【レポート】ビッグデータを活用したWebサービスのマーケティング:大規模Webサービス[第1部] - TECH PLAY Conference 2017
データ×マーケティングが導くYahoo!ニュースのプロダクト戦略
2人目の登壇者は、ヤフーの有吉さんです。
有吉健郎(ありよし・けんろう)/ヤフー株式会社 「Yahoo!ニュース」担当。凸版印刷株式会社での勤務を経て、2007年にヤフーへ入社。2013年より現職。FC東京ファン。
「Yahoo!ニュース」のミッションは「ニュースを伝えることで、社会や個人の課題を解決する」。「取材する」「記事にする」「流通に乗せる」「読者に届ける」というニュースが読者に届くための4つのプロセスのうち、特に「流通に乗せる」「読者に届ける」というフェーズに強みを持っています。月間PV数は150億を誇り、ニュースアプリの中でもナンバーワンの利用率を獲得。国民の情報インフラとしての側面を持っています。
有吉さんはまず「Yahoo!ニュース」の構成について説明します。
「『Yahoo!ニュース』は大きくわけて3つのパートから成り立っています。具体的には、編集者がひとつひとつ選ぶ『トピックス』、編集者がピックアップし性別や年齢などのセグメントごとに配信される『ダイジェスト』、協調フィルタリングや閲覧履歴から生成される『あなたにオススメ』の3つです」
続いて有吉さんは「トピックス」がどのように出来上がるのかを紹介。
「『Yahoo!ニュース』は247社、372媒体と情報提供契約をしています。そこから配信されるニュース記事は約4000本です。その4000本をただ並べても読者には届きません。
そこで、『Yahoo!ニュース』には『トピックス』を作成する編集者がいます。編集者が1日に作成するトピックスは約100本ですね。その中でPCブラウザだと8本、スマホでは6本のトピックスを常時掲載しています。
トピックスの編成方針は、『公共性』と『社会的関心』の2つの軸で編成しています」
「データ×マーケティング」をテーマにした有吉さんは、まずマーケティングについて振り返ります。
「『Yahoo!ニュース』はミッションを守りながらも『データ×マーケティング』によるプロダクト戦略によって成長の限界を突破してきました。
ただ、やみくもにビッグデータを解析する前に、必ずやらなければいけないことがあります。マーケティングのスタート地点は、まず『仮説を作ること』です。仮説がなければ始まりません。
特にデータ活用について考えるときには、なぜそうなのかの『WHY』、この後どうしたいのかの『WILL』の「2つのW」を意識して仮説を作るといいですね。例えば、『なぜ今売上があがっていないのか、その後どういった成長をしたいのか』をまず考えて、それから仮説を立てることで、データ活用に初めて意味が出てくると思います」
続いて有吉さんは「編集とデータの関係」について「ダルビッシュ投手がオープン戦で12球で降板したニュース」を事例に説明します。
『Yahoo!ニュース』ではこのニュースを受けて、次の3つ見出しを作成します。
A. ダルビッシュOP戦 12球降板
B. ダルビッシュ わずか12球降板
C. ダル腕に張り わずか12球降板
「この3つの見出しの中で一番クリックされたのはBで、Cが一番低い数字になりました。なぜこのような結果になったのか編集者で議論したのですが、おそらく様々な要素を無理やり詰め込んでも伝わらなかったのでしょう。
このようにデータをチームで見て、データをみながら議論することはとてもいい習慣だと感じています。ただ、データに踊らされ過ぎないことも大切にしています。
誤解をまねく見出しをつけないよう『読まれすぎ』には気をつけています。PVだけを求めてエンタメばかりのニュースになってはミッションを達成できませんので、編成ルールを定めることも大切です。データはあくまでスパイスであって、編集者がシェフなのです」
続いて有吉さんはスマホアプリの事例について話します。
「実は4年前のスマホアプリは危機的な状況にありました。『Yahoo!ヘッドライン』と『Yahoo!トピックス』という2つのニュースアプリがあり、ユーザーはどちらを使えばいいのかがわからない状況だったんです。
その状況を変えるべくリニューアルを行って『Yahoo!ニュース』アプリに統合されたわけですが、リニューアルにあたっては首都圏や複数の地方都市でヒアリング調査を実施しました」
そのヒアリング調査から判明したのは次の2点。
スマホを購入することがきっかけで、新しくニュースを読む人が増えている
20代の40%、学生の83%以上地方都市のユーザは地元のニュースへの関心が高い
デザインモックを使用した調査でポジティブな反応が多数
「この調査をきっかけに『都道府県ニュース』というタブを作りました。全ユーザーの31%が利用しています。
UU、1人当たり滞在時間は『主要』『エンターテインメント』のタブに次ぐ、3番目の数値が出ています。そこから全国をカバーすべく地方ニュースを発信する媒体との提携数を伸ばしていきましたね」
さらに「スマホアプリの最大の発明はプッシュ通知だと思います」と有吉さんは続けます。
「ユーザー調査では『重大なニュースが確実に通知されること』が大切だという結果が出ているのですが、多すぎるプッシュ通知はユーザーの離反を招きます。私たちは『都道府県別プッシュのニーズが高いのではないか』と仮説をたてました。
実際に実装してみると『SMAP解散へ』というニュースよりも『【大阪】大阪堺市の個人情報流出』や『【三重】行方不明の中学生が保護される』といったプッシュ通知の方が高い開封率だったんです。
そこで、都道府県別ニュースのニーズの高さを感じた私たちは、都道府県ニュースをコンテンツのメインにしたテレビCMの放送を開始します。その結果、アプリのDL数も『都道府県ニュース』機能の利用者も増えています」
さらに有吉さんは一連の施策を振り返ります。
「私たちは仮説に基づいたヒアリング調査を行うことで、地方では地元のニュースへのニーズが高いという市場機会を発見しました。それをもとにプロダクトを開発してローンチしたわけです。
その後、通常のPDCAサイクルで複数のKPIが上昇していました。さらに『都道府県ニュース』をテレビCMというコミュニケーション戦略にも活用しています。
つまり、あらゆるマーケティングプロセスにおいて、徹底的にデータを活用したわけです」
続いて、「データ活用と戦略的意思決定」について。有吉さんはデータ活用には次の3つの「目」が必要だと指摘します。
虫の目
「『クリエイティブのPDCAをまわす』など一定の領域の最大化に集中するために必要な目です。ただし、『一部のクリックがあがっても、周りのクリックがさがった』など部分最適に陥るリスクがあります」鳥の目
「そこで、全体の効果を最大化するために『鳥の目』が必要です。『Yahoo!ニュース』のように、規模が大きく、また多くの要素の相関性が複雑であればあるほど重要だと思います。ただ、『鳥の目』だけだと、短期最適、自社最適のリスクに陥るリスクがあります」魚の目
「『鳥の目』のリスクを補完するのが、潮の流れを読む『魚の目』ではないでしょうか。ユーザーの変化、市場の変化を敏感に感じ取るために求められると考えています。
データを活用して中長期を見据えた事業判断をするために、『魚の目』を持って見落としをなくすことが大切なんです。
これは決して『データを無視する』ということではありません。大きな変化も、初めは小さなデータとして表れます。また、社内データだけではなく、社外のデータも活用してトレンドを見極め、仮説を立てることが必要です。その上で戦略的な意思決定を行わなければいけません」
最後に有吉さんは「データ×マーケティング」の時代に求められる人材像について語ります。
「『エンジニアリング』『デザイン』『ビジネス』の領域を飛び越えて活動できる人材が多いほど、イノベーティブな組織が生まれると考えています。
ここにさらにひとつの要素を足すならば、それは『データ』です。各部門の人材と話をする上で『データ』が共通言語になるわけです。データを『傾向』『比較』『効果』で語るのは基本的なことなので、職種をまたいだコミュニケーションを行えるようになってほしいですね。
さらに、『Yahoo!ニュース』の場合には『ミッション』が重要です。『ミッション』を理解した上で3つの領域をまたぎ、『データ』で会話ができなければいけません。さらに、未来思考で生き残っていくためには『マーケティング』の視点が必要だと考えています。
私たちはニュースという特殊なサービスではありますが、考え方や人材の在り方など少しでも皆さまの参考になればうれしいです」
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