AWSソリューションアーキテクトインタビューシリーズ~My Story⑧~
■プロフィール
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 エンタープライズ技術本部 サービスソリューション部 ソリューションアーキテクト
Yoshie
大切なのは学生時代の専攻よりも学習を継続できるかどうか
AWS に入社する前のキャリアについて教えてください
Yoshie:
はじめまして。普段は、 ソリューションアーキテクト(SA) としてエンタープライズのお客様の AWS 利用をご支援しています。前職ではシステムエンジニア(SE)をしていましたが、元々大学では文学部で、日本語の言語学を選考していました。
なぜ畑違いの IT 業界に就職したかというと理由は2つです。1つは、普段触れていないからこそ IT という新しい分野に興味がありました。もう1つの理由は、1つの会社の中だけではなく、どこの会社に行っても通用するスキルが欲しいと考えたからです。最終的に、企業側も文系 SE に興味を持っており、複数の会社の説明会で「文系のコミュニケーション能力が、開発プロジェクトにおける意思疎通に役立つ」といった説明を受けたこともあり、SE に絞って就職活動を行いました。
就職してからは、社内情報システム部門として社員向けのヘルプデスクや社内システムの構築運用を6年間、インフラエンジニアや、リーダー、PM としてお客様のシステム開発8年半経験しました。また、業務外の活動として、情報処理安全確保支援士試験の過去問を解説する書籍の執筆なども行いました。
働き始めた当初は、学生時代に情報処理を学んできた人との技術レベルの差を感じることはありましたが、働いていくうちに気にならなくなりました。
というのも、IT 業界は非常に技術の進歩が速いので、5年や10年でどんどん技術のトレンドが変わっていきます。そのため、長い目で見ると、学生時代に何を学んできたかより、どれだけ継続して学び続けられるか、という点が重要になってくると感じています。私自身も、文系出身 SE という立場でしたが、学習を継続したり、チャレンジを繰り返すことで、最終的に前職では社内で AWS の利用をリードするうちの1人という立場になっていました。
高度情報処理技術者資格を全冠したことで得られたもの
学習を継続していくことで、活躍の場を広げられていったのですね。Yoshie さんが実践されていたおすすめの勉強方法はありますか?
Yoshie:
働き始めた当初は社内システムの運用が業務の中心だったので、まずはネットワークやセキュリティから始め、その後は普段業務で触らない領域に手を広げて、基礎知識を理解するために学習しました。学習する領域を決める時に意識した点は、「その分野の網羅的な基礎知識」と「実際のシステム開発で役に立つ知識」の両軸のバランスをとることです。例えば、各分野の基本的な知識は、IPA の情報処理技術者試験を活用して学びました。最初は基本情報処理技術者試験や業務に関係あるネットワークスペシャリスト試験などから初めた後、社内情報システム部門として監査を受ける立場なので監査の考え方を学ぶためにシステム監査技術者試験や、業務で触らないけれど基礎知識を身につけたいのでデータベーススペシャリスト試験といったように広げていき、最終的には高度情報処理技術者試験を全て取得しました。一方で、実際のシステム開発で役立つ知識として、製品仕様や利用方法のような特定のプロダクトについてベンダ試験を活用したり、読みやすいソースコード、テストケースを作成する時の勘所など実務を通した学びも大事にしてきました。
何回か「資格」と申し上げましたが、自分のスキルを見える化することは意識しました。これは、新人の時に研修講師の方が「『〇〇ができます』と口で言っても、どの程度できるのか、本当にできるのか相手には分からない。だから資格で客観的に証明することが大事」とおっしゃっていたのが強く印象に残っていたからです。実際に、前職時代では客先常駐などで評価する上司からは普段の業務での成長が見えない場合でも、業務に関連した資格取得することで成長したことの証明にもなりました。また、AWS 認定を取得したことで AWS re:Invent という AWS 最大級のイベントに参加する機会を得たり、新しいチャンスをつかむのに役立ったと思います。AWS の採用インタビューの時にも、資格を取得して学び続ける姿勢が AWS のリーダーシッププリンシプルの「Learn and be Curious」にピッタリだというフィードバックをいただけました。
何を学ぶかによって、学習に使うコンテンツは書籍だったり BlackBelt のような Webiner だったり様々ですが、どんな場合でも暗記ではなく理解して説明することというのが私の基本的な学習方法です。例えば AWS 認定を取得する場合、選択式の問題が出題されます。この時に、どれが正解なのかを暗記するだけではなく、不正解の選択肢は何故間違いなのかの理由を頭の中で説明できるようにします。こうすると自然に不正解の選択肢についても理解しますし、理由などを把握していれば、問題が変わったり、実務で必要になったときにも応用がきくのでおススメです。
技術本の執筆経験で培った文章力
技術書の執筆のご経験もあるのですね。執筆をすることになった経緯や、執筆活動によって得られたスキルはありますか?
Yoshie:
執筆のきっかけは、前職の会社に出版社さんからお声がかかり、社内で複数名の執筆メンバーを探す中で私にも声がかかりました。IPA の資格を多く持っているところが情報処理安全確保支援士の試験対策本というコンセプトに合うと思っていただけたようです。私としても、自分が学習してインプットを得るだけではなく、アウトプットという形で他者に貢献したいという思いがあり、参加することになりました。
情報処理安全確保支援士の試験対策本を執筆したというと、セキュリティのスペシャリストと思われがちなのですが、ここで私が発揮した強みこそ、文系というバックグラウンドです。試験では、ただ知識が有るだけではなくて、問題文から必要な情報を読み解く能力や、限られた文字数で簡潔で正確に回答を書く必要が有ります。こういった試験テクニックの解説や、難しいセキュリティ知識を分かりやすい言葉にかみ砕いて説明するというところで、学生時代から国語が得意だった自分の強みが活かされたと思います。
また、この経験を通して得られたことが AWS での業務でも生きています。まずは、セキュリティの知識です。人に分かりやすく伝えるには自分が正しく理解しないと説明できないので、執筆当時に周りの方たちの協力も得ながら学んだことが、現在お客様と会話する時にも役に立っています。
もう一つは、執筆を通して文章を書くプロである編集者さんから指導を受けたり、先に述べた資格取得の中で論文試験を受けた経験が非常に役に立っています。意外に思われるかもしれませんが、AWS ではクォータごとのビジネスレビューや PR/FAQ(社内外での利用を目的とするプレスリリース/よくある質問で、AWS ではサービスの企画段階で作成する)など、文章を書いてビジネスを進める場面が多くあり、テクニカルな能力と同じくらい文章や言葉でコミュニケーションをとる能力が必要です。採用インタビューでも、問われているテーマに対して STAR メソッド(特定の状況、業務、行動、結果を話し合いながら、行動に基づく面接質問に回答していくという構成方法)に沿って説得力のある回答ををする必要があります。こういった技術以外の場面で、文系のバックグラウンドを持つ方も、それまでの経験が強みとして活かせるのではないかと思います。
技術だけでなく話すスキルも必要
AWS に入社されてから新たに必要だと感じたスキルはありますか?
Yoshie:
SAは、お客様のビジネス上の課題をどう解決できるかをご支援するのが仕事なので、技術面でも、非技術面でも求められるスキルの内容が格段に増えたと思います。
まず技術面では、AWS のサービスは200以上もあり、しかも年間3000件を超える機能追加(※2021年の実績)やアップデートが行われるので、常に学び続ける必要が有ります。さらに、AWS 以外の一般的な知識の習得が必要です。例えば、お客様から EC2 と RDS で構築したシステムが想定通りの動きをしていないと相談を受けたとします。この時に、DB エンジンやミドルウェアなど、AWS 以外の IT 知識があれば、AWS のサービスの設定などで改善できる問題なのか、お客様側でアプリを改修する必要が有るかなど、適切に判断して支援することができます。
また、技術面と同じかそれ以上に、非技術面のナレッジやスキルも学ぶ必要が有りました。
まずは、ビジネス的な観点やコミュニケーションのスキルです。SE だった時は、テクニカルな話が分かれば業務ができていたのですが、AWS では、LOB や経営層の方ともお話をする機会が多いです。その際に、どのような課題を持っていらっしゃるかを理解したり、お客様のビジネス成長に貢献できる提案をしたりするためには、お客様の業界や、それぞれの立場の関心事について理解している必要があります。
もう一つは、話すスキルです。SA は、ハンズオンや勉強会、イベントでの登壇など、多くの人に向けて話をする役割も有ります。この時に、書いた原稿を読むのではなく、抑揚やジェスチャー、間を使って聞き手の注意を引き付けたり、ストーリーの組み立てや例え話、クイズなどを使って重要なポイントを印象付けたりする、話すスキルが重要になってきます。これまで書く技術は身に着けてきましたが、話す機会はほとんどありませんでした。
ただ、どのスキルを学ぶかの決定は、各自にゆだねられています。これは Amazon の「Ownership」という考え方によるところが大きいです。Ownership が特徴的なのは、責任だけでなく決定権が有るところだと私は思っているのですが、スキル習得の場面でも、自分で決めたことなのでモチベーション高く最後までやり遂げることができます。また、学んだ知識をすぐに業務に活かせるのもやりがいがあるポイントです。
学び続けるうえで必要なサポートがAWS にはそろっている
学習しなければいけないことがたくさんありますが、どのように克服していきましたか?
Yoshie:
まだ必要なスキルのすべてを学び切れてはいないし、「全部学びきった!」と言える日は来ないと考えています。AWS では、Day1 文化というのがあるのですが、これは、お客様により良い価値を届けるために、新しいことを学んで、新しいことに挑戦したり、新しい仕組みを生み出すという考え方です。毎年増え続ける AWS サービスの数や IT 業界全体の変化の速さを見ても、これからも学び続けることが必要です。
一方で、AWS では学習をサポートする仕組みや、分からないことをサポートする仕組みも整っています。社内向けの勉強会やトレーニングプログラム、動画などの学習コンテンツが充実していたり、社員はAWSアカウントを発行することが出来るので、手を動かして学べるなど、非常に学習しやすい環境だと感じます。また、分からないことが有れば、チームのメンバーや先輩社員がサポートしてくれたり、機械学習、データベース、ストレージなど、領域ごとに専門性を持った SA にいつでも相談できる テクニカルフィールドコミュニティ(TFC) という仕組みが有ったりするので、業務で大きく困ることはありません。
こういった仕組みが充実しているので、バックグラウンドによって不都合を感じることはありません。さきほどLearn and be curious のお話をしましたが、バックグラウンドに関係なく、 自分なりの学習や努力の方法を身につけていれば AWS でのスキル習得にも応用していけますし、課題を見つけて解決のために学習したり周囲を巻き込む姿勢が AWS で働くうえで大切だと感じています。
次なる学びとして注力したいのは自然言語処理
今後、フォーカスしたい技術領域はありますか?
Yoshie:
今、一番力を入れたい技術領域は AI/ML です。
理由としては2つです。
1つ目は何といっても、技術者としての新しい技術に対する興味です。AI/ML は前職で私がかかわってきたインフラと大きく違い、ユーザーにより近い形でビジネスに貢献する価値を直接届けることができます。例えば、Amazon Comprehend による感情分析を使えば、商品レビューやコールセンターの通話を分析して、ビジネス上の課題が無いかなどを把握することができます。また、AI/ML はこれから世の中で生産人口が減っていく中で、その課題解決に貢献できるのはと考えています。例えば、いままでは人間が5年10年かけて熟練の勘で行っていた発注作業が、過去のデータを用いて誰でも精度の高い予測をすることが出来たり、作業時間を減らすことができます。そういった多くの可能性が、AI/ML の魅力だと考えています。
AI/ML の中でも私が注力していきたいのは自然言語処理の分野です。一言に自然言語といっても、日本語、英語など言語によってもののとらえ方や表現、言い回しが違う中、どうやったら精度を上げられるか、といったところに興味が有ります。こういったところにも、文系出身で、語学の勉強(英語、スペイン語、韓国語の勉強中です!)が好きだという私のバックグラウンドが反映されているかもしれません。
まだまだ初心者なので学ぶことがたくさんありますが、さきほどお話ししたように AWS では学ぶための仕組みや分からないことをサポートしてくれる仕組みが有るので不安は感じていません。
技術領域以外では、担当するお客様の業界知識を学んでもっと広い視野でビジネスの課題解決に貢献したいですし、AWS のイベントや Webiner での登壇もしてみたいので伝える技術ももっと磨いていきたいと思います。もっと長い目で見ると、今分からないことが分かるようになると、また新しく学びたいことややりたいことが見つかると思うので、これからもわくわくしながら学び続けようと思います!
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