メルカリが「AI領域に最注力し、テックカンパニーとして世界を目指す」と宣言

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メルカリが「AI領域に最注力し、テックカンパニーとして世界を目指す」と宣言

3月28日、メルカリは報道関係者向けにAI技術説明会を開催した。取締役CPO(Chief Product Officer)の濱田優貴氏は「テックカンパニーとして世界を目指す」と力強く宣言。その最注力領域としてあげたのがAIである。メルカリでのAI活用はどのように進んでいるのか。すでにAI活用により実現したサービスなどが紹介されるとともに、さらなるAI活用に欠かせない人材像についても言及された。その概要を紹介する。

日本のAI開発は遅れている!?

最初に登壇したのは取締役CPOの濱田氏。濱田氏はメルカリのミッションは「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創ること」と話す。

そのための成長戦略は2つ。米国での成功とメルペイを通じてメルカリエコシステムを構築し、お金の流動性のイノベーションを起こすことだという。そのためにも欠かせないのがテクノロジーだ。同社はメルカリというサービス面が注目されるが、あくまでもテックカンパニー。AIに最注力し、世界を目指していくという。

世界のAI企業数は米国が42%と大多数を占めており、その次に多いのが中国だ。現在、中国勢によるAI出願が急激に成長しており、累積出願数では米国を上回っているという。「AIのトレンドを中国がけん引していると考えている」と濱田氏。

その代表例として濱田氏が紹介したのが、ショート音楽動画ソーシャルアプリ「TikTok」である。TikTokではユーザーの好みにあったコンテンツを米国での月間ダウンロード数ではFacebookやInstagram超えを果たしている。

「レコメンドのシステムでよく問題になるコールドスタート問題を最初の5タップ目で解決し、そのユーザーに合ったコンテンツをどんどん見せていくことができる。躍進のカギはAIにあると聞いている」と、TikTokが急成長している理由を話す。

TikTokを開発したByteDanceだけではない。顔認証技術の分野でもSenseTime、YITU、Face++は非常に質の高いアプリを開発、Bioclooは自然言語処理技術を生かして、コールセンタを自動化するようなアプリケーションを開発している。

「AIと話すのだが、まるで裏側に人がいるのではと思えるぐらいナチュラルな返答が返ってくるのに驚いた」(濱田氏)

さらに濱田氏はアリババが昨年12月にオープンさせたホテルを紹介。そこではルームサービスを運ぶ配送ロボットやライトやエアコンなど、室内設備を口頭で指示すれば操作できるAIスピーカーなどあらゆるところにAIが活用されていたという。「実際に実装されている例を見て、危機感を覚えた」と濱田氏。

AI先進国米国を代表企業とも言えるGoogleでは、マーケティング観点においては、AI利用してどうやって安くカスタマーを獲得するか、どうやってLTVを最大化するかというところにフォーカスしているという。現在、米国や中国と比較すると、日本にはAI企業はまだ多くないが、米国、中国がけん引するAI時代に追いつこうと企業だけではなく、政府も本腰を入れ始めている。

ではメルカリはAI時代に追いつくべく、どのような取り組みをしているのか。現在、メルカリがAIで実現していることは次の2つ。AIでプロダクトの差別化とAIの民主化(バックエンドのエンジニア、非エンジニアの人たちもAIの知識を身につけること)だ。

メルカリがAIとテクノロジーで目指す世界は、「売ることを空気にすること」。つまりメルカリは質の良い大量のデータを駆使し、出品してから売れるまでをAIで最適化する「Selling AI」にフォーカスして進めていくという。

「インターネットが登場する前、街に出て行かなければモノを飼うことはできなかった。しかし、アマゾンや楽天が出てワンクリックでモノが買えるようになった。私たち、メルカリは売ることにこだわり、徹底的に簡単にしていきたい」(濱田氏)

濱田氏はこう意気込みを語り、メルカリのAIへの取り組みをさらに詳しく説明すべく、エンジニアリングディレクターの木村俊也氏にバトンタッチした。

大規模なデータセットと卓越したAI人材が強み

木村氏はメルカリのAIの強みは、「大規模なデータセットと卓越したAI人材にある」と語る。メルカリには数十億を超える出品情報や購買情報があるという。濱田氏が話からもわかるように、AI活用には大規模なデータセットは不可欠である。それをメルカリは自前で用意できるのだ。

またメルカリでは現在、データ収集やモデル作成をするMLエンジニアが約20人、予測サーバ作成やモデル運用を担当するSysML(Systems Modeling Language)やMLOps(Machine Learning Operatons)が約10人在籍しているが、さらに拡充していくという。

「4月には新卒が10人入るため、AI人材は約40人となる。さらに10月にはグローバルなAI人材が20人入社する」(木村氏)

メルカリでは2017年より、AIを活用したサービスを提供している。 「簡単な売買を支援するAIと安心な売買を提供するためのAIという2つの軸を設け、サービスへのAI活用を進めている」と木村氏は説明する。

例えばAI出品は簡単な売買を支援するためのAIの代表例だ。出品画像を認識し、リアルタイムに商品のタイトルやブランド名がはいるというものだ。米国限定だが、AI商品サイズ推定という重量を推定し配送料を提案するサービスも実現している。「配送時の入力の手間を省くだけではなく、配送に関するトラブルを防いでくれる機能だ」と、木村氏は語る。

安心な売買を提供するためのAI活用の例として、規約違反検知、年齢確認商品検知、お問い合わせ自動分類(大量のあるお問い合わせ)などがある。

濱田氏も語ったように、メルカリが今後注力して取り組んでいくのは「売ることを空気にすること」。そのために、AIで出品を極限まで簡単にしていくことが求められる。 「出品はまだまだ簡単にできる」と、木村氏。

写真やバーコード(バーコード出品は商品を撮影して、状態を選び、出品ボタンを押すだけで出品を可能にしていくという。そしていずれは「画像認識や物体認識の技術を活用して、売りたいと思うモノにスマートフォンをかざすだけで出品できる世界にしていきたい」と木村氏は意気込みを語る。

簡単出品が実現しても、購入がスムーズに行われなければ、ユーザーに使われないサービスになってしまう。そこでAIを活用することでより簡単に欲しい商品が見つけられるような仕組みも開発。それが写真検索機能だ。

「欲しいものの名前がわからなくても、その写真を撮って検索ボタンを押せば、AIが商品を見つけてくれる」(木村氏)

複数の商品が写っている写真でも検索は可能だが、今はその中の単品しか認知できない。しかし「将来的にはマルチで認識できるようにしていきたい」と木村氏。

メルカリがもう一つの注力しているのが、AIの民主化である。学習モデルを人ではなくAIが作ること、つまりAI開発の自動化が実現できれば、AIの専門家でなくてもAI活用が進む。そのような世界観を目指していく。そして将来的には、それを実現する機械学習プラットフォーム「Lykeion」の公開も予定しているという。

AI出品、写真検索のテクノロジー解説

最後に登壇したのはAIエンジニアリングのエンジニアリングマネージャーを務める山口拓真氏だ。山口氏は木村氏が紹介したAI出品と写真検索を実現するためのテクノロジーについて解説を行った。

AI出品は画像認識技術と機械学習技術により、商品名や商品カテゴリー、ブランド(本やCD、DVDについては商品説明や価格も)自動入力するサービスだ。木村氏も説明したように、究極的には「写真を撮影するだけ」で出品完了を目指している。

「AI出品のテクノロジーは当初、商品カテゴリーとブランドを認識できるよう、メルカリの商品画像を学習したディープラーニングモデルを用いていた」と山口氏は説明する。

しかしこれには弱点があった。それは商品カテゴリーやブランドの増減や再編成の度に再学習が必要になり、時間とコストがかかることだ。「サービス運営のボトルネックになる」と考え、ディープラーニングの結果の使用をやめることを決定。現在のAI出品は学習された商品カテゴリーとブランドを認識する知識だけを使う、転移学習、知識転移を使って実現している。

AI出品を実現するための準備は次の通り。約5000万枚の画像をそれぞれディープラーニングにかけ、商品画像の数値表現の集合にする(似たものが似たところに集まるような表現)。これで準備は完了だ。

実際のAI出品のテクノロジーは次のようになる。

ここで学んだことがあるという。「常に最高精度のディープラーニング手法を使えばいいわけではなく、サービス運用面での柔軟性やシステム運用のしやすさへの考慮が重要になる」と山口氏は指摘する。その典型例が類似商品群の中から情報を要約する技術としてk-近傍法を採用したことだ。この手法を採用したことで、ディープラーニングの欠点がカバーできたという。

一方の写真検索とは、画像認識技術・機械学習技術により、検索ワードがわからないものでも写真さえあれば商品が見つかるというサービスだ。「AI出品と非常によく似た方法で実現している」と山口氏。

検索対象が広範に及ぶため、5000万枚を超える量の画像を使い、常にアップデートし、最新の状態を保つことを行っている。写真検索では、商品カテゴリー、ブランド、柄まで認識できるようなディープラーニングモデルを作成。入力よりの層では色や柄など視覚的特徴を、出力寄りの層では意味的な特長を捉える数値表現にすることで、より良い検索結果が得られるという。

現在、スマートフォン側でディープラーニングを実行できるような「エッジコンピューティングを検討している。技術的には実現はできるが、ユーザーが使いやすいよう、いかに通信、処理不可を低減できるかがこれからの課題」と山口氏。

とはいえ、写真検索の開発はそう容易いものではない。「多様な商品がさまざまな撮られ方をしているため」とその理由を語る。「メルカリではAI出品や写真検索だけではなく、さまざまな形でAIを活用している。より安心・安全で、便利なサービス提供をAIによって実現したい」(山口氏)

AI活用を考えられる人材が求められる

AI技術説明会で、いかにメルカリがAIに注力しているかが明らかになった。ではどんなスキルを持った人材であれ、メルカリでAI開発に携われるのか。木村氏は「今いるメンバーの大半はコンピュータサイエンスで機械学習を専攻していた人たち。その他、物理学や数学出身者もいます」と言う。

だが、メルカリで必要なのは、アルゴリズムやモデルなどAIそのものを開発するAI技術者だけではない。

「AIの民主化を目指すため、これからはこういう活用をするために、どうしたらそういうデータを取得できるのかということを考える人が必要になってくる。そういう人材はエンジニアとは限りません。AIを正しく理解し、先のようなことを考えられる知恵のある人が社内に増えれば、AIの民主化が加速する。そういう人材に来てもらいたいですね」と濱田氏は語る。

AIの開発をしたいという人はもちろん、AIを活用してサービスを進化させたいという思考のある人にとって、メルカリは非常に魅力的な会社であることは間違いなさそうだ。

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