「作業者になるな。開発者になれ」 ──その言葉の重みを感じながら業務を全うしていきたい
インターンシップでオフィスの雰囲気を見て、ここで働きたいと実感
──塩野さんは2020年の新卒入社で、複合機のスキャン機能に関わるソフトウェア開発をご担当されています。ご担当されている仕事の概要をお聞かせください
塩野:現在は、技術開発と商品開発を行うコントローラー開発部に所属しています。複合機をコントロールするソフトウェアの開発を行っている部署で、私の担当はスキャン機能です。
主に複合機でスキャンした画像をPDFなどにして、PCに送信するスキャン機能の開発を担当しています。加えて、画像データのテキスト部分を認識してデジタル化するOCR機能にも関わっています。
複合機のスキャン機能は昔からあるもので、ソフトウェアも先輩たちが積み上げてきた実績があります。その上、新しい機能を開発する際は、もともとの外部仕様や品質に影響を与えないようにしながら新しいプログラムを加える。つまり差分開発というやり方で進めます。
──これまで品質が取れた開発コードに変更を加えるわけですね。そのコードに対して、どんなことを感じますか?
塩野:コードの可読性や保守性を一番重視して、誰もがわかるように読みやすいコードを書くようにしています。コード開発ではその都度、ドキュメントをきちんと残すという文化が根づいていて、これもソフトウェア開発では大切なことです。
富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
コントローラー開発部 CTD制御開統G 塩野 優人氏
大学院時代は、情報通信専攻でFM電波の乱れをAIで解析するという研究に取り組む。インターンシップをきっかけに、2020年富士フイルムビジネスイノベーションに入社。入社後は複合機のスキャン機能に関する組込みソフトウェア開発に携わる。入社2年目で次期新商品開発プロジェクトにアサインされ、スキャン機能の新しいプロトタイプ開発を任される。現在は、教育担当(OJTトレーナー)として、新人教育にも携わっている。
──入社前、大学ではどんな研究をされていたのですか?
塩野:電気科で情報通信やAIの研究をしていました。修士課程では、FM通信の伝播についての研究がテーマでした。例えば、東京スカイツリーからもFM放送の電波が送られているのですが、大学の研究室で受信すると、ときどきおかしな乱れが生じています。そうした乱れの性質をAIで解析したいと考え、そのテーマを選びました。
同じ情報通信でも、放送電波と業務で関わっているデータ通信とでは異なるのですが、ソフトウェア開発という意味では同じ領域です。学生時代のスキルは活きており、入社してからの大きな戸惑いはありませんでした。
──富士フイルムビジネスイノベーションに入社した決め手は何でしたか?
塩野:修士1年の冬に参加したインターンシップです。画像系AI開発の部署のインターンを希望して参加しました。AIを製品にどう活かしているのかとても勉強になりましたし、それ以上に、職場の雰囲気が味わえたのが良かったですね。
企業のオフィスはそれぞれ部署やチームごとに部屋があって、そのなかで仕事をするというイメージがあったのですが、当社は広いオープンスペースのオフィスの中で様々なチームが仕事をしていました。
ミーティングルームや仕切りはあるのですが、全体を広く見通すことができるのです。何かあるとデスクの周りに人が集まって、ちょっとしたミーティングをしてはまた自席に戻って開発を続ける。コミュニケーションが和気藹々というか、とてもフランクで、人が生き生きと動いている様子が、インターン生が集められた一角からも眺めることができたのです。
こういう職場で働けたらいいなと思いました。コロナ禍直前のインターンシップでしたので、リアルな職場の様子が見られたのは幸運でした。
ただ、入社時点はコロナ禍まっさかり。出社して受ける集団研修もありましたが、ほとんどがリモートで行われました。画面越し・マスク越しだったので、どんな同期社員や先輩社員がいるのか、最初の頃はよくわからなかったですね。
次を見据え、自分で考えて業務を先に進めることの大切さ
──2020年4月に入社後、新人研修の2年間で学んだことを教えてください
塩野:当社では、一般的に年次10年以内の人がOJTトレーナーになることが多いのですが、たまたま私のOJTトレーナー役は年次でいうと15年ぐらいになる中堅エンジニアでした。そこで言われたことで今でもよく覚えているのは、「作業者にはなるな」という言葉です。
命じられた一つのタスクを終えたら、それで「終了」としてしまうのは普通の作業者です。しかし、開発者には、タスク終了後も今後どのように製品を良くしていくのか、この作業の目的は何なのかなどをしっかり考えた上で、自ら業務を進めていくことが求められています。
それが作業者ではなく、開発者として業務するという意味だと考えています。「常に目的意識を持って開発にあたれ」という、技術者としての基本的な心構えを教えてもらいました。
──OJTトレーナーにはコードのレビューなどもしてもらえるのですね
塩野:OJTトレーナーに加えて、もう一人の先輩社員からもレビューがありました。やはり可読性、保守性の高いコードについて、とことん教えられました。
学生時代のコーディングは、自分の書いたコードは自分の研究で使えれば問題なかったですし、自分さえわかれば多少雑なコードでも構わなかった。ところが、仕事となるとそれではやっていけません。他の人にも読みやすく、メンテナンスしやすいコードを書かなければならないのです。
OJTで覚えること以外にも、会社が用意する技術研修で学ぶことも多々ありました。例えば、C言語に関しては大学の授業で学んでいたのですが、C++に関しては会社に入ってから学び直したところが多かったですね。当社の新人研修は2ヵ月の技術研修にプラスしてソフトウェア研修が1ヵ月と長く、内容も手厚いものだったというのが感想です。
「技術のあるべき姿」を考えながら、可読性・保守性の高いコードを書く
──現在は教育担当の一人として、新卒社員の指導をしているそうですね。ご自身の新人研修で学んだことは、どう伝えるようにしていますか?
塩野:自分が教えてもらった「目的意識」を伝えるようにしています。加えて、私はこの3年間で、「技術のあるべき姿」を頭に描くことが大切だと考えるようになってきました。あるべき姿というのは、その技術が持つ目的が明確で、かつ本来の形で機能を発揮している様子です。
何か不具合が起きたときにさっと直すこともできたとしても、もしそこが度々エラーを起こすような壊れやすい箇所だったとしたら、正しく機能を発揮できないという意味で、そこには本質的な問題があるわけです。
だとすれば、あるべき姿を理解した上で、不具合を今後繰り返さない直し方をすべきです。今あるものだけを解決するのではなく、今後もきちんと回せるような方法で直していく。あるいは新機能もそういう形で追加していくべきだと、新入社員たちにはよく伝えています。
──優秀な新入社員に対して、これは負けてはいられないと感じることはありますか?
塩野:私が担当している新入社員は、私の学生時代と比べてもはるかにコーディング能力が高い人が多いですね。ただ、学生のときのコードと企業で使われるコードとは、正確さ、精密さ、可読性、保守性といった点で全くレベルが違うので、その部分はまだまだ自分が教えていくべきところだと思います。
入社2年目で新商品プロジェクト。グループ長直伝の手ほどきで成長実感
──塩野さんはまだ新人研修時代の入社2年目に、新商品開発プロジェクトのメンバーにアサインされたそうですね
塩野:自分のような若手社員でも、そんなに大きなプロジェクトの一員になれることにびっくりしました。私が担当したのはスキャン機能に新しい価値を追加するという開発で、これまでのスキャン機能とはかなりおもむきの変わったものになると思います。そのためには、先ほど申し上げた差分開発とはまた違う、新規開発を行う必要がありました。
プロトタイプですから、たとえ試行錯誤して失敗しても、まだ許される環境なのです。とはいえ、それまで教育担当の方から指導を受けながら二人三脚で仕事をしていたところから、一人で仕事をするようになり、心細さや不安はありました。
もちろんプロジェクトメンバーの協力はありました。私も積極的に先輩社員に質問しました。そのなかでも、かなり立場の高いグループ長が手取り足取り丁寧に向き合ってくれたのが嬉しかったですね。グループ長といってもマネジメントだけでなく、現場で実装にも関わるすごい人です。
「新商品だからこそ、今後も新しい機能がどんどん追加されていくはず。それを見越して開発しなさい」ということをよく言われました。これはインターンシップや新人研修時代に言われた、目的意識を持った開発という言葉にも通じることです。
通常の業務ではなかなか接することのないグループ長からの直接の指導。それもあって、自分の成長を実感できるプロジェクトでした。
自分が実装した機能にお客様が喜んでくれる姿を思い描いて
──技術者は常に勉強を続ける人たちです。いま、塩野さんはどんな学びを続けていますか?
塩野:最近でいうと、Amazonが提供しているAWSクラウドのハンズオン研修に、丸2日間参加しました。現在の業務で実際に使う技術というより、私にとってはそこから少し飛び出した領域ですね。
こうした外部研修には、今の上長は積極的に参加を奨励してくれますし、上長の承認さえ得られれば、誰もが参加できます。研修に限らず、「CEATEC」などの見本市・展示会への参加も自由です。
2022年の「CEATEC」では、幕張メッセで丸一日見学しました。他社製品に直接触れることができるイベントなので、私たちには欠かせない勉強の機会です。
ソフトウェア開発に関する書籍やツールの購入もかなり自由にできます。基本的に、教育に関して「やりたいのに、やらせてもらえない」というのは、感じたことがありません。
──プリズム活動という社員が業務時間の10%を割いて、自由に参加できる勉強会もありますね
塩野:はい。実は私もソリューション開発グループの吉塚さんがリーダーのプリズム活動に参加しています。そこで他部署の面々と一緒に業務後、「赤ちゃん見守りアプリ」を作っています(笑)。
■1日の業務の流れ ※例
9:30 | 出社。リモートワークも選択できるが現在は出社がメイン。モニターやPCなどの機器が充実しており、コミュニケーションが取りやすいなど、作業環境が社内の方が良いため。 1日のタスクを洗い出し、納期を意識しながらスケジュールを組み立てる。 |
午前中 | 朝礼というものはなく、毎週月曜日と木曜日は昼前にチーム内の進捗を報告する定例会がある。部署内ではリモート勤務をメインとしている人もいるので、会議ではチャットを活用してコミュニケーションを取る。 |
正午 | 同じビル内にある社員食堂でランチ。美味しくて安い。 |
午後 | 打合せに参加。もしくは、自分の担当する機能開発のためコーディング作業に集中。 |
18:00 | 月の残業時間は25時間ほど。週1でプリズム活動に参加。現在は「赤ちゃん見守りアプリ」を開発中 |
──さて、塩野さんの今後のキャリアプラン、今後どのような技術者を目指しているのか。将来の目標について最後に伺います
塩野:複合機におけるスキャン機能に留まらず、ソリューションと連携するような大きな仕事もやりたいと思っています。もともとAI開発に興味があって入社したこともあり、いずれはAI関連の仕事もしてみたいですね。
チーム内の組織階層としては、リーダーやマネージャーという職位があるのですが、現状としてはマネジメントに関わるよりも、自分で手を動かして開発に携わっていたいです。そこで、「自分が考えた機能を新しい商品に搭載する」というのが当面の目標です。
こういう機能があったら便利だろうなと考え、それを実装してお客様が驚いたり、喜んだりする様子を見ることができたら、技術者としては本望であるし、やはり嬉しいと思います。
ペーパーレスが進んでいるとはいえ、紙というものが全くなくなるわけではない。複合機はすでにオフィスの業務プロセスの一部として欠かせないものですから、これからもお客様の業務を快適にする方向でどんどん進化していくでしょう。その進化の一翼を担うことができたらと考えています。
【取材を終えて】
インターンシップ研修中から塩野さんを魅了したみなとみらい事業部門のオフィス環境。広いオープンスペースを行き交う社員たちのコミュニケーションが活発なのはもちろん、見晴らしの良い港の風景、コスパの良い社員食堂なども、魅力の一つだったと言います。
東京・埼玉からのアクセスもますます容易になり、横浜みなとみらいは、レジャーやショッピングだけでなく、新たなオフィス拠点としてもさらなる発展の可能性を秘めています。リモートワークも選択可能ですが、現在は出社がメインだそうです。
こんなオフィスであれば出社したくなるという気持ちはよくわかります。ただ、観光客に人気の都市型ロープウェイ「ヨコハマエアキャビン」にはまだ乗ったことがないのだとか。「いつでも乗れると思うと、ついつい...」と、笑顔で話してくれました。