SE・PMからキャリアチェンジした4人が語るキャリアプラン ──未経験でデータサイエンティスト・アナリストを目指すには?
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■登壇者プロフィール
有限責任監査法人トーマツ ディレクター 松本 清一氏
大手SIerで金融・証券等のシステム構築に従事。その後、事業会社での分析組織立ち上げなどを経験し、現職。DX、データ/AIの利活用やガバナンス、分析基盤構築支援などの幅広い分野でAnalyticsプロジェクトをリード。
有限責任監査法人トーマツ 巻口 歩翔氏
大手ITコンサルティングファームにて、スポーツチーム向けのITコンサルティング業務及び、デジタル化・データ分析支援を経て現職。トーマツでは主に企業のデータ分析の高度化に係るアドバイザリー業務及びAIガバナンス高度化支援に従事。 日本ディープラーニング協会(JDLA)AIガバナンス分科会研究員。
有限責任監査法人トーマツ シニアマネジャー 奥野 史一氏
国内ITベンダーでのシステムエンジニアや外資系IT企業にて公共セクター向けコンサルタントなどを経て現職。サイバー攻撃、テロリズム、暴動等、安全保障に関わる情報調査及び情報保護能力向上を目指した活動や、防衛・安全保障組織のテキストマイニング、AI技術を活用した情報分析や情報漏洩対策プロジェクトなどに従事し、専門はAI、機械学習、テキスト分析から、デジタルガバメント、防衛・安全保障、サイバーセキュリティ、インテリジェンス(OSINT)と多岐にわたる。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。
有限責任監査法人トーマツ マネジャー 三枝 聡氏
大学院修了後、商社系SIerにて、DWH構築やBIシステム構築など情報系システムの開発から運用に至るまで経験。現職では、幅広い分野・業態に対してデータ分析を活用したアドバイザリー業務等に従事。近年は、ライフサイエンス領域を中心としたRWDを活用したDB研究の実行支援を担当しつつ、データ利活用組織の新規立ち上げやAI/データガバナンスに係るアドバイザリー業務へも注力。
改革のカタリストとしてクライアントの課題を解決に導く
まずはディレクターの松本清一氏が登壇し、デロイト トーマツ グループならびに、アナリティクスチームの概要や特徴、強みについて紹介した。
「デロイト トーマツ グループは、会計監査を中心に行うプロフェッショナルファームだとイメージしている人が多いと思います。実は監査法人に加え、国内クライアントのリスクアドバイザリー、コンサルティング、ファイナンシャルアドバイザリー、法務・税務など、あらゆる業界の課題解決において、一気通貫で多様なサービスを提供しています」(松本氏)
DX案件であれば市場調査から始まり、戦略立案、データ活用、オペレーションまで。ビジネスの入り口から最後まで、エンドツーエンドで様々なサービスを提供している。一方で、世界四大会計事務所の中でも最大規模を誇るため、ビジネスのフィールドも人材の規模も大きいことがデロイト トーマツ グループの特徴であり、強みだ。
具体的には、世界150カ国に30万人以上のプロフェッショナル人材を有し、国内においても30以上の拠点を構える。つまり、広く深くサービスを提供しているプロフェッショナルファームと言える。
その中にあって、本日登壇した4名が所属するデロイトアナリティクスは、まさに同ファームが持つグローバルで多様なサービスを体現している部署と言える。データサイエンティストやデータアナリストをはじめ、専門家を有するプロフェッショナルチームでありながら、グループを横断した様々な業界に、サービスを提供しているからだ。
医療、金融、人材、製造業、保険業、エネルギーなど、様々な領域のデータを活用したAIなどのITソリューションを開発・提供するだけでなく、研究開発部門も有している。また、アナリティクスに関する方法論や新たなツールを生み出すために基礎研究開発も行う。
そのため、論文発表、特許出願、企業や大学との連携や共同研究など、アカデミックな事業も手がける。チームの役割について、松本氏は次のように説明した。
「私たちの目的は、クライアントの課題を解決することです。データ分析やアナリティクスはあくまで手段に過ぎません。AIなどを活用し課題を解決することで、クライアントのビジネスを変革する。その一端を担う、カタリスト(触媒)だと捉えています」(松本氏)
ビジネス・テクノロジー両スキルを持つパープルピープルを求める
松本氏は求める人材像についても、課題の見極めからデータの分析、インサイト、戦略決定、実施まで言及。アドバイザリーやコンサルティングの一連業務を完遂できるビジネスマインドならびにスキルを持つ人材であり、具体的には以下4つのスキルを挙げた。
【求める4つのスキル】
・ 情報収集・応用力
・ 積極性・チャレンジ精神
・ 想像力・先進性
・ 適応能力・協調性
つまり、データサイエンティストやアナリストといったテクニカルな専門家としてだけではなく、コンサルティングスキルを持つ人材である。松本氏いわく「ビジネスとテクノロジー両スキルを兼ね備えた、パープルピープル」とのこと。
テクノロジー・アナリティクス領域を赤、ビジネス・コミュニケーション領域を青とし、両領域が融合している人材、つまりパープルという意味だ。一方で、入社時点はこれらすべてのスキルを持っている必要はないと補足した。
「重要なことは、これらのスキルを身につけるために、積極的にチャレンジできるかどうか。先ほど説明したように、データ分析やツールの活用はあくまで手段であり、クライアントと一緒になって課題解決を成し遂げるマインドを持っているかどうか。これらの要素が重要です」(松本氏)
研修・教育においても業界トップのメンバーから学べる
松本氏は、教育制度、職場環境、キャリアパスについても触れた。働く環境では、仕事と家庭の両立を実現するために、裁量労働制や、コロナ禍の影響も含め在宅勤務などを導入。企業内保育所なども設けている。
※2021年5月現在
教育制度では先述したとおり、ビジネス・テクノロジー両方のスキルをアップするために、両ドメインの研修が各種行われている。コンサルティングスキルでは、ロジカルシンキング。テクノロジー領域、データサイエンティストのスキルでは統計スキル、といった具合だ。加えて、海外研修なども整備されている。
松本氏は次のように話し、セッションを締めた。
「メンバー同士の交流を深めるための各種勉強会、イベントなども定期的に行われており、そのような場を通してもグローバル、様々な業界のトップクラスの人材から、直接学べる環境も整っています」(松本氏)
SE、PMのスキルを活かしながらコンサルスキルが身につく環境
続いて登壇した巻口歩翔氏は、最初に自身がデータサイエンティストにキャリアチェンジしようと考えてからの準備、対策などを紹介した。
具体的には、なぜコンサルティングファームに絞り、デロイト トーマツ グループを選んだかである。
「大学や企業の研究職は、未経験からでは難しいと感じていました。SIerも含めた一企業内のデータサイエンティストは、担当業務の規模がそれほど大きくないだろうと考えました。実際、前職でも同様のチームがあったため、規模感を知っていたこともありました」(巻口氏)
一方、コンサルティングファームのデータサイエンティストチームであれば、まさに先ほど松本氏が紹介したように、対象となる業務範囲も大きい。クライアント企業も多様であるため、自分がこれまで培ってきたスキルを活かす領域もあるだろうと考えた。
デロイト トーマツ グループを選んだのは、ベンチャーとは異なり、給与・待遇面がしっかりしていたから。実際、給与がダウンすることはなかったそうだ。繰り返しになるが、巻口氏の持つ専門性を、会社側が評価したためである。実際、現在も多様な人材を募集していて、ドメインは違えど、巻口氏と同じく専門領域でキャリアを積んでいれば、給与が下がることはないことが窺える。
「データ分析業務を本格的に取り組みたいと思ったことも、デロイト トーマツを選んだ理由でした。スポーツ領域のデータ分析業務はこれまでも経験があったのですが、同分野ではどうしても、実際にスポーツを行ってきた選手にはかないません。そこでデロイト トーマツであれば、ビジネスロジックや論理的なスキルも身につけ、多くの業界におけるデータ分析業務に関わることができると思いました」(巻口氏)
実際、巻口氏は入社後、幅広い業務を経験していく。具体的には、上記スライドに示されている領域や業務内容だ。ただし、同プロジェクトへのアサインは、巻口氏が望んだからであり、特定領域に特化していくキャリアパスもあるという。携わったプロジェクトから、具体的に2つの事例「データ分析基盤の構築支援」「AIロードマップ検討」が紹介された。
前者のプロジェクトでは、要件定義に向け論点を整理したり、システム化を担当。これまで行ってきたシステム構築のスキルが存分に発揮できた事例であり、「SE、PMキャリアを持つ人材であれば間違いなく活躍できる」と語った。
一方、後者の事例は真逆だ。保険会社のDXを推進する案件であり、巻口氏はまさしくコンサルタント、AIの専門家としてプロジェクトに参画。グループの保険業界を専門とするチームと協力しながら、クライアントへのヒアリング、AIロードマップの作成、実現に向けた各種施策の実行などを行った。
「同プロジェクトで使ったスキルは、私がデロイト トーマツに入ってから身につけた、伸びたスキルです。つまり、デロイト トーマツのデータサイエンティストであれば、これまでSEやPMとして培ったスキルが活かせる。一方、新たにビジネスコンサルティングスキルも身についていることを、まさに実感しています」(巻口氏)
巻口氏は、実際どのようなスキルが役立ち、入社してからはどんなスキルが身についていったのか。先ほどの青と赤、パープルピープルではないが、ハード・ソフト両面、テクノロジー・ビジネスサイドどちらにもおいて、万遍なくスキルが活用かつ、成長していることが一目で分かるスライドを見せて説明し、セッションを終えた。
丸の内にオープンしたイノベーション創発施設「Deloitte Greenhouse」
ちなみに、今回イベントを配信していた場所は、2019年6月に丸の内にオープンした「Deloitte Greenhouse」というイノベーション創発施設である。従来のアプローチでは解決が難しかった課題に対し、ブレークスルーを生み出すことを目的とした施設であり、竹林や茶など、和のテイストを意識した造りになっている。
一方で、大画面のタッチパネルやデジタルサイネージといった最新のテクノロジーも満載。コロナ禍でなければ、各種ラボやセッションが活発に繰り広げられている。
【パネルディスカッション-テーマ1】転職前にやっておいた方がよいこと
続いては、松本氏がモデレーターとなり、奥野氏、三枝氏も加わった総勢4名で、パネルディスカッションと、視聴者からの質問に応えるQ&Aセッションを行った。
巻口:専門スキルを持っている人であれば、どのような専門スキルなのか、どのような課題解決やビジネスに役立つのかを整理すること。入社後は、自分の得意分野を知らない分野の方たちと協業することになりますから、そのような方にも自分の強みをきちんと説明できるよう、整理しておくとよいと思います。
奥野:大きくは2つあります。1つ目は、プロフェッショナルファームやコンサルティングファームとはどういった組織で、どのような働き方、業務をするのか、事前にある程度イメージしておくことです。具体的には、Webサイトでも書籍などで、目を通しておくことが大事だと思います。
もう1つは、マネージャーポジション以上の方に対してです。営業的な役割も求められますから、改めて人脈を整理しておくと後々役立つと思います。具体的には、人間関係の基本、信頼関係の構築です。社内に限らずクライアント、関係者すべてに対して行うといいでしょう。連絡をマメにすることも重要だと思います。
三枝:私も大きく2点あります。1点目は、新しい情報を逐次取り入れる必要がある環境になりますから、情報をしっかりと収集できるツールや機会を、整備しておくことです。もう1点は、仕事のオン・オフのメリハリがつけられるように、自分なりの気分転換法を持っておくとよいと思います。
【パネルディスカッション-テーマ2】転職時に想定と違ったこと
奥野:入社前はコンサルタントに対して、「どのような業務も高いレベルで、すべてこなすスーパーマン」というイメージを持っていました。実際に入社してみると、レベルが高いことは間違いありませんが、それぞれが専門領域を持ち、役割が明確化されていました。そのため自分ではレベル不足と感じる分野は、同領域の専門家にお願いする。あくまでチームとしてプロジェクトを進めています。
松本:ハードに夜中まで働く。営業ノルマが厳しい。このようなコンサルタントにありがちなイメージも、誤解です。厳しい基準は人によって解釈が異なるので難しいところですが、電話でアポを取るようなことはありませんし、繁忙期はやはりハードに働きますが、それはITの開発でも同じこと。ずっと続くわけではありません。
巻口:幅広い業務に携われたことです。想定していたよりも多種多様なな業務に携わる事がありました。PoCやAI開発だけではなく、携わるとは思っていなかったガバナンスや調査研究員のような業務まで経験できている。キャリアの広がりを感じています。
三枝:プログラミング作業が意外と多いこと。実際、業務の半分は同作業です。そのためSE・PMの方は入社後、大きなアドバンテージになると思います。転職前はパワポ作りが業務の大半だと思っていましたが、データ分析を行った上で資料を作る、という業務フローです。
松本:2人は想定していなかった仕事にチャレンジしてみて、どのような気づきを得ましたか?
巻口:思考・スキルの幅が広がると感じています。特に、AIガバナンス業務は物事の本質を考える必要があるので、成長に繋がっていると思っています。
三枝:資料作成はもともと得意な業務ではありませんでした。しかし、プログラミングは得意であったため、同業務をスピーディーに行うことで時間を捻出。その時間をじっくりとパワポのスライド作成に充てており、同業務において習熟できていると感じています。
【パネルディスカッション-テーマ3】データサイエンティストに向いているタイプ
奥野:社内だけでなく、クライアントや協力会社に対し、自分の考えをしっかりと伝えることができる、関係者の間に立ち、まとめることができる。このようなコミュニケーション能力を持つ人ですね。
加えて、プログラミングも含めたシステム構築のスキルも必要だと思います。つまり、PM経験者であればどちらも持っているので、プロフェッショナルファームやコンサルティングファームのデータサイエンティストとして働くメリットは、大きいと思います。
三枝:プロジェクト全体を見据えることができる方です。自分は何をすべきなのか。一方で、自分に足りない部分はどこなのか。その上で、好奇心を持ちながら、能動的にスキルアップしようと動ける方です。
巻口:これまでのキャリアと異なるのは、ビジネスの相手が技術の専門家ではない、ということです。経営者やビジネスサイドのメンバーとやり取りするDX案件は、まさに代表例です。このような環境にストレスを感じない方が向いていると思います。
【Q&A】参加者から寄せられた質問を紹介
Q:他のビッグ4との違い、強み、弱みは何か?
強みは先に説明したとおり、世界でも最大規模のプロフェッショナルファームなので、多種多様な業務に携われることです。特に、R&Dについてはデロイトアナリティクスのトップである神津友武が注力していることもあり、他のファームで見られない特徴であり強みだと思っています。
一方、弱みに関しては組織が巨大過ぎるために、各分野の専門家を見つけるのに、社内ツールなども用意していますが、少し時間がかかることです。
Q:BI製品などにはない、データサイエンティストの価値の本質とは
繰り返しになりますが、ツールを活用しての分析はあくまで手段です。私たちの目的は、クライアントの課題をどのように解決するか。その解を、データサイエンティストという専門性を活かしながら、考えることだと考えています。
Q:多様なだけでなく、規模の大きなデータ分析案件にも携われるか
携わることは可能です。機械学習やモデル作成といった小規模な業務がある一方で、データ分析基盤の構築や、組織を横断してのDX案件などは、規模が大きい案件と言えます。
Q:どのようなタイプがデロイトアナラティクスチームに向いているか
アナリティクスに向いているタイプは、原因を深因するなど、深く考える特性を持っていたり、アナリティクスに興味を持っている人だと思います。先ほども少し触れましたが、好奇心旺盛で、知らないよりも知っているのを好むタイプです。さらに、データ分析の結果をビジネスに活かしたいと思える思考性の方が、私たちのチームに向いていると思います。
Q:現在、SIer勤務なので人との接点が少ない。コンサルタントにキャリアチェンジしたら苦労するか
私たち4名も含め、多くのメンバーがSIer出身であり、ご質問のように、人前で話したり、コミュニケーションが苦手なタイプもいます。コンサルタントにおいてコミュニケーション力は必須ですが、経験を積むことで次第に慣れていきます。また、私たちはコミュニケーションスキルに自信がないメンバーに、手を差し伸べる文化や環境も持ち合わせています。