パナソニック コネクトが語るBlue Yonderと共創する未来、「CPS技術」研究開発現場のリアルとは

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パナソニック コネクトが語るBlue Yonderと共創する未来、「CPS技術」研究開発現場のリアルとは
パナソニック コネクトは、BtoB ITサービス分野で最先端ソリューションを提供する事業会社である。2021年には世界最大のサプライチェーン・ソフトウェア専門企業、Blue Yonder(ブルーヨンダー)の全株式を取得。サプライチェーンデジタル化の強みをかけ合わせることで、さらなる価値提供を推進する。今回のイベントでは、Blue Yonderとパナソニック コネクトの協業やアーキテクチャー、それらを支えるCPS技術の研究開発について語った。

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Blue YonderとPanasonic Connect R&Dの取り組みとCloud Architecture

安達様
パナソニック コネクト株式会社
技術研究開発本部 ソリューション開発研究所 所長 安達 久俊氏

最初に登壇した安達氏は、日本IBMでソフトウェアエンジニアとしてキャリアをスタートさせた後、現場の開発業務からコンサルティングまで、さまざまな領域・ポジションで活躍。2022年3月にパナソニック コネクトに入社し、現在はソリューション開発研究所の所長を務める。

まず安達氏は、現在のサプライチェーンを取り巻く世界情勢や状況について触れた。米中貿易摩擦、新型コロナウィルスの蔓延、ロシアのウクライナ侵攻。ここ3~4年の間に起きた3つの大きな事象により、サプライチェーンは世界レベルで混乱をきたしている。

「Global Supply Chain Pressure Index(GSCPI)」という、サプライチェーンの混乱を表す具体的なデータによると(横軸が年号、縦軸が混乱の度合い。波が大きく揺れているときが混乱状態を示す)。ここ数年の混乱が、これまでの状況と比べいかに激しいかが、見て取れる。

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今回のサプライチェーンの混乱を、グローバル1500社にアンケートしたレポートも紹介された。被害金額は平均約200億円(182ミリオンドル)、サプライチェーンの再構築を考えている企業が64%。一方でリスクをモニターしている企業は11%と少なく、今後1年以内にITを活用し、リスクを見える化したい企業は77%にも及ぶ。

「既存のサプライチェーンがディスラプション(破壊)されてしまったからこそ、逆に再構築といった観点で投資が積極的に行われています。中でもソフトウェア業界が特に脚光を浴びています」(安達氏)

サプライチェーン・ソフトウェア専門企業として、35年以上の歴史を誇るBlue Yonderは、まさにその1社と言えるだろう。近年はクラウドやAI・機械学習などの最新テクノロジーを活用。グローバル78カ国、3000社以上の企業のサプライチェーンのデジタル・効率化を支援している。中でも製造・物流・小売業界のグローバルトップ企業の利用率はかなり高い。

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パナソニック コネクトは2019年からBlue Yonderと協業を開始し、2021年9月に全株式を取得し完全子会社化。社内でもBlue Yonderの導入活用を進めている。

Blue Yonderは、Azure上にホスティングされたLuminateプラットフォームと呼ばれる基盤の上にSCM全体をカバーするソリューションが構築されている。Luminateプラットフォームの上には、インダストリーごとの業務アプリケーションやソリューションが、マイクロサービスとして搭載されたアーキテクチャーとなっている。

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OracleやSAPなど同様の製品を提供しているベンダーもあるが、プラニングからエグゼキューション、リテールなど、サプライチェーン全般の領域をカバーしているのはBlue Yonderだけだと、安達氏はBlue Yonderの優位性を語る。一方で、以下のような取り組みも行っている。

「Blue Yonderのソフトウェアは歴史が長いこともあり、何十年も使われているオンプレミスで動作するアプリケーションなどもあります。そうしたスタックは、クラウドネイティブなモダンモデルに置き換えています」(安達氏)

Blue Yonderのマイクロサービスアーキテクチャは、巨大なKubernetes上でマルチテナントとして構築されており、各ソリューション開発はCI/CD、DevOpsで継続的に進めることが可能だ。

プラットフォームの核となるのが、Stratosphereと呼ばれる基盤部分だ。Stratosphereに搭載されたマイクロサービスは、APIやUIを介して利用することができ、利用企業は自社にフィットしたアプリケーションの開発ならびに管理を容易に行うことができる。

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パナソニック コネクトのアセットをかけ合わせ、最適化ソリューションを構築

Blue Yonderソリューションのさらなる進化を目指し、開発をサポートする業務がある一方で、パナソニック コネクトのアセットを活用、かけ合わせることで、新たなソリューションの創出も目論む。目指すのは「オートノマスサプライチェーン」だ。

パナソニック コネクトが現場で培ってきた、センシング、ロボティクス、AI・コンピューティングといった技術やソリューションからは、製造、物流、流通、その他各現場から、膨大なデータが抽出される。

「このデータをBlue Yonderのプラットフォームにリアルタイムで取り組み、最適化のフィードバックループを回すことで、サプライチェーンマネージメント(以下、SCM)の全体最適化ならびに、オートノマス(自律)を実現します」(安達氏)

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現在は、店舗・倉庫(ウェアハウス)・物流拠点での導入、効果実現に注力しており、いくつかのユースケースも紹介された。

1つ目の事例は、倉庫におけるヤードマネージメントだ。北米のあるヤードでは、倉庫ならびにトレーラーが入ってくる駐車場の広さが、数キロメートル四方といった広さであり、駐車しているトレーラーは数百台にも及び、入退出管理も大変である。しかもトレーラーは、荷台と運転部が分かれており、荷台部分をどこに置いたかを現状管理していないお客様も多い。

荷台に記された番号や運転部のナンバープレートを、カメラならびにOCRで自動判別。これまで人が紙で行っていた入退場のマネージメントも含め、自動で認識・管理する仕組みをソリューションとして開発している。

安達氏は、「今後は荷台や運転部がどこに駐車されているかまで把握できるようにしたい」と、意気込みを話した。

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続いての事例は、デジタルスロッティングだ。AI技術を活用し需要予測を行うことで、どの商品をどこに、どれくらいの量置けば、ピッキング作業が効率化するかを提示する。

「ピッキングは倉庫におけるオペレーション業務の6~7割を占めます。同業務の作業効率を上げれば、サプライチェーン全体の効率化につながると期待しています」(安達氏)

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先のようなピッキングも含め、倉庫で働く人のタスクは事前にコンサルタントが視察し、各作業タスクの標準時間をストップウォッチなどで測りながら、アナログ的に1~2カ月かけて決定する。これをレイバーマネージメントという。

このレイバーマネージメントを、過去の実績や他の倉庫データを活用することで、科学的に標準時間を決定していく仕組みも開発している。

同じくAIを活用して、現在どこに荷物があり、いつ届くのか。これまで人に頼っていた到着時間の予測を科学的に行い、ソリューションとして提供する取り組みも進められている。

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CPS技術の展望、現場における研究開発事例を紹介

大坪様

パナソニック コネクト株式会社 
技術研究開発本部 先進技術研究所 
CPSアーキテクチャー研究室 室長 大坪 紹二氏

続いて登壇した大坪氏は、大学院を卒業後、松下電器産業(現パナソニック)に入社。以降、一貫してR&D部門に所属しエンドユーザー向けの家電からデータベースの要素技術、新規事業までと、幅広い領域の研究開発業務に従事してきた。

2015年にパナソニック コネクトに移った後もR&D業務に携わっており、現在はCPSアーキテクチャー研究室の室長として、製造・物流・流通を中心としたBtoB向けのAI技術ならびに、情報技術の研究開発や新規ソリューション創出に取り組んでいる。

大坪氏は最初に、CPS技術を研究開発する社会課題などの背景について触れた。日本国内における労働人口の不足は顕著であり、2030年には644万人が不足するとのデータが出ている。シニア、女性、外国人といった人材を積極的に採用するとの施策を行っても、約半数の298万人が足りないと予測されている。

「このような状況を踏まえ、基幹系システムやオフィス業務など、著しい生産性の向上が必須です。特に勘や経験に頼っている現場では、業務の革新が求められます」(大坪氏)

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一方で、デジタル化も含め現場業務の効率化を進めるには、先の領域のようにWeb上の技術だけではうまく対応できないという。そこで重要となってくるのがCPSだ。

CPSはCyber Physical System(サイバーフィジカルシステム)の頭文字を取った言葉であり技術だ。実空間(フィジカル空間)で人やもの、機械などにより生じた情報をセンシングする。

得た情報をデジタル化し、クラウドなどのサイバー空間にアップ。AI・コンピューティングにより業務の最適化を行い、再びに実空間にフィードバックする。このループを繰り返すことで、現場業務の効率化をスパイラル的に高めていく。

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CPSは人が目や耳といったセンサーを使い、脳で判断している処理やループと同じだと大坪氏は解説する。技術領域としては、「AI・コンピューティング」「センシング」「ロボティクス」の3つに分けられる。技術の詳細や具体的な研究領域は以下の図の通りだ。

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物流計画を最適化するAIモデルを開発

大坪氏は、具体的な研究開発事例、物流(配送)の計画最適化も紹介。課題として挙げられるのは、エンドユーザーの自宅に届けるまでのラストワンマイルだ。配達数が増加しているのに反し、ドライバーの数が減っていることが原因である。IT導入で解決したいが、配送業者の99%が中小企業であり、大規模な投資が難しいという現状がある。

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効率的な配送計画を作成するには、配達日時、ルート、トラックの割り当てなど条件が複数あるため、組み合わせにすると膨大な量となる。スーパーコンピューターで処理したとしても、全部の組み合わせを計算するには、かなりの日数がかかってしまう。ベテランメンバーの勘と経験で対応しているのが現状だ。

そこで大坪氏は、現場の配送モデルを数理モデルに落とし込み、シミュレーションで最適解をスピーディに抽出する取り組みを行った。数理モデル作成に必要となるパラメータは、先述の通りだが、ドライバーによって作業量が異なるという要素も加味する必要があった。

「研究者が実際に配送しているトラックの助手席に同席し、ドライバーはどのような業務を行っているのか。ドメインナレッジを体感し、条件として抽出していきました」(大坪氏)

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こうした努力もあり、数理最適化による「配送計画ソルバー」は開発された。実際にシミュレーションを行うと、ベテランでも10~20分かかっていた配送計画の策定を、わずか2秒で処理する。総走行距離については、22%も改善される成果を得た。

すでにクラウドサービスとして提供しており、料金は1オーダーあたり数十円に設定。まさに中小企業にとっても、使いやすいサービスと言えるだろう。

一方で、ドライバーは指示された配送計画以外にも、渋滞や車線数、傾斜といった道路の特徴を加味して配送を行っている。配送計画ソルバーが算出した案よりも、ベテランドライバーの判断の方が効率的であるということも分かった。

そこで、ベテランドライバーの走行履歴、経験から得ている道路の特徴量といった最適な行動情報を逆強化学習にかけ、道路報酬モデルを算出。特徴量付きの道路コストマップを抽出し、マップと先述のソルバーをかけ合わせることで、最適なルートの提示を実現した。

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Blue Yonderのコア技術を共同研究によりさらに発展させる

続いて大坪氏は、Blue Yonderについて、歴史も含めて改めて紹介した。Blue Yonderは2002年、ドイツで粒子研究をしていたMichael Feindt教授が、粒子の過去の振る舞いから学習し、将来の振る舞いを予測するニューロベイズ・アルゴリズムを発明したのが起源だ。

以降、研究を重ねていくうちに同アルゴリズムを活用すれば、需要予測分野で社会に貢献できるだろうと、2014年にリテール領域に注力。商用ソリューション利用可能なレベルの需要予測アルゴリズム「Cyclic Boosting」を開発。

その後、Blue YonderはJDA Softwareに買収されるも、社名変更により再びBlue Yonderの名前が世に残ることになり、現在に至る。

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大坪氏は、Blue Yonderのコア技術とも言える需要予測アルゴリズム「Cyclic Boosting」の特徴について解説した。

特徴の1つは、気温や価格といった説明変数の線形和として需要を予測する、シンプルな重回帰と、非線形的なモデリングが可能で高精度予測が行える決定木の2つの方式の特徴を兼ね備えるアルゴリズムだ。

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2つ目の特徴は、アルゴリズムを実行した結果の需要予測が一定値ではなく、確率分布として表現されるため、人が最終的に意思決定する際に利用しやすいという。高いロバスト性も兼ね備えており、実際、Blue Yonderの「Luminate Demand Edge」というソリューションに導入されている。

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現在はパナソニック コネクトのアセットを活用し、さらなる最適化を目指して共に研究開発を行っている。共同研究の開発事例もいくつか紹介された。

1つは、次世代需要予測である。先述した需要予測アルゴリズムは優秀ではあるが、一部の製品や店舗では精度が不十分な場合がある。そこで深層学習領域で用いられる、Entity Embeddingというニューラルネットワークで、カテゴリ変数を扱いやすくする手法を導入。予測精度を高めようとしている。

こちらの共同研究では、Blue Yonderの技術をパナソニック コネクトが学ぶという流れで進められているという。

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2つ目の事例は、次世代配送最適化だ。こちらの取り組みにおいては前述とは逆に、パナソニック コネクトの技術、具体的には先ほど紹介したラストワンマイルの配送効率化で使っている技術や、実際に開発したソリューションなどを、Blue Yonderに共有しながら進めている。

具体的には、ラストワンマイルの配送効率化ノウハウを、船舶や鉄道を使った都市間などの広域で物流においても活用し、成果を出していく。というのも広域においてもラストワンマイルと同じく、現在はベテランの暗黙知に頼っているからだ。効率化だけでなく、リスク管理といったソリューションの開発も共同で進める。

最後に大坪氏は次のような目指すべき世界観を述べ、セッションを締めた。

「最終的には社会システム全体の最適化を実現することで、必要なものが必要な方に届き、不足もしない。そのような無駄のない世界を目指しています。実現にはAI機械学習、ソフトウェアといった技術が、ますます欠かせない領域として注目されていくことでしょう」(大坪氏)

【Q&A】参加者からの質問に登壇者が回答

続いては、イベントを聴講した参加者からの質問に回答するQ&Aセッションが行われた。

Q.Blue Yonderとの共同研究による相乗効果は?

安達:ソフトウェアの開発手法や技術を、Blue Yonderから学ぶことができると考えています。楽しみながらスピーディに開発する社内文化や雰囲気も積極的に取り入れていますし、特に若手の技術者は大いに刺激を受けているようです。

大坪:Blue Yonderは起源がドイツの大学の研究室だったこともあり、現在でも優秀な学生が研究を進めています。集まる学生たちはイノベーティブな気質に加えて、AI・マシンラーニングの技術ベースを持ち、最新でユニークな機能を生み出しています。彼らと接することで、積極的に多くのことを吸収していきたいと思います。

Q.サプライチェーンと工場の融合は、データやAIの観点からどう進めるか

大坪:スマートファクトリーでは設備はIT化され、AIも導入されています。一方で、人の動作に関してはまだ不十分です。今後は人の動きも説明変数とすることで、最適化を進めます。目の前の仕事よりも他の業務をした方が最適だとAIが判断すれば実行するなど、人とAIが協調するようなイメージです。

また、工場の前でトラックが待つといった無駄も、デジタルツインなどを活用することで最適化します。一方で、サイバー空間のデータを各企業が提供しないと、全体の最適化は難しい課題があります。オープンにしたくない情報もあるため、提供した以上の見返りを提示することが、次なるステージに進むポイントだと考えています。

Q.パナソニック コネクトが持つ強みとは?

安達:入社して感じたのは、現場の問題をどうすれば改善できるのか、現場にしっかりと寄り添いながら解決まで導く。その経験値を多く持っているとの強みです。Blue Yonderとの協業でも、このような強みをかけ合わせることで、Blue Yonderのポートフォリオをもっと強くしたいと考えています。

Q.パナソニック コネクトが求める人材像とは?

安達:モチベーションが高く、何事も楽しめる方と一緒に仕事がしたいですね。頭で考えて悩むよりもまずはやってみるという行動力も大事です。失敗しても成功するまで繰り返す。自分自身がそのような技術者でありたいですし、共感してもらえる方を求めています。

大坪:常に新しいアーキテクチャーが出続けるため、日々学び続ける必要があります。言われてやるのではなく、学び続ける意欲があり、多くの課題に対して楽しみながらチャレンジを続けることができる。そんなイノベーティブ気質の方と一緒に働きたいですね。

パナソニック コネクト株式会社
https://connect.panasonic.com/jp-ja/
パナソニック コネクト株式会社の採用情報
https://connect.panasonic.com/jp-ja/recruit/career/

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