フィットネスをゲーミフィケーション化したUXを実現 ──BEST UX TEAM賞は任天堂『リングフィット アドベンチャー』

インタビュー
「リングコン」という新しいデバイスを操作することで、物語を進めながら、楽しくフィットネスができるNintendo Switch専用のアドベンチャーゲーム『リングフィット アドベンチャー』。斬新なUI/UXや、ゲームとフィットネスを高次元で組み合わせた完成度は世界中で高く評価された。TECH PLAYER AWARD 2020審査員は、満場一致でこの『リングフィット アドベンチャー』開発チームを「BEST UX TEAM賞」に選出した。
フィットネスをゲーミフィケーション化したUXを実現 ──BEST UX TEAM賞は任天堂『リングフィット アドベンチャー』

任天堂『リングフィット アドベンチャー』開発チームの皆さん!

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任天堂株式会社『リングフィット アドベンチャー』開発チーム 河本 浩一氏
『リングフィット アドベンチャー』のほか、Nintendo Switch用ソフト『1-2-Switch』『Nintendo Labo』『脳トレ』のプロデューサーを担当。Nintendo Switch本体の総合ディレクターも務める。

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任天堂株式会社『リングフィット アドベンチャー』開発チーム 松永 浩志氏
『リングフィット アドベンチャー』では、ディレクターを担当。Wii用ソフト『Wii Fit』『Wii Fit Plus』、Wii U用ソフト『Wii Fit U』のディレクターを務める。

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任天堂株式会社『リングフィット アドベンチャー』開発チーム 田邨 嘉隆氏
『リングフィット アドベンチャー』では、ハードウェア開発におけるプロジェクトリーダーを務める。Nintendo SwitchのコントローラーであるJoy-ConのHD振動やモーションIRカメラなどのデバイスも担当。

ゲームで冒険しながら体力向上を図る。全く新しいコンセプトにワクワクした

「30代半ばを過ぎるころから、筋力の衰えを感じるようになりました。ジョギングしたり、ジムに通って運動したりすればいいとはわかっているものの、もともと運動が嫌いで苦手。一方、ゲーム開発は本業だし、プライベートでもよく遊んでいる。そこで、ゲームを遊ぶことで自分の体力向上を図ることができれば、というのがそもそもの発想でした」

と語るのは、『リングフィット アドベンチャー』プロデューサーの河本浩一氏だ。『リングフィット アドベンチャー』の開発には、体を動かさないと取り返しがつかなくなるかもしれないという自分自身の切迫した課題を解決したいという思いも含まれていたのだ。

任天堂には、バランスWiiボードの上で体を動かして、自分の健康を管理する『Wii Fit』などフィットネスゲームの実績がある。松永浩志氏は、これらのゲームを作ってきた経験を持ち、外部のフィットネストレーナーとの協業経験もある。

「『リングフィット アドベンチャー』にもその経験を活かしてほしい」と河本氏から声をかけられたが、「単なる『Wii Fit』 の後継というのはつまらない。しかし、『リングフィット アドベンチャー』には全く新しいコンセプトがあると知り、俄然乗り気になりました」と振り返る。

輪状の「リングコン」を両手で持ち、太ももに「レッグバンド」を巻いてプレイすると、プレイヤーの動きが検知され、画面上の主人公と連動して冒険を進めていく——というコンセプトは、これまでのゲームにはなかったものだ。

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▲リングフィット アドベンチャー(対応プラットフォーム:Nintendo Switch)©2019 Nintendo

ゲームとフィットネスのバランスをどう一体化させるか

だが、ゲームとフィットネスのバランスは、そんなに簡単ではない。

「最初は、単純に運動にゲーム要素をつけたら、飽きずに長続きするだろうという発想でした。ところが、プレイされる方に運動を本格的にやってもらおうとすればするほど、ゲームがつまらなくなる。逆にゲームとして面白くしようとすると、あまり運動にならなくなる——この相反関係をどうクリアするかが最大の課題でした」(河本氏)

ユーザーの運動負荷を、ゲームの中でどう表現するかが重要なポイントになった。敵を倒すためには、スクワットなどの運動を繰り返す必要があるが、簡単に倒せては運動効果が得られない。逆に、「ゲームなのになんでこんなにスクワットしなくちゃいけないのか」とユーザーに感じさせてはならない。きつい運動を楽しく、気持ちよく続けられることが、何より重要なのだ。

「そのため、プレイされる方のアクションに対しては、通常のゲームに比べて絵も音も振動も何倍増もさせてフィードバックを返すようにしています。ちょっと腹筋をするだけでも、『すごいね!』とキャラクターが応援してくれる。そうしたゲームとユーザーのコミュニケーションを通常のゲームよりも増幅させました」と、ディレクターの松永浩志氏は語る。

ゲームに夢中になって必要以上に運動してしまう可能性もある。そんなときは「そろそろ休憩しませんか?」とアラートが出る。あるいは「まだまだいけそうですね、少し運動負荷を強くしてみますか?」と声がけするような機能もある。あたかも、パーソナルトレーナーがそばにいてくれるような感覚も得ることができるのだ。

そもそも『リングフィット アドベンチャー』はゲームなのか、フィットネスなのか。

「プレイされる方の体験としては、これはフィットネスだという感触になるように、全体としてゲームっぽくない流れにしています。冒頭にインストラクターのようなお手本となるキャラクターが登場するのもその例ですね。実際、『フィットネスだと思って始めたら、結果的にゲームとしても面白い』『ゲームだと思ったが、意外と運動になる』という二極の声がありました。フィットネスが目的の方にも、ゲームが目的の方にも楽しんで頂けたと思います」(河本氏)。

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▲プレイヤー自身のカラダで戦うアドベンチャーシーン ©2019 Nintendo

「輪状のコントローラー」という発想

開発段階では国内はもとより、海外法人のスタッフとも協力し、モニタリングを繰り返した。心身の健康を保つために無理なく運動を続けたいというのは、日本国内に限らずグローバルな関心事だ。様々なスタッフがモニターとして参加することで、異なる体格や生活習慣の人のプレイデータが得られた。京都にある本社では、実際に開発スタッフがオフィスでプレイをして汗をかきながら開発していたこともあったという。

モニターの声はつぶさに検討され、製品のUI/UXを磨き、完成度を高めることに役立った。「モニターの声を受けて、開発スタッフが一つひとつ棘を抜いていきました」と、河本氏はそのプロセスを語っている。

「普段の日常生活では、スクワットをしようということ自体、なかなか思わない。しかし、ゲームの力で運動へのモチベーションが確実にアップしました」と語るのは、このモニタリングにも参加した、田邨嘉隆氏だ。『リングフィット アドベンチャー』ではハードウェア開発におけるプロジェクトリーダーを務めた。

リングコンを持ってゲームを進めていくうちに、上半身の運動になるというのが、このゲームのUIの最大の特徴だ。この新しいデバイスの開発を主導したのは田邨氏だ。「リング状にしたことで押し引きや、回すといった様々な操作が思い通りにでき、ゲームとの一体感にも繋がっています。」と語る。

リングコンの中には、繊維強化プラスチック製の特殊なバネが入っている。バネの反発力は一種類だけだが、どこまで力を入れたら反応するかは、ソフトウェアで制御することができる。そのため、腕力が弱い子どもでも、筋力に自信のある大人でも、誰もが適切な強度を設定してプレイできるのだ。

太ももに固定するレッグバンドも『リングフィット アドベンチャー』では欠かせない。「今回の開発で統計を調べてあらためて知ったことですが、太ももの周長は個人差がとても大きいんです。そのため子どもから大人まで一つのバンドでカバーできるように、検討を重ねました」と、振り返る。

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▲リングフィット アドベンチャーでスクワットするイメージ写真©2019 Nintendo

HD振動・モーションIRカメラ。Joy-Conに込められた最新技術

リングコンとレッグバンドには、それぞれ「Joy-Con」と呼ばれるコントローラーをセットする必要がある。Joy-ConはJoy-Con(L)とJoy-Con(R)の2つがあり、Nintendo SwitchではこのJoy-Conを本体にセットしたり、取り外したりすることでプレイスタイルに応じたゲームを楽しめるようになっている。

今作で威力を発揮している技術の一つが、Joy-Conに組み込まれた「HD振動」だ。一般的にはハプティクスや触覚技術と呼ばれているもので、氷の入ったグラスをカランカランと鳴らすような「触感」まで、表現することができる。

「特殊な振動デバイスと、独自の制御を組み合わせることで実現しており、振動デバイスを素早く高精細に振動させることにより、多彩な触感を表現することができます。ゲーム内では画面や音声の演出と併せて、体の動きに対して適切なフィードバックを返すように実装されています。リングコンの押し引きや、脚に取り付けたレッグバンドの動きによって振動が変化するので、運動している実感が得られます」(田邨氏)

Joy-Conには、手の形状や動き、距離などを計測できる「モーションIRカメラ」機能もある。すでに、『1-2-Switch』における大食いコンテストや『Nintendo Labo』など、モーションIRカメラの活用事例はあり、そのノウハウが『リングフィット アドベンチャー』でも活用されている。

『リングフィット アドベンチャー』では、このモーションIRカメラを使って運動後の脈拍を測定できるようになっている。カメラから赤外線を指先に照射し、反射してくる微小な光量の変化をモニタリングする。血液に含まれるヘモグロビンには、赤外線を反射しやすい性質があり、心臓が鼓動を打つと、指先に流れる血液の量が増減するが、それに合わせて反射する光の量も増減する性質を利用しているという。

もちろん脈拍数はあくまでも目安の値となるが、それでもユーザーが運動効果を手軽に実感するためには重要な機能になっている。その開発にはいくつもの苦労があった。

「脈拍測定の機能を正確に働かせるためには、Joy-Con(R)のモーションIRカメラに対して親指の腹を適切に当てる必要があります。例えば指の位置がズレていたり、指を強く押し当て過ぎたりすると、微小な光量の変化のモニタリングが難しくなるためです。開発初期には狙い通りいかず苦労した記憶があります。

モニター検証を行いながら、指が自然と当たるようにJoy-Conの配置やリングコン筐体の形状を最適化していきました。またゲーム内の脈拍測定シーンで適切なアニメーション表示を行うことによっても、プレイヤーの方をサポートしています」と、田邨氏はその一端を語っている。

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▲「リングフィット アドベンチャー」のリングコンとレッグバンド ©2019 Nintendo

インターフェイスの冒険はこれからも続く

『リングフィット アドベンチャー』は従来のゲーム機の概念を超えたものであると同時に、任天堂の数十年にわたる技術的DNAを引き継いでいる部分も少なくない。

「社内では、まず独創性があることが重要視されています。そういう文化があるのでしょうね」(河本氏)

「どんなに優れたインターフェイスでもいつかは飽きられてしまいます。だから、私たちはいつも新しいインターフェイスを考えている。それがゲームの進化に繋がっているのだと思います」(田邨氏)

「チームには『Wii Fit』シリーズに関わっていたメンバーもいます。フィットネスのノウハウの部分は継承できたと思いますが、それをRPGというゲームに繋げることはチーム全員にとって未知の体験。新しい挑戦でした」(松永氏)

と、三者三様に開発のレガシーとイノベーションを語っている。

『リングフィット アドベンチャー』は生産が追いつかないほど世界中で売れているが、当初からその予測があったわけではないという。

「たしかにゲームとしては面白いと思ってもらえるように開発しました。だからといって、それが必ずしも売れるとは限りません。これまでに全く前例がない商品でしたので、正直売れるかどうかは不安でした。そこを後押ししてくれたチームメンバーや経営陣には感謝しています」と、河本氏。

いま新型コロナウイルス感染を避けるため、三密回避やステイホームという新しい生活習慣が世界中で模索されている。そのために開発されたものではないとはいえ、『リングフィット アドベンチャー』の製品に込められた果敢な冒険心と、わかりやすいUI/UXの作り込みは、「ニューノーマル時代」の到来を予感させるものでもある。

TECH PLAYER AWARD

『TECH PLAYER AWARD 2020』は、実現したい世界のためにテクノロジーを駆使し、新たな価値を創り出す挑戦者(テックプレイヤー)の中から、この一年で最も活躍、またはチャレンジした企業・団体や人物を表彰するアワードです。

TECH PLAYER AWARD 2020

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