イオングループのOMO実現と、新たな顧客体験を創出する3つのデジタル施策【イオンのDX最前線】

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イオングループのOMO実現と、新たな顧客体験を創出する3つのデジタル施策【イオンのDX最前線】
店舗数約2万店、カード会員数約4,732万人、売上高約9兆1168億円、従業員数約56万人と、盤石な事業基盤を誇るイオングループ。この圧倒的な規模を誇る「買い物」や「生活」のデータを活用し、新たな顧客体験の創出に挑んでいる。今回のイベントでは、DXの最前線やデータ活用、オンラインスーパーマーケットの実現、デジタルマーケティングなど、イオングループのデジタル施策について語っていただいた。

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データ活用×OMOで実現するイオンの次世代DX戦略

菓子様
イオン株式会社 
DX推進担当 菓子 豊文氏

まずは、イオングループ全体のDX戦略・推進を牽引する菓子豊文氏が、イオンがDXを行う背景をイオンの歩みや文化とともに紹介した。

イオンの創業は、今から260年前以上の1758年、江戸時代にまで遡る。菓子氏は、イオングループの社是となっている「大黒柱に車をつけよ」という言葉を紹介し、当時は呉服屋であったが、時代が移り変わるにつれて合併やM&Aなどを行い、立地も移りながら、その時々の顧客ニーズにあわせて業態を変化させてきたと話した。

中期経営計画でもDX推進を重要施策として打ち出しており、2025年には、オンラインとオフラインが融合したOMO(Online Merges with Offline)の実現を目指す。現在は顧客とのデジタル接点の確立や、DXを加速するための各種基盤やプラットフォームの構築に注力している。

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菓子氏は、デジタルの主要なKPIとして、デジタル売上、iAEON会員数、キャッシュレス比率の3つを挙げた。グループトータルアプリ「iAEON」においては、決済に使えることはもちろん、ポイント機能も有し、顧客のIDをすべて統合しながら、マスマーケティングから1to1マーケティングへと移行したい考えだ。キャッシュレスサービスにおいては、イオングループ外での利用も増やすことで、顧客満足をさらに高めていく。

併せて、消費者を取り巻くグローバルレベルでの環境変化を以下の図とともに紹介した。ある調査ではリアル店舗にいながらスマートフォンで情報を得ている人の割合は55%、バーコード決済サービスのクーポン利用者も1000万人以上に増加しており、リアルとオンラインのボーダーレス化が進んでいる。

他にもFacebook上で選択できる性別は58種類あり、世界の一般的な消費者アンケートでは50%は自分の価値にフィットしないものは買わない、使わない人との多様性を示す統計もある。オンラインが主体で商売が動いている現在ではそういった多様な価値観を持つお客さまを取り込まないと企業として成り立たないと指摘した。

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「これまでイオンの強みは、リアルの店舗やサービスだと言われていた。しかし、これからはグローバルで業績を伸ばしているライバルのように、オンラインならびに小売以外、例えば金融決済など、他分野でも存在感を発揮する。そして、共通IDの下でそれらのサービスをシームレスな顧客体験として創造し、OMO化された経済圏を構築していく」(菓子氏)

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一方で、リアル店舗を持っていることが競争力の源泉であり、イオンの強みであることは変わらない。全国に約2万あるリアル店舗では、毎日約1,200万枚のレシートが発行されており、すべてが個別のデータになっている。また、リアルな顧客との接点は、他業態にアプローチする際にも起点になる。

現在は主に3つの領域に注力し、2025年のOMO到達を進める。店舗アセットの価値最大化においては、店舗におけるDXを推進することで実現を目指す。例えば、店舗広告をデジタルサイネージにする。セルフレジの導入などである。

「単にアナログをデジタルにするだけではなく、お客さまにデジタルを体験してもらい、店舗オペレーションそのものを改革していく。また、得られるデータはリアルタイムで分析を行い、次のアクションへ繋げる。店舗においても、すべてが数字データをもとにした判断ができる経営に変えていく=最も生産性を高めるということになる」(菓子氏)

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データ活用は店舗だけではない。データを元に実行したアクションが、実際にどのような成果につながったのか。経営に資する情報としても可視化も含めて活用する。このようにDXを利用して経営と現場が一体化しながら、データ活用のPDCAをまわしていく。

ID統合に伴い、ポイントも統合していく。イオングループ外で利用できる店舗も増やすことで、イオン生活圏を積極的に利用したいと思う、ロイヤルカスタマーの醸成を狙う。

ビジネスモデルならびに、業務や組織の変化に伴い、従業員は働き方を大きく変えていく必要がある。デジタル人材を増やすためには、単に高度領域の専門人材を採用するだけでなく既存の従業員にもデジタルに関する知識などをリスキリングする必要があると考えている。

菓子氏は次のように述べ、ファーストセッションを締めた。

「DXによりお客さまの利便性が高まるだけではなく、データを分析することで効率的で生産性の高いビジネスにシフトしていく。結果として取引先との合理的な関係性や、従業員の働き方改革も実現していくことを願う」(菓子氏)

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膨大なデータから価値を生み出すデータ活用の変遷

長島様
イオンマーケティング株式会社 
常務取締役 事業担当 長島 弘明氏

続いては、イオンマーケティングの長島弘明氏が登壇した。長島氏はカルチュア・コンビニエンス・クラブで、Tポイント事業や会員データを活用したマーケティング業務に、長きにわたり携わってきたキャリアを持つ。その手腕を買われ、2022年からイオングループに参画。グループが持つビッグデータをマーケティングに活用することで、イノベーションを起こすミッションを担っている。

イオングループが持つデータは、単にボリュームが大きいだけではない。食品・日用品を扱うスーパーマーケットに加え、銀行などの金融、書店などの趣味・娯楽といったまさに利用者の生活に関わる多様で豊富なデータを保有しているからだ。

「このように多様で豊富なデータを活用することで、顧客接点のさらなる改善ならびに、新しいビジネスを生み出していきます」(長島氏)

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商品や店舗の情報だけでなく、誰がその商品を購入したのか。カード会員数が約4,732万人もいるため、IDも紐づくID-POSデータであることも大きい。購入者の購入履歴はもちろん、場合によっては家族の状況や年収なども分かるからだ。

一方で、これまでのデータ活用の課題も示した。例えばデータを分析することで、何曜日の何時の時間帯に、どの年代層の顧客がどれほど来店するかを把握することはできる。

しかし重要なのはそうしたデータ分析をもとに、どのような打ち手、戦略を練るかである。そして、戦略を打ち出すには課題を設定する必要がある。課題を見つけるために、現状把握や分析を行う。さらには出した打ち手を実施した成果を分析する。このPDCAをまわしていくことが重要だと説明した。

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長島氏はイオングループでスーパーマーケット事業を展開する企業を対象に、具体例も示して解説していった。2021年度のデータで現状把握をすると、来店会員数は増えている一方で、一人あたりの購入金額と来店日数は減少している。顧客ロイヤリティは低下していることが分かった。当然、全体の売上も落ちている。

次のステップでは、なぜ顧客ロイヤリティが低下したのか、問題を発見していく。顧客をランク分けし、ランクごとによりデータを改めて分析した。すると、お得意さまの人数が減少していることが分かり、売上減少を引き起こしている要因だと推定できた。

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ではなぜ、お得意さまの数が減ったのか。さらに深堀していく。

「ここからはWebリサーチなどをかけ、近くに新しいライバル店がオープンしたかどうか。実際に顧客が行っているかどうか、その店でどのような商品を購入しているのか。なぜ、イオンではなくそちらの店にいくようになったのか、など。各種データを取得し分析することで、課題を見つけて出していきます」(長島氏)

分析の結果、近隣にドラッグストアやスーパーマーケットが増えていたこと。肉や魚といった生鮮品の頻度が、イオンよりも優れていたこと。逆にイオンは大量の陳列を行っていたことが仇となり、鮮度が劣化していたこと。結果、陳列も含めた鮮度の見直しを検討する必要があるという打ち手が見えてきた。

長島氏は入社後、このようにイオングループ各社のマーケティング活動の粒度をさらに高める活動に注力する一方で、新たな取り組みも行っている。イオングループ全体の情報基盤の構築だ。

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ID-POSから得られる購入時のデータ以外、例えば購入前にどのようなメディアから、どんな情報を得たのか、購入後はSNSで何か発信をしたかなど。IDにおいても、人となりや志向性がより分かるデータを紐づける。さらにはソースが異なるデータを統合かつ一見的に見えるよう、物差し的な情報やツールなどもかけ合わせる。

このような情報基盤が構築されれば、お客さまのカスタマージャーニーの解像度はさらに高まるため、新たな示唆や事業アイデアに活かせると、長島氏は期待を寄せる。

具体的には、先述したマーケティングに同基盤を埋め込むことで、商品のコンセプトの把握や、満足度の評価が容易になるため、新たなマーケティング素材になるからだ。当然、メディアを活用した戦略にも活用できる。

長島氏は改めて次のようにマーケティングの意図、担うミッションを語り、セッションを締めた。

「マーケティングの仕事は分析することではありません。基盤をつくることでもない。あくまでグループの戦略に寄与すること。課題解決の打ち手はなんなのか。これらのことを考え、業務を進めていくことが重要です」(長島氏)

次世代オンラインスーパーマーケット事業の真髄を技術面で解説

樽石様
イオンネクスト株式会社
CTO 樽石 将人氏

続いては、イオンネクストでCTOを務める樽石将人氏が登壇。2023年中のサービスローンチに向け、現在進行中の次世代オンラインスーパーマーケット事業の概要や現状を語った。

イオンでも以前からネットスーパーは実施していた。しかし、スライド上部のように、店舗に置かれている商品を人がピッキングし、顧客にデリバリーする、との流れであった。

つまり、ネットスーパーではあるが、ある意味リアル店舗に紐づいていたサービスであったと言える。そのため商圏もリアル店舗がある周辺に限られていた。

一方、次世代オンラインスーパーマーケットは店舗ではなく、CFCと呼ばれる大型の倉庫から直接顧客に商品を届ける。

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現在、千葉県の誉田地区で竣工中のCFCは建屋だけで東京ドーム(敷地面積は7.2万㎡)と同等ほどの広さを誇るため、扱う商品は一般的なスーパーマーケットが1~2万SKUであるのに対し、5万SKU(※)と圧倒的だ。倉庫内はもちろんデリバリー時も温度管理を冷凍、冷蔵、常温と商品により徹底しているため、陳列による劣化などがなくなる。

※SKU:Stock keeping Unitの略/在庫管理上最小品目数を数える単位

ピッキングは人ではなくロボットが行うため、24時間365日稼働可能だ。デリバリーも自前で整備するため、早朝から夜遅くまで、客のニーズに合わせて1時間単位で届ける時間帯を指定できる。まさに次世代オンラインスーパーマーケットの名に相応しいと言えるだろう。

「いずれは同様のCFCを全国に展開していく計画です。すでに2カ所目の計画は決まっており、東京の八王子に竣工する計画です。八王子のCFCにはリアルなイオンモールも併設することで、どのような新たな効果が生まれるのか。検証していきたいとも考えています」(樽石氏)

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樽石氏は、CFCでロボットが自動で商品をピッキングする内容も説明した。基本的な技術は、業務提携を結んだイギリスの大手ネットスーパーのOcado(オカド)社が、グローバルで展開している技術ならびにシステムを採用している。

商品はまるで巨大なジャングルジムのような構造体の中にストックされており、上部はグリッド上となっている。そのグリッドを約1000台の箱型ロボットが自動で走行する。

必要な商品のグリッドまで行くと、箱の中に商品を収納する。そして次のグリッドへ、あるいは配送エリアに向かうシステムだ。ロボットは、60品目の商品を約5分でピッキングできるスピードを備える。

先述したように配送も自前で担っているため、出荷量のボリューム対応においても、シームレスかつスピーディーに対応する。樽石は次のように、自信をのぞかせる。

「どのような天候であっても、いつでも確実に、3つの温度帯をキープした状態で商品を届けることができるシステムです」(樽石氏)

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樽石氏は組織の特徴についても触れた。現在、正社員は約150名。トップはインド系の人物で、サービスの根幹も先に触れたとおり、イギリスはオカド社製。グローバル企業のカルチャーがある、と樽石氏。以前、Googleでエンジニアとして活躍していたキャリアを持つ樽石氏の言葉だからこそ、説得力が宿る。

創業が2019年と新しく、スタートアップ、アントレプレナーのカルチャーがある一方で、イオングループで長年キャリアを積んできた人物がIT部長を務めるなど、グローバルスタートアップと、国内エンタープライズ企業の潤沢な経営資源など、良いところがシナジーとなったユニークな会社でもある。

実際、創業してからわずか1年で45個のシステム、100の機能を開発しており、まさに今、ローンチに備えている最中だという。

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樽石氏は最後に次のように述べ、セッションを締めた。

「次世代オンラインマーケットを自分たちの手で創造し、EC事業をフルカバレージで業務構築していく。学べることは多いですし、こうした環境に魅力を感じたメンバーが多く集まっています」(樽石氏)

「iAEON」×デジタルマーケティングによる顧客体験の最大化

菊地様
イオン株式会社 デジタルマーケティングリーダー 兼
イオンスマートテクノロジー株式会社 
マーケティングDiv ディレクター 菊地 俊介氏

セッションの最後は、イオングループのデジタル専業会社、イオンスマートテクノロジーでイオントータルアプリであるiAEONの顧客獲得を担う、菊地俊介氏が登壇。「マーケティングという仕事を面白いと思ってもらいたい」と前置きし、セッションを開始した。

まず菊地氏は、イオンの置かれている環境を具体的な数字で紹介した。日本では約5,340万世帯があり、月におよそ23万円支出している。そのため、家計の市場は約150兆円。半分の約75兆円がイオンが扱う小売や物販領域であり、その半数が食料品だ。

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75兆円の中でデジタル、ECで扱われている割合は13兆円。つまり国内のEC化率は17%ということになる。ただし商材によるEC仮率は異なり、例えば蟹は約3分の1が、ゴルフクラブは約半数が、一方でこんにゃくはほとんどがリアルマーケットで売れている。そのため商材を見極めることがポイントだと指摘した。

「イオンのリアル市場の占有率は10%(8兆円)と業界トップである一方で、デジタル市場の占有率はわずか1%、1,300億円にとどまっています。2026年には1兆円にまで成長させたいと思います」(菊地氏)

では、どのような戦略で実現していくのか。まさに冒頭、菓子氏が紹介したリアル店舗2万のデータ活用ならびに、OMOをかけあわせたDX戦略である。

菊地氏はデジタル戦略について、マーケッターらしく、各戦略にキャッチフレーズをつけると共に、よりブレイクダウンした戦略も紹介した。

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そして戦略のひとつである、iAEONの会員を獲得するために行っている、マーケティング事例を紹介していった。先ほども少し触れたが、iAEONは決済など大きく4つの機能を持つ、トータルアプリである。

同プロジェクトの責任者として2021年の8月に入社した菊地氏は、ミッションの明確化、必要な組織の定義、プロモーション戦略といった順で、プロジェクトを進めていった。プロモーション戦略においては長年携わってきたオンライン施策、中でもアフィリエイトと広告といった得意な領域から取り組んでいった。

アプリ1ダウンロードに要したコスト、CPI(Cost Per Install)は約1,000円。他の〇ペイと比べると悪くはなかったが、予算の関係から続けることが難しかった。そこで、オフライン施策を試行錯誤を重ねながら取り組んでいく。

「結果として、クーポン施策が最も効果がよいことが分かりました。そこでそこからは、クーポン施策をより深掘りして注力してきました。意外だったのは、最もコストがかからないクーポンの効果が一番よかったことです」(菊地氏)

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トップ効果を出したクーポンは、アプリをダウンロードすればヨーグルトが50円引きになるというものだった。150円のカップ焼きそばが無料でもらえるクーポンよりも効果があったという。

菊地氏はマーケティングの変化についても紹介した。今から約20年前、楽天がはじめてポイントを2倍にするとの施策を打ち出したそうだ。すると売上は約1.3倍にアップした。コストは1%ほどの増だから、かなりよき施策といえるだろう。

しかしポイントのアップ施策をその後もやり続けた結果、ポイントの倍率を高めると確かに売上もアップするが、同様にコストもかかるため、結果としてROI(Return on Investment)は以前ほどよくないといった見解を示した。

さらに菊地氏は、人間の意思決定モデルを理論化した書籍と共に、マーケティング施策に関する質問を視聴者に投げると共に、冒頭で話していたマーケティングの魅力を、改めて説明した。

「本来であればBを選ぶべきなのに、実際に聞いた3人は全員Aでした。人は不合理なのです。でもだからこそ、その不合理を狙ってプロモーションを打つのが、マーケティングの醍醐味であり難しいところでもあります」(菊地氏)

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セッションで紹介したような施策を行った結果、iAEONの会員登録数は開始から1.5年で数百万規模にまで拡大。2025年には3,000万ダウンロードを目指す。

そして最後に、「デジタルの専門家が続々とイオングループに結集し、まさに車となり新たな改革を実施している最中であり、元来の大きなアセットを活用できる土俵で事業が展開できる環境がある」と述べ、セッションを締めた。

株式会社イオン
https://www.aeon.info/
株式会社イオンの採用情報
https://recruit.aeon.info/find-my-aeon/?recruit_type=career

グループにあなたのことを伝えて、面談の申し込みをしましょう。

イオン株式会社
イオングループではDXの一環としてアプリ、ネットスーパーの開発など積極的に行っています。イオングループの膨大な顧客データやお客様データを用いてプロダクトを開発したい方はぜひ申込ください。

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