「見る・測る・分析する」×デジタル技術──日立ハイテクが仕掛けるデジタルソリューションとは?
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■登壇者プロフィール
株式会社日立ハイテク
専務執行役員
Lumada事業推進室長 三浦 英俊氏
株式会社日立ハイテク
Lumada事業推進室 専門部長 高橋 秀幸氏
株式会社日立ハイテク
ナノテクノロジーソリューション事業統括本部
カスタマーソリューション本部
統合ソリューション企画推進室 部長 大内 義範氏
株式会社日立ハイテク
ナノテクノロジーソリューション事業統括本部
評価解析システム製品本部
データソリューション開発部 担当 陳 軍氏
グローバルアセットを活かし、社会イノベーション事業を共創
最初に登壇した三浦英俊氏は、まず日立グループの歩みや特徴とともに、これまで培ってきた「OT(Operational Technology)」「IT」「プロダクト」の3つをかけ合わせ、社会イノベーション事業「Lumada(ルマーダ)」をグローバルに展開していくことが、日立グループのコミットメントであると語った。
Lumadaを中心に、ビジネスはもちろん「社会」「環境」「経済」3つの価値を向上させ、人々のQOLの向上ならびに持続可能な社会の実現を目指す。
「現在は売上高約8兆7300億円というグローバル企業に成長しましたが、自ら習得した技術で新しい技術領域に挑戦する。このようなベンチャー精神は今でも変わらない日立グループの大切なDNAとして、受け継がれています」(三浦氏)
日立はビジネスはもちろん「社会」「環境」「経済」3つの価値を向上させ、人々のQoLの向上ならびに持続可能な社会の実現を目指す。ただし、全てを日立グループだけで実現するのは難しい。そこで、さまざまなケイパビリティを持つ企業と協力・共創することで、新たな価値を創造していく。
こうしたグループ全体の未来像を踏まえた上で、日立ハイテクの企業ビジョン「ハイテクプロセスをシンプルに」、そして「最先端分野でお客様の飛躍と成長を手伝う」というミッションを紹介した。具体的には「見る・測る・分析する」領域で無駄を減らし、顧客の生産性最大化に貢献することである。
事業領域は主に3つある。「アナリティカルソリューション」では光学や自動化技術などに取り組み、血液分析機器は世界トップシェアを誇る。「ナノテクノロジーソリューション」は電子線技術を集約・強化した事業領域であり、半導体製造に欠かせない電子顕微鏡などの検査装置を手がける。「インダストリアルソリューション」ではデジタル技術を活用し、モノづくり企業のあらゆる課題発見・解決に貢献する。
「これまでグローバルで培ってきた技術力や営業力、ビジネス探索力、お客様やパートナーとのコラボレーションや共創。これらのアセットを組み合わせることでお客様ごとの課題解決はもちろん、深刻化するさまざまな社会課題の解決を実現していきます」(三浦氏)
三浦氏はこのように述べ、ファーストセッションを締めた。
アセットや仕組みを体系化することでイノベーションを加速
続いて登壇した高橋秀幸氏は、具体的な社会課題に対する対策事例を数多く紹介した。
例えば、医用検査システムは多くの検査を正確に行うことで業務の効率を上げ、現場の負担を軽くする。さらに、試薬や消耗品のアドバイスまで行っている。
リハビリ医療支援では、データセンターに蓄積された10数年分の患者のカルテデータから、AIが推奨プランを医療機関に提案する。治療プランの質を向上し、人材不足や患者家族の負担などの課題解決に繋げるという取り組みである。
材料開発(化合物ディスカバリー)でも同じくAIにより、これまで経験と勘に頼っていた未知の化合物の調査時間の大幅削減に貢献する。
「リチウムイオン電池の製造・ライフサイクル管理」では、バッテリーの劣化状態や寿命を見える化することで、適した領域で再び使えるようなエコシステムを構築する。
鉄道の保守管理はこれまで、夜間などに専用車両を走らせ必要な情報を得ていた。それを日立ハイテクのテクノロジーにより、昼間走っている営業車両でも可能にした。夜間作業の軽減はもちろん手配の手間削減にも寄与する。
規模が大きくなればなるほど全体把握が難しいサプライチェーンにおいては、歩留まり、在庫、受発注、物流、決済といった各指標を見える化するプラットフォームも構築している。
なぜ、これだけ多くの社会課題につながるイノベーションが実現できているのか。高橋氏は次のように説明した。
「日立グループには、日々の業務で蓄積された様々なデータとソリューションがあります。これらのアセットを集約し、分析・活用することで各分野における業務効率化や、さらなる品質向上を実現するソリューションや価値を生み出しています」(高橋氏)
データやデジタライゼーションはイノベーションを生み出すために重要ではあるが、「社会課題の解決が目的だ」と、高橋氏は強調する。現実の事象をデータで把握し、サイバー空間で予測する。再び現実世界にフィードバックし、改めて検証する。さらなる検証が必要な場合は、再度サイバー空間に投げる。こうした「Cyber Physical System」の循環が重要だと語った。
イノベーションにより、社会課題を解決していく具体的なフローも紹介した。まずは、社会課題と市場ニーズを分析する。次のステップとして、事業戦略立案ならびにビジネスをモデリングする。
“協創”により、顧客やパートナーと共に検証を重ねながら、ソリューションを開発するサイクルを繰り返す。効果のあるソリューションが完成したら、ソリューションをパッケージ化し、他の顧客にも展開。エコスタイルの実現や自社の業績にも寄与するステップを目指しているという。
Lumada(ルマーダ)事業とは?
ここからはLumadaについて説明が行われた。なお高橋氏はLumada事業推進室の専門部長であり、エバンジェリストでもある。
「Lumadaはデジタルの力を活用しながら、人々や企業が新たな価値を協創・創造するつながりの場です。社会イノベーションを実現する、社会をデジタルトランスフォーメーションするエンジンとも言えます」(高橋氏)
大きくは3つの基盤で構成されており、「イノベーション」「ソリューション」「アライアンスプログラム」との3つのハブ(インフラ)をかけ合わせることで、さまざまな価値の創出やイノベーション、社会課題の解決を実現していく。
たとえばイノベーションハブは、データサイエンティストやドメインスペシャリストなどが所属。東京、ロンドン、シンガポール、バンコク、北京などグローバル各地にリアルな拠点を構えており、日立が独自に体系化した「NEXPERIENCE(ネクスペリエンス)」という方法論でイノベーションを進める。
業種・業務ノウハウ基盤では、実際の共創事例を豊富に揃える。1200件以上の課題解決のユースケース、百数十件ものソリューションの事例だ。これらの事例がグループ共通のライブラリに登録・保存され、グローバル約35万人の社員に公開されている。ノウハウを組み合わせることで、スピーディーかつ効率的に新たなイノベーションを生み出す狙いだ。
日立グループに入社して36年目。その間約20年が海外業務だという高橋氏は、次のようなメッセージでセッションを締めた。
「日立には社会インフラのあらゆる技術・ソリューションがあり、世の中を支えていると強く感じています。そのような環境下で働いているからこそ、日本産業界の活性化を支え、世界に存在感を示す。私の仕事におけるミッションが実現できる、夢のある企業だと思っています」(高橋氏)
半導体関連装置から得たデータを解析、業界課題を解決する
続いては、大内義範氏が登壇し、半導体業界の状況と課題、日立のアプローチについて説明した。
「半導体はパソコンやスマートフォン、高性能サーバーから各種電子・情報機器、さらには自動車や鉄道、ロボットや機械設備まで、社会インフラを担う多種多様な機器の中に組み込まれ、コアエンジンとしての役割を担っています」(大内氏)
大内氏が説明した「コアエンジン」とは、現実世界で得たデータを蓄積し、仮想空間内でAIが解析、最適化した形で現実世界に戻す。このフィードバックループを繰り返すことで、より使いやすい製品や社会を実現している。
一方で、半導体を必要とするデバイスが増え、需要がさらに増したことで、需要に対して供給が遅れている業界課題がある。技術革新の要望が高いこともあり、事業者は常に研究や設備に多額な費用を投資しながらも、キャッシュフローを確実に叩き出す必要があると、大内氏は説明する。
「微細化、立体化、積層化といった製造技術がより高度化することで、開発フェーズにおいては期間が長くなり工程が増えるといった課題が生じています。量産においても、製造のばらつきによる歩留まりの低下といった各種課題を抱えている。これらの課題がそのまま経営課題に直結しています」(大内氏)
こうした業界共通の課題に対し、日立ハイテクは現場から得られる大量のデータに着目。データを適切に処理(解析)することで、課題解決を実現するアプローチを取っている。
大内氏は半導体の製造工程と、同社の製品が寄与している領域を示すスライドを紹介。製造もしくは解析に資する領域に大別されるが、装置郡が多いため、多くのデータを収集していることが分かる。
装置から得られた大量のデータにお客様からの評価や改良ニーズを加え、課題を解決していく。単に装置の機能的な部分を改善するだけではなく、経営課題につながる重要課題を把握していく点がポイントとなる。
その上で対策を検討し、日立グループ全体で保有するデジタルケイパビリティをかけ合わせることで、課題の特定・解決を実現する。さらに効果をフィードバックループすることで、さらなる改善につなげていく。
「最終的には、課題解決手法を相互補完関係となる同業他社にも提供することで、より大きな業界全体の課題解決を実現したいと考えています」(大内氏)
AI活用で計測・検査の正確性、スピードアップ、自動化を実現
最後の登壇者は陳軍氏。大量データの的確でスピーディーな分析などを実現する、AIディープラーニングによる計測や自動化について解説した。
まずは大内氏の説明を補足するかたちで、半導体の製造工程を紹介すると共に、日立ハイテクの装置が各工程でどのような役割を担っているのかを説明した。
「ウェーハ上に形成された回路の出来栄えを、SEM(Scanning Electron Microscope)と呼ばれる走査型電子顕微鏡で画像を撮影し、計測・検査します。例えば、ナノメートルオーダー以上(10のマイナス9乗)精度での測定や欠陥検出が可能です」(陳氏)
SEM画像は大量のノイズを含んでいるが、解像度を上げるために電子線照射のレベルを上げると、計測時間の長期化や回路の負荷がかかるという問題があった。そこで、ディープラーニングを使い、低画質画像でも高精度な計測・検査を短時間で自動化する取り組みを行っている。具体的に3つの事例を紹介した。
1つ目は、低画質の画像から回路パターンの輪郭線を抽出する事例だ。ディープラーニングのアルゴリズムである、Semantic Segmentation(セマンティックセグメーション)モデルを使うことで、左側の画像が右側の画像に変換され、ぼやっとしていた回路の輪郭線を明確化する。
2つ目は回路設計図と比較し、ばらつきを持つ回路を特定する事例である。SEM画像から回路設計図を逆シミュレートで変換するAIモデルを活用することで、画像を生成。両者の画像を揃えた上でパターン認識することが可能となり、認識の成功率が格段に向上した。
3つ目はSEM画像と回路設計図を比較することで、欠陥を検出する技術だ。基本的な考えとしては、基準となる画像と検査対象の画像を比較する。ただ比較基準となる画像をどのように選別するかが技術的に難しい点であった。
「Die-to-Database(DB検査)という手法自体は以前からあったが、欠陥判定しきい値の設定が難しかった」と、語る陳氏。設計図から正常な回路のSEM画像を推定する画像変換モデルを開発することで、技術的なブレークスルーに成功。より小さい欠陥も摘出できるようになった。
最後に陳氏は次のように述べ、セッションを終えた。
「ディープラーニングや機械学習は画像処理だけではなく、紹介したように生産性向上にも寄与します。今後も開発を推進し、社会の発展に貢献したいと考えています」(陳氏)
【Q&A】参加者から寄せられた質問に登壇者が回答
セッション後は、登壇者が参加者から寄せられた質問に答えた。そのいくつかを紹介する。
Q.長年いたからこそ感じる日立ハイテクの“変化”は何か?
高橋:以前はハードウエアを作り、カタログで販売するビジネスモデルが一般的でした。しかし最近では、データを活用してアイデアやソリューションを販売する動きに変わっています。また、グループ全体のアセットを活用したり、グループ会社と連動してさまざまなことにトライするメンバーが増えています。
Q.半導体装置データの処理・活用における御社のコア技術ならではの強みは?
大内:「見る・測る・分析する」という計測領域におけるコア技術はもちろんですが、半導体製造装置であるエッチング装置も扱っています。そのどちらにも言えることですが、加工や計測においては、ベテランの経験と勘に頼ってる側面がありました。いわゆるレシピのようなものです。ビッグデータとAIを活用することで、このレシピを最適化して共有できるようにしています。
Q.セマンティックセグメーションモデル事例におけるサンプルデータの特徴は?
陳:機械学習には教師あり・なしの2種類のデータが必要ですが、それぞれ精度やコストなどで特徴の違いがあります。その両面のバランスを考慮しながら、少数データで事例を実現しています。