LINE、京都にClovaなど戦略事業を支える第三の開発拠点をオープン!グローバルエンジニアたちが生み出す、新たなサービスに期待
コミュニケーションアプリ「LINE」を軸にさまざまなサービスを展開するLINE株式会社は、この6月、東京、福岡に続く国内3つ目となる技術開発拠点「LINE KYOTO」(京都開発室)を、京都市下京区にオープンした。
これを記念し、LINE株式会社 代表取締役社長の出澤剛氏、京都開発室の和田充史室長らが京都市長を表敬訪問。合わせて取材陣にオフィスを公開した。いまなぜ京都なのか。新拠点開設の狙いと、そこで働くエンジニアの声を紹介する。
Clovaなど戦略事業を支える新たな技術開発拠点へ
6月13日、LINEの出澤剛社長と京都開発室の和田充史室長は、和服姿で京都市庁舎を訪れた。同じく和装の門川大作・京都市長と共に記者会見に臨み、京都という街にふさわしい門出になった。
冒頭に挨拶した出澤社長は、国内月間アクティブユーザーが7,500万人に達し、そのうち85%が毎日使っているという「LINE」のサービスを紹介。「日本国内はもちろん、タイ、台湾などアジア各地でも、人と人のコミュニケーションに欠かせないインフラになっている」と語った。
今後のLINEは、コア事業の広告事業をベースにしながら、戦略事業として「LINE Pay」やコード決済などのFinTech事業と、AIアシスタント「Clova」に代表されるAIサービスを拡大すると宣言。こうした戦略事業を支える技術開発拠点として、京都開発室を位置付けていることを明らかにした。
東京・福岡に次ぐ国内第3の拠点として京都を選んだ理由については、「京都は大学都市であり、学生人材が豊富である」ことと、「海外のエンジニアにとっても京都の知名度は高く、この街で働くことに魅力を感じている人が多いこと」を挙げた。
LINE株式会社 代表取締役社長 出澤剛氏
実際、今回の「LINE KYOTO」のオープンに伴って新たにエンジニアを募集したところ、約千人のエントリーがあったが、うち8割が海外からの応募だったという。
「中期的にはLINE KYOTOを100名規模まで拡大する。インターネットやAI技術に関心をもつ関西圏の学生にとっては就業機会の増大につながる。さらに、京都の他企業とオープンなコラボレーションを進め、イベント開催などを通じて、京都のインターネット業界を盛り上げ、ひいては地域の活性化に寄与したい」(出澤社長)
これを受けて、門川・京都市長は「京都は学生が多く、伝統技術と先端技術の融合が進む街。こうした街の魅力を活かしながら、新たな技術やコンテンツを開発するというLINEの決断は、英断というべき」と評価した。
京都府京都市長 門川 大作氏
「LINE KYOTO」のミッションは、当面は、スマートスピーカーのスキル開発だが、陣容が拡大するにつれて、LINEファミリーアプリやFinTechなど、より広がりを見せることになるだろう。
京都は世界有数の観光都市で、インバウンド観光客は増える一方。LINE Payを使ったキャッシュレス決済や、中国のMobikeと提携したシェアサイクリング事業など、観光地らしいサービスを開発する上でも、立地的に向いている。
新採用のほとんどが外国人。京都ならではのグローバルな雰囲気
下京区の繁華街の商業ビルのB1と5階に設けられた「LINE KYOTO」には、 6月時点でインターン生2名を含む18名のエンジニアが働いている。うち10人が東京・福岡拠点からの異動だが、8人は新採用。そのほとんどが日本で初めて働く外国籍の社員で、国籍もフランス、メキシコ、中国、香港、台湾と多彩だ。日本語に堪能な外国籍社員もいるが、飛び交う会話はやはり英語が多い。
グローバルな雰囲気にあふれる5階執務室
5階は基本的に執務室。一人ひとりのデスクにはもちろん「Clova」。スキル開発やデバッグのためには実機が欠かせないからだ。ソファの置かれたラウンジもあり、エンジニアはどこでも自由に仕事ができるようになっている。ただ、将来100人規模を目指すとなると、このオフィスだけでは手狭になることは見えているため、拡張・移転も視野に入れた設計になっている。
オフィス訪問後、メンバーとランチに出かけたという出澤社長と和田室長
B1のコミュニケーションスペースには、電子工作やClovaを使った実験ができるカフェスペースがある。訪問したときには、Clovaの前で「写真を撮って」と命じると、iPhoneが自動的にシャッターを切り、その画像がQRコード付きでWebサイトにアップされ、QRコード読み取りで自由にダウンロードできる「LINE Photo booth」というIoT技術のデモが展示されていた。同階にはプレゼンテーションや勉強会に使えそうなイベントスペースもある。
他の企業や研究機関とのコラボについては、すでに、はてなやヤフーのエンジニアと機械学習などをテーマに共同で勉強会を開いた経験がある。「今後はインターネット業界以外の企業も含めて関西企業とのコラボレーションを進めたい」と、和田充史室長は語っている。
LINE株式会社 京都開発室 室長 和田充史氏
京都発のサービスを世界に発信したい
「LINE KYOTO」のエンジニアの一人、杉義宏氏は、大学院卒業と同時に日本IBMに入社。カヤックなど2つのベンチャー企業を経て、NHN Japanに転職。それが2013年からはLINEになったという経緯の持ち主だ。もともとはPerlを得意としていたが、転職を重ねるうちに、Java、Python、Go、JavaScriptなど様々な言語に広く精通するようになった。
LINE株式会社 杉 義宏氏
LINEの東京オフィスでは、LINEサポーターズ、LINE MALL、LINEキッズ動画、LINEグルメ予約などLINEのファミリーサービスを開発。「私が関わったサービスの多くは今では消滅したり、名称が変わったりしていますが、さまざまなプロジェクトにかかわることで、そのたびに新鮮な気持ちでチャレンジできたし、言語も様々なものを使うことができました」と振り返る。
2016年末からはClovaのバックエンド技術を担当。Clovaのコア技術は韓国NAVER社との共同開発なので、直近の3カ月間は韓国に出張していた。
「ClovaはNAVERと共同で開発をしていて、日本向けにローカライズしなければならないことも多かった。特に音声認識をはじめ、日本でも開発できる人材を増やしていく流れになっています。LINE KYOTOの開設もその姿勢の表れの一つです」(杉氏)
東京から京都への異動は、自分から懇願したわけではなく、京都で働きたいという知人のエンジニアを会社に紹介するうちに、なぜか自分が行くことになった。「独り身だし、ネタとして面白いからくらいのノリ」と笑う。
東京生まれで、仙台育ち、東京勤務が長く、京都にはこれまでほとんど縁がなかった。京都の地名の“上ル下ル入ル”もまだ正確には把握できていない。
しかし、「古い町屋が続いたかと思うと、ふっとお洒落なカフェに出くわす。カフェ好きの自分としてはたまらない街です。電車に乗らずに通勤できるのも魅力。オフィスも今の所は広々としているし、美味しいコーヒーが淹れられるコーヒーメーカーを希望したら、すぐに購入してくれた。これは東京オフィスにもないものです」と嬉しそうに自慢する。
今後は、Clova開発チームとして東京のエンジニアと遠隔で共同作業を進めることが増える。
「これまでは顔を合わせて開発していたけれど、今後はSlackやチャットでやりとりしながら進めていくことになると思います。それでもしっかり成果を出せるということを証明していきたい」(杉氏)
京都の伝統的な文化とスタートアップ的な雰囲気を共に吸収しながら、世界から集まったエンジニアたちの発想はどこまで広がるのか。「いずれは京都で開発した新しいサービスを世界に発信したい」と、杉氏は意欲を見せていた。
(取材・文:広重隆樹 撮影:馬場美由紀)