ビジネスに寄与するデータ基盤の開発事例から学ぶ、エンジニアに知ってほしい顧客の課題解決のポイント

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ビジネスに寄与するデータ基盤の開発事例から学ぶ、エンジニアに知ってほしい顧客の課題解決のポイント
DX推進の現場では、「データ活用基盤の構築や導入が進む一方で、思ったような成果が得られない」「投資効果が認められないという理由でプロジェクトが頓挫した」といった課題に直面するケースが少なくない。そこで今回は、JSOLの「データ活用・AI基盤」導入における事例を交えながら、データ活用基盤の導入や構築における工夫やポイントを伝授する。

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JSOLが保有する最新技術を活用しお客様と伴走、新たなビジネスを創発

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株式会社JSOL
ソーシャルトランスフォーメーション事業本部
DX技術部 部長 伊東 大介氏

最初に登壇した伊東大介氏は、まずJSOLのDX技術部におけるミッションについて紹介した。JSOLでは2018年から、2つのアプローチでDXを推進してきた。1つが要求駆動型アプローチ「R-DX」だ。RPAやAIなど、既存のDXソリューションを組み合わせることで、現業の課題を解決していくビジネスである。

もう1つはデータ駆動型のアプローチ「D-DX」だ。その名の通り、企業内外の膨大なデータ資産から新たなビジネスモデルを作り出し、社会イノベーションの創発を実現していく。

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JSOLでは特にD-DXの推進に注力しており、実際、膨大なデータ資産をお持ちのお客様と伴走し、国内外のデータサイエンスに強い研究機関と協力しながら、新たなビジネスモデルの創出に取り組んでいる。

伊東氏はそのような各種プロジェクトの開発責任者として、概念検証から開発・運用など幅広いプロセスに携わってきた。その中から特に、深く関わった事例をそれぞれ紹介した。

まずは、R-DXについて説明された。組織内において業務の情報を求めて検索しても古い情報が上位に表示されるなど、求める情報がなかなか得られないことは少なくない。その検索作業を効率化するために、「J-Insight」というシステムを大手金融機関と共同で開発した。伊東氏は技術的な背景を、次のように話した。

「キーワードと検索コンテンツのクリックを組み合わせて学習することで、有益な情報の検索ランキングを上位に上げていく。有効期限を設けることで、古い情報のランキングは落としていく。このような機能を、お客様とアイディアを出し合いながら開発していきました」(伊東氏)

J-Insightによって検索が効率化され、管理者への問い合わせ数が減少するなどの効果も生まれている。現在ではさまざまな大手企業で利用されており、現場の声をもとに継続的なブラッシュアップ、改善も続けられている。

続いてはD-DXでの事例「FinCast」だ。企業の成長をAIが予測するシステムであり、三井住友銀行が保有する入出金や格付けといった膨大なデータを元に、こちらもJSOLと三井住友銀行が共同開発した。

「どちらの取り組みでも共通しているのは、お客様の課題をお客様と伴走しながら、新しい技術に新しいアイディアを加えて、解決していった点です。実際FinCastでは、JSOLのデータサイエンティストと三井住友銀行さま、さらには関係するエンジニアなどと協力して、開発を進めていきました」(伊東氏)

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続いて伊東氏は、DX技術部のミッションについて紹介した。DX技術部はクラウド、自然言語処理、機械学習、アジャイルといった新しい技術を起点に、まさに先の事例で紹介したように新たなソリューションを創出していくことをミッションとして掲げている。

新しい技術を創出・活用することで、顧客・自社問わず、社内の生産性向上や組織活性化も担っている。技術課題の解決や案件支援、それらの取り組みで培ったナレッジの共有、さらには技術力を底上げするための各種セミナーやイベント、勉強会、研修会なども行う。

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DX技術部のメンバーはGCP、AWS、Salesforce関連の資格を多数保有しているメンバーが多く集まっている。JSOLではこうした資格取得を推奨しており、資格取得希望者に対してはフォローが厚く、そうした文化も醸成されているという。

さらにはクラウドにおけるセキュリティインシデントの発生を未然に防ぐために、JSOL社内で取り組みも行っていると、伊東氏はDX技術部の特徴を紹介した。

「今回は技術を中心に紹介しましたが、技術だけに特化している部署というわけではありません。業務・コンサルティング・営業。ビジネスといった目線でそれぞれが活動している組織です」(伊東氏)

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事例から紐解く「活用されるデータ基盤」のつくり方

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株式会社JSOL
ソーシャルトランスフォーメーション事業本部
DX技術部 第一課 課長 坪内 進史氏

続いては、AWS各種・スクラムマスターの資格を持つ、坪内進史氏が登壇。現在はデータ活用に関連するソリューションの企画や、クライアントへの導入支援などを担当している。

坪内氏はデータ基盤の定義や役割について、IPAの「DX白書2023」を引用しながら、次のように語った。

「DX白書に書かれている内容は、まさに多くの方がイメージするデータ活用基盤と言えるでしょう。DX白書はリファレンスにもなりますので、データ活用基盤を学びたい方にはお勧めです」(坪内氏)

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JSOLでは、単にデータ活用基盤の構築や導入に限らず、データを活用したコンサルティングや導入後のサポートなど、一気通貫でソリューションを提供している。基本構成はAWSを前提に、代表的なデータ活用基盤やソリューションのイメージ図が紹介された。

データ活用においては、組織における課題がポイントだと坪内氏は強調する。まずはこの課題を掘り下げ、知ることが重要であると述べた。

組織におけるデータ活用の流れでは、初期は「データを活用してビジネスを伸ばしたい」との理由から、トップダウンで進むことが多い。現場はそもそもデータに関するナレッジや組織体制が整っていないため、戸惑うことが多いと坪内氏は語る。

このような課題を抱えたままの状態でデータ活用基盤を構築したとしても、使われない可能性が高い。あるいは、提案時点で投資効果が見込めないなどの理由から、却下される可能性があると続けた。

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一方で課題を解決し的確にデータ活用基盤が運用されている組織では、スライド右側のように初期とは逆。ボトムアップでデータの活用アイディアが伝搬している。当然、投資効果も生まれているので話もスムーズに進んでいく。

実際にどのような課題があり、乗り越えていったのか。坪内氏は3つの事例を紹介した。

【事例1】最初から全基盤を構築するのではなくスモールステップで進める

データ活用基盤を構築・整備する流れとしては、顧客のビジネスに応じたユースケースを策定し、どのくらい効果が期待できるのかを明確に示す必要がある。その上で、投資に見合うかどうかを判断してもらう流れが望ましい。

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だが実際には、最初のステップ、ユースケース策定は難易度が高く時間もかかるので、序盤に出し切ることは現実的でない。その状況で陥りがちな実際の失敗例、非推奨パターンも紹介された。

「ユースケースを意識せず、ただデータを集めることに注力してしまいました。その結果、関係者にビジネス効果に繋がるイメージを持たせられませんでした。元々のプロジェクト名もデータレイクの構築となっており、今となってはゴールが見えていなかったと言えます」(坪内氏)

経営層から見れば、お金、時間、人力をかけてデータをかき集めているが、集まったデータがどのような効果をいつ生むのか、見えなかった。結果、プロジェクトは途中でストップがかかった。

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このような経験・反省を踏まえた上で、坪内氏は推奨パターンを紹介した。最初から必要な全データを集めたり、同じく基盤全体を構築したりするのではなく、ビジネスへの貢献が明確に出るような優先的なユースケースに絞り、準じた基盤を構築する。いわゆるスモールスタートと言えるだろう。

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基盤の構築においてもユースケース実現に必要最小限の構築とするために、収集対象システムを限定したり、データ加工は最初は手動で実施するなどして、効果の検証を短期間で行う。その上で満足する内容であったら、次のステップに進む。先の基盤を例に、改めて推奨するステップを追記したスライドも紹介された。

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【事例2】企画や構想策定、運用サポートなど基盤構築以外の業務も担う

続いての事例は、データ活用ユースケースがなかなか出てこない際の対応やアプローチについて紹介された。ユースケースが出てこない理由は、先に説明したように、組織の課題が解消されていない場合が多い。

一方で、こうした組織課題を解決するのは非常に難しく、一朝一夕で行えるものではない。しかしそこで諦めることなく顧客をフォローし、課題解決に共に取り組んでいく。このような姿勢が重要だと、坪内氏は強調する。

単にシステムやデータ活用基盤を構築・導入するだけに留まらない。構想策定や企画といったコンサルティングサービスならびに、組織への利用促進や、顧客がベンダーに頼り切らず自走するための支援なども担う。

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ただ、今でこそJSOLの特徴的なサービスメニューとして掲げているが、ここまでに至る道のりは簡単ではなかったと、坪内氏は胸の内を吐露した。

「我々も以前はシステム構築のサービスのみを提供していました。しかし、それでは話が前に進まない。競合に勝てない状況もありました。そこでとにかくがむしゃらに、お客様の課題解決となるお手伝いをさせていただいた結果、JSOLの強みとも重なり、現在のサービスメニューとなりました」(坪内氏)

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坪内氏は、「プロフェッショナルサポート」についても紹介した。プロフェッショナルサポートとは、コンサルタント、データアーキテクト、データサイエンティストといった専門技術を有するプロフェッショナルメンバーが、業務課題の解決やユースケースの策定を下支えする取り組みであり、策定支援サービスである。

具体的にはワークショップを実施したり、分析テーマを検討するためのテンプレートを提供するなどして、優先度の高い課題解決策を顧客と一緒になって洗い出していく。しかし、策定が難しいことは変わらない。

「以下に紹介したテンプレートはあくまで汎用的なものですので、そのまま採用されることはありません。一方で検討する際の観点の提供、アイディアの発案という点では、非常に有効だと思っています」(坪内氏)

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さらにはJSOLのメンバーがクライアントのデータを確認した上で、どのような分析に使うことができるか。例えばオープンデータとの相関関係や傾向などをまさに専門技術を使い分析した上で、お客様の課題解決、アイディア出しの材料のひとつとして提供するような支援も行っている。

【事例3】データ活用文化を組織に定着させる

3つ目の事例は、データ活用文化をいかにして組織に定着させることができるか。組織、メンバーによるITリテラシーやドメインの知識量や内容が異なるため、提供する各種ツールも考慮する必要がある。

例えばSQLに詳しくないマーケティング担当者は、ノーコードもしくはローコードツールを望むことが多い。逆に、SQLの記述が得意なデータサイエンティストは、SQLで自由にデータを扱うことが多くなる。

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具体例として挙げられたのは、AWSのETLツールGlueである。Glueはデータレイクに保管されていたいわゆるローデータをELT(抽出・変換・ロード)することで、データを分析や活用の目的ごとにデータマートに保管する加工処理を担う。

特徴的なのは、利用者のスキルや利用用途、環境により「Glue DataBrew」「Glue Studio」とサービスを使い分けることができる点だ。

マーケッターなどが簡易的なデータ加工を行うケースにおいて、DataBrewやGlue Studioのようなノーコード・ローコードツールは非常に有用だ。一方でデータサイエンティストなどが複雑な加工処理を必要とする場合にもGlueの標準機能が対応しており、組織展開において有効なツールといえます。

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坪内氏は次のようには述べ、セッションをまとめた。

「Glueはあくまで一例であり、重要なのはデータ活用基盤を構築する人は、常にITリテラシーの差異を吸収できるツールの選定を意識することが必要です。それが結果として、組織課題の解決やビジネスメリットにつながっていくでしょう」(坪内氏)

【Q&A】参加者からの質問に回答

セッション後はイベント参加者からの質問に、両氏が回答する時間も設けられた。いくつか紹介する。

Q.オンプレ、クラウド選定における考慮や対応は?

坪内:クラウドベースのソリューションが最適化かどうかを考慮します。例えば個人情報など、取り扱いが難しいデータもあるからです。データをマスキングして扱ったり、オンプレとクラウドのハイブリッドを提案するケースもあります。

Q.ユースケースの洗い出しに要する時間について

坪内:一般的なのは3カ月ほどの期間を使い、2週間ごとにワークショップを開催する進め方です。3カ月でしっかりとユースケースが出せるように、アイディアを出して、経営層も含め顧客にアプローチすることが重要だと考えています。

Q.投資判断のされやすいR-DXではなく、D-DXに注力している理由

伊東:どちらも大事であることが前提です。その上でお客様にとってビジネス展開がより期待されるのがD-DXであり、価値があると判断しています。

Q.スモールスタートから全体の課題解決に広げるために意識していること

坪内:ステークホルダーのモチベーションを重要視しています。例えば、トップ陣やトップに準ずるような意思決定層にしっかりと効果を伝える。また、部門の関係者を巻き込むなどしてトライアルチームを作り、ユースケースを着実に出していくことも意識しています。

Q.経営層と現場メンバーでは、見たいデータの属性や粒度が異なるのではないか

坪内:おっしゃる通り、現場は故障の予知的なデータを求め、経営層は意思決定に寄与するデータが見たいなど、毛色が異なります。そのためワークショップでは会ごとにテーマを設けて、それに見合ったステークホルダーを集めています。場合によっては、異なるメンバーをクロスオーバーさせるような取り組みも行っています。

Q.自然言語処理など、最先端の技術者の確保はどのように進めているのか

伊東:2020年10月に、理化学研究所と共同で理研数理という会社を設立しました。同社では理研の研究員はもちろん、当社の技術者や各種大学などアカデミックな機関の研究者がお互いの強みを持ち寄り、協力しています。新たな問題解決スキームの構築はもちろん、数理技術に長けた高度人材などの育成も推進しています。

株式会社JSOL
https://www.jsol.co.jp/
株式会社JSOLの採用情報
https://career-jsol-recruit.com/
JSOLの「データ活用・AI基盤」
https://promotion.jsol.co.jp/data-acceleration-program/ai/

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