MIT石井裕教授×パーソルイノベーション高橋広敏社長対談──どのように「働くか」ではなく、どう「生きるか」を考えよう

インタビュー
AIやロボットを活用する時代、これからの働き方はどう変わるのか日々の研究活動のベースに絶えず「生きる」ことの意味を求めてきたMITメディアラボの石井裕教授。働くことが同時に喜びであるような社会を目指して、人材市場の活性化に取り組んできたパーソルイノベーション高橋広敏社長。ワークとライフを高次なレベルで統合することは、どうしたら可能になるのか─それぞれの思いを語り合った。
MIT石井裕教授×パーソルイノベーション高橋広敏社長対談──どのように「働くか」ではなく、どう「生きるか」を考えよう

それはたとえ失敗を重ねても、チャレンジし続ける仕事か?

高橋:これまで私は学生時代から含めるとこの30年にわたって、求人広告、スタッフィング、プレイスメント、ヘッドハンティングなど人材に関する仕事をしてきました。起業から参加したインテリジェンスは、最初は4人の会社だったんですが、おかげさまで順調に成長しています。

人々の働き方が今後、どうなるかということが、私の主要な関心事です。人間は生まれてから死ぬまで、何らかの形で生産的な行為に関わります。もちろん食べるためということはあると思いますが、人々は働くことが喜びであるという世界をも求め続けてきたと思うんです。

ただ、日本という国は、相対的にみな豊かになってしまったので、何かをブレイクスルーするところまで頑張り抜こうとか、成長してやろうとか、そういう意欲が過去に比べると減退しているようにも感じています。30年前と比べてもそう感じます。

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パーソルイノベーション株式会社 代表取締役社長
パーソルホールディングス株式会社 取締役副社長/COO 高橋広敏氏
1969年大分県生まれ。1995年早稲田大学第一文学部卒業、同年インテリジェンス(その後、パーソルキャリア)へ入社。2008年、代表取締役社長執行役員に就任。テンプホールディングス(現パーソルホールディングス)との合併を経て、2013年より同社取締役副社長。2019年より、パーソルイノベーション代表取締役社長を兼任。

石井:最近の日本社会では「ワークライフバランス」や「働き方改革」といった潮流があるようですね。ブレイクスルーやイノベーションを起こすことと、ワークライフバランスについて、高橋さんの中ではどのように融合されているんでしょうか。

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マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ教授 石井 裕氏
1956年生まれ。北海道大学大学院修士課程修了。マサチューセッツ工科大学教授、メディアラボ副所長。日本電信電話公社(現NTT)に勤務後、西ドイツのGMD研究所客員研究員、NTTヒューマンインターフェース研究所を経て、1995年、MITメディアラボ教授に就任。タンジブル・ビッツの研究で世界的な評価を得る。現在、MITメディアラボ副所長。

高橋:融合できていないですね。ワークライフバランスの文脈でいうと、私は1日20時間働きたい人やより生産的な仕事をしたい人は、それに没頭すればいいと思います。もちろん、あまり働くと体を壊すし、家族にも迷惑をかけてしまうから、1日6時間ぐらいにしておきたいという人がいても構わない。

どれだけ働くのか、どのように働くのかは、本人が自由に決められる、それができるようなサービスやプラットフォームを我々が提供することが重要だと思います。多様な働き方を選びやすい環境作りですね。

石井:ここにたくさんの豆があるとします。これを箸を使って、一時間に何個つまめるか。1000個つまむのに、どのくらいの時間がかかるのか。そのように仕事というものを時間で測る方法があります。

もう一つ、時間に関係なく、どれだけの成果を挙げたかで測る方法もある。ただ、成果を測るにしても、売上げがどれだけ伸びたかといった数値が必要です。いずれも定量的な指標で仕事の価値を測ろうという考え方です。

ただ、仕事をすれば必ず成果が上がるかというとそうではない。リスクをとって、クリエイティブにチャレンジをしても失敗する時は失敗する。その時は成果はゼロなわけです。しかし、そのチャレンジに価値を認めるという考え方もあります。

世界のベンチャーキャピタリスト、例えばPayPalやLinkedInやZyngaに投資して成功させたリード・ホフマン氏のように、単に確実にリターンがあるから投資するのではなく、「こいつは面白い、こいつが言っていることは本当に社会に役立つ、そして頑張っている」と、起業家の気心に惚れて投資をする人もいます。

多くの人は測れないものの価値に気づかないし、それに投資しようという判断もできません。なぜベンチャーキャピタリストがそれを見抜けるかというと、目利き、見る目があるからです。会社のポートフォリオだけではなく、起業家の目を見て、エンジニアの書いたコードを実際に見て、「彼ならやれる、このビジネスには社会的価値がある」と判断する力があるんですね。

働くということは基本的に苦しいわけです。特に時間単位で豆を数える仕事というのは悲しい。あるいは、夏は暑いから客がたくさん入る、でも寒くなれば減る。そういうもので自分の仕事が振り回される。

結局、「なんで生きてるのか? なんでこの人生良かったって言えるのか?」それを考えてなくてはいけない。それが分からなければ、ワークもライフも、そのバランスは保てないと私は思います。

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ワークライフバランスは、一種の幻想に過ぎない?

石井:高橋さんご自身の人生哲学では、働くことについてはどう考えてこられたのですか。

高橋:私は選択できる仕事の中では、最も好きなことをやり続けてこれたと思います。ラッキーでもあったし、そうなるためにエネルギーも使いました。

石井:たしかに仕事は、飛行機の機内食で「チキン? ビーフ? フィッシュ?」という選択肢があってそのいずれかをチョイスするように、選ぶことができます。時給が高いとか、会社がブラックだとかホワイトだとか、そういう選択のオプションがあって、そこから選べる。もちろん、その選択肢が分かっていない人には選びようがありません。

一方で、人生はそう簡単には選択できません。教育を受けて、仲間と議論して、時には海外留学して、他流試合、異種格闘技をやって、初めて自分が見えてきて、自分の限界がわかり、最後にどこに行きたいかがようやくわかる。チキンかビーフのどちらを選ぶかというような単純な選択ではないわけです。もっと深くて広い話だと思っています。

そもそも、ワークとライフは対立する概念なのでしょうか。ライフの中にはワークも含まれる。人生の中では恋愛もあるし、結婚もあるし、出産もあるし、愛する人との死別もある。逆に言えば、働くことがイコールその人の人生の全てではないはずです。自分がどのように「働くか」ではなく、自分がどのように「生きるか」。それを自分でどう決めるのか。どう決められるのか。それが大切です。

そうだとすれば、「ワークライフバランス」という言葉は、一種のイリュージョン(幻想)に過ぎなくて、自分のライフ自体がなんなのか、自分の人生価値を分かってない人にとっては、ワークとバランスすることなんてできない。

だからまず、お客様にご自身の人生とは何なのかを考えていただく。それに寄り添うパートナーがあり、その事業の一環としてお仕事も斡旋する──そういうアプローチのほうがいいとは思いませんか(笑)。

「働き方改革」という言葉、これって何を改革するものなのでしょうか、その前に自分の人生をしっかり考えて哲学しないと、働き方だけ改革してもどうしようもないと思うのです。

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高橋:そもそもワークもライフも選択するものじゃなくて、自分で作るものなのかもしれません。特に、あるかないのかわからないものを求めて、高い山に登りに行くような人にとっては、そうですね。

石井:世の中には決められた手順の中で、駒となって働くことでしか自分を確認できない、という人も存在します。2016年度の芥川賞を受賞した村田沙耶香さんの『コンビニ人間』という小説は読まれましたか。あれはすごく強烈です。

単なるフィクションではなく、今の日本における働く人々の現実をきちんと反映させているように思います。なぜ、コンビニエンスストアという歯車のプロトコルの中でしか存在できない人がいるのか。そういった議論を社内でバンバンやるといいと思います。

高橋:先生ご自身は、研究されているときに、笑うというか、快感を感じられる瞬間というのはあるのでしょうか。

石井:どうでしょう。いつもは、苦しくて苦しくてしょうがない。自分が生み出すことも大変だし、生み出したものを認められないことも辛いです。我々研究者の世界で生き残るのは基本的にマゾ的な性格の持ち主。周囲にいじめられてそれが快感になるくらいでないと、やってられないかもしれませんね。

もし笑い出すような喜びがあるのだとすれば、それは何年もの間すごく苦しい思いをして、最後の一瞬にだけ感じるものなんだと思います。

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世界のバトルフィールドで闘わねば、造山力は生み出せない

高橋:先生のお話で必ず登場するキーワードに「造山力」という言葉があります。「自ら山を造る力」。誰もまだ見たことのない山を海抜ゼロメートルから自らの手で造り、そして初登頂する力のことですね。しかし、これって言葉はともかく、実際にやり遂げる人は少ないですね。

石井:はい、そんな馬鹿はいないです(笑)。

高橋:私たちのような仕事をしていると、そういう人がもっと増えてほしい、増やしたいと思うんです。何かいいアイデアはありますか。

石井:「出杭力」「道程力」「造山力」のいずれも、それを持つ人を大量生産することはできませんね。

高橋:少量でもいいんですけど。3倍、5倍くらいにはできないのかなと。

石井:フランチャイズチェーンを何百店に拡大することはできますが、人にそれはできません。そんなレシピがあって、ボコボコと石井裕みたいな人間がたくさん登場したら、私はここに呼んでもらえないじゃないですか(笑)。だから世界は面白いんです。

しかし、日本ではなかなか大変だと思います。なぜそういう人が出てこないのか、その問題は根深くて、男社会、学歴社会など社会のハイアラーキー(階層構造)が強いといった文化の問題も無視できません。

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高橋:あらゆることがパターン化されすぎている、ということですか?

石井:パターン化ではなくて、人と会った時、みんな、東大のご出身ですか、通産省の官僚ですかとか、すぐに肩書きを意識するじゃないですか。個人としての「石井」でも「高橋」でもなく、その肩書きで人を判断してしまう。それでしか人を表現できない。

特にアメリカでは、黙っていたら誰も私のことなんて見向きもしません。でも、何かをやっていたら話も聞いてもらえる。つまり、どうやって戦うかという話なんです。

自分だけが持っているのは何か、他の人間が持っていないものは何があるか。例えば、落合陽一さんのデジタルネイチャーや、私のタンジブルビッツとか。そういうものを作らないと、誰も相手にしてくれないんです。

先日私は、ヒューマン・コンピュータ・インターフェイスについて議論する世界的なコミュニティ「ACM-SIGCHI」で生涯研究賞 (ACM SIGCHI Lifetime Research Award) をいただくことができました。今回21人目の受賞、アジアで初めての受賞者です。

もちろん日本にも素晴らしい先人はたくさんいます。コンピュータの世界で言えば、私の敬愛する金出武雄先生(元カーネギーメロン大学ロボティクス研究所所長)や、所眞理雄先生(ソニーコンピュータサイエンス研究所創設者)、坂村健先生(トロンの創始者)。彼らは世界に大きなインパクトを与え、国際的な評価を得た。でも、日本発で世界にインパクトを与えた研究者の数は、他国に比べて決して多くはない。

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もし、世界で通用する研究者たちの出現率を高めることができるとすれば、それは国際的な主戦場で闘うことでしかできない。世界最高峰の連中が集まって戦うフィールドで、最高の論文を書き、最高の発表をする。日本にも、大リーグに挑戦して、そこで輝く選手がたくさんいます。

その一方で、せっかくの希有な才能があるのに、大リーグに行かないまま終わってしまう選手が、その数百倍もいる。世界最高難易度のバトルフィールドで勝負しないと、自分の限界さえわからないはずなのに。

日本社会はたしかに生活するには快適です。そこそこの給料もらえるし、美味しい食事も楽しめる。なんで今さら海外雄飛を、ということなんでしょう。つまり腹が減っていないのだから、飢餓感を感じることもないのだから、世界で闘おうとする動機もないのです。そういう人をどう叱咤激励したらいいか、私はよくわからない。

私は1956年の生まれですから、戦場体験も飢餓体験も実際にはありません。しかし、シベリアに抑留されていた父の話や、同じくシベリア抑留体験を持つ詩人・石原吉郎の詩を読むことで、本当の飢餓感というものを想像し、追体験してきました。だから、生き延びるためには飢餓感が必要だということが実感として分かるんです。

世界のあらゆる現象を見ながら、クリティカルにモノを考える

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高橋:やはり教育は重要なんでしょうか。

石井:教育は大事です。教育そのものがブレイクスルーです。でも今の日本の教育は、正解の存在が保証された問題を人より早く解くことを競っている。そこで育った人たちは「君が言っていることは正しいけど、ちっとも面白くない」ということしか言えない。

予定調和的な質問しかできない。要するに考える力、クリティカルシンキング(批判的思考)が育っていない。すべて教育のせいだとは言うつもりはないですけど。教育も一因ですね。

あらゆるものをクリティカル(批判的・批評的)に見ることは、目の前にあるものをまずは疑え、ということです。さっき、「ワークライフバランス」という言葉はイリュージョンだと言いましたが、「なんとなく分かる」では誰も納得しないし、誰も説得できない。なぜならそれが非論理的だからです。

社長の言うことが非論理的で納得できなければ、それに従うか、文句を言うか、会社を辞めるかしかない。文句を言うと飛ばされちゃうかもしれない。いろいろありますよ。でもそれを超えて、本当に真剣に会社のこと、働くこと、あるいは人生のことを考えてほしい。

クリティカルシンキングというのは、日常生活でも実践できるし、訓練できます。渋谷の街を歩いていると面白いんですけど、ビルの壁にたくさん広告コピーが書かれている。そのコピーの意味を批評的に考えて、それをツイートする。一日で100リツイートをもらうことを目指す。私はそういう訓練を毎日やっています。

世界のあらゆる現象を見て、解釈しながらメタファーを使いながら、議論する。それが学びです。今日、私と議論しながら、「あの時、言い返せなくて悔しかった」と思うんだったら、それはとてもよいことです。悔しくなかったら、人と議論する意味なんてないんですから。

結局私の言った言葉に価値があるんじゃなくて、私の言葉を受け取った皆さんの心の中で、身体の中で、どういった新しい化学反応が起きて、今まで見えなかったものが見えてくるのか。それこそが、プライスレスな価値なんだと思います。

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高橋:パーソルグループとしても、働くというテーマを考えながら、さまざまな新規事業を生み出そうとしています。その新規事業創出を担うのが私たちのパーソルイノベーションという会社の役割です。

そこでぜひヒントをいただきたいのですが、例えば先生の研究、もっと広くMITメディアラボの研究の中で、人間のこれからの働き方に寄与できる、応用できる研究というものがあるとすれば、それはどんなものでしょうか。

石井:「テクノロジーとエシックス(Ethics=倫理)」の関係を突き詰める研究は重要なものの一つです。メディアラボでは、ダライラマのところで修業した人が客員教授で来ていて、メディテーション(瞑想)とAIテクノロジーにおける倫理ーを一緒に教えたりしています。

そもそもなぜ自分たちの会社がこの世に存在して、この製品を売っているのか。それをはっきり言える会社もありますし、ただ儲けることだけとか、サプライチェーンの下流の方で、流れてきた桃を拾うだけという会社もある。

でもやはり自分たちが働く時には、働きがいを感じたいもの。働きがいは給料で決まるのか、あるいは違うものなのか。働く価値が社会の文脈の中にあるのか、自分の倫理にかなっているのか。そういう視点で企業を捉えることが重要になっています。そうした思考が広がればこそ、テクノロジーの持つダークサイド、ポジティブサイドの両面を捉える視点も生まれるはずです。

今、ソーシャルメディアでも、個人情報の流出やフェイクニュースが問題になっています。そうしたビジネスの現実の中で、エシックスを考えることはとても大事で、世界的にその意義が問われようとしています。そうした教育があのハーバードビジネススクールでも始まっているんですよ。

リーマンショックを呼び寄せる一因となった金融工学。強欲資本主義を放置したあの教育はなんだったんだという自己反省があるのでしょう。だからこそ、これからの教育ではエシックスについても同時に教えていかないといけないということだと思います。

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高橋:たしかに最近の若い人は、仕事を選択する際に、社会貢献や環境適合性、人への優しさ、いたわりといったものを重視する傾向があります。そういう情報があふれるようになったから、ムード的に関心を示すというだけなのかもしれませんが。

もちろん、より本質的に自分の人生や社会を考えながら、「エシカルじゃない会社には入りたくない」という人もいるでしょう。だからこそ私たちは、そういう人たちが活躍できるような環境を作っていきたい。

単によりよい会社を選択するというだけでなく、自分の課題として新しい仕事に挑んでいく。仲間を集めていく。そして社会に本当の意味でのインパクトを与えていく──そんな人たちをこれからも支援していきたいし、そこでリーダーシップを発揮することが大切だと、今日、先生のお話を伺っていて痛切に感じました。

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