数千のコミュニティ運営から見出したファンコミュニティを活性化させる秘訣とは

インタビュー
アイドル・アーティスト・タレントとそのコアなファンがダイレクトに交流するコミュニケーションの場を、様々な形でデジタル化・ソーシャル化したファンコミュニティビジネスが隆盛だ。スタートアップTHECOOが開発・運営するプラットフォーム「fanicon」もその一つ。このプロダクトを開発した星川氏と城氏の2名に、ファンの熱狂をサポートし、ファンコミュニティを活性化させながら、プロダクトの成長を追い求めるプロダクトマネジメントの秘訣を聞いた。
数千のコミュニティ運営から見出したファンコミュニティを活性化させる秘訣とは

タレントとファンが交流する会員制アプリ「fanicon」

2017年12月のスマホアプリの正式リリースから、わずか2年でめざましく成長した「fanicon(ファニコン)」。現在はアイドルグループ、ビュジュアル系アーティスト、YouTuberなど約1300人のタレントが「fanicon」を使って、数十万人規模の熱狂的なファンと交流している。

「fanicon」を開発するTHECOO 星川隼一氏と、テックリードの城弾氏は早稲田大学時代からの友人。星川氏は大学卒業後、Googleのデータサイエンティストとして活躍、一方城氏はヤフー、DeNA、リクルートなどでソーシャルゲームなどの開発を手がけていた。

2014年に星川氏のGoogle時代の先輩、平良真人氏がTHECOOを起ち上げると、「現状維持に止まりたくない」と、星川氏は入社を決めた。そして、星川氏から一緒にサービスを立ち上げようと誘われたのが城氏だった。二人で全くのゼロから新サービスの企画・開発・運用に携わることになった。

それが「fanicon」だ。アイコン(アイドルやタレントを同社ではそう呼ぶ)の活動を、彼らとコアファンが一緒に盛り上げていく月額課金制のファンコミュニティアプリ。アプリ内限定のライブ配信、グループチャット、1on1トークなどの機能がある。

同社は、インフルエンサー・マーケティングやオンライン マーケティング コンサルティングを主力事業に成長してきたが、ここに来て社員の半数近くを「fanicon」事業に配置しビジネスを更に成長させるべく手を打ち続けている。。

「ファンクラブというサービスは昔からあるもので、会員になると先行チケットの購入ができ、紙の会報が送られてきます。ただアイドルたちがSNSでダイレクトに情報発信をするようになった時代、いまさら紙はないだろうとは思っていました。

faniconもビジネスモデル的にはファンクラブサービスですが、オンラインでのコミュニケーション機能を強め、デジタル時代ならではの方法でタレントとアイドルの交流の場を提供しています。しかも有料制なので、会員は本当にそのタレントが好きな人ばかり。タレントによってはグッズの通販やオフ会などオフラインのイベントも活発です」

と、faniconのプロダクトマネージャー、星川氏は言う。


▲THECOO株式会社 開発部 星川隼一(ほしかわ・はやと)氏

2009年に早稲田大学卒業後、2011年にGoogleに入社。アジア地域のプロダクト・データサイエンティストとして活躍。2015年8月より、THECOOに参画。会員制ファンコミュニティアプリ「fanicon」の企画・立ち上げに携わり、プロダクトマネージャーを務める。 

例えば、ヴィジュアル系ロックバンド「シド」のボーカル「マオ」も、faniconを活用するミュージシャンのひとり。音楽事務所WACKが手がける10人組の女性グループ「GANG PARADE(ギャンパレ)」は、faniconに集うファンの熱気もあってか、中野サンプラザ公演を満席にするまでになった。

ちなみにギャンパレのキャッチフレーズは「みんなの遊び場」。ギャンパレのファンたちは自らを「遊び人」と呼んでいる。

ファン同士が交流したくなる「ファンコミュニティ」作りへ

とはいえ、faniconが提供するサービスは、最初から現在の形ができていたわけではない。2017年4月のβテスト開始の時点では、タレントとのOne on Oneトークが主なサービスだった。当時はまだ星川氏らも、faniconのサービスを昔ながらの「ファンクラブ」と呼称していた。

「その頃に、テスト版を使ってくれていたあるYouTuberの中高生ファンたちが、LINEグループを作って交流していることを知ったんです。そこに僕も入れてもらったら、みんな『faniconって使えない』と悪口ばかり言っている。中には『カスアプリ!』と断言する子もいた。まあ、その頃は会費の決済機能ばかりが目立っていましたから、それもやむを得なかったんですが……」

しかし、それが気づきになった。タレントのファンたちがアプリに求めているのは、1on1トークやチケット先行販売だけでなく、ファン同士の交流機能。それがあれば、もっとコミュニティは盛り上がる。

「目指すのはファンクラブじゃなくて、ファンコミュニティなんだと、そう思いました」(星川氏)

星川氏は、プラットフォームをテスト的に使ってくれるタレントやYouTuberの元を訪れ、あるいは実際のライブ会場やファンが集まるオフ会を訪ね、タレントとファンの双方の声を聞きながら、アプリの機能やユーザビリティを追加する日々が始まった。YouTuberの家に泊まって、これからのエンタティンメントのあり方について夜通し語り明かすこともあった。

その年の12月に正式版をリリースする前に、グループチャット機能が追加された。

ヒキがいいPMと、リクエストに耐えるエンジニアの“以心伝心”

「星川は思いつくままに、めちゃくちゃたくさんの機能追加をリクエストしてくるんです。しかも細かい説明なしに。いろいろな機能を追加した中で、一番刺さったのがグルチャでした」と振り返るのは、開発担当の城氏だ。


▲THECOO株式会社 開発部 リードエンジニア 城弾(じょう・はずむ)氏

2010年に早稲田大学卒業後、ヤフー株式会社に入社。デザイナーとしてプロダクトデザインを行いながら、Yahoo! JAPAN IDや決済などの情報設計やプログラミングを担当する。その後、DeNA、リクルートなどでソーシャルゲームやデータ分析系のシステム開発を経て、2017年にTHECOO入社。

実は、星川氏の前職はデータアナリスト。コンシュマー向けのプロダクト開発をマネジメントするのは、faniconが初めてだ。一方の城氏は「失敗したプロダクトのほうが圧倒的に多い」というアプリ開発の苦労を肌身で感じる百戦錬磨の強者。二人の関係はうまくいっていたのか。

最初はたった二人だけのチーム。星川氏がファンコミュニティの現場を訪れて生の情報やニーズを拾い集め、求められる機能をリクエストする。その千本ノックに耐え、ひたすら実装を重ねて、打ち返すのが城氏の仕事だった。

学生時代には一緒にシステム開発のアルバイトをしていたという信頼関係以上に、城氏には「星川はヒキがいい男」という別の意味での信頼がある。限られた時間でやるべきことは無数にあるが、星川氏が示す優先度はたいてい間違っていないというのだ。

「彼は物事をロジカルに考えるし、一方でインターネットネイティブとして小さい時から身につけたネットサービスに対する感性みたいなものがある。ファンの間に分け入っていく行動力もありますしね」(城氏)

いわば「互いが言っていることがツーカーの関係でわかり合える」PMとエンジニア。二人の間で交わされる説明工数はきわめて少ない。例えば、EC機能を追加すべきだとなったら、星川氏は城氏に“EC!”と書いたメモを渡すだけ。それだけで実装に必要なエンジニアリングの要素を、城氏はすぐ思い浮かべることができる。

もちろん、サービスがスケールすれば開発メンバーも増え、以心伝心のコミュニケーションだけでは立ちゆかなくなるかもしれない。

しかし、「プロダクトが大規模運用ベースに成長するまでのしばらくの間は、サービスの価値を共通感覚でわかり合える少人数のチームで仕事をしたほうがいい」という城氏のプロダクトマネジメントに関する教訓は、fanicon開発経験から得られたものだ。

βテストから正式版リリースまでの8カ月間。ああでもない、こうでもないと苦闘するチームを、CEOの平良氏は我慢強く見守ってくれていた。

「以前所属したような大きな会社であれば、3カ月でリリースして、すぐに結果が出なければサービスはクローズされてしまう。うちの社長は粘り強いんですよ」と、城氏は言う。

自らコアユーザーを目指さないのは単なる言い訳だ

fanicon開発を通して、タレントの最前線ファンコミュニティの熱気に触れた両人だが、もとよりアイドル好きだったわけではない。IT業界には自分が開発するサービスのコアユーザーでないがために、あえてユーザーヒアリングを重ねるPMもいる。

だが、「開発側が自分で開発するサービスのコアユーザーにならないのは、一種の甘えでしょう」と、星川氏は断言する。少なくとも彼はfaniconを担当するようになってからは「アイドル好きになる努力」を重ねてきた。

faniconサービスを展開する中で、彼らがオフラインと同じくらいオンラインを重視しているのも、アイドルに注がれるユーザーのリアルな熱狂や、ファン同士のオフ会の楽しさを我がごとのように感じているからだ。

「僕自身がSNSをやっていても、友達関係がネット上で完結するのがあまり好きじゃないんですよ。やはり、時には相手の顔を見て話をしたい。ファンの熱気を高めるための施策といえばそれまでなんですが、faniconでもオフ会のために会社のオフィススペースを提供するなど、ファン同士がリアルに出会うきっかけを提供したりしています」(星川氏)

ユーザーに愛され支持を生むプロダクト開発は、カスタマー向けアプリを開発するすべてのPMやエンジニアにとって大きな課題ではある。ただ、星川氏はこう言う。

「ファンの人たちが自覚的にfaniconを好きになるということはないし、その必要もないと思っています。僕らは、ファンの熱気、タレントのファンサービスをインタラクティブにスムースに伝えるプラットフォーマーの役割、いわば黒子に徹したい。

実際のファンコミュニティ・ビジネスでは当然、お金のやりとりが発生するわけですが、タレントや事務所がファンから直接お金を集めるのでは、ファンがタレントに抱く夢が壊れてしまいかねない。そこは、僕らが間に立ってそのやりとりを裏で介在する。タレントにはいつまでも“綺麗”でいてほしいと願うのが、ファン心理なのではないでしょうか」

ファンとアイドルの間でやりとりされる“夢”の交換。少なくともそれを妨げないことが、結果的に、プロダクトやサービスのユーザーロイヤリティを生むことになるのかもしれない。

データは重視するが依存しない。あるのは不安よりは楽しみ

ところで、星川氏は元Googleのデータアナリスト。城氏もまた前職でデータ分析系のシステム開発に従事したこともある。そうとなれば当然、faniconのサービスでも徹底したデータ至上主義が貫かれていると思いきや、意外な返答がかえってきた。

「会員登録画面の設計ではA/Bテストを行って、コンバージョン率のデータ比較などはしていますが、それ以上はあまりデータを意識することはないですね。会員サービスでは一般にチャーンレート(解約率)が重視されますけど、退会率が多いからといって必ずしもファンの熱気が冷めたとは言えない。逆にファンの出入りが激しいほど、人気が高まるということもあると思うんです。あまりデータに頼っちゃうと、ファンコミュニティの可能性を閉じてしまうことになるんじゃないかと」

と、星川氏が言えば、

「僕もここで星川と一緒に仕事を始める前は、星川のことを“データバカ”じゃないかと思っていたんですが、違うんですよね。データをいじる暇があったら、アイドルのライブを観に行ったほうがいいという現場主義。ファン数が今の10倍ぐらいになって、より大規模な運用が不可避になればデータも重要ですが、まだ成長途上のサービス。僕もそれでいいと思っています」

と、城氏も答える。

最後に、faniconの将来イメージを二人に聞いた。

「faniconはサービス・リリースをなんとか終えて、これからは未知の飛行領域に入っていきます。これまでの自分の経験が活かせる部分ももちろんあるけれど、予想できない部分も多い。だからこそ、面白いと思うんです。

THECOOではサービスを4つくらいやって、そのうち1個でも成功すればいいかなぐらいに考えて入社したんですが、最初に手がけたサービスがうまい感じで進んでいるんで、自分でも驚いているくらいですから」(城氏)

「少なくとも、THECOO入社時に社長から託された、ゼロイチでサービスを生み出すというミッションは果たせたかなと思います。これから先は、どうなっていくんだろうという不安というより、楽しみのほうが大きい。デジタルなファン・コミュニティ・サービスのマーケットはこれからで、伸びしろは無限。このサービスの成長が会社の成長につながっていけばいいと思います」(星川氏)

それでも、C向けサービスの目まぐるしい盛衰に二人が鈍感なわけではない。二人とも自分のスマホ上には、サービスを停止したアプリのアイコンを集めるフォルダを作っていて——ちなみに、フォルダ名は星川氏が“Go Away”、城氏が“思い出”だという——、自分たちのサービスもいつかそのフォルダに突っ込まれないように気を引き締めている。

「あと20年後にまだfaniconがスマホのトップ画面に残っていたら、その時は僕らの勝ちということですね」と二人は笑うのだった。

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