CTOはテックリードであるべき──伊藤信敬CTOが語るバリューコマース開発チームの在り方とは

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CTOはテックリードであるべき──伊藤信敬CTOが語るバリューコマース開発チームの在り方とは

アフィリエイトシステムやeコマース向けのCRMツールを開発するバリューコマース。好調な業績を背景に、エンジニア採用を強めている。エンジニアを率いる、ヤフーやグリーで開発経験を積んできた執行役員・最高技術責任者(CTO)の伊藤信敬氏に、同社の開発体制や求めるエンジニア像について聞いてみた。

アフィリエイトとCRMを両軸に、原点回帰で独自性を発揮

国内最大級のアフィリエイトネットワーク「バリューコマースアフィリエイト」、サイト経由の購入などでポイントが貯まるポイントサイト「バリューポイントクラブ」などの広告事業のほか、Yahoo!ショッピング向けにカスタマイズされたマーケティングオートメーション(MA)ツール、「STORE’s R∞(ストアーズ・アールエイト)」などを展開するバリューコマース。

日本におけるアフィリエイトのパイオニア企業として知られる一方、ヤフーとの協業体制を生かしたECソリューション事業も好調で、2017年度通期の営業利益は前年比140%と過去最高を記録している。

「バリューコマースは創業時の経営陣の大半が外国人だったため、外資系企業と思われる方もいるのですが、純然たる日本企業です。2012年にはヤフーグループの1社になりました。過去には他事業も展開していたのですが、現在は原点回帰して、アフィリエイトとCRMの2つをメイン事業としています。アフィリエイトを集客とすれば、CRMは接客に当たるもので、その両方にノウハウを積み上げている企業と考えていただければと思います」


▲バリューコマース株式会社 執行役員・最高技術責任者(CTO) 伊藤信敬氏

アフィリエイトは成果報酬型広告のことだが、近年、技術的な面で大きなインパクトがあった。Apple社が提供するSafari 11.0以降のWebブラウザに搭載された新機能「ITP(Intelligent Tracking Prevention)」だ。

Safariブラウザがトラッキングを目的とするCookieを、機械学習を用いて識別し、Cookieを取得してからの経過時間に応じてトラッキングデータの利用制限や消去を行うというもの。ITPの対象とされたCookieは取得後24時間を経過した時点でユーザーの追跡ができなくなり、行動履歴の計測や広告のコンバージョン計測ができなくなるなど、アフィリエイトシステムにも甚大な影響が生じるといわれる。

「アフィリエイトの基盤技術はそう変わるものではないのですが、リファクタリングはもちろん、こうしたブラウザ側の新技術への対応はしっかり進めています」と伊藤氏。

現在バリューコマースは、アフィリエイト業界でシェア的にはトップ企業とはいえないが、そうした地道な技術対応ではやはり一日の長がある。

一方、自社開発のシステム「ストアーズ・アールエイト」を活用したCRM事業では独自性を発揮する。バリューコマース独自のMAツールを、Yahoo!ショッピング出店ストア向けに特別パッケージ化したCRMツールで、2016年にリリースされた。

顧客の行動情報に基づき顧客層を分類し、顧客状況に合わせた情報を配信することで、顧客の離反を防ぎ、さらなる関係の構築・維持を支援する。管理画面上でのクーポン発行機能、クーポン発行の予算管理機能など、EC事業者の作業負担を軽減するための至れり尽くせりの機能が搭載され、店舗サイドからの評価も高い。

「こうした自社製品の商品力、それを裏付ける技術力がいま社内でもあらためて注目されており、それが技術者募集の背景になっています」と、伊藤氏は言う。

同社は、2014年に社長がヤフー出身の香川仁氏に交替し、2018年1月には「ともに拓く」を新しい企業理念として制定。広告主とメディアパートナーの望む成功を一緒に叶えてこそ、会社の存在意義があると、ここでも原点回帰を明確にした。

会社として以前より掲げていた、「情報技術で新たな価値を創造する」というミッションも相まって、これらは伊藤氏に言わせれば「エンジニア重視の姿勢が現れたメッセージ」。トップが打ち出したミッションは社内のエンジニアにも広く共有されているようだ。

IT企業も特許をどんどん取得していくべき

アフィリエイトの老舗企業に起こりつつある変化は、中で働くエンジニアにとって、そしてこれからそこに職場を求めるエンジニアにとって、どういう影響をもたらすのだろうか。それを判断する上でやはり重要なのはCTOの果たす役割とその実践だ。

伊藤氏はヤフー、グリーなどのIT企業でトップクラスの実績を積み上げてきたエンジニア。バリューコマースでは、技術開発本部長を経て、2016年からCTOに就任している。「CTOはテックリードであるべき」というのが伊藤氏の持論だ。

「技術本部長とCTOの役割分担がどうなっているかにもよりますが、当社の場合は、それが明確に分かれています。とすれば、CTOは組織にとらわれることなく、技術のリード役としてどんどん尖っていけばいいと思っているんです」

テックリードの役割は、一般的に「技術でエンジニアチームをリードすること」と言われる。ただ、この表現は曖昧だ。伊藤氏はさらにもう一歩踏み込み、「例えば、特許の取得や発明に取り組み、技術をリードすること」が重要だと言う。

「言語やフレームワークを新しいものを使っているだけでは、IT・Web業界では特段自慢にはなりません。それよりも技術カンパニーとして重要なのは特許を取得すること。ソニーは20万以上、任天堂も数千の特許を持っています。そこに私は企業の体力を感じてもいるのです」

バリューコマースでは、伊藤氏自身が社内の特許委員長を務め、半年に1回は特許を出願しているという。「メンバーに特許を出せ出せと言うだけでは、なかなかうまくいかない。だったら、率先垂範で自分が特許にチャレンジしている姿勢を見せるべき」という思いからだ。

もちろんテックリードには、会社としての技術選択をリードする役割もある。OSSを活用するか、自社技術にこだわることも、技術判断の一つの境目だ。

「うちはOSSも使っていますが、そこに偏ってはいません。バックエンドの技術が多いということもあるのですが、私自身が、OSSを使うなら、中身を理解してから使うべきだと考えています。社内にOSSコミッターがいることがもてはやされる風潮がありますが、そのパワーは社内に還元したほうがいいんじゃないかと」

伊藤氏は世の中のトレンドに対して、あえて逆説的に語るが、それは単に新しい技術に背を向けることを意味しない。

必要なものがあるのなら、自分で作り出すのがエンジニア

「例えば、KVS(Key-Value Store)を使う場合、私が使いたい機能、それで実現したいことがあったとしても、それを満たすツールが世の中にないんです。そんなときは、自分たちで作ってしまおうという立場。KVSみたいなのをそのまま作ることはしませんが、APIを呼び出す内部のプロトコルは弊社独自のものを使っています。

もともとは、ヤフーの後に入社したアトランティス(現・Glossom)という会社で、ソケット通信を制御するのに当時、ミリセックで制御するものがなかったから私が自作したものです。それを買って使っているのですが、自分が作ったものを、後から買うってなんか変ですけどね(笑)」

必要なものがあるのなら、自分で作り出す。言語やソフトウェアはそれを実現するためのツールにすぎないから、実は何でもいい。エンジニアにとって最も重要なのは、実現したいものが何であるかだ。

「もし私が会社を辞めたら、残されたエンジニアが困ると言われることもありますが、その不在をカバーするぐらい、残りのエンジニアは勉強すべき。ちゃんと技術のネタは残してあるのだから。いや、当分は辞めないですけどね(笑)。言いたいのは、そういう自立性がエンジニアには必要だってことなんですよ。こういう発言を社内で繰り返すから、メンバーにはいつも叱られています(笑)」

むろん、エンジニア育成の役目を、伊藤氏が放棄しているわけではない。

「エンジニア採用にも積極的に取り組んでいますし、入社後の業務や開発のレビューもちゃんとしています(笑)。フロントエンドも重要だけれど、バックエンドも分からないとうちではやっていけない。99%のフロントエンドを作ることと、99%のバックエンド技術を作ることは意味が違います。バックエンドでは1%のミスがサービス停止につながってしまいますから。

それから、クラウドサービスに依存しすぎないようにとか、私が普段から何度も言っていることを理解して、自社のバックエンド技術に関心を持つようになってくれたエンジニアは確実に増えていると思います」

勉強して蓄積したものを、どうアウトプットするか

伊藤氏の技術の原点は、ヤフー時代(2004年12月〜2009年12月)にアメリカのYahoo! Inc.の技術を徹底的に学んだことにある。日本のインターネット技術とアメリカのそれが、まるで「大人と子どもの違いぐらいある」という現実を突きつけられ、日夜USのソースコードを読み込んでは、必死で大人になろうとした。

「Hadoopのバージョンが0.01ぐらいの時ですね。シェアード通信なども理論上のものではなく、現実に使われていました。向こうはこういうものを使って動かしているんだと驚いたものです。実はヤフーを辞めたのは、他にも日本にYahoo! Inc.レベルの技術がたくさんあるはずで、それを習得しようと思っていたからなのですが、なかなかないんですよね。

そのうち日本にいる限り、決定的なインプットはこれから先そう多くはないと思うようになりました。だったら、これまで培ったものをアウトプットする立場に立とうと思い定めたことが、バリューコマース入社につながっています」

エンジニアは長い職歴の中で、インプットとアウトプットを繰り返す。テクノロジーは常に進化しているから、インプットに追われるのもやむをえない。

「それでも、いつまでもインプットばかりじゃ成長できない。勉強は大事ですが、勉強が目的になってしまってはいけません。何のために勉強するのか、いつその蓄積を価値に変えるのかが問われます」

「何歳になっても、役職がどう変わっても、絶えずエッジの効いたエンジニアたれ」——伊藤氏の話を一言で言い替えるとそういうことになるだろう。その考え方はバリューコマースのエンジニア採用条件のベースを成すものだ。

「御社で勉強させてくださいという人よりは、自分なりのベースがあって、それを横に広げたいという人がいいですね。最近はエンジニアがサービス企画にも興味を持つべきという流れもありますが、エンジニアは片手間でやれる仕事じゃない。時には泥水を飲んでもやりきるしかないこともある。特にバックエンドはそういうことが多い。エンジニアとしての責任感やコミット力、それを僕は求めたいですね」

現在、バリューコマースは全従業員300人弱のうち、約2割ほどがエンジニア。もちろん外出しする部分もあるが、コア技術を高めるためにエンジニアの正社員採用をさらに強めようとしている。インターネット広告業界の中において、技術力で最も抜きんでることが企業としての、そしてCTOとしてのミッションだからだ。

一癖も二癖もある伊藤氏の言葉は鋭く、かつ含蓄がある。伊藤氏との開発経験で、エンジニアはより深い体験を得られるのではないだろうか。

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