リーダーになったからこそ見える世界──新たなチャレンジが始まる
イチから学んだプログラミング。先輩のコードレビューでスキルを磨く
オフィスの片隅にいながら、ドキュメント管理を司る複合機。ほとんどの操作は液晶のタッチパネルで行われます。一つひとつのアイコンや設定項目が余裕をもって配置されること、直感的にわかりやすいこと、各機能の操作ステップが覚えやすいことなど、そのUI設計はきわめて重要になります。
近年は基本操作の設定をWi-Fiやスマートフォンからも行える機種がほとんどで、他の機器との操作性の統一も大きなテーマになっています。
薮崎良人さんが担当する複合機「Apeos」シリーズは、ローエンドに位置付けられるコンパクトな機種。そこに搭載するUIを設計するチームに所属し、UIアーキテクトとして活躍しています。
今でこそC言語、JavaScriptなどをフルに駆使していますが、入社前は情報系の知識はほとんどなく、UIの設計・開発に関する知識は社内研修で学んだと、薮崎さんは言います。 「大学院まではずっと無機化学の世界にいたので、プログラミングは未知の領域でした。新しい知識を習得することは楽しかったのですが、やはり苦労はありました。新人研修で言語を学び、配属後もOJTでの勉強が続きました。先輩社員たちにソースコードをレビューしてもらい、『こう書いたほうがすっきりしたコードになるよ 』など、具体的なアドバイスをいただきながら、スキルを蓄積してきました」(薮崎さん)
富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
コントローラー開発部 SMBCT&C開統G
薮崎 良人氏
大学院時代は無機化学を専攻。入社前はプログラミングの知識はほとんどなかった。ただビッグデータを扱う仕事には関心があり、複合機や各種ソリューション、クラウドサービスなど幅広い領域にわたって高い技術力を持つ会社として富士フイルムビジネスイノベーションを選び、2015年に入社。社内研修やOJT、自己研鑚を重ねて情報系の知識を身につけ、現在はA4サイズなど、ローエンドの複合機のUI設計・開発に従事する。
複合機のタッチパネルのUI設計を担当するようになり、あらためてオフィス機器のUIとはなんぞやから勉強を始めます。UIデザインの専門部署が社内にあり、そこと連携しながら、お客様目線に立ったUIはどうあるべきか、一からの勉強だったと語ります。
「入社の2015年から8年経ちますが、当社の製品にもUIの変遷がいくつかありました。特に、2021年4月に富士フイルムブランドに切り替わった刷新が大きかったですね。富士フイルムグループの他の製品のUIとの調和も考えながら、UIをガラッと変える。私にとっては入社後、最大のチャレンジでした」(薮崎さん)
リーダーは自らの失敗を通して、自分なりのリーダー像をつかんでいく
薮崎さんは2023年4月から、10人で構成されるUI設計・開発チームの技術リーダーに抜擢されます。富士フイルムビジネスイノベーションの人事上の階層(グレード)では、一つのチームに関していえば、メンバー→リーダー→マネージャーという階梯があります。
所属するチームにはマネージャーが1名、その下に薮崎さんも含めてリーダーが2人。薮崎さんは主に技術リーダーという位置付けで、もう一人のリーダーは主に進捗管理などを受け持っています。リーダーとして果たすべき職責はけっして軽くはありません。
「一メンバーだった頃は、UIのプログラミングに専念していればよかったのですが、リーダーになったことで、UIの開発はもちろんのこと、コピーやスキャンなど複合機の個々の技術開発をするチームとの打合わせや調整、さらには予算管理などのタスクも舞い込むようになりました。
リモートワークでも朝から夕方まで会議が続き、それが終わってからようやく自分の開発案件のコードを書き始めるといったように、急に忙しくなりましたね。もちろん、36協定がしっかりしている会社なので、時間外労働が超過することはありませんでした」(薮崎さん)
チームリーダーの役割や仕事ぶりは、チームごとにさまざまだといいます。確固としたリーダー像があらかじめ決まっているわけではなく、成功や失敗を繰り返しながら、自ら生み出すものでしょう。
「もちろん失敗することもありました。アーキテクトとしてUIの全体設計を進める中で、自分の思い込みで多分こうなっているだろうというふうにアーキテクチャを作ってしまった。最終段階の開発工程に入ってから、実は自分の思い込みが間違っていて、最初から設計をやり直さなくてはいけないことがわかりました。自分の経験を過信するあまり、大きな手戻りを発生させてしまったのです」(薮崎さん)
失敗を挽回するために薮崎さんが取った行動は、まずはマネージャーへのエスカレーション(報告)でした。さらにUI担当以外のチームとのコミュニケーションを図り、スケジュールの切り直しを行いました。こうしたトライ&エラーは今後も起こりうるものですが、それをどう復旧するかで、リーダーの力量が問われていきます。
チームリーダーの役目には、若いメンバーへの指導・教育もあります。
「私なりの育成方針は、まずは一人ひとりがUIの開発ができるようになってほしいということ。そのための技術伝承を意識しています。また、他の担当者との調整、スケジュール管理の考え方、それらのベースにある“報連相”の重要性などを、実際にものづくりをしながら後輩たちが自律的にできるように指導を心掛けています」(薮崎さん)
後進の育成にあたっては、もう一人のリーダーの背中から学ぶことも多いそうです。
リーダーになって見える景色が変わり、次のステップも意識するように
薮崎さんがチームリーダーになって半年が経ちました。リーダーになって良かったことをこう語ってくれました。
「一メンバーとして見えなかった別の世界が見えるようになりました。例えば、より経営的な視点ですね。そんな大それたものではないのですが、今後、当社の複合機を拡販していく中で、どのようなUIが市場で求められているのか、数年後のUIをどうしていくかなどといったところですね。メンバーの頃はあまり考えていなかったのですが、当社の複合機の国内外のシェアをどう上げていくのか。そんなことをいつも思い浮かべるようになりました」(薮崎さん)
リーダーになって、見える景色が変わってきたという薮崎さん。今後の自身のキャリアをどう設計しているのでしょうか。
「次のステップとして、いずれはマネージャーに昇進したいですね。そのためには、プロジェクト管理についてもっと勉強しなくてはなりません。もちろんUI設計の技術についても並行して磨きたい。当社の複合機製品のUI設計全体がわかるUIアーキテクトでありながら、かつチームやグループのマジメントもしていくというスタイルでしょうか」(薮崎さん)
UI設計という専門スキルを持ちながら、マネジメント能力も高め、社内のグレードとしてもマネージャー職というのを目指していきたい。そうした個々人のキャリア設計を支援するために、会社もその都度、PM研修などを用意しており、そこから学ぶことも多いはずです。
これから入社する若手社員にとって、チームリーダーを目指すというのはどういうことなのか。自身の経験を踏まえ、これから入社する人たちも含め、若手社員に向けてのメッセージも伺いました。
「ぜひ若手社員には、どんどんリーダー職にチャレンジしてほしいですね。リーダーというグレードになると、経営や会社全体のことを意識するようになりますし、それによって世界が変わって見えてきます。これまでの開発より一つ上のステップを意識することで、もっと新しいことにチャレンジができるようになると思います」(薮崎さん)
終わりのないUIデザイン。絶えず世の中へのアンテナを働かせる
オフィス機器に限らず、あらゆる機器や道具のUIには「これが最高」「これで終わり」というものがありません。よかれと思ってリデザインしたUIも、以前から使い慣れているユーザーには不評ということも少なくないでしょう。
絶えず、ユーザーの声を聞きながら、改善を重ねていく永久運動のようなものかもしれません。UIというものは、日々変わっていくもので、終わりがありません。
「そこで私たちにとって重要なのは、やはり世の中の様々な機器のUIについてアンテナを張るということだと思います。例えばかつての携帯電話には電話番号を押すボタンが付いていました。ところが今のスマートフォンは、すべてソフトキーで操作します。最近のiPhoneのようにホームボタンすらないようなものもあります」(薮崎さん)
UIは日々進化をし続け、ユーザーもそれに慣れていくようになります。
「複合機もハードキーよりはソフトキーで操作するようにしたほうがいいかもしれません。さまざまなユースケースを調べ、もちろん競合製品のUIも比較検討しながら、お客様の多くが使いやすい方向を目指していきたいと考えています」(薮崎さん)
薮崎さんは最後にそう語ってくれました。
【取材を終えて】
2023年度から複合機UI設計チームのリーダーの一人になった薮崎さん。前任者が異動したタイミングを捉え、「チャンスは逃したくない」と自ら手を挙げました。「仕事は忙しくなったが、プレッシャーを感じて苦しくなるようなことはない」と、むしろ、リーダーになったからこそ見えてきた新しい景色を楽しんでいるようです。
チームのマネジメントや後進育成など、リーダーになりたての身としてはまだまだ勉強しなければならないことが多いと、薮崎さんは語ります。後進育成にあたっては「人のせいにはしない。一緒に考え、一緒に成長する」ということをモットーにしています。そのためには、メンバーそれぞれのタイプを見極めながら、コミュニケーションを重ねることが大切だとも。
競合他社の製品や他のIT機器におけるUIの進化をウォッチするために、情報を集め、仕事の合間を見つけて展示会に参加する日々。「UIに終わりというものはない」という言葉も印象的でした。