パナソニック コネクトCTO榊原彰氏が語る、Blue Yonderと目指す技術戦略とAI・センシング・ロボティクス活用とは
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「現場プロセスイノベーション」でより良い未来を実現する
パナソニック コネクト株式会社
執行役員常務 CTO 榊原 彰氏
今回登壇した榊原氏は、日本アイ・ビー・エムを経て、日本マイクロソフトの執行役員CTO、兼務でマイクロソフトディベロップメントの社長を歴任。
パナソニック コネクトでは、執行役員常務 CTOとともに技術研究開発本部 本部長、知財担当も務める。 パナソニック コネクトでは、「現場から社会を動かし、未来へつなぐ」をパーパス(存在意義)に、現場を支援するテクノロジーやソリューションを提供している。
パナソニック コネクトの主な事業領域は、製造・物流・流通・エンターテインメント・パブリック・航空である。特にSCM領域(製造・物流・流通領域)においては、昨年度買収した世界最大のサプライチェーンマネジメントベンダーであるBlue Yonderと協業しながら進めている。
CEOである樋口泰行氏が牽引するパナソニック コネクトのビジネス改革においては、「風土改革」「ビジネス改革」「事業立地改革」と3階層に分け、さまざまな変革に取り組んでいる。
1階の風土改革は、カルチャー&マインドの変革である。2階に位置づけられるビジネス改革においては、単に製品を販売するだけでなく、ソフトウェアも含めたソリューションやコンサルティングサービスを提供するビジネスへのトランスフォーメーションを指す。
3階の事業立地改革は、事業の譲渡や売却といった事業整理により、世の中から求められている利益率の高い事業に注力していくことを指す。
また、これまで培ってきた半導体製造領域における実装機や溶接機、メディアエンターテインメント領域におけるプロフェッショナル用途のプロジェクターなど、専鋭化されたハードウェアをベースとした事業をコア事業とし、後述するBlue Yonderのプラットフォームを活用したソフトウェアベースのソリューション事業を成長事業と位置づける。前者は徹底的に収益性を追求し、後者は成長性を重視する成長戦略と紹介された。
パナソニック コネクトが持つ既存のテクノロジーにBlue Yonderなどのソフトウェア技術を組み合わせることで、新たなシナジーを生み出していく。そして、両者の橋渡し役を果たすのが、榊原氏が本部長を務める技術研究開発本部である。
「テクノロジーの水平展開自体はよくありますが、我々はインダストリーごとに業種の深い知識を持って現場にフォーカスすることで、他社が追従できないビジネスが展開できると考えています」(榊原氏)
Blue Yonder×パナソニック コネクトでさらなる付加価値を創造
クラウド、AI・機械学習といった技術をベースに、サプライチェーンを効率化するソフトウェアを開発するBlue Yonderは、 リカーリング率69%、SaaSの維持率96%と、顧客から長きにわたり支持されており、また400を超える特許を誇る。
パナソニック コネクトが採用するクラウドソリューション「Luminate」ではAzureの上に全体を横断するプラットフォームがあり、その上にインダストリーごとのソリューションを搭載したアーキテクチャーとなっている。
「これだけサプライチェーン全般をカバーしているベンダーとしては、BlueYonderがNo.1と考えている」と、榊原氏は改めてBlue Yonderの強みを語る。
利用者は計画系のソルバーを使い生産計画などを立てた上で、実行系ソリューションを活用することで、計画の進捗等を確認できる。ここからが特筆すべき点だが、たとえば荷物を輸送する船の遅延が判明したとする。
すると、その後のサプライチェーンにどのような影響を及ぼすのか。AIなどで判断すると共に、実際に倉庫や店舗などに届く日時の推測はもちろん、対応策などもレコメンデーションされるのだ。
「まずは私たちが実際に使ってみて、Blue Yonderの良さを確認することが大事だと考えています。その上で、日本ではSCMソフトウェアは広まっていませんから、展開していこうと。我々との協業によるさらなるソリューションの進化や、ビジネスモデルの強化も視野に入れています」(榊原氏)
さらにはSCMソフトウェアを使って、製造、物流、流通それぞれの現場からデータを収集・分析し、SCM全体の最適化を図る『オートノマスサプライチェーン』の実現を目指している。そのためにパナソニックコネクトの保有するエッジデバイスや、センシング技術等のテクノロジーを組み合わせていくことを目論む。
またパナソニック コネクト現場で行われている取り組みと、冒頭に語られた「現場プロセスイノベーション」の内容が紹介された。
まずは、カメラやビーコンといったセンシングならびに、エッジデバイスなどのIoT技術を活用することで、現場における人の作業や動きをデジタルデータとして取得。人が行っていたよりも精緻に可視化する。
収集したデータはAIを活用し最適な動きなどを判断すると同時に、リアルタイムで現場へフィードバックも行う。このループを回すことで、現場は常に効率的な動きができる、という仕組みだ。
ITプロバイダーを目指す技術研究開発本部の役割と取り組みとは
続いて語られたのは、パナソニック コネクトをハードウェア単品を売るだけのメーカーから、ITプロバイダーへと変革させるために、榊原氏が率いる技術研究開発本部で行われている取り組みだ。
「入社して最初に取り組んだことは、研究ポートフォリオの明確化でした。優秀なプロジェクトも多くありましたが、雑然とやっているように感じたからです」(榊原氏)
榊原氏は開発にかける時間を横軸に、成果が出るまでのタイミングを縦軸とし、それぞれの研究テーマを当てはめていった。その上で、短時間で成果が出る、開発にも成果が出るまでにも時間がかかる、この2つのポートフォリオにフォーカスした。
前者はまさに今取り組んでいるBlue Yonderとのプロジェクトであり、後者は、例えば量子コンピュータの活用などである。後者について榊原氏は「ある意味“賭け”でもあるが、大化けする可能性がある」と説明した。
Blue Yonderのようなリカーリング率の高いビジネスを創出するには、マーケットを的確に知り、未来を予測した上で戦略を描く必要がある。そこで、オペレーションをブレイクダウンし、テーマごとに掘り下げていく体制に刷新した。
さらには、これまでは曖昧であったプロダクトマネージャーとプロジェクトマネージャーの担当業務を明確に定義。「オートノマスサプライチェーン」の実現に向けた取り組みについてもより深く説明した。
ポイントとなるのは、「CPS(サイバーフィジカルシステム)」だ。エッジデバイスなどで得たデータを元に、サイバー空間に現場と同じ状況を再現するデジタルツイン技術を活用する。
そして、CPSフローでの状況を踏まえた上で、現場で搬送などを担うロボットなどにも最適な制御を施していく。さらにはこのフレームワークを他の現場にも適用していく。セッションでは、センシング・AI・ロボティクス・シミュレーションなど、各領域の特徴や強みなどの詳細についても語られた。
これまで紹介してきたパナソニック コネクトが持つ技術にBlue Yonderのプラットフォームをかけ合わせることで、ミッションを実現していく。
特に、現在重点的に取り組んでいる領域は「店舗・倉庫・物流」といったサプライチェーン領域だ。すでに60近いユースケースをシナリオとして作成し、一つ一つ実装している最中であり、具体的な事例についても紹介された。
一例として、店舗のスマート化といったユースケースでは、動的に値段を変更し表示も変えるLIVE PRICINGや、フランチャイズ店舗が本部指示通りに商品を陳列しているかを確認するPLANOGRAM COMPLIANCEを説明。ソリューションの実例が紹介されると共に、次期ユースケース候補についても触れた。
また日本企業はソフトウェアやサービスといったいわゆる無形資産、IT・知財への投資が欧米企業と比べると弱いと榊原氏は指摘し、同社では、この領域にも注力していると語る。
知財戦略ではパートナーとの共創が重要であり、成功事例を持つグローバル企業や日本企業を参考にしながら推し進めていると説明した。
そして最後に榊原氏は、このような共創を実現するために、各地にファシリティの整った研究所や拠点を多数展開していることを紹介し、セッションを締めた。
参加者から多くの質問が寄せられたQ&Aセッション
続いては、榊原氏と同じく技術研究開発本部の大坪紹二氏がファシリテーターを務めたQ&Aセッションとなった。その中からいくつか紹介したい。
Q.パナソニック コネクトに入って感じたことは?
榊原:私がこれまで経験してきた外資系IT企業と比べると、ソフトウェアに関する開発スピード感が遅いと感じています。情報をキャッチアップし、アジャイルなどを導入し改革する必要があるでしょう。
一方、特にハードウェアに関する技術力については素晴らしいと思っています。また、幅広い事業を手がけるコングロマリット(複合企業)ですから、グループ会社同士のシナジーも大きいと考えています。
もうひとつ、大手企業にありがちな本社の経営陣にお伺いを立てる必要がないことも大きいですね(笑)。
Q.顧客課題を解決する際に大切にしている視点は?
榊原:現場を重視しています。現場を知らなければ上辺だけの理解で終わってしまい、本当の課題、イシューが考えつかないからです。また、ソリューションを提供することで、経営、ビジネスがどう変わるかを考えることも重要です。いわゆる経営視点を技術者にも意識してほしいと感じています。
Q.Blue Yonderとの取り組みや開発スタイルの違い、協業で意識していることは?
榊原:Blue Yonderはもともとドイツの工科大学で、ビッグデータ解析ならびにアルゴリズムを考えていた経緯から生まれた企業です。そのため大学の研究室のような雰囲気がカルチャーとして根付いており、日々、新たなアルゴリズムを考えています。
パナソニック コネクトとは実装を協業することはもちろん、新たな開発を一緒に行うなどの取り組みも行っています。DevOpsの採用など、ソフトウェア開発がいわゆる今どきのスタイルのため、開発スピードが速いです。まずはBlue Yonderの開発環境に統一するために現地に開発者や研究者を派遣し、直接学んでもらっています。
開発手法だけでなく開発者へのサポートが厚く、またDEI(Diversity Equity &Inclusion)まわりも学ぶべき点が多いので、合わせてお手本にしたいと考えています。