「やったことのないことを、やろう」。OKI 130年以上の歴史に新しい足跡を残すアイデアソンを開催。
1876年(明治9年)、アメリカのグラハム・ベルは世界で初めて電話機を発明する。そのわずか5年後である1881年、沖牙太郎が明工舎を設立し、国産電話機の製造を手がけた。——これが、OKIの歴史の第一歩となる。
その後、OKIは電話事業を主軸にしながらも、エレクトロニクス事業や電子デバイス事業などにも進出。そして現在は、銀行やコンビニのATMをはじめ、空港の自動チェックイン機や公共交通機関の自動券売機、各種セキュリティシステム、さらには公共システムや大規模金融システムにいたるまで多岐にわたる事業を展開している。
そんな同社が社外との連携を図り、新たな事業シーズを創出するため、2017年11月にアイデアソンを開催する。アイデアソンを実施するのは、OKI史上初の試みだ。
人々の生活に欠かせない製品・サービスを生み出し、社会インフラの一端を担うOKI。安定したビジネス基盤を持つ同社がなぜアイデアソンに着手し、オープンイノベーションを推進していこうと戦略を練ったのか。OKI初のアイデアソンを立ち上げた「IoTビジネス開発室」の統括部長・大武氏を中心に、メンバーである吉岡氏・古市氏・岩本氏の3名が同席のもと、話を伺った。
▲統合営業本部 loTビジネス開発室 統括部長 大武 元康
1986年新卒入社。半導体の新規開拓営業や金融機関・官公庁向けの営業を担当した後に、コンサルティング事業の立ち上げを経験。中国・四国エリアの営業責任者を担当後、2016年4月より現職。積極的に他社との連携を図る営業スタイルからついたあだ名は「OKIの坂本龍馬」。
▲統合営業本部 loTビジネス開発室 吉岡 栄治
大手通信キャリアで営業企画を経験後、海外留学でMBAを取得。経営コンサルティング会社を経て2006年にOKIに中途入社。新規事業立ち上げなど経験し、2016年4月より現職。
▲統合営業本部 loTビジネス開発室 担当課長 古市 雅樹
1996年新卒入社し、メカトロ製品の開発を担当。直近10年ほどはATM内開発のリーダー職として活躍。技術セクションに籍を置きながら、IoTビジネス開発室も兼務している。
▲経営企画本部 政策調査部 岩本 聡
1996年新卒入社し、半導体、通信システム、情報システムの営業を経験し、ソフトウェアの生産管理も手がけてきた。現在は、社長直下の「イノベーション推進PT」のメンバーとしてアイデアソンに参画している。
これまでのOKIが一切やったことのないことに挑戦しよう
——OKIにとって初の試みとなるアイデアソン。今回、なぜアイデアソンを開催しようという意思決定がなされたのでしょうか?その背景をまずお伺いしたいと思います。
大武 : OKIは、電話機を国内市場に販売開始して以来、130年以上の歴史を歩んできました。元々のビジネスが電話機からスタートしたこともあり、当社は大手通信キャリアを支えるファミリー企業として、多種多様なニーズに応える製品・サービス作りを手がけてきたのです。
現在に至っては、ATMや自動券売機などの端末のメーカーとして国内シェアの多くを占めていますが、これらの端末はコンビニエンスストアや駅、空港など様々な場所にすでに行き渡っており、市場は「飽和状態」ともいえます。また、少し違う角度から見てみると、この市場はFinTechによって技術進化が速く、デジタルマネーも徐々に普及してきました。そうなると、近い未来にはATMなどの端末自体の必要性がなくなるという事態も想定されます。
このように私たちを取り巻く市場環境はとても急激に変化しており、当社は大きな危機感を抱いています。
——そうした状況の中で立ち上がったのが、今回のアイデアソンを牽引する「IoTビジネス開発室」なのでしょうか?
大武 : その通りです。2016年4月、「ビジネス開発室」という名前で、この組織が立ち上がりました。私は入社以来、新規開拓営業や新規サービスの立ち上げを経験。そうした経験が買われて抜擢されたのだと思います。経営層からは「500億円の新しいビジネスを作ってくれ」と言われています(笑)。現在は、「IoT」にフォーカスし、組織名を「IoTビジネス開発室」としています。
——どのような経験を持ったメンバーが在籍しているのでしょうか。
大武 : 「IoTビジネス開発」には、私のように営業出身者もいれば、スタッフ部門で経験を積んできたもの、技術のスペシャリストなど、多種多様な経歴を持つメンバーが15〜16名程度在籍しています。
吉岡 : 2016年の組織立ち上げ期には、まずメンバーと一緒に「新しいビジネス」を生むための市場分析とアイデア出しを行いました。1年かけて検討し、出てきたアイデアは140以上あったのです。中には、光ファイバーなどOKIが得意とする光・音・電波の技術を使ったビジネス・アイデアも出てきていますが、その一方で、出てきたアイデアの多くが、残念ながら、当社の既存製品・サービスに延長線上のものばかり。これでは、市場に出したとしても、魅力もインパクトも足りないのです。
——なるほど。
大武 : そこで2つの方向性が考えられました。一つは、もっと時間をかけてアイデアをひねり出す方法。もう一つは、私たちがこれまで全くお付き合いをしたことない外部の方々とコミュニケーションを取りながら、斬新なアイデアを創出する方法です。私たちはスピード感も重視し、後者の方法を選択しました。そうした中で出てきたのが、アイデアソンという手法です。
——これまで御社では、外部の方々を巻き込みながらアイデアソンなどを実施したことはあったのですか?
大武 : OKI130年以上の歴史の中で、社外の人々と共にアイデアソンやハッカソンといった手法での「共創」に挑戦したことは全くありません。だからこそ、「それをやろう!」という声が湧き上がったのです。
つまり、「これまでのOKIが一切やったことのないことをやろう!」という声です。というのも、従来のやり方では新しいアイデアは生まれません。これまでとアプローチの仕方を大きく変えたのです。
——OKIのお客様はBtoBで、大手企業や官公庁が多い印象です。それが突然、スタートアップなど若くて新しい企業を巻き込むアイデアソンに挑戦する。これは、大きなカルチャーギャップがあると思います。社内から反対意見も出たのでは?
大武 : 仰る通りで、当社はBtoBのビジネスがメインです。そして、それこそが大きな課題だと認識しています。というのも、当社が製品やサービスを通じて解決する課題は大半が法人のお客様のものです。私たちは、その先にいる一般のお客様の声を聞く機会がほとんどありません。逆に、その声を聞くことがブレイクスルーポイントになるのではと考えています。違うカルチャーを受け入れ、社内で共有・浸透させることも、アイデアソンを実施する理由の一つになっています。
アイデアソンは社長直轄チームとして10月に発足した「イノベーション推進プロジェクトチーム」とも連携し、オープンイノベーションの活動としても取り組むことで社内のコンセンサスをとりながら推進していく予定です。
日本全国に設置されているATM端末など、潤沢なリソースを用意
——今回のアイデアソンにおいて、御社が提供できるリソースはどういったものでしょうか?
大武 : 先ほどの話にも出てきましたが、分かりやすいものでいうと、銀行やコンビニエンスストアに設置されているATM端末です。これは国内シェアトップの製品になっています。その他、各駅に設置されている券売機や空港のチェックイン端末なども当社製品です。何万台という端末が日本全国に設置されていますが、こうしたスケール感のある端末も提供できるリソースの一つです。
▲国内トップシェアを誇るATM端末
古市 : ATM端末など当社製品の信頼度は、とても高い水準を誇っています。大武がお話ししたように全国各地にこれらの端末が設置されていますが、それぞれが独立した業界の端末で、連携はされていません。端末や散らばった資産を連携させることによって新しい価値の創出ができないかと思っています。
吉岡 : またその他にも、通信や銀行、サービスなど各業界・領域のトップ企業という当社の顧客基盤も、活用できるリソースの一つになっています。
——今回のアイデアソンについて、社内からの期待の声も高まっていると聞きました。
大武 : 経営トップである社長は、『 “イベントをやりました”で終わったのでは意味がない。次のビジネスにどうつなげるかが重要だ』と強く発信しています。社長の本気度の高さも我々に伝わってきていますね。
実際に当社の情報通信部門の責任者である常務・坪井も今回のアイデアソンのメンターに入っており、経営層もこの取り組みには熱が入っています。
吉岡 : 経営層を含めて本気の姿勢でアイデアソンに取り組み、ブランドスローガンである「Open up your dreams」を実現させていこうと思っています。そのためにも、130年以上の歴史で培ってきた技術や製品・サービス、顧客基盤など豊富なリソースをぜひ活用してほしいと思います。参加者のみなさんと一緒に、これまでの当社にない新しいビジネスを作り上げたいですね。