日本の製造業が「インダストリーX.0」に適応するには〜アクセンチュアの提言
先進事例に学ぶ、時代に適応するために必要なこと
現状の課題を踏まえて、「これから必要になる動き」について話を振る河野さん
河野 問題点の指摘はここまでにして、そろそろ日本の製造業がインダストリーX.0に適応していくための解決策を話し合いましょうか。
宗像 通信領域でM&Aの案件を担当している中で、一つのヒントになるかもしれない事象に気が付きました。M&Aのような大きな“地殻変動”があると、意思決定のスピードや事業の進め方がガラリと変わることが多いんです。
これが示す事実は、自分たちの明日がどうなるかわからないという状況になった方が、変化は進むということ。
これを意図的に仕掛ける意味でも、例えばデジタルシフトを推進する組織ユニットを小さく持ちながら意思決定の単位を小さくして、地殻変動を仕掛けていくことができるのでは? と考えています。
河野 米の海兵隊も、150人程度の所帯を一つの単位として考えると言いますし、これを真似て事業開発を進めてきたのが米の3Mです。まずは組織規模をイノベーションを生み続けるのに最適な単位にして、デジタルシフトを進めていく手はあるでしょうね。
相馬 あとは、さまざまなデジタルシフトの事例をクライアントに示しながら、「小さく始めてみる」のも大切だと思います。
グッドケースとして、仏のタイヤメーカーであるミシュランが行っている、輸送会社が走行距離に応じたタイヤ使用料を支払うというサービス型ビジネス「タイヤ・アズ・ア・サービス」の例を挙げましょう。
これは、タイヤやエンジンにセンサを搭載して走行距離で課金するというサービスで、本来の消耗期間よりも早く破棄されがちな商用車向けタイヤの有効活用を目的にスタートしました。
従来の「タイヤを多く売る」というビジネスモデルとは相反関係にあるようなサービスですが、このサービスで得た走行データを分析すると、「この抜け道がよく使われている」といったようなことも分かるようになった。
そういった分析結果を輸送会社向けの燃費削減支援や運行管理支援につなげることで、サービス領域にもバリューチェーンを広げることに成功しています。
この事例から得られる教訓は、既存のビジネスモデルを破壊しかねないようなサービスでも、「データを持っておく」ことで後々別の収益源を確保できるようになるという点です。
河野 デジタルシフトに二の足を踏んでいる日本の製造業からすると、発見ですよね。いったんデジタル化を進めてしまえば、あとでビジネスチャンスが生まれることもありますよ、と。
相馬 ええ。
河野 そもそも人間は、変化が起きているその瞬間は変化に気付きにくいという性質があります。だからこそ、先々を見据えた提案を具体例と共に示していくプロセスが重要になるのでしょう。
ちなみに我々アクセンチュアは、この「先々を見据えた提案」として、自律型エコノミーの到来を予言しています(下図参照)。
自律型エコノミーへの進化の変遷
あらゆるモノと人がセンシングされるようになっていくと、生産工程の最初から最後まで統合された自動制御が行われるようになり、必要なものを必要なだけ作る世界になっていくという未来です。
内閣府が科学技術政策の一つとして提唱している「Society 5.0」なども、この自律型エコノミーに近い世界観です。
参照:http://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/index.html
日本発でこのようなビジョンを具現化していくような取り組みを、アクセンチュアとしてもっと支援していければと考えています。