NTT東日本×Nianticが語る、世界中の人が動くプロダクト・サービスの作り方とは?
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Niantic 村井説人氏がパネルディスカッションに登壇
イベントは、まず登壇者の自己紹介と現在の取り組みに関する紹介から始まった。最初に登壇したのは、TECH PLAYのイベントでも複数回登壇しているNTT東日本デジタルデザイン部の下條裕之氏だ。下條氏は、2006年にNTT東日本に入社。2009年より研究開発センタに所属し、以降、10年ほどIoT分野で活躍している。その後、19年にデジタルデザイン部の立ち上げプロジェクトに参画。現在はAI/IoTを初めとしたデジタル技術戦略や事業戦略の立案、デジタル人材育成にも携わっている。
「私が所属するデジタルデザイン部は、AIやIoT、エッジコンピューティングなどの技術に携わるデジタル技術集団です。デジタル技術集団とはいえ、研究開発を行うよりは、AIなどの先端技術を新たな価値に変換してお客さまやパートナーに提供することをミッションとしています」(下條氏)
下條氏が率いるDX人材育成をミッションとするバーチャル組織「DXLab」は、開発の内製化推進、DX人材の育成、パートナリング、オフショア開発にも取り組んでいる。またニューノーマル時代の業務効率化ツール「マイバトラー」の開発も手がけ、技術創出ベースのプロダクト開発を推し進めている。
続いて、Niantic 代表取締役社長の村井説人氏が登壇。「今日はできる限り、自分の体験談を織り交ぜながら話をしたい」と前置きし、自己紹介が行われた。
「今回のイベントは非常に感慨深いモノがあります。というのも、私のキャリアの始まりは分割前の日本電信電話時代のNTTにありました。その後、NTT-X(現在のNTTレゾナント)でインターネットサービスに携わりました」(村井氏)
ちょうどブログサービスの人気が高まってきた頃で、goo blogのプロダクトマネジャーを務めたのち、下條氏が入社した2006年に退社。その後、GMOアドネットワークスに入社し、フィード管理サービス「FeedBurner」の日本側の責任者としてサービスの拡大に奔走した。
2008年にはGoogleに転職し、Googleマップの日本統括部長として、その発展に貢献した村井氏。ストリートビューをはじめ、乗り換え案内サービスやインドアマップのサービスなどの発展を見てきたという。
「Nianticの創業者であるジョン・ハンケと知り合ったのも、この頃です。Niantic設立の2年ぐらい前から、Google社内のインキュベーターとしてNiantic Labsが立ち上がり、パートナーシップをサポートしてきました」(村井氏)
2015年のGoogleから独立するタイミングで、NianticのCEOであるジョン・ハンケ氏からの誘いで、現在の職を務めることになる。
「Nianticに入社した動機の一つは、Googleマップを進化させればさせるほど、人はブラウザの前から動かなくなったこと。ストリートビューで人は簡単に、世界旅行をしたような気分になります。一方で、これまでの地図は羅針盤のように、人が冒険に行くことに貢献してきた。今の時代においてそれを実現できるのはNianticだと思ったからです」
だから「Pokémon Go」や「Pikmin Bloom」をリリースしたのだと、村井氏は明かす。「マップを活用した新しい体験を届けたい。22年もリアルワールド・メタバースの世界を切り開いていく」語り、自己紹介をまとめた。
“世界を探索するきっかけを提供する”ミッションから生まれた「Pokémon GO」
続いて、「NTT東日本 デジタルデザイン部・Nianticが提供するサービス・技術」をトークテーマにパネルディスカッションが始まった。
──まずは村井さんからNianticが提供するサービス、技術についてご紹介ください。
村井:Nianticは非常にユニークな会社。「Niantic inspires people to explore the world, together.(Nianticは、人々が仲間と共に世界を探索するきっかけを提供します)」というミッションを社員全員が意識して、それを実践しています。
「離島であっても、人が一人でも住んでいたらインフラとなる通信回線を持っていく」。これは、NTT時代の先輩から言われたことです。人の生活をより良くして、なくてはならない存在になることが重要だという言葉に感銘を受けました。
Nianticもそうあるべきだと考え、ミッションを繰り返し口にしながら、ゴールに向かって動いています。このゴールを持っていることがNianticの強み。私たちが提供するサービスが世界中の人から求められる存在になるためには、ビジョンやミッションを社員と共有し続けることが重要だと考えているのです。
もう一つユニークなのは、NianticのKPIに「歩数」があることです。私たちのサービスを通じて、世界中の人たちが歩くことで健康になり、世界の素晴らしさに気づいてもらいたい。そんな想いが含まれています。
私たちが「Pokémon GO」を提供する際、最初に掲げた目標は、世界中の人が歩いた総距離が太陽系を超えていくことでした。下條さん、太陽から海王星までどのくらいの距離があるか知っていますか。
下條:何百光年とかでしょうか。
村井:そこまで遠くはありませんが、約45億kmと言われています。その目標を立てていましたが、ありがたいことに、私たちのサービスを通して皆さんが歩いてくれた総距離は490億kmに達しています。この距離は今もどんどん増えていっています。この数字からもわかるように、皆さんが外に出て、たくさん歩くことで、世の中が良くなる。そう考え、私たちはサービスを提供しています。
NTT東日本の“思いつきドリブン”開発で実現した「マイバトラー」
──Pokémon GOやPikmin Bloomは、ミッションドリブンで生まれたサービスなんですね。NTT東日本のデジタルデザイン部も、ミッションドリブンをキーワードに取り組まれていると思います。
下條:NTT東日本というと、堅実、おカタイなどのイメージがあると思います。ですが、私たちデジタルデザイン部が開発した「マイバトラー」は、自分たちのやりたいことから着想した、思いつきドリブンの開発手法で実現したプロダクトです。
マイバトラーが生まれた背景にあったのは、コロナ禍で在宅勤務になったことによって、様々な課題が出てきたことです。例えば、電話の取り次ぎをどうするかなど。それをデジタルで解決できないかと考えたのです。スケジュール調整や問い合わせ対応、電話の取り次ぎなどの面倒な人の作業を効率化するツールとして、マイバトラーを開発しました。
例えば、電話取り次ぎをしてくれる「テルバト」は、留守電のような機能です。お客さまからかかってきた「明日の資料を送ってください」という電話をAIで解析してテキスト化し、担当者にメールで送信します。
現在はトライアル中ではありますが、自分たちだけではなくお客さまにも使っていただきながら、プロダクト開発を続けています。
Nianticが構築した3つのビジネスモデル
ここからは、下條氏と村井氏がお互いに聞いてみたいことを語り合った。
下條:社員全員が同じミッションに向かうように、組織を動かすのは難しいと思います。企業規模が大きくなれば、難易度も上がる。その課題をどう乗り越えたのでしょうか。
村井:Nianticでは、「身の回りの世界を探索してもらいたい」「一人でも友人とも家族ともみんなと歩いてもらいたい」「現実世界で人と触れ合ってもらいたい」という3つのプリンシプルに基づいてサービスを開発しています。
Nianticは15年に設立されたベンチャー企業。小さい組織なので、プロダクトを開発する時やPRする際は、プリンシプルと完全に一致しているかを指さし確認しています。最初にそうしたことで、メンバーが増えたとしても、このミッションでどんな価値を生み出したのか、伝達する仕組みができています。
下條:一般的には、ミッションドリブンなサービスをマネタイズにつなげるのは難しいと言われます。Nianticではどうやってマネタイズに繋げているのでしょうか。
村井:マネタイズは私たちにとっても課題です。そこにおいては、ビジネスモデルから紐解く必要があります。Nianticのビジネスモデルは大きく3つ。そのうちの1つがPokémon GOやPikmin Bloomから得られる課金です。
とはいえ、私たちは課金の要素を大きくしたいとは考えていません。一生涯そばに置いておきたい楽しいサービスにしていきたいのです。この考え方を支えるために、広告モデルのビジネススキームを採用しています。これが2つ目のビジネスモデルです。
例えばPokémon GOでは、スポンサー企業のブランドをサービス内に登場させることで、収益を上げるビジネスモデルを実現しています。プロダクトの特徴は人に歩いてもらうこと。その特徴を活かして、各スポンサーのお店にユーザーを導き、ブランドを知ってもらう機会を提供しています。
3つ目は、プラットフォームによるビジネスモデル。当社は「Niantic Lightship」というAR体験の業界標準のプラットフォームを提供しています。インターネットが今後、さらに進化するキーとなるテクノロジーはARです。NianticではPCやスマホで触れるインターネットをできる限り、現実世界に持ち込みたいと考えています。
つまり、すべての日常生活にデジタルのレイヤーを入れて、より便利な世界を実現したい。これを実現するのはNianticだけでは難しいので、まずはプラットフォームを提供することを考えています。
下條:コロナ禍において在宅時間が増えたことで、改めてインターネットの重要性が見直されました。Nianticで影響を受けたことはありますか。
村井:コロナ禍を体験して、インターネットによる人類の進化は本当に間違ってなかったんだということを改めて実感した時期でした。同時に、人との交流が通信だけで行われるようになると、外に出て関わりを持つことの重要性も実感しました。そのために、デジタルの力を活用できないかと考えるようになりました。
一方で、家にいながらワクワクを感じられるプロダクトも同時並行で実装しました。例えば、Pokémon GOの遠隔バトルなどです。しかし、最終的にやりたいことは家から一歩でも外に出て、我々が住んでいる地球の素晴らしさを再認識してもらうこと。今はコロナの収束を待っている状況です。
下條:パートナーシップを組むにあたり、大事にしていることは何ですか。
村井:パートナーを選ぶというよりは、Nianticが推進している「歩く」ことに共感してもらい、共に環境を作っていきたいという企業とパーナーシップを組んでいます。
下條:個人的にはぜひ、私たちもパートナーとして組んでいきたいと思いました。
村井:NTT東日本が持つ公衆電話の位置情報は、何か災害が起きたとき、非常に重要なインフラとなります。そうした公衆電話の位置を組み込み、ユーザーに予め知っておいてもらうのもいいですね。
例えば伊藤園さんのケースでは、位置情報ゲーム「Ingress」の中に災害対策自販機が登場しており、いつの間にか情報を得られるようになっています。これからも新たな分野を発掘していきたいと思っています。
新しいビジネスを創出するための人材育成
下條:私たちの部署は、新たなビジネスを創出する人材を育てていくための取り組みをしています。そこで、優秀な社員が多くいるNianticさんに、人材育成の成功ストーリーなどあればぜひお聞きしたいです。
村井:私が起業したいと思った大きなモチベーションが、人材育成でした。NTTにはたくさんの優秀な人材がいます。そうした人材を活用し、組織をさらに成長させるためにはどうすればよいのか、日々考えていました。
しかし、私の考えだけでNTTのような大きな組織が変革できるわけではありません。だからこそ、自分で組織を作るところから始めてみたいと思ったのです。
組織を成長させる人材を育成するにはどうするか。1つは、その組織がいかに社会へ貢献できているかが重要です。CSRではなく、自分たちが提供しているサービスが社会に貢献できていれば、優秀な人が優秀な人を呼び寄せ、人材が集まると考えています。
2つ目は自分より優秀な人材を獲得すること。そして3つ目は、身近にいる優秀な人材を把握することです。大きな組織では、優秀な人材はたくさんいるのに、輝いていないことがあります。それは優秀な監督やコーチがいないからです。つまり、自分たちのマネジメントが成長しないと、優秀な人を輝かせることができないのです。
その人を育成するのではなく、その人を輝かせるために自分はどう変わっていけばよいのか。これが、人材が活躍できる仕組みを作る秘訣だと思います。
下條:有難うございます。最後に、NTTにアドバイスをいただけると幸いです。
村井:NTTはすごく大きな組織で、会社としてはすごくまとまっています。そのまとまった組織がゆっくりと、かつ強固に動いていけるところが強みだと思います。
ベンチャー企業は意思決定こそ早いものの、今日言ったことが明日変わるかもしれません。ですが、大企業はそんなことはない。それが価値です。そんな強みを持ったNTTが新しいものを生み出していく努力をしているのは、素晴らしいと感じました。
下條:ベンチャーはベンチャーの良さがあり、NTTにはNTTの良いところがある。そのNTTの良いところはそのままに、ベンチャーの良いところを取り入れて変化していくことが大事だということですね。
【Q&Aタイム】リーダーとして大事にしていることは?
パネルディスカッション後は、Q&Aタイムが設けられた。様々な質問が投げかけられ、イベントは非常に盛り上がった。その中からいくつか紹介する。
Q.村井さん、下條さんが思う「自分より優秀な人」とはどんな人材でしょうか。
村井:優秀な人は本質的なことをブレずに考えられる人。共通認識として正しいと思ったことを信じて、全力を投じることができる人。そういう人とは仕事がしたいと思います。
下條:どんな仕事であっても、自分の思いを持って仕事ができる人は優秀だと思っています。一緒に仕事をしたい人は、自分が持っていないものを持っている人です。
Q.リーダーが最もすべきことは何か。また育成や成長の観点から、若手に向けたお勧めのアクションがあれば教えてください。
下條:私個人としてリーダーとして大事にしているのは、いかにチームメンバーが働きやすい環境になっているか。楽しく仕事できることを大切にしています。
若手に向けたお勧めのアクションは、失敗すること。成功体験の積み重ねは大事ですが、失敗することで人は成長します。特に新入社員など、若手の失敗が会社に影響を及ぼすことは少ないですからね。
村井:失敗の経験はいいですね。Nianticではできる限り、逆のピラミッドの組織経営をやりたいと考えています。人材を育成するのではなく、人材がいかに輝くか、輝かせることができるのか、実践していく人たちのサポーターでいたいからです。
何かを成し遂げようとするために悩んだり、困ったり、落ち込んでいたりするときに、支えるのが上司やリーダーたち。だから逆ピラミッドの組織です。様々な意思決定を経験し、それが適切にできたとき、人は成長します。
例えばGoogleでは被災地に対して、今できることは何か、社員が考えた結果、生まれたのがクライシスレスポンスというチームです。各々が得意とした分野に力を注ぎ、実行に対するアカウンタビリティ、レスポンスビリティ、説明責任を持ちながら実行した。これを止める上司は誰もおらず、サポートしてくれました。これはすごく良い経験となりました。
チャレンジして、たとえ失敗しても、そこに対する説明責任を果たせば、次の成長につながります。そうした機会を提供することが大事だと思います。