまで『ODDS:On Demand Data Science』というキーワードの下に活動して参りました。つまり、データサイエンスに関して『機を見るに敏』のスタンスで取り組んできたということです。実際に、2012年にはこの研究室からの博士論文のタイトルに『ビッグデータ』というタイトルがついていました。これはおそらく日本で初めてでしょう。

具体的には『データサイエンス基礎』『ビッグデータ応用』『IoTビジネス』の3つの領域でデータサイエンス研究を進めています。一般的に、日本の大学では『ビジネス化』が弱いのですね。この研究室ではその『ビジネス化』を目的とした応用システム開発と基礎研究に注力しています。

最近では『SENS』というキーワードも取り入れています。これは『Sensor Environment Network Systems』の略語で、『IoT環境知システム』という意味を持ちます。つまり、IoTを使い環境から知識を得ることを目的に、日常生活に最先端情報通信技術を密着させる取り組みです」

- 次に沼尾先生は、介護の現場に設置された、自身の研究室で開発した見守りロボットの事例を交えながら「IoTの考え方」について考察します。

沼尾 「『IoT』という言葉を聞いた時に、『モノがセンサーによって実社会につながっている』という部分にだけ着目してしまいがちです。

しかし、私たちは『実世界をセンサーによってデジタル化し、そのデータを蓄積したビッグデータ化し、そのビッグデータを解析して知識を引き出し、その知識をサービスに落とし込んで実世界に還元する、さらにそのフィードバック結果を評価して…』というIoTで輪が結ばれるループが大切だと捉えています。このループを指して『CPS(Cyber Physical System)』と呼ぶ言葉も出てきています。

このループにおいてまず重要なのは、『現実世界の何を見るのか』という点をモデル化することです。数多あるセンサーをやみくもに設置するのではダメなのです。介護施設に導入した私たちの見守りシステムにおいて、見守るべきは介護施設や独居老人の健康状態、異常状態、自立度、孤独度でした。ここをきちんと知っておかなければいけないのです。

そのモデルがあれば、次のステージとしてどのセンサーが必要なのかがわかりますよね。そこで蓄積したデータを機械学習、ディープラーニングに掛けて解析していくことになります。現在この領域は非常に進化していて、以前であれば博士論文で研究していたような内容が、学部生やベンチャーの企業でもデータさえあれば簡単に取り組むことができるようになっています。

そのように知識化したデータを、私たちの事例では健康モニタリングや自動見守りといったサービスに結びつけて現実へフィードバックしています。

論文では、センサーによって実世界から得られたデータから社会を分析する『データ駆動型』研究が主流です。しかし、ビジネスにおいてはどのようなサービスを提供したいか、そのためにはどのようなデータが必要になるのかを考える『サービス志向型』の視点が必要になります」

- 最後に沼尾先生は、IoTにおける「モデル化」の重要性と開発の進め方を共有します。

沼尾 「IoTにおいて重要なのは、現実世界を取り込むことです。これはつまり現実世界をモデル化しなければいけないということでもあります。

これから自身が考えるシステムを開発するのはある意味簡単なことです。私たちの事例でいえば、見守りの対象である人、家具、部屋などをモデル化して、『人が座っていること』をいかに認識させるかが重要になります。この認識には、『人とイスの相互関係』をセンシングしてモデル化することが必要なわけですね。

そして、プロダクト開発においては、デザイン思考型のプロトタイピングを実践することが肝要です。ユーザー視点に立って、ユーザーの課題を解決する方法をブレストし、すぐにプロトタイピングしていく手法ですね。私たちの見守りシステムでもこのデザイン思考プロトタイピングを導入しました。

その中で、ユーザー視点から解決まではシナリオベースで立案しました。そのシナリオとは『見守り対象の高齢者が朝起きたら、”おはよう、ごきげんよう”と呼びかけ、同時に起床時間、心拍、呼吸、体温のデータを記録して、集計サーバーへ送信するというものです。

このシナリオを作ったことにより、リアルタイムシステムが必要になることが導き出されました。このようにシステムアーキテクチャを設計し、シナリオを検証していくわけですね。今回は『Fluentd』に独自プラグインを加えています。開発は学生6人のチームでモデル駆動型のアジャイル開発を行い、約半年でシステムを完成させることができました」

ResearchKitを用いた大規模臨床研究

- 続いて第2部は、順天堂大学の猪俣先生による基調講演です。


猪俣 武範(いのまた・たけのり)/順天堂大学医学部附属順天堂医院眼科学教室 助教。順天堂大学医学部附属順天堂医院病院機能管理室。一般社団法人IoMT学会 代表理事。順天堂大学大学院博士課程修了。2015年より現職。趣味は硬式テニス。

- 猪俣先生の講演は、Appleが医学研究者向けに提供している「ResearchKit」を使って開発したアプリ「ドライアイリズム」について。まず猪俣さんは、なぜドライアイをテーマにセレクトしたのかを説明します。

猪俣 「ドライアイとは目が乾き、角膜に傷がついてしまう病気です。ドライアイは眼科の中でも患者が一番多い病気であり、日本では2000万人、世界では10億人が患わっていると推定されています。

ドライアイは読書やコンピューター作業、車の運転、睡眠の質や幸福度にも負の影響を与え、メタボリックシンドロームにも関連があると研究されています。また、アメリカではドライアイの医療費に38.4億ドルがかかっていたり、病欠があったりと、個人だけの問題ではなく大きな経済損失の原因ともなっているのです」

- 次に猪俣先生は、順天堂大学のドライアイ外来における診断チャートを次のように紹介します。

  1. 自覚症状を問診票でヒアリングし、顕微鏡で観察
  2. 涙の膜が破壊されるまでの時間を計測する(TBUT)
  3. 角膜に傷がないかを診察する
  4. 涙の量を調べる「Schirmer test」を実施する

猪俣 「ドライアイの自覚症状は『目が乾く』だけではありません。『ゴロゴロする』『不快感がある』『目が開けにくい』『まぶしい』『かすんで見える』など様々な症状が存在します。ですので、私たちは『DEQS』と『OSDI』という2種類の質問紙票を使って、定量化してはかっています。

このようにドライアイの検査は多岐にあたり、とても複雑なのです。また、検査を受けないままドライアイでQOLを落としている人が多くいるのではないかと私たちは考えていました。

そこで、私たちのチームはドライアイの啓蒙と、簡易検査ができる方法の開発に取り組みはじめました。そのひとつが最大開瞼時間、つまり、まばたきを我慢していられる時間の計測です。12.4秒我慢できない場合にはドライアイの可能性があると明らかになりました。

さらにもうひとつこの研究検査をつかって開発したのが、『ResearchKit』を利用したアプリです」

- 猪俣先生は、アプリの開発について説明を続けます。まずはAppleが「ResearchKit」の特徴として次の3点を挙げます。

  • 同意項目、問診などのテンプレートがAppleライクなデザインで提供される
  • 「HealthKit」と連携し、健康データを自動収集する
  • Appleは開発者が収集したデータに一切関与しない

- さらに猪俣先生は、開発したアプリ「ドライアイリズム」を紹介します。

猪俣 「このアプリでは『まばたき時間の測定』『実用視力の検査』『OSDIによる質問紙票』の機能を提供し、ドライアイ指数をスコア化してユーザーにフィードバックしています。1日5分程度の時間でできる内容ですので、毎日の利用をオススメしています。

このアプリは2016年11月に配信を開始したのですが、まずひとつめのスタディとして、『ドライアイ自覚症状の重症化』と『VDT作業や生活習慣』との関係を検討しました」

- スタディの詳細は次の通りです。

■ 期間
2016年11月から2017年11月

■ 対象
調査に同意し、基本情報の入力、OSDI、VDT作業時間および生活習慣に回答したユーザー

■ 取得情報
年齢、性別、地域、OSDI、既往歴、生活習慣(コンタクトレンズ、VDT作業時間、喫煙、コーヒー摂取量、花粉症、定期的な運動の有無、水分摂取量、睡眠時間)

■ 解析方法
OSDI33点以上の回答者をドライアイの「自覚症状重症」と定義し、ロジスティクス回帰モデルで年齢・性別を調整し、オッズ比を算出

- 猪俣先生は、このスタディの結果を次のように共有します。

■ 参加者
期間中のアプリのダウンロード数は、18,225。
そのうち調査対象となったのは、5,265名。

■ 年齢
平均年齢27.2歳。アプリなので、高齢者のデータが取りにくいという制約がある。

■ 性別
女67%、男33%。ドライアイは女性に優位な病気のため、男性のデータが貴重。

■ OSDI
平均26.0点。軽症から中傷くらいの人が多い。

猪俣 「こうしたデータを年齢と性別で調整した上で、ドライアイの重症度に関連する因子を解決しました。すると、血液疾患や呼吸器疾患、うつ病などどの病歴に関連性が高いことがわかりました。

また生活習慣では、コンタクトレンズの装用歴の長さ、花粉症、VDT作業の時間、喫煙者、水分摂取量の少ない人が、重症度が高いというデータが得られました。

最終的なオッズ比としては、『女性であることに1.85倍』『膠原病があれば2.81倍』『うつ病であれば1.68倍』『コンタクトレンズを現在していれば1.24倍』『VDT作業時間1時間ごとに1.02倍』『喫煙者が1.53倍』の数値で重症化するという数字を得ることができました。

これまでの多くの研究からドライアイ発症のリスクファクターは明らかになっていました。しかし、リアルワールドデータを使った今回のスタディでは、ドライアイの『自覚症状重症化のリスクファクター』が明らかになった点が非常に有意義な点です。ファクターによって有意差があるものとないものがあることも判明しました。

このリスクファクターが3つ以上あると、重症化のリスクは2倍以上になることなどもわかっています」

- これらの結果を順天堂大学ではドライアイの治療にどのように活用していくのでしょうか?

猪俣 「まず、私たちは『長時間のVDT作業』『コンタクトレンズの装用』『花粉症』『喫煙』など、ドライアイの悪化要因を除去してあげて、その上で点眼治療などに移るという方針をたてることができました。ドライアイマネジメントが大切なわけです」

- 猪俣先生は、最後に次のようにまとめて講演を終了しました。

猪俣 「この『ドライアイリズム』にはランニングコストや広告費も含めて、420万円の費用が掛かっています。2万人のデータが集まったことを考えると、決して悪い数字ではないと捉えています。

『ResearchKit』を用いた研究では、病院に来ない人も含めた無制限の参加者からのリアルワールドデータが取得できる点、日々のデータが取得できる点、患者さんや社会へ情報をフィードバックできる点などに優位性がありますね。『ResearchKit』は、臨床研究の破壊的イノベーションだと考えています」

情報通信技術が浸透する医療の未来

- 第3部はパネルディスカッションです。田村先生、沼尾先生、猪俣先生がパネラーを、清洲先生がモデレーターを務めます。

清洲 本日のパネルディスカッションのテーマは「情報通信技術が浸透する医療の未来」です。本日は会場のみなさんへの集計システムをご用意していますので、会場の皆さんへ質問しながら進行していきたいと思います。キーワードは、医科学、医療情報、スポーツ、ヘルスケアに分類し表示している27ワードです。

また、今年までの医療における情報通信技術の動向はこちらになります。次世代医療基盤法やAI医療ガイドラインは話題になりました。

それでは皆さんに「日々の生活の中で、AIやIoTを身近に感じているか?」と言う最初の質問です。

「はい」 67%
「いいえ」 33%

ですね。もう少し「はい」が多いと予想していました。先生方は、この質問についていかがですか?

猪俣 私はもちろん身近に感じています。ついにアメリカでは、糖尿病網膜症の診断をAIが判断していいことになったのです。

医者の仕事が今後どのようになるかに非常に関心がありますね。

ただ、実際に臨床の場ではまだAIやIoTがそれほど普及していないとは感じます。他の業界よりも遅いですね。

田村 私ももちろん「はい」ですが、本人も知らないうちにAIやIoTを利用している例はかなりあるのではないかと思いますね。

沼尾 私は開発者として長年AIの領域に取り組んでいますが、現在はすでに「知らぬ間にAIが使われている時代」だと認識していますね。

また、従来の仕事の8割がAIに奪われるという「AI脅威論」についても私たちは考えていかなければいけません。

清洲 猪俣先生は医療従事者として、どのような将来を想像していますか?

猪俣 AIと医者は、自動車におけるガソリンと電気のように、ハイブリット化するのではないかと思っています。医者がAIのいい部分を活用していく時代がまずは来るでしょうね。

ただ、AIが誤った診断をした際に責任がどこにあるのかという問題がありますよね。ミスは患者の直接的な不利益になるわけです。

そういった部分も含めてきちんとガイドラインが成り立つと、私たちもよりAIを使いやすくなると思います。

清洲 沼尾先生はどのような領域にIoTの知見を活かしていきたいとお考えですか?

沼尾 ひとつは介護における見守りですね。それから、匿名化処理などのセキュリティ・プライバシーの分野ですね。

基本的に、医療データも見守りデータも「共有化」することにより、社会にとって役立ちます。しかし、医療データは「超個人データ」なわけです。このデータをいかに資産にしていくかに課題がありますね。

また、ITジャイアント(データメジャー)がデータを独占するのではなく、人類の資産として保有しているデータを共有できるサービスをつくるべきだという議論はもっとしていかなければいけないと考えています。

清洲 続いて、会場の皆さんに2つ目の質問です。「日本の未来社会創造でなにが重要だと思いますか?」

「医療システムが発展し、いつまでも健康でいられる社会」 15%
「多様な仕事の機会があり、継続して安定した収入の得られる社会」 35%
「年齢を重ねても幸福感が得られる心豊かな社会」 35%
「その他」 15%

ですね。ちなみに田村先生は、リタイア後に取り組みたいことを考えられていますか?

沼尾 私は還暦を迎えたばかりで、ちょうど5年後に迫った退職後の人生設計をしなければいけないと感じています。

そこで大切なのは仕事以外にいかに生きがいを見つけるかだと思います。今後、AIによってそれほど働く必要がなくなる時代が来るかもしれません。そのときには高齢者に限らず、だれにも求められる視点ですね。

清洲 田村先生はこの結果についてどのように感じられましたか?

田村 会場のみなさんの回答では「多様な仕事の機会があり、継続して安定した収入の得られる社会」と「年齢を重ねても幸福感が得られる心豊かな社会」に人気が集まりました。

これらの社会を実現したければ、ここにリンクしたAIや医療のあり方があるべきだと思います。ただ、現在はまだそこまでは議論が進んでいない印象ですね。

清洲 続いての質問です。「あなたの描く未来社会での、情報通信技術やデータ活用が今後最も求められると思われるのはどの分野でしょうか?」

「医療・健康・福祉」 33%
「地球環境・防災・エネルギー」 39%
「金融・サービス」 17%
「スポーツ・エンタテインメント」 0%
「社会構造、社会インフラ」 11%

ですね。

田村 最近は災害も多いですから、数字にも現れていますね。確かに必要な領域だと思います。

沼尾 先日ある学会に出席していておもしろいと感じたのが、靴にセンサーを設置する研究です。スマートフォンと連携すれば、当然どこを歩いたのかがわかりますよね。

そこで何をするのかといえば、地面の状態を地図にマッピングしていくのです。例えば北海道であれば、だれかが一度ある道を歩くと、路面が凍結されていることが共有されるわけです。

歩いた人さえいれば、道のぬかるみや通行止めがわかるので、これは防災にも応用できるでしょうね。

清洲 最後の質問です。「日本の将来のデータアントレプレナーに最も必要なものはなんでしょうか?」

「ビジネス力」 31%
「データサイエンス力」 19%
「データエンジニアリング力」 6%
「多様な人材とのネットワーク」 25%
「ファンディング、社会的認知度」 19%

となりました。意外と、人脈やお金を集める力が重要だと考えている人が多いですね。データエンジニアリングは予想よりも低い数字となりました。

私たちが取り組んでいる人材育成事業でも、データエンジニアリングだけではない内容を重要視しているので、ある意味共感頂いていると言うことで安心いたしました。

本日は誠にありがとうございました。


- カンファレンスは全体を通じて、最前線の高度な人材育成や研究開発が一般の方々でも理解できるようになっており、これまで知らない多くの気付きを受けることができると感じました。集計システムを使った参加型のパネルディスカッションは、登壇者と参加者間の意見交換もあり、次回のカンファレンスも楽しみにしているという感想も多くありました。

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