若手社長デザイナー、シニアデザイナーたちが語り合う!──デザインを越境せよ - CXO Night #3

イベント 公開日:
ブックマーク

デザインを越境せよ

最後のセッションは、Takram 代表 田川欣哉氏、 IDEO Tokyo田仲薫氏、THE GUILD 代表の深津貴之氏によるパネルディスカッション。モデレーターはmilieu編集長、塩谷舞氏が務めました。

モデレーター:milieu編集長
塩谷 舞氏
milieu編集長。東京とニューヨークの二拠点生活中。1988年大阪・千里生まれ。京都市立芸術大学 美術学部 総合芸術学科卒業。大学時代にアートマガジンSHAKE ART!を創刊、展覧会のキュレーションやメディア運営を行う。2012年CINRA入社、Webディレクター・PRを経て2015年からフリーランス。執筆・司会業などを行う。THE BAKE MAGAZINE編集長、DemoDay.Tokyoオーガナイザーなども兼任。
piece of cake CXO / THE GUILD 代表
深津 貴之氏
インタラクション・デザイナー。株式会社thaを経て、Flashコミュニティで活躍。2009年の独立以降は活動の中心をスマートフォンアプリのUI設計に移し、株式会社Art&Mobile、クリエイティブユニットTHE GUILDを設立。日経新聞電子版アプリの基礎設計のコンサルティングや、メディアプラットフォームnoteを運営するピースオブケイクCXOなどを務める。執筆、講演などでも勢力的に活動。
IDEO Tokyo デザイン・ディレクター
田仲 薫氏
専門はUX、ブランディング、マーケティング、デザイン・リサーチ、サービス・デザインなど。IDEOではサンフランシスコのFood Studioにも勤務し食周りのデザインに従事するくらい料理好き。
Takram 代表
田川 欣哉氏
Takram 代表 / デザインエンジニア / ロイヤル・カレッジ・オブ・アート 客員教授 / デザイン・テクノロジー・ビジネスを駆使するデザイン・イノベーションと呼ばれる仕事をしています。テーマは、UI・UX、プロダクト、インタラクション、ビッグデータ、IoT、宇宙、ブランディングなど。

デザインの越境とは何の境界を越えようとしているのか

塩谷:第一部はスタートアップ経営者であり、クリエイターでもある若手お二人のトークでしたが、皆さんはクリエイターから経営者になっています。経営者がクリエイターの話を聞いてくれず、どんどんデザインがダメになるという話をブログなどでよく見るんですが、経営者側がデザイナーに対して、愚痴を言う場面はあまり見かけません。深津さん、実際はどんなかんじなんでしょう?

深津:デザインがビジネスを押し上げる逆の例で、ビジネスがクリエイティブに食い殺される事例もあると思います。本来はビジネスを成功させるためのツールとしてデザイナーが呼ばれているはずなのに、「俺はこれが作りたい」といった謎のクリエイティビティよって生まれた、事業が犠牲になるような美しいデザインに対して、「それはデザインとして機能しているのか」と考えています。

塩谷:デザイナー系のイベントでは「経営者はもっとデザインをわかってくれよ」というところから議論が始まりますが、深津さんは「デザイナーはもっと経営面も考えようよ」と、真逆ですよね。

深津:そうですね。コミュニケーションデザインを仕事にしていながら、コミュニケーションに失敗しているということなので、デザイナー側からインセンティブ設計をちゃんとやらなくてはいけないと思います。

塩谷:今回のセッションは「デザインを越境せよ」というテーマですが、具体的には何を超えればいいのでしょうか。先ほどのデザイナーも経営視点を持つべきという話もそうだと思いますが。

田川:デザイナーは企業の中で何をする人かというと、ユーザーに対して責任を持つ人なんですよね。ユーザーが楽しんだり体験することを、ユーザーのように感じて、プロダクトのクオリティを作っていく人。だから、デザイナーは会社の中のあらゆる境界を飛び越えて、最終的にユーザーに渡してあげるのが役割だと思います。デザインは越境をするためのメソッドというかマインドセットみたいなもので、企業にとっても超大事なことだと考えています。

塩谷:デザイナーに任される範囲が最初から大きくないと、越境しようがないかもしれませんね。

田川:そもそもデザイナーの役割が「デザインを綺麗にする」という定義が間違っているんだと思います。

深津:デザインをデザイナーが越境するのではなくて、越境している人がデザイナーと呼ばれる構造が本来的には正しいと思います。

本来的には定義されていない問題をフレームとして可視化するか、あるいは定義されている問題の解答とか解決するための仕組みを設計すること全体がデザインであるはずなんです。それがスタイリング寄りの部分にデザイナーが閉じ込められているのが、日本の現状だと思っています。

塩谷:世の中的にPhotoshopとIllustratorができればデザイナーという認識がある中で、今のお話はかなり上位概念のような気がします。お三方が経営側の立場にいるのは、もともとそういう思想を実現させたかったからなんでしょうか?

田仲:以前は、解決したい課題があったときって、決まったプロダクトや建築、媒体に対してデザインを解決の手段としてとっていたんですよね。それが今は課題を特定しづらいし、ユーザー体験というあまりにも大きいところに対して、デザインというスタンスをとらざるをえなくなってきた。求められるスキルセットとして、デザインというスタンスが合っていたんじゃないかと思います。

「デザイン経営」宣言で重要なこと

塩谷:それはなかなか学校で学べることではないと思うのですが、先日発表された「デザイン経営」宣言ともからんでくるのでしょうか。

田川:「デザイン経営」宣言は二つ重要なことがあります。一つは皆さんが経営者にこれからの経営にデザインが重要な要素になることや、CXOやCOOといった役職を入れたほうがいいと提案したときに、経営者に対してエビデンスを示せる武器になるということです。

二つ目は、狭義のデザインや広義のデザイン、Big DとSmall dといったデザインの分類学をリセットして、まったく新しい分類にシフトすべきであること。形をきれいにすることは、今は必要ないという人もいますが、色形はとても大切です。経営やUXの話と色形は別だと思っているが多いようですが、ユーザーの生活を高めるためにはどちらも必要なんですね。

イノベーションとブランドがorではなく、Andでデザインと組み合わさることで、企業の競争力の向上につながると考えています。デザイン経営の重要なポイントは、まず必要条件の一つとして、経営陣にデザイナーがいること。二つ目はモノをつくるプロセスの最上流にデザイナーが関与することですね。

経営者を説得するために必要なこととは?

塩谷:深津さんはまさにその立場を、最先端で体現していますが、経営者と論争になったときはどう説得してますか?

深津:やはり数字でコミットしていますね。相手の言葉で話したり、相手の価値観で伝わるようにするには、ビジネスの言葉でデザインの価値を伝えることが前提条件となります。それを数字で証明しつつ、いいものを作ることが大事で、数字にコミットせずにモノやプロダクトの価値だけアピールしても、説得力もないし、採用してもらえません。

田仲:まず、デザインを取り入れた時のKPIを持つことと、そこにコミットしていくということが大事ですね。デザインが組織にどう変化をもたらすか不安な経営者が多いので、僕らは自分たちでアセスメントツールを作ったんです。クリエイティビティがうまく組織に運用できているクライアントを分析して、組織の現状が分析できたり、自分たちの強みや弱みが見えてくるツールが必要だと考えたんですね。

田川:深津さんのnoteでの仕事が参考になります。プロダクトチームのクリエイティブディレクターとCXOの役割は別なんですよね。

深津:僕はnoteのビジュアルやトーン&マナーにはほぼ口出しをせずにお任せしています。どちらかというとデザイナーたちがやろうとしていることが、大人の事情でねじ曲がったりしないようにしたり、それがフルで発揮できるように、その大事さを社長に届くようにラインを作ったりしています。

どうすれば数字を出しながら、よいものを作っていけるかを考えて、ここはたしかにいいんだけど、成長にはドライブしないからあとに回して、余裕のあるときにやろうという話を彼らとしたりします。自分たちの満足だけで終わらないように、デザインの綺麗さと効果は切り分けて考えています。

田川:noteのチームって、デザイナー2~3人くらいなのに、それでもクリエイティブディレクターとCXOの役割を切り分けることで、結構面白いことが起きるんですよね。プロダクトはサイクルが早いから、24時間やってないとダメだけど、長中期のデザイン戦略を作って運用する人なので、CDが増えたときに横串しでどう進めていくとか、採用やデザインのガイドラインを作るとか人数が多くなってきても問題ないようにしていく。

優秀なデザイナーがファウンダーで入っているスタートアップのプロダクトって、最初は伸びるんですけど、スケールして2年くらい経つと急にデザインがダサくなることがあるんです。それはその優秀なデザイナーがCXO的な役割をしていなくて、PMの役割しかできてないからというマネジメントの問題なんです。

田仲:あとはマネジメントするということにとらわれすぎてしまって、ビジョンを提示でききなくなっているような気がします。経営のマインドセットを持って、マネジメントよりリーディングにシフトしていかなくてはいけないんじゃないかと。

田川:デザイナーだけでなく、エンジニアもそうなんですね。スタートアップで数人しかメンバーがいないときはプロダクトフォーカスなので、クオリティを保ちやすいんですけど、人数が増えてくると崩れてくる。経営者も最初はプロダクトを愛しているんだけど、だんだん経営やファイナンス、組織のことで頭がいっぱいになってきて、プロダクトにフォーカスできなくなってくる。そういうときにCXO的な役割の人がいないと、ガタガタになる。ユーザーに愛されないプロダクトになってしまうんです。

サービスへの帰属意識をどうコントロールすべきか

塩谷:サービスが成長してきた頃に、自分より優秀な人で給料も高い人が入ってくることってありますよね。その場合、自分がサービスを育ててきたというプライドは引導を渡していくべきなんでしょうか。

田川:会社のネイチャーにもよりますが、デザイナーがプロダクトを掴みすぎると品質が途中から落ちるんですよ。自分ごと化が低いと、プロダクトのクオリティも低くなるんですね。自分ごと化ができると上がるんですが、強すぎるとまた下がるという逆スマイルカーブのようなものがあって、デザイナーがこれを自覚できないとグロースを阻害しちゃうんですよね。

Takramはアタッチメントとデタッチメントという手法を持っています。アタッチメントは自分のものじゃないものを自分のものにすることで、デタッチメントは自分がつかんで持っているものを放すことなんですが、これは作法です。

深津:最終的に自分とプロダクトがイコールになるというのは、かなり危険な兆候ですね。

田仲:デザイン自体が複雑になってくると、一人で全部できると思い込んじゃうんですがそれは間違いなんですよね。CXO的な立場になる人は今何を求められていて、何ができるのか、自分自身を冷静に見つめられる能力が必要なんじゃないかと。さらに、冷静に弱みも強みも含めて、何でも言い合えるチームの土壌が必要だと思います。立場だけのCXOをつくってしまうのは間違いなんですよね。

深津:僕が工夫していることとしては、サービスへの帰属意識をできるだけ分散させるように注意しています。プロダクトを「これは誰々の作品です」というかたちにはしないようにしていて、自分が「noteを育てた」と思える人をチームにどれだけ増やせるかだと。それがエンジニアやデザイナーだけではなく、編集部や読者、書いているクリエイターたちがみんな「noteは俺が育てた」と言えるようにしていきたいと思っています。

田川:CXOやマネージャークラスがやらなくてはいけないのは、「IとWeの領域をチームの中で定義する」ことなんですよね。僕たちも、それが個人単体がやるクリエイティブなのか、複数でやるクリエイティブなのか、きっちり話をするようにしています。

デザインしたい人は自己表現をしたい人が多いので、全部Weにしてマニュアルのようにしてしまうとモチベーションが出ないんですよね。「俺ここで何やってんだろ…」と思っちゃうといい仕事はできない。個人に固着しすぎずに共通のガイドライン、ビジョン、ミッション、コアバリューに所属意識を持ちながら、いかに個人のクリエイティビティを発揮させて「これは自分がやった」という誇りが持てる形にするのかが、CXOやマネージャークラスの腕の見せどころです。

エンジニアリングとビジネスはモジュール化しやすいので、分解や統合がしやすいんですが、デザインはそれが難しいからアタッチメントが起こってしまうんですね。それがユーザーがいるときはいいんですが、起こりすぎたりスケールアウトしていくときには阻害になる。だからみんなエンジニアリングのような分解型の組織運営でやろうとするんですが、つまらないものしかできなくなっちゃうんです。

デザイン経営と向き合うためにはどうしたらいい?

塩谷:最後に経営に向き合えるクリエイターになるには、どうしたらいいかお聞かせください。

深津:小さくても雑でもいいので、プロダクトを一人で丸ごと全部作ってみることですね。自分で作って売るという経験をすると、デザイン、設計、マーケティング、リサーチ全部を経験できるし、資金繰りや回収の苦労がわかるので。

塩谷:すごくわかります!私も自分で「milieu」というWebメディアを立ち上げて、それまでリアリティを持ててなかった、ローディングが1秒長くなることでどれだけ人が離脱して、広告主にとってそれがマイナスになるのかなどを考えるようになりました。

田仲:デザイナーは主張することに慣れているんですけど、逆に受け入れることも役立つんじゃないかと。経営者は向き合って話をするときに、悩みがなんなのかや答えを言ってたりするので、聞き役に徹して彼らの本音や悩みを聞き出せたときにこれまで培ってきたスキルが活かせると思います。

塩谷:社長って、意外と話相手を欲してますよね。フィードバックも自分が作ったものを世に出す前に、最初に伝えた人が反応がないと不安になるというか、楽しくないというか。コルクの佐渡島さんが唯一めちゃくちゃ怒るときが、編集者が作家から上がってきた原稿を次の日まで見ないことなんです。最初の読者なんだから、とにかく1秒でも早く見てリアクションしろと。それはサービスをローンチするまで不安でしょうがない経営者も同じですよね。褒めるなり、けなすなりしてあげた方が信頼が高まると思います。

田川:CXOになるには、まず「CXOになる!」と決めてしまうことが重要ですね。CXOが全員に向いている職業かはわかりませんが、CXOが自分に向いてると思う人は目標を立てて頑張ることが大切です。

先ほどの話にも出ましたが、CXOはデザイナーの採用や育成、組織化や数字の話、ユーザーと向き合うところまで直結させる役割なので、組織設計とか数字の情報などについても本をたくさん読んで知識を身につけ、武器として装備したほうがいいと思います。

あとは経営者は忙しいので、経営者が聞きやすい説明手法をいくつか持っておくといいですね。例えば、エレベーターピッチみたいな。CXOに求められるのは構造化能力で、シンプルにまとめて話せることや、わかりやすくストーリーで2~3センテンスで伝える技術を持つ必要があります。CMOやCTOデザインの重要性を訴えていく説明スキルやコミュニケーション術は必要だと思います。

今回のCXO Night Meetupでは、デザイナーの枠を超えて領域を超えて活躍する方々の貴重な体験談が聞くことができました。これからもCXO Nightでは、スタートアップで奮闘するデザイナーを集めて、マネジメントの課題や実用的なノウハウを共有していきますので、興味のある方はこちらをチェックしてくださいね。


取材レポート:宮みゆき

1 2
TECH PLAYでは、ITに関わる様々なイベント・勉強会・講演会・交流会・カンファレンス・セミナーなどの情報を集約し掲載しています。

テクノロジーと共に成長しよう、
活躍しよう。

TECH PLAYに登録すると、
スキルアップやキャリアアップのための
情報がもっと簡単に見つけられます。

面白そうなイベントを見つけたら
積極的に参加してみましょう。
ログインはこちら

タグからイベントをさがす