「顧客に役立つDX化」を目指すエンジニア・コンサルのための“本質的な課題”を解決する5つの心得

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「顧客に役立つDX化」を目指すエンジニア・コンサルのための“本質的な課題”を解決する5つの心得
社内業務のDXに関する案件が増加する一方で、顧客側のDXに対する理解が得られず、提案がなかなか進まない。あるいは実施したとしても本来のDXとは程遠い、小手先の課題解決で終わってしまうケースも少なくない。そこで、数多くのDXビジネスに関わってきたJSOLの中神祥文氏が、本質的なDXを提案する心得や実践する方法を伝授する。

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単なる請負ではなく、DXを実現する共創パートナーへと役割が変化

JSOLの起源は今から50年以上前、住友銀行のシステム事業部が独立した1969年まで遡る。多種多様な業界におけるさまざまなシステムやアプリケーションなどの開発を、一気通貫で担うトータルICTプロバイダーとして、企業の分割や再編なども経ながら現在に至る。

中神様
株式会社JSOL 法人ビジネスイノベーション事業本部
カスタマーエクスペリエンスサービス部 部長 中神 祥文氏

今回登壇した中神祥文氏は、大手SIerで経験を積んだ後、JSOLの前進である日本総合研究所へ入社。 金融、流通、製造など業界問わず数多くのスクラッチシステムの構築でPMを務め、2020年よりJSOLにてServiceNowビジネスを立ち上げ、DX推進責任者を務めている。

中神氏は「釈迦に説法」と前置きしながら、脱ハンコやペーパーレス、レガシーシステムの刷新をDXだと勘違いしている経営者が多いことを指摘。経済産業省のレポートとも照らし合わせながら、まずはDXの本質を語った。

「デジタルを活用し、現状のアナログ業務を変革することが、DXの本質です。既存のアナログ業務を一部否定することにもなりますから、社員の意識改革や企業文化の変革も必要です」(中神氏)

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中神氏は、IT系ベンダーに求められるニーズにも変化が見られると指摘。請負型の開発から、パートナーとしてシステム開発はもちろん、共にDXを実現する役割が求められている。ITベンダー自身も変化していく必要性が増していることを実感しているという。

例えば、これまでは顧客が作成していた「RFP(Request For Proposal/提案依頼書)」も、考案から共に作成するようになってきた。このニーズの背景には、「先が見えない不確実性の高い時代を鑑み、内製化することでスピード感を高めたい」という顧客のニーズがあると、見解を述べた。

ところが実際の現場では、顧客からの反応が前向きではないため、真のDXの実現は難しいことが多い。ITベンダー側としての苦労や実体験を、自身の内容も含めて紹介した。

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真のDXを推進するための5つのポイント

では、真のDXを実現するためにどのようなアクションが必要なのか。中神氏は現場での体験から得た5つのポイントを挙げた。

ポイント1:DXすると何がいいのか?それぞれの立場のよくなることを見える化

見える化する際のポイントは、それぞれの立場を理解すること。その上で、各部門や顧客担当者が抱える課題の解決やミッションの実現を、DXを導入すれば実現できるとのメリットを伝えることが重要だ。

「DXそのものは全社改革、全部門横断で通じる施策です。しかし、いきなり大きな話をしても、顧客担当者には刺さらないケースが大半です。そこで担当者の課題がクリアとなってから、上司、部門全体、他の部門などに広げていきます。もちろんトップダウンで、経営層からDXを進めるのがベストではあります」(中神氏)

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ポイント2:定量化

中神氏は現場から「DXを導入すると本当に効果はあるのか?」という声をよく聞いている。そこで、「従業員エンゲージメントに寄与します」といった定性的な答えではなく、目に見えて分かる、納得する「数字で示す」ことが重要だと語る。

実際、メールに関するタスクで紹介した。以下スライドの左は現状を示している。受領から確認、台帳への転記などから返信までを人が行うと、1件のメールにつき11分かかっていた。一方、自動化するデジタルツールでDXを実施すると、7分に短縮された。この数字でも十分成果は確認できるが、中神氏はインパクトを持たせるためにさらに数字を加えていく。

仮に月1000件の依頼があるとすると、人月も年間のコストは1380万円となる。一方、DXを導入し7分に短縮した場合は880万円。500万円ものコストダウンが実現できたことになる。

500万円だけでも十分インパクトがあるが、このような案件が10件あり、それぞれDXを導入すれば年間で5000万円、5年続ければ2億5000万円ものコストダウンが実現できる。仮に2億円でシステムを導入しても、リターンがあることを示すことができるのだ。

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ポイント3:小さく始める

DXは部門を横断するテーマが多く、トップダウンで進めるのが理想だ。そのため、全社を横断するいわゆるDX部門を設けたり、同じくCIO(Chief Information Officer)を立てて進めるケースが見られるようになった。

このような推進が理想的ではあるものの、日本はボトム調整型の組織がまだまだ多いので、現状としては現場担当者が抱える課題を解決することが多い。まずは目先のDXから着手するのがよいと中神氏は言う。

部門のDXが成功したら、DXの輪を他に広げていく。理想ではないがボトムアップで進めていくことが、現在の日本の組織でDXを推進するためのポイントだと強調した。

「組織横断業務は情シスの担当になりますが、情シスは通常業務で忙しいケースが大半です。また専門部署を立ち上げても、結局は現場が強いため、調整することが仕事になってしまうケースが多いのです」(中神氏)

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ポイント4:デジタルファースト

既存のアナログ業務の改善、効率化ではなく、デジタルファースト。つまりデジタルでできることをベースに、業務を再構築することが重要であるという考え方だ。

ただし、顧客側は既存のアナログ業務に慣れているため、イメージしづらい。そこでスライド右側で示したように、実際に業務がデジタル化されると、何がどう変わるのか。ソリューションをベースに業務が標準化できることなど、顧客の期待値を超える提案を、明確に提案・提示することが重要となる。

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ポイント5:着地

着地は1~4のポイントの総括、まとめ的な内容になる。ポイントは、目の前の顧客が上司や他の部門へ提案しやすい環境や成果を出すことだ。

また番外編として、PoCに対する見解も示した。PoCを実施する際にはとりあえずではなく、導入前提でやることが重要となる。そのため、どのようなクライテリア(条件)を達成したら導入に進むのか、期限も含めて事前に定めておくことが望ましい。

「クライテリアがあれば、導入を後押しするツールともなりますし、逆に定めていないと、PoCが終わってから悪い点を指摘されるだけで終わってしまうケースが考えられるからです」(中神氏)

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5つの心得を実践したDX提案事例を紹介

続いては、事例をもとに真のDXの実現について語られた。

事例1:不動産賃貸業による部門横断業務の改善

最初の事例は、不動産賃貸業者である。物件オーナーにリフォームを提案し、居室の稼働率や賃料のアップを図る。これが、顧客である不動産賃貸業者のビジネスモデルである。

営業、事務、施工管理部門、外の業者など。さまざまな立場の関係者が関わるため、連携不足によるミスや、不動産オーナーへの進捗状況のスピーディーな提示ができないという課題があった。

まさに、アナログ業務の集合体だ。従来の業務改善、アナログ業務を起点とした課題解決策では、営業支援、購買システム、顧客サービス/経理と、3つのシステムを分けて構築していただろう。

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対してDX。デジタルをベースとした業務改善では、ServiceNowを導入することで、各部門の状態を、関わるメンバー全員が業務横断で確認できるようになった。

さらには問い合わせなどもWebを介し、直接オーナーに聞くことができるため、これまで窓口となっていた営業の負担も軽減。各部門の課題解決が業務全体の改善につながり、顧客の満足度向上を実現、結果として業績アップに寄与することができた。

事例2:倉庫・運輸業ホールディングスにおけるIT管理業務改善

傘下に倉庫業や運輸業を手がける事業会社を持つ、ホールディングスカンパニーにおける、IT管理業務のDX事例だ。これまでは事業会社から上がってくる申請は、メールベースで処理していた。

そのため人が多く介在することによる人的ミスはもちろん、介在する人が多いことによる管理業務の難しさ、申請フォーマットが事業会社ごとにバラバラなど、各種課題が生じていた。シンプルに、人数不足による作業遅延という課題もあった。

そこで中神氏は、まず現場の課題を見える化すると共に、DXを推進すればどれだけ改善するのか、人手からシステム導入による自動化によるコストダウンを定量化すると2年目で回収できることが分かり、提案を進めた。

現在はServiceNowを導入することで、作業の可視化、ミス防止、業務効率化を実現している。現在はIT資産の管理など、小さく始めて広く展開するステップを計画している段階だという。

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事例3:FC小売業の顧客接点業務改善

実店舗を500ほど展開、その他、ECサイト、マーケットプレース、アプリ、SNS、メールなど。多くの顧客接点を持つFC小売事業者のDX事例。これまでは接点チャネルごとに問い合わせの受付部門が設けられており、バラバラで一元化できていないという課題があった。また、店舗との連絡は電話のみと、アナログでもあった。

そこで、各チャネルの情報をServiceNowで集約するというDXを推進した。その結果、それまでバラバラであった問い合わせ情報は集約され、システムが一元的に内容を把握・判断し、適切な対応チャネルに振る流れに変わった。

例えば、在庫状況などは基幹システムとも連携されているため、人ではなくチャットボットで対応するようになった。リアルタイムでオンライン接客した方がいいのか、後からメールで回答した方がよいのかなどの判断も担ってくれる。

顧客の満足度向上や人的コストの削減が実現できたことは、言うまでもない。さらには情報を一元化したことで、店舗やECへの誘導にも活用されるようになった。

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事例4:児童相談所のアナログ業務をデジタル化

昨今、人手不足や携わる関係者が多いことなどから、行政の児童相談所では対応や情報の管理が難しく、最善のフォローを実施できないケースがある。最後はそんな職員のがんばりを成果につなげるようなDX事例を紹介した。

ServiceNowを使い、LINEによる相談者から送られた内容をシステムが、チャットボットによりどう対応するのかを判断する。暴力を振るわれているなど緊急性が高い場合には、すぐに対応できる担当者を自動でアサインする。

過去の類似案件の内容を確認したり、監督者との相談、住民や行政との連携といった業務も、ServiceNowで一元化されているためスピーディに行うことができる。

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最後に中神氏は、自身が顧客に提案する際に気をつけていること、意識しているマインドを述べ、セッションをまとめた。

「顧客のリテラシーや目線に合わせた提案をすること。評論家目線ではなく、圧倒的な当事者意識を持ち、お客様と一緒になって共創すること。自分だけでやろうと無理をせず、外部の力を借りることを意識しています。世の中のデジタル化は確実に進んでいきます。皆さんも自ら先頭に立ち、世の中を変えるようなマインドで推進していきましょう」(中神氏)

【Q&A】参加者からの質問に回答

セッション後はイベント参加者からの質問に、中神氏が回答する時間も設けられた。いくつか紹介する。

Q.経営層がDXの必要性を感じていない場合の進め方は?

難しいとは思いますが、トップへのアプローチができる状況であれば、ベンダーが開催しているDXセミナーなどの参加を勧めてみてはいかがでしょうか。

Q.他社とコンペになった際に、強みとして打ち出している点は?

プロダクトをアジャイルで開発している点です。また、運用においては従来のアナログ業務からデジタルに変わるため、現場の教育担当者もギャップを抱えている場合が少なくありません。そこで、デジタルへの移行や教育も含め、当社で担うことを織り交ぜることで、差別化としています。

Q.単発的な課題解決やPoCに留まらず、継続的なDX推進活動を進めるコツは?

提案を組み立てる際には、IRや中期経営計画などに目を通し、会社の方向性を確認します。その中のITやDXに関する戦略を収集し、合致するような全体のDXロードマップを作成すると、目の前の施策が全体像のどの部分であるのかも含め、組み立てやすいと思います。

Q.DXを推進するための効果的な提案方法は?

顧客の業務を深く理解するのは時間がかかるため、実際にServiceNowなどのDXソリューションを見てもらい、どの業務の何が自動・効率化するなど、見つけてもらうといいと思います。ServiceNowには、業務ソリューションごとのデモ動画も用意されています。実際、デモを使って提案したら、顧客の中で議論が始まったケースもありました。

Q.ボトム・スモールスタートで始め、ステップアップしていくポイントは?

担当顧客の熱量も大きく関係してきます。自分の領域だけ改善すればよいのか、会社全体がよくなればよいのか、どちらのタイプもいるからです。前者の場合はその方の上司などにアクセスし、全体のDXロードマップなどを示すとよいと思います。

Q.DXを進めていく上での誤算ならびに対応策について

事例で紹介したケースになりますが、人が電話やメールを使って個別対応を行うフローを、DXソリューションで自動化したお客様がいました。しかし、電話の方が早いとアナログ業務に固執する人がいた、とのケースがありました。

対応策としては、電話対応もシステムに組み込み、自動化と比べてどの程度非効率であるかの統計を取り、数字で提示し対応を迫りました。3000人規模の会社でしたので地道な活動でしたが、現在は電話で対応する人はほぼいなくなりました。

Q.デジタルをベースとした業務フローはユーザーとベンダー、どちらが考えるのか?

JSOLでは、私たちが行っています。DXソリューションにはそれぞれ業務に適応する機能があるため、把握している私たちが実施しなければ、結果としてチグハグなフローとなる懸念があるからです。

株式会社JSOL
https://www.jsol.co.jp/
株式会社JSOLの採用情報
https://career-jsol-recruit.com/

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