セブン銀行が完全内製アジャイル開発でスマホアプリをリリースした話

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セブン銀行が完全内製アジャイル開発でスマホアプリをリリースした話
セブン銀行は2001年のサービス開始以降、着実に事業を拡大している。2020年3月現在で、全国各地に2万5215台のATMを設置。提携する金融機関は612社、ATMの年間利用件数は8億4900万件と、名実ともに国内最大手といえる。2016年からはDXやアジャイル開発に積極的に取り組み、サービスの内製化を推し進め、スマホアプリ「Myセブン銀行」の内製開発を実現した。今回はセブン銀行がDX組織立ち上げ、内製アジャイル開発を進めていく上で挑んできた課題や解決策を紹介する。

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●登壇者プロフィール

株式会社セブン銀行 執行役員 滝沢 卓氏
都市銀行、ネット銀行を経て2019年にセブン銀行へ入社。
執行役員デジタルバンキング部長。当社のIT・DX戦略をリードする責任者。


株式会社セブン銀行 紙中 加代子氏
銀行系SI会社を経て2007年にセブン銀行へ入社。
基幹システムのプロジェクトマネジャーを経て、2019年よりDX推進の責任者となる。
現在、DXの潮流、デザイン思考を学ぶことを目的にアメリカシリコンバレーへ出向いている。


株式会社セブン銀行 デジタルバンキング部 DX推進G 斉藤 大明氏
2018年にセブン銀行へ入社。内製化、アジャイル文化の浸透をテーマに新規サービスの開発を担当。

セブン銀行に宿るイノベーティブな気風

まずは滝沢氏が登壇し、これまでのセブン銀行の歩みを踏まえ、DX、内製アジャイル開発に取り組んだ背景や経緯を説明した。

「今から約20年前の2001年、コンビニにATMを設置することが一般的ではない時代に、我々は事業をスタートしました。つまり、まわりから見ればイノベーターに映っていたでしょうし、我々自身もそのような意識でいました。

そのため世の中の動向を鑑みながら、常にイノベーティブな取り組みを行ってきた歴史や気風があります。そして我々の特徴は、このようなイノベーションを現場サイドだけなく、経営層も含め、全社一丸となって取り組んでいることです。

そのためこれから紹介するスマホアプリなど目に見えた成果がある一方で、当然、事業化まで至らないチャレンジも多くありました」(滝沢氏)

「淘汰されるのでは」との危機感がきっかけ

そのようにイノベーティブな企業であるセブン銀行が、DXや内製アジャイル開発に本腰を入れるようになった背景は何か。

「我々はリアルな店舗を持っていません。そのため技術はすべてデジタルです。一方で手がけている銀行システムは、以前から連綿と受け継がれてきたいわゆるレガシーなものであり、相反する特徴がありました。

最初に要件定義をしっかりと行い、その要件を確実に、事故なく安全堅牢に行うことのできる、いわゆる一般的な銀行の基幹システムと変わらない構成です。そのため開発フローはウォーターフォール型であり、開発に携わるメンバーも、そのような業務フローやシステム構築を得意とする者が大半でした」(滝沢氏)

事業会社であるため、そもそもエンジニアの数も少なかった。そのため実際のシステム構築は外部のSIベンダーと協業しながら進めてきた。もちろんSIerとの協業も含め、このようなレガシー的な基幹システムの開発や運用業務は、これからも必要であることは間違いない。

一方で、フィンテックなどのキーワードが示すように、金融サービスを取り巻く環境は著しく変化している。そして、その変化のスピードや状況は、VUCAとのトレンドワードからもわかるように特定することが難しく、適宜、柔軟に対応する必要がある。

「ビル・ゲイツは今から30年以上も前に、いずれ、店舗を構えた銀行はなくなるだろう、と予測していました。その流れは、現実のものになりつつあります。さらに昨今のキャッシュレスの台頭などを見ていると、私たちの事業の柱であるATM事業も、これまで通りのやり方での成長は難しいと考えています。

つまり、以前はディスラプターであった我々が、フィンテックや新たな金融サービスを開発するスタートアップなどに、今度は逆に、ディスラプトされるのではないか。そのような危機感を持ち、改めて、イノベーティブを加速させる必要があると考えました」(滝沢氏)

このような危機感から、セブン銀行ではDXはもちろん、開発途中でも柔軟に世の中の変化に対応できる、内製化も含めたアジャイル開発に本腰を入れるようになる。それが2016年のことだ。

以降、社内のイノベーションを推進するのはもちろん、いわゆるオープンイノベーション、スタートアップなど社外のアイデアやサービスとの協業や共創を実現するセブンラボ(2016年~)や、セブン銀行アクセラレータ(2017年~)、デジタルバンキング部(2019年~)といったさまざまな取り組みや体制を整備することで、DX、内製アジャイル開発を加速させていく。

ビジネス部門との連携がポイント

続いて登壇したのは、DX、内製アジャイル開発の推進がスタートした2016年より同プロジェクトに携わり、2019年にはDX推進プロジェクトの責任者に、現在はシリコンバレーに駐在する紙中 加代子氏だ。

紙中氏は滝沢氏の話を踏まえ、具体的にどのような流れで、内製アジャイル開発を進めていったのか、気づきや失敗も含め、詳しく説明した。

「プロジェクトがスタートした2016年は、アジャイル開発研修を受けたり、デザイン思考のワークショップを開催するなど、リサーチや研修期間に充てていました。同時に、社内外の新たなネットワークを構築することにも注力しました。なかでも、内製化に向け社内のビジネス部門とのコミュニケーションを深めるよう意識しましたね」(紙中氏)

1年の準備期間を経て2017年に入ると、実践しながらスキルを習得しようと、小規模な開発チームを結成する。メンバー構成は、社内のエンジニア2名+SES契約のフリーエンジニア2名で、さらにもう1名アジャイルコーチを迎え入れた。

「アジャイル内製化でのポイントは、ビジネス部門をいかにして巻き込むかです。そこで私たちは先の研修をビジネス部門のメンバーにも一緒に受講してもらったり、いつでも気軽にコミュニケーションがとれるように、オフィスの一角の気軽に立ち寄れるオープンスペースに開発エリアを設置する工夫をしました。

オープンスペースで対面によるコミュニケーションをとりながら一定の時間を一緒に過ごすことにより、お互いに伝えきれていなかった前提やアイデアのシェアがすすみ、次第にチームはまとまっていきました。ハッカソンに出場し賞を獲得したこともチームの一体化を促進したと思います。」(紙中氏)

トライアルではなく本番案件で実践することが重要

「当社がアジャイル開発に取り組むための課題が数多くあることを把握したものの、トライアルをいくらやっても、その課題の解像度は上がらない。そこで本番案件で内製アジャイル開発を行う必要があるとの結論に至りました」(紙中氏)

実際、内製開発のプロジェクトがスタートした。スマホアプリ内のサイトや、ATMマーケティングの機能のひとつから始まり、各種APIなども手がけていく。

また、セブン銀行らしく、社内の全メンバーが新しいビジネスアイデアの実験を行うことができる場を提供することを目指した全社横断プロジェクトを企画し、新規事業アイデアを創出・試行するイベントなどを7回ほど行った。しかし結果として、具体的にビジネスに繋がるようなアイデアはここでは生まれなかった。

「結果だけ見れば失敗。ただその中で地道に内製を本格的に活用するための知見の獲得や体制整備を進めてコアプロダクトに取り組める体制に育てていきました。」(紙中氏)

こうしていよいよ2019年からは、公式アプリ「Myセブン銀行」の開発がスタートし、内製アジャイル開発体制の正式組織化実現に至る。

そして現在、内製アジャイルチームは約20名までに増えた。紙中氏は、3年以上かけて進めてきたDX推進プロジェクトで得たことや今後の取り組みポイントを最後に紹介してセッションを締めた。

「内製アジャイル化の試行錯誤を通じて、曖昧で膨大な課題に直面しても自分たちの文脈で課題を捉え直してその解像度を高めればクリアしていけるという気付きを得ました。また内製化することで新しい技術環境への理解が進み、基幹システムの次世代要件に対する解像度を高めることができたなど、従来の基幹システム開発業務においても得たものがありました。

今後注力することは開発者の目標がビジネス課題の解決に直結すること。つまり開発者とビジネス部門とお客さまのシームレス化に取り組んでいきます。言い方を変えると、効率的にサービスを作り出す便利なツールはたくさんあります。しかし、実際にお客さまに喜んでいただける、そして他社とは異なるセブン銀行ならではのサービスやアプリを開発するには、開発者とお客さまの距離を縮め、開発者自身がお客さまの抱える課題そのものを理解する意識ならびに体制が重要だということです。」(紙中氏)

変化への対応は20年以上前から宣言されていた

セッションの締めは、アジャイル開発でスクラムマスターを務めている斉藤 大明氏だ。斉藤氏は先の2人が紹介した内容について、実際に現場で内製アジャイルを進めていく中での課題、その解決策について「個人的な感想も含みます」と補足した上で、説明を開始した。

まずは内製アジャイル化する理由について、先の2人の内容を補足した。

「内製化の目的は、変化への対応や適応だと考えています。滝沢からVUCAとの言葉が出ましたが、まさに今の社会はテクノロジーも含め、先行きが不透明です。

さらに、システムを利用する対象が一般の人にまで広がっていますから、そのようなテクノロジーに詳しくない人でも、快適に使えるサービスやアプリが必要です。また内製化すると開発途中での軌道修正時には契約の問題なども生じませんし、コミュニティロスは当然減るため、開発スピードも上がると感じています」(斉藤氏)

実際、同チームが開発したスマホアプリ「Myセブン銀行」は、最短10分で口座が開設できたり、キャッシュカードなしでATMの取引きできるといった点が評価され、iOSでは4.5、Androidでは3.4とまずまずのレビューとなっている。


Myセブン銀行アプリ:https://www.sevenbank.co.jp/personal/useful/app/mysevenbank/

アジャイルに興味を持つ人であれば、一度は見たことがある2001年に宣言された「アジャイルマニフェスト」。斉藤氏は同マニフェストの一文「計画に従うよりも、変化への対応を」を取り上げ、変化の対応の必要性は今に始まったことではなく、20年以上も前から指摘されていた、と付け加えた。


チーム編成・内製アジャイル開発での苦労と解決策

続いて斉藤氏は、チーム編成とその進行フローなどについて説明した。基本的にはスクラムで開発を進めるが、場合によっては同じくアジャイル開発の手法のひとつ「XP(エクストリームプログラミング)」の手法も取り入れている。

スプリントはおよそ1週間で、プロダクトオーナーは事業部の社員が、スクラムマスターは斉藤氏もしくは他のシステム部門のメンバーが、そして開発メンバーは当初は社外のエンジニアが大半だったが、現在では社内のシステム部門のメンバーも加わっている。

苦労や課題については以下4点を挙げ、特に①について細かく説明した。

①アジャイル、スクラムの理解
②案件に対して予算がつく
③人材不足
④やること無限にある

「プロダクトオーナーから開発者、ステークホルダーまで、すべてのレベルでマインドセットを変える必要があると感じました。言い方を変えると、考え方が従来のままでは、内製アジャイル化は難しい、ということです」(斉藤氏)

プロダクトオーナーやステークホルダーレベルでは、まさに紙中氏が説明したように、研修などを通じてアジャイルのマインドセットを理解してもらう。「ベロシティをKPIにする」といったありがちなフローについても、斉藤氏は次のような見解を示す。

「そもそもベロシティはそこまで正確な指標ではありません。チームとして生産性を上げていく姿勢は重要ですが、ベロシティをKPIにして外側から監視した瞬間にポイントを多く見積もる可能性があり、透明性がなくなります」(斉藤氏)

斉藤氏はセッション中、「プロダクトオーナーのスクラム(アジャイル)に対する理解が重要」との発言を何度も繰り返した。難度が高いからこそ、成否はプロダクトオーナーにあるということである。

各種イベント時にはポジションが上の関係者まで招くことが結果としてプロジェクトがうまくまわるポイントだと説明した。

そして今の内容とも関連するが、そもそもミッションは何なのかをチームはもちろん、全社的に共有することが重要であり、社外の協力メンバーについても同じだと付け加えた。

他の解決策、②については案件ではなく、体制を維持するための予算交渉が必要。③の人材不足に関しては、まさにTECH PLAYのような場に登壇するなどして、現場担当者自らがエバンジェリストとなり、積極的に採用活動をすること。④については相当な覚悟を持って臨む必要があると説明、以下のメッセージでセッションを締めた。

「繰り返しになりますが、内製アジャイル化を進めるには全社レベルにおいて、アジャイルへの理解、アジャイルマインドの浸透が肝要です。また内製アジャイルだけでなく、受託開発等の文脈においてもお客さまにもマインドセットを理解してもらうことが重要だと思います。」(斉藤氏)

【Q&A】参加者から寄せられた質問を紹介

セッション後、参加者から寄せられた質問に答えるQ&Aタイムが設けられた。


Q:マイナスな意見を出す抵抗勢力や、理解のない上司や役員への対応はどうしたらいいか。内製化を提案したら「自前で技術者を育てるなんてコストの無駄」と一蹴されたが…。

滝沢:対処方法は2つあると思います。1つ目は、トップダウンで強引に進める。もうひとつは一気に進めずに、徐々に広げていく手法です。セブン銀行の場合はどちらかというと後者でした。抵抗勢力は少なからずいますが、幸い特に上司や役員レベルではあまりなく、比較的順調に進んだと思います。

紙中:イノベーションを推進するセブンラボが立ち上がった時期と重なっていたため、全社的に新しいことに取り組もうとの気風が漂っていたように思います。またパートナーの大手SIerとの情報交換の場でも、これからは内製アジャイルとのキーワードが出ていようです。

滝沢:時代のトレンドであること。人材こそビジネスならびに競争力の源泉であること。これらのことを経営者に伝えると、響きやすいと思います。

Q:経験の乏しい組織が、新たなソフトウェア開発の技術習得のために取り組んだことは?

斉藤:私の場合、経験はゼロではありませんでしたが、やはりメインはレガシーな言語で、WEB技術などは詳しくありませんでした。ただやる気はありました。そのため詳しいパートナーから教わったり、同じくやる気のある人を巻き込んだりしました。ただ結論としては、当人がハードに勉強することが重要だと思いますし、実際、私がそうでした。

紙中:今は外部エンジニアと協業することが多いのですが、若いメンバーが多いこともあり、一緒になって勉強、成長していきましょうとの雰囲気を醸成するようにしています。

滝沢:地道に積み重ねていくしかないと思います。

Q:評価や採用基準は他のチームと異なるのか

滝沢:設定目標や求めるスキルなどは異なりますが、基本、大きな違いはありません。

Q:サイバーセキュリティに関して現場の考えや対応を聞きたい

斉藤:脆弱性診断などのアプローチをしっかり踏んでいるほか、脆弱性に関するトレンドのキャッチアップを、チーム内でしっかりとやっています。

Q:OSSの活用や採用基準について

滝沢:採用基準は具体的にルール化されていません。ただし、実際のプロダクトで利用する場合は継続的なOSSであることを意識しています。

Q:ウォーターフォールからアジャイルへの移行や統制について

滝沢:進めながらルールを決めるなど、緩やかに移行していきました。統制においては、本番と開発の分離やアクセスコントロールなど、どちらでも同じく重要なポイントはそのままに。一方、開発工程における品質評価などは、アジャイルに合わせて柔軟に変えていきました。

Q:グローバルと比べて、日本にアジャイルが浸透しない原因と対策について

斉藤:一言では説明できない難しい質問ですが、私個人としては先ほど説明したとおりです。正しく理解するための勉強に取り組む人や、危機感を持っている人が少ないことだと感じています。

滝沢:私も個人的な意見になりますが、まず、アジャイル的なマインドセットを持つ日本の企業が少ないことです。事業会社にエンジニアが少ないのも原因でしょう。内製とアジャイルはセットだと思うからです。アウトソーシングでのアジャイル事例もあるとは思いますが、なかなか難しいと思っています。

Q:デザイナーは内製で在籍しているのか

斉藤:内製でおりますが、プロジェクトへの関わり方については模索中です。

紙中:これまでは開発要件が決まってからデザインすることもありましたが、今後は最初の段階でどのようなUI/UXをお客さまに提供するのか。これまで以上にデザイナーの力を活用したいと考えていて、今まさにそのプロセスをデザインしているところです。

滝沢:システム開発に限らず、デザインは大事です。そのため開発プロセスに組み込むことが非常に重要だと考えています。

Q:リモートでアジャイルを行う際の課題・対策は?

紙中:アジャイルというよりもリモートでの観点ですが、まずは使っているツールに関して。一般的なZoomのほか、miroを頻繁に使っています。私は現在アメリカに駐在しているので、チームのメンバーとはリアルに一度も会っていません。 そのため業務だけを効率的に一直線に行うのではなく、リアルのコミュニケーションであれば発生する、仕事以外の会話などを意識しています。具体的にはお互いがどのようなことを考えているのかを拾い上げ、会話をすることが必要だと感じています。

Q:ドキュメントは作成しているのか

斉藤:開発中は必要なものベースですが、保守などの際に必要だと思うドキュメントは後で作成しています。そもそもマニフェストにも、ドキュメントも大事との記載があります。


株式会社セブン銀行
https://www.sevenbank.co.jp/
株式会社セブン銀行の採用情報
https://hrmos.co/pages/sevenbank/jobs


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