将来、MITで学びたい?教えたい?世界を舞台にコラボしたい? MITメディアラボ副所長 石井裕教授が語る「海外雄飛」のススメ

将来、MITで学びたい?教えたい?世界を舞台にコラボしたい? MITメディアラボ副所長 石井裕教授が語る「海外雄飛」のススメ
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米国マサチューセッツ工科大学メディアラボ(以下、MITメディアラボ)は、6月18日~19日(金~土)、6月25日~27日(金~日)の5日間に渡り、中学生・高校生を対象にしたオンラインイベント「Media Lab Summer Camp 2021」を開催した。今回はMITメディアラボが日本で単独主催する初めてのサマーキャンプ。大学や企業など、既存の事業・専門分野を超えた連携体制のもと、社会課題思考の研究や活動にチャレンジした経験・学びを共有し、学び合うセッションとなった。今回は、副所長を務める石井裕教授が若手世代に向けて語ったメッセージを紹介する。

海外雄飛・他流試合、異文化協創、未踏峰連山を目指す君に

石井教授が、革新的な研究を続ける上で特に大切だと考えていることが三つある。それは「独創・協創・競創」だ。一つ目は、いかにオリジナルのアイディアを出し、徹底的にそれを追求し、新しい価値を生む「独創」がなくてはならない。 二つ目は、独創性を持った素晴らしい仲間をを集めてチームを作り、ビジョンを共有し、切磋琢磨して大きな飛躍をする「協創」、いわゆるコラボレーションである。 三つ目は、世界のライバルたちと最前線で競い合い、切磋琢磨し合いながら研究を続ける「競創」だ。

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そして、今いる快適なゾーンを抜け出し、海外に飛び込み、自分たちとは違った文化を持った人々と交流する「海外雄飛・他流試合、異文化協創」をしてほしいと訴える。

「若いということは強靭な体力、しなやかな感性、飽くなき好奇心、そして無限の可能性という宝物を持っているということ。だから若い時こそ、快適ゾーンを抜け出して、未知の環境に身を投じることにより、異なる価値観、文化の世界で自分を試し、磨く。そして、変化に適応できる生存力を鍛える勇気を持つことが、とても大切だと思います」

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1995年に石井教授はMITメディアラボに招聘され、直接手でデジタル情報に触って操作できるインターフェース研究「タンジブル・ユーザーインターフェース」で世界的な評価を得る。そして2019年、コンピュータ・ヒューマン・インターフェース学会(ACM SIGCHI 2019)で、「生涯研究賞(SIGCHI Lifetime Research Award)」を受賞する。

石井教授はこの受賞は共にビジョンを共有し、研究・実験・発表をしてきた学生たちと協創してきたからであり、所真理雄、アラン・ケイ、ニコラス・ネグロポンテをはじめとする優秀な研究者たちに刺激を受け、競創できたことに深く感謝していると語った。

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アート、デザイン、サイエンス、テクノロジーをビジョン・ドリブンの柱に

MITに移るきっかけとなった「クリアボード」の研究から、ガラス瓶のふたを開けると音楽が聴こえてくる「music bottles」、触覚をコンピュータ計算し、変化する形状を3Dで表示するタンジブル・ユーザーインターフェイス「inFORCE」、原子レベルで物体のアクションをプログラムする「ラディカル・アトムズ(Radical Atoms/励起原子)」など、これまでの数々の研究事例を紹介すると、参加者からは驚嘆のコメントがチャット上に次々と書きこまれた。

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納豆バクテリアを湿度変化のセンサー、そしてアクチュエーターとして使い、ダンサーの発汗を計測して、空調効果を高めるための形状変化を計算し、それに必要な量のバクテリアを、衣類にプリントする「bioLOGIC」もラディカル・アトムズの研究プロジェクトの一つだ。ダンサーのパフォーマンスを最高にするために、発汗量に合わせて衣類が開くというインターフェイスだが、ダンサーは「まるでバクテリアと一緒にダンスしてるみたいだ」と感動的なコメントを寄せているという。

「アート、デザイン、そしてサイエンス、テクノロジー、どれも基本的にものすごく大事なドメインです。この異なる4つの象限をぐるぐる回りながらコアなアイデアやビジョンを表現し、バブルの塔のようにより高い次元に昇っていく。このスパイラルを高速に周り続ける力、これが私たちのビジョン・ドリブンを生み出す大きな柱です」

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石井三力 ─「出杭力」「道程力」「造山力」を鍛えてほしい

最後に、石井教授が日本の若者たちに贈りたい言葉として挙げたのは、「出杭力(でるくいりょく)」「道程力(どうていりょく)」「造山力(ぞうざんりょく)」。この三つの言葉をまとめて「石井三力」とも呼ばれている。

「出杭力」とは、若いときは打たれるのが当たり前、いわゆる「出る杭は打たれる」ことが多いが、出すぎた杭は誰も打てない。すなわち、若いときは、出たら打たれることを気にするんじゃなくて、徹底的に出すぎること。自分を信じることが大事なアドバイスだと強調する。

二つ目の「道程力」は、誰も走ったことのない原野を1人切り開き、生まれてない道を1人全力疾走することだと石井教授は言う。

「高村光太郎の詩『道程』に書かれている、『僕の前に道はない。僕の後ろに道はできる』の精神です。まさに、新しい道を切り開く力です」

そして三つ目が「造山力」。MITメディアラボに移ったときに、ニコラス・ネグロポンテから「今までとと同じ研究は続けるな。まったく新しいことを始めろ」と言われ、39歳で再起動(リブート)を余儀なくされた石井教授。誰もまだ見た事のない山を、海抜ゼロメートルから自らの手で造り上げ、初登頂することがMIT、そして世界での生き残りの条件だったという。

「打たれても打たれても突出し続ける出杭力、原野を切り開き、まだ生まれてない道を1人全力疾走する道程力、未踏峰連山を造り上げ、世界初登頂する造山力。この三つの力を追求してください。そして、いつかMITで一緒に議論できる日が来ることをとても楽しみにしてます」

そう若者たちにメッセージを贈り、セッションを締めくくった。

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学生たちからの質問に石井教授が応えるQ&Aコーナー

石井教授の革新的な研究者人生や研究事例、そして弾丸のように繰り広げられるエネルギッシュな語りとに刺激され、聴講者からは多くのコメントと質問が寄せられた。

セッション後、聴講した学生たちから寄せられた質問に、時間が許す範囲で石井教授が答えた内容をいくつか紹介したい。

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Q.中学生の頃からデジタルネイチャーに興味を持ち、学校教育との組み合わせで研究して進めてきたが、大学で学ぶためには、高校生でどのような研究や体験をしたらよいかアドバイスをお聞きしたい。また、今後デジタルテクノロジーはどう学校教育に影響を与えるでしょうか?

石井:基本的に無限の好奇心、新しいことを学びたい、乾いたスポンジのようにどんな水も 吸収する力、適応力、学習に対する前向きな姿勢。そして、やっぱり夢ですね、自分の夢がなきゃいけない。夢は、学校で教えてもらうのではなく、自分の中から掴み切る必要があります。そのためには、たくさんの本を読み、たくさんの人に会い、自分がどうやって世界に貢献していきたいかという夢を、若いうちにできるだけ早くカタチにすることが大事です。

そのためには、慣れ親しんだコンフォートゾーン(快適な空間)から、全く違った世界に飛び出してほしい。海外雄飛ですね。海外だからいいってわけじゃないんですが、コンビニでいつでもご飯が食べられる日本とは全く違う文化の中で、どう自分が適用できるか生存力を磨いてほしいと思います。

他流試合の天才と言われた宮本武蔵は、いろいろな流派の人たちと戦って、田んぼのあぜ道などを利用しながら、新しい技をどんどん磨いていった。若いときにすごいライバルがたくさんいる環境に飛び込んだ方がいい。海外雄飛でコンフォートゾーンを抜け出し、晴らしいライバルを見つけて徹底的に技を磨き続けることを強くおすすめします。

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Q.理系科目が苦手で、アートが好きな高校生です。本日たくさんの研究作品を拝見し、私もデザイン分野で貢献してみたいと思いました。この世界に入るには何から始めたらよいでしょうか?石井先生のスターティングポイントは何でしたか?

石井:人々をインスパイアしたいという夢があるのなら、アートももちろん大事ですが、アートやデザインというふうに自分にラベルを貼るのではなく、サイエンスやテクノロジー の知識も必要になります。アート、デザイン、サイエンス、テクノロジー、このあらゆる4象限をぐるぐる回りながら自分を鍛え、アイディアを成長させ、新しい価値を生み出すことが大事だと思います。

そしてこの4象限のスパイラルを回しながら上っていくには、ビジョンも必要です。そのビジョンは教えてもらうんじゃなくて、自分の中から生まれてこなくてはいけない。ぜひ素晴らしい人に会い、素晴らしい本を読み、そして他流試合をしてください。

Q.石井先生がご講演の中でリブートという言葉を使われていましたが、新しく何か分野を学ぶ新しいことをするとき、最も大切なことは何だと考えますか?

石井:私のとても大切な友人の一人、登山家の栗城史多さん。2018年にエベレストで亡くなってしまいましたが、指9本を第二関節まで凍傷で切断しながらも山に登ろうとし続けました。その彼にとても敬意を表すると同時に、なぜ人はそこまでして今ある山に登るのかということを考えました。山の頂上を極めるが明確にわかる、そして世界初という記録ですね。難しい条件を組み合わせないと、なかなか新記録にならないから危険なチャレンジになってしまう。

ギネスブックに載りたい、世界一の富豪になりたいというような定量的な目的ではなく、私は誰も見たことない山を造った。造山ですね。栗城さんが亡くなってしまったことはものすごく悲しいです。どんなに頑張っても死んでしまったらおしまいです。ですから、そこまで頑張っちゃいけない。死を覚悟して生きて帰ること、それが皆さんに送る、私の「未踏峰連山」というメッセージです。

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■プロフィール

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マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ教授 石井 裕氏

1956年生まれ。北海道大学大学院修士課程修了。マサチューセッツ工科大学教授、メディアラボ副所長。 88年よりNTTヒューマンインターフェース研究所で、CSCWグループウェアなどの研究に従事。93年から1年間、トロント大学客員教授。 95年マサチューセッツ工科大学準教授。メディアラボ日本人初のファカルティ・メンバーとなる。2006年、国際学会のCHI(コンピュータ・ヒューマン・インターフェース)より、「タンジブルビッツ」の研究でCHIアカデミーを受賞。2019年には「タンジブルビッツ」「ラディカルアトムズ」を含む長年の研究と世界的な影響力を評価され、CHIから生涯研究賞 (SIGCHI Lifetime Research Award) を授与される。

関連リンク

▶︎Media Lab Summer Camp 2021

▶︎MIT石井裕教授×パーソルイノベーション高橋広敏社長対談 ──どのように「働くか」ではなく、どう「生きるか」を考えよう

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