FINTECH JAPAN 2022 ピッチバトル優勝!社債専門のネット証券「Siiibo証券」のビジネスとそれを支えるシステムとは
社債専門のネット証券「Siiibo証券」のビジネスとは
– FINTECH JAPAN 2022 ピッチバトルでの優勝おめでとうございます。まずはどのようなサービスをご提供されているのか教えていただけますか。
宮崎氏「ありがとうございます。
唯一の社債専門のネット証券として、オンラインで社債を発行・購入可能なプラットフォームを提供しています。
社債という言葉に馴染みが無いかもしれないので、ご説明します。
社債とは金融商品の一つで、企業が投資家から直接資金調達するための手段です。
投資家は社債発行を希望する企業の信用リスクなどを最初に見定めて、期間の決まった貸付を行います。そしてその期間分の利息を受け取り、満期時には元本の返済を受けます。
金融商品というとまず株式を思い浮かべる方も多いと思いますが、社債との違いは、株式は、売却のタイミングを見定めて購入価格との差で利益を得るものですが、社債は、決まった期間保有する事で一定の利益を得られるという点です。
実は社債発行というのは一般の中小企業にはなかなか利用が難しい資金調達手段でした。
最も一般的な社債は公募債と呼ばれるものですが、発行に際しての要件が中小企業にとってはハードルが高く、発行金額も数千億円規模となります。
そのため世間でもよく知られているような大企業しか利用していないのが実態です。
一方で、中小企業でも利用できる資金調達手段が、私たちSiiibo証券が手掛ける私募社債です。
私募社債の場合、発行に際して公募債のような要件は無く、発行のためのコストも抑えられます。
ただし、投資家の人数は50名未満としなければならないという制限があります。
いわばプライベートに募集する社債ですが、広く投資家を募ることができない分、知り合いに投資のできる人がいる、といった状況で無ければ十分な金額を発行することができないという課題がありました。
投資家は社債を買いたいと望んでいて、企業も社債を発行して資金調達をしたいという希望があるにもかかわらず、実は日本では社債投資・発行できる機会が限られていたのです。
Siiibo証券は、今までつながりのなかった企業と投資家がオンラインで出会い、私募社債の活用を広げていきたいという考えから設立されました。
投資家にとって、初めて知った企業の社債を買う判断をすることは難しいものです。
そのため、Siiibo証券では併せてIRプラットフォームも提供し、企業情報を掲載できるようにしています。Siiibo証券にご登録いただいた投資家様は、その企業の社債に勧誘されると、事業内容や財務情報を収集した上で、社債を購入することができます。」
— 投資家さん、発行企業それぞれのニーズに即したプラットフォームのご提供をされているのですね。
宮崎氏「決まった期間で決まったリターンの得られる投資がしたいという投資家様のニーズを実感しています。そういった投資の機会が限られていましたので。
社債と比較すると新しいソーシャルレンディングもその点で仕組みとしては近いのですが、金融商品としてのスキームが異なっています。例えば万が一企業が倒産してしまった時にも、社債は商品としては昔からあることから、投資家の法的位置付けが明確です。
社債は伝統的な金曜商品でありながらその供給が十分ではなかったところに、テクノロジーの力を使って、新たに投資機会をご提供しているのが私たちのサービスの意義と言えます。」
– 商品としては昔からあるにもかかわらず、Siiibo証券以外が進出していない理由は何でしょうか。参入に難しさがあるのでしょうか。
宮崎氏「新しいプレイヤーが入りづらいとは思います。
私募社債の取扱いには証券業の登録が必要で、それ無しには日本でこの事業は行えないため、まずそのハードルが高いです。
私たちも、登録までの準備期間が1年半ほどありました。
その間にスタートアップとして資金調達をしながら、証券会社としての体制を整えるために知見を持った社員10人ほどで当局とやり取りをしながら準備をしてきました。
事業として上手くいくか不透明な中、この準備期間を乗り越えようとする企業は少ないのではないでしょうか。
最近のサービスのようにアジャイルに、お客様の意見を聞きながら少しずつ事業を始めるということもできないため、私たちも覚悟を持って立ち上げに臨みました。」
社債専門のネット証券を支えるシステムとは
– Siiibo証券を支えるシステムについてもお話をお伺いしたいと思います。実際に稼働しているシステムにはどのようなものがありますか。
松澤氏「提供しているのは宮崎がご説明したビジネスモデルを運用するためのWEBサービスとなります。
企業がIR情報や希望条件を掲載し、それを投資家様が閲覧できる『IR機能』、実際に社債の購入申し込みができる機能、購入の確定後、利払いなどの情報を閲覧できる社債管理の機能といったものがあります。
基本的には入力されたものを表示する、スタティック(静的)なシステムとなります。」
取締役 CTO 松澤 有氏
– システムの構成や、技術スタックはどのようなものですか。
松澤氏「ブラウザで閲覧できるWEBフロントエンドとサーバーサイドで構成されており、伝統的なWEBサービスの形態です。
インフラにはAWSを使用しており、サーバーサイドはElixirという言語、WEBフロントエンドにはElmという言語を採用しています。」
– WEBサービスにおいてElixirという技術選定はまだ珍しいと思うのですが、何か採用の背景があるのでしょうか。
松澤氏「一番の背景は私がElixir経験者で、Siiibo証券に最初にジョインしたエンジニアだったということです。
前職の会社でElixirを積極的に採用しており、そこで深く学び、研究開発やプラットフォーム開発を行っていた経験から自信を持っていました。
ElixirはErlangという実行環境上で動作するのですが、『落ちない』という性質が非常に強いのが特徴です。
先程設立時について宮崎からご説明しましたが、Siiibo証券には長い準備期間があり、その間の開発は少人数で行う必要がありました。少人数でもサーバーサイドの安定した開発を継続し、サービスの提供ができるという点も採用した理由です。
Elixirという言語自体の筋が良いことは経験上分かっていましたので、これからチームを構成していくにあたり、それを軸にして長く維持していけると判断しました。
フロントエンドではElmという静的型付けの言語を採用しているのですが、これも似た理由からです。
ElmについてはElixirよりもさらに採用している企業が少ないと思います。
静的型付け言語の特徴の一つでもありますが、これもやはり不意に壊れることは少ないです。
実はもともとElmは個人で研究してはいたものの、実務で使うのはSiiibo証券が初めてでした。」
— ElixirやElmの落ちにくいという特性は、安定性が求められるFintechとの相性が良さそうですね。
松澤氏「そうですね。
他にもElixirはリアルタイムでやり取りをするようなアプリケーション開発にも向いていて、チャット系のアプリケーションや、オンラインゲームのチャットシステムなどでも使用されています。有名なところだとDiscordでも採用されていますね。
今後即時性のある機能が必要になった時にも開発はしやすいと思います。」
– WEBアプリケーションの開発でElixirやElmを使用しているところが世の中にまだ少ない中で、エンジニアの採用に難しさはありませんか。
松澤氏「まずElmですが、私は国内のElmのコミュニティで勉強会やハンズオンのメンターを務めているんです。
現在のチームはそのコミュニティで知り合った方や、Twitter経由で仲良くなった方に『一緒にやりませんか?』と声をかけて、快く集まってくれたメンバーです。
その後も何名かジョインしてくれていますが、HaskellやScalaの経験者はいてもElm経験者はとても少ないですね。
それでも関数型言語の経験のある方はすんなりと慣れてくれていると思います。
Elixirについても同じで、実際の業務で使ったことがなくてもScalaのような関数型言語を使用した経験や、文法が似ているRubyでの開発経験があれば習得はしやすいです。
私たちはElixirのPhoenixというフレームワークを使用しているのですが、これはもともとRuby on Railsのコントリビューターの方が開発しているので、思想や概ねの構成が少し似ています。
社内でも、Ruby on Railsを使用していた者がElixirにチャレンジした結果、今ではしっかりと開発をしてくれています。」
– ElixirやElmはまだ採用している企業が少ない。だからこそ業務で使ってみたいと思っている人にはお声がけしやすく、逆に採用が有利になっている部分もありそうですね。
松澤氏「それはあると思います。
Elixir、Elmに興味があり勉強もしているけど、求人が少ないから趣味止まりになってしまっているという方にとってSiiibo証券は魅力的かもしれません。
ただし、ニッチな技術スタックで採用を行うのは諸刃の剣と言えるとも思います。
その技術を自信と技術力を持って牽引できる、コアなメンバーがいる必要があるからです。
単純に使ってみたいという理由で事例の少ない技術を導入しても成功させるのは簡単ではありません。私は実務経験があったのでこれまでリードして来ることができましたが、、十分な技術力無しに手を出すのは失敗に繋がる可能性もあると思います。」
– システム面で、このビジネスだからこそ気をつけなければいけない点や、気を使っている点はありますか。
松澤氏「法規制です。
冒頭にもありましたとおり、証券業というのは登録が必要な業界です。
そのため顧客向け、投資家向けに提供するあらゆるサービスには法律による取り決めが多数あるのです。
例えば画面に表示しなければいけないこと、逆に表示してはいけないことなど。また、表示されている内容についての審査をしたり、その履歴を残さなければならないものもあります。
そういった規制に対応しつつも開発速度を落とさない、停滞させないというのはこのビジネスならではの課題だと思います。」
– 法律の改正頻度は高いのですか。
宮崎氏「それなりの頻度では発生します。
ある日突然急に変わるわけではないので、対応の準備期間はありますが、ものによっては業務フローに影響するところもあり、その場合はシステム側での対応難易度が高くなってしまいます。
ビジネスサイドには業界経験の豊富なメンバーが揃っていますから、法改正には常に目を光らせて開発チームと連携するようにしています。」
— 確かに外部要因がシステムに直接影響する可能性があるとなると、ビジネスサイドとシステムの連携は重要ですね。その他の機能開発も含めて、普段の開発はどのように進めているのですか。
松澤氏「開発はスクラムで行っていて、私がプロダクトオーナーの役割を担っています。プロダクトバックログを用意してそこにビジネスサイドの実現したいことを集約し、開発チームへの負担とスピードをコントロールしています。
プロダクトバックログに何を含めるかは私を含めた経営陣との会議で決めているのですが、ちょっと面白いのはこの会議を社内に公開していることです。
開発チームのメンバーは各自の作業を行いつつも、ラジオ的にこの会議の内容に耳を傾けることができます。
これによりメンバーは『今こういうことが大切なんだな。次にこういう開発が来そうだな。』という情報を得ることができ、開発するべきチケットの背景なども事前に理解した上で取り組むことが出来るんです。」
– 面白い取り組みですね。開発を開始する際のメンバーへの話が早そうな印象です。
松澤氏「もちろんドキュメントによる補足もしています。ただ私自身もタスクが多い中で、メンバーに予め聞いておいてもらえると話が早いことは確かです。
私はエンジニアが気持ちよく仕事できる時は納得感があるときだと考えています。メンバーが作業する上で、この機能が必要だ、この改修が必要だということに各自で納得感を持てているおかげで、エンジニアの自律的な動きにも良い影響が出ていると思います。」
– それでは最後にビジネスの今後の展望と、それに合わせたシステム開発の取り組みについて教えて下さい。
宮崎氏「すでに始まっている取り組みですが、社債を発行する企業向けのアプリ開発です。これ自体がビジネスの加速につながると考えています。
セルフサービスで企業が社債発行前の情報入力をできるようにすることで、企業に発行を検討いただくハードルを下げ、より多くのお客様に活用いただきやすくしたいと考えています。」
松澤氏「システム開発も、向こう一年間くらいはそこに注力する予定です。
今は弊社の営業チームが管理画面から情報入力をしているのですが、それを発行企業側でできるようにして営業の負担を減らしていきたいと考えています。」
最後に
中小企業にとって有用な資金調達手段である私募社債と、そこへの投資を希望する投資家との間に存在していたギャップを情報とテクノロジーで埋めようとするSiiibo証券のビジネスモデルは、まさに金融サービスと情報技術の結合による革新であり、Fintechの典型と言える。
実際のピッチバトルを取材している中でも、確かにビジネスとしての完成度や将来性は一歩抜きん出ている印象を受けた。
それを支えるElixerやElmといった一見尖った技術選定も、安定性が求められるFintechとの相性やスタートアップという規模感に基づいて論理的に行われている。
新たな技術を習得したり、これから次々と生み出される新たな機能開発に携わりたいエンジニアの皆さんにはとても良い環境である。
Siiibo証券は日本の金融業界における革新的なビジネスとしても、技術でそれを支えるエンジニアが働く環境としても、今後の躍進がとても楽しみな存在である。