【前編】ユーザーに愛されるプロダクトとは──medibaが「TECH PLAY Academy」プロダクトマネジャー研修で及川卓也氏から学んだこと
プロダクトマネジャーという仕事を再定義するために
KDDIの「auスマートパス」は、1500万人以上の有料会員数を誇るスマートフォン向けサービス。50GBのデータ保存やウイルス感染防止、さらに飲食店やコンビニのクーポン、映画鑑賞券の割引など多彩なサービスが受けられる。この「auスマートパス」の企画・開発・運営など幅広い分野でサービスを展開するのが株式会社mediba(メディーバ)だ。
「もともとは、2000年にauのフィーチャーフォン向けの広告事業会社として誕生しましたが、スマホシフトが進む中で、広くインターネットサービスを開発・運営する企業へと変化してきました。
2018年以降はKDDIグループ全体のサービスを作るものづくりの会社として自らを位置付けています。こうした事業内容の変化に伴い、組織・人事の見直しを進めていて、プロダクトマネジャーを2019年10月から正式な役割として創設しました」
と語るのは、medibaの執行役員/CXO(チーフ・エクスペリエンス・オフィサー)岡昌樹氏だ。同社では、2019年以前にもプロダクトマネジャー的な役割を果たす人はいたが、部署の長がそれを兼ねるケースが多かった。
株式会社mediba 執行役員/CXO 岡 昌樹氏
モバイルコンテンツプロバイダーのエンジニアとして数々のフィーチャーフォン向け公式サイトの立ち上げ後、2008年 Yahoo! JAPANに入社。Yahoo! JAPANトップページのアプリ責任者や全社のモバイル戦略などを担当。2016年にKDDI株式会社バリュー事業本部担当部長として入社、UX戦略を担当。2018年にmedibaのCXO(Chief eXperience Officer)に就任し、「auスマートパス」を始めとするさまざまなメディアやコンテンツのUI/UXを統括。
「medibaはKDDIグループの中で事業ドメインを超えて、ユーザーの顧客体験を創り出す会社。それだけにサービス開発の現場ではユーザーニーズの変化を迅速に可視化し、課題化する必要がありました。
ユーザーニーズは複雑化する一方で、デザインや技術への要求も高度化しています。プロダクト全体を見るプロダクトマネジャーには、ビジネスとテクノロジー、クリエイティブの3つの要素を兼ね備え、ものづくりやサービスを牽引する力が求められています」
これまでのように、部長が企画全般を見て、メンバーに仕事を割り振るという固定した体制や組織では、市場の変化に十分追いついていけない。プロダクトマネジャーは“ミニCEO”とも呼ばれるぐらい重要な職責だが、逆に新卒社員でも資質さえあれば、プロダクトマネジャーを担当してもよいというぐらい抜擢人事も時には必要だ。
そのためには、「プロダクトマネジャーは何をする仕事なのか」という職務定義が不可欠であるし、どういうスキルセットが必要なのかも明確にしておく必要がある。プロダクトマネジャーの役割について社員全体が知識を共有すべきなのだ。
岡氏自身がKDDIグループの中で、プロダクトマネジャーを勤めた経験は豊富だが、「何をどこまでやっていいのか」いつも暗中模索で悩むことが多かった。
「プロダクトマネジャーは責任と権限が大きな反面、孤独な職務。どうしたらプロダクトマネジャーになれるのかを解説した教科書はほとんど存在しない。プロダクトマネジャーの重要性を体系立って教えられる人が少ないことが現状だと思います」
そんな時に出会ったのが、TECH PLAY Academyがオーダーメイド研修の一環として、2019年10月からスタートさせた「プロダクトマネジャー講座」だった。講師は及川卓也氏。なによりその講師の及川氏に惹かれた。
「及川さんがIT業界で発信する情報はいつも貴重です。MicrosoftやGoogleでの経験から、プロダクトマネジャーの重要性を最も深く理解している人だと思っていました。プロダクトマネジャーについて及川さんが講演するというので、一度セミナーに応募したことがあったんですが、抽選に外れてしまいました。今回の研修ではその及川さんを前後2回、都合3日間にわたって“独占”できる。これは魅力的でした」
研修参加には、岡氏自身が、これまで暗黙知として持っていたプロダクトマネジャーのスキルを棚卸しし、顕在化して組織知に変えていくという狙いもある。
新しい役職としてプロダクトマネジャーに就任した10人やクリエイティブと技術の戦略を担う担当者、さらには取締役や本部長クラスの人材にも声をかけ、総勢22名でこの研修を受けることを決めたのだった。そこには、最も若手で入社4年目の社員も含まれていた。
及川氏からの問い──プロダクトマネジャーとは何か?
10月中旬、「プロダクトマネジャー研修」の第1日目。及川氏は、「ユーザーに愛されるプロダクトマネジャーの極意」から話を始めた。
IT企業におけるプロダクトとは何か。プロダクトマネジャーとは何か。プロダクトマネジャーとエンジニアの役割分担はどうあるべきか。プロジェクトマネジャーとはどう違うのか。なぜ今、プロダクトマネジメントが重要視されるようになったのか──。
次々と問いを発しながら、メンバーに考えさせる講義が始まった。
そこでは、企画、設計、実装時・リリース時・その後にわたるプロダクト判断など、プロダクトマネジャーが果たすべき典型的なタスクを俯瞰しながら、限られたリソースの中で、何をするべきか、何をしてはならないかを決めることが重要だという指摘があった。
及川氏の講義は、「製品要求仕様書(PRD)」「One Pager」「リーンキャンバス」「インセプションデッキ」といった最新のイノベーション開発手法にも触れる広汎なもの。しかしそれらは単に手法の紹介に止まるものではなく、世界のテクノロジージャイアンツで培った自らの経験を踏まえた具体的なものだった。
講師の目の前の席に陣取り、熱心にメモを取りながら、最もよく質問を発していたのはもちろん岡氏だった。
「プロダクトマネジャーが関わるビジネス、テクノロジー、クリエイティブという3つの領域を、及川さんは”BTCトライアングル”という図解で説明してくれたのですが、それが新鮮でした。プロダクトマネジャーの役割は組織規模やメンバーの構成によっても異なります。そのあたりを、及川さんはGoogleやMicrosoftでの経験を例に話してくれたので、とても理解しやすかったですね」
▲及川氏の講義で説明された、ビジネス、テクノロジー、クリエイティブ領域を説明する”BTCトライアングル”の図解
「プロダクト愛」を感じさせる及川氏の熱烈講義
1日目の後半では、medibaの現状に合わせて、自分がBTCトライアングルの中でどういう立ち位置にあるのかを、それぞれが考え、ディスカッションするワークショップも行われた。
「私自身はユーザーエクスペリエンスを専門にしていますが、もともとはプロダクトマネジメント畑を歩んできました。及川さんの話を聞き、みんなと議論しながらそうなんだよなあ、そこが課題なんだよなと頷くことが多かった。あらためて、及川さんの“プロダクト愛”を感じたし、その“愛”は自分自身の中にもあるということに気づきました」
2日目のセッションは、初日の内容を踏まえ、プロダクトマネジャーによるOKRの活用やユーザー理解と競合分析の方法など、より実務に踏み込んだ講義が行われた。プロダクトマネジャーがなぜOKRなどの目標管理を意識する必要があるのか。
それは、組織横断的なチームにおいて、異なる職種の人をまとめて同じ方向に向かわせるには、ビジョンとミッションの共有、そして短期の目標設定が必要だからだ。ここでもメンバーは「自分のプロダクトのOKRを話し合う」というテーマを与えられ、グループに別れて、熱心にディスカッションを行った。
さらに研修では、プロダクトの初期アイデアを考えるためにユーザーインタビューを行うという設定で、グループ内でペアを作り、それぞれインタビューする側とされる側に交互に別れて実際にインタビューを行うというワークショップもあった。
「medibaでは本年度中に全社員で1000人のユーザーにインタビューするという目標を掲げています。その経験があったためか、ユーザーインタビューのペアワークはわりとうまくいきました。今回のワークを通して、さらにスキルが磨かれたと思います」
メンバーのタガを外すのも、プロダクトマネジャーの役割
TECH PLAY Academyの「プロダクトマネジャー研修」を2日間にわたって受けて、岡氏はこんな感想を語っている。
「これまでプロダクトマネジャーといいつつ、プロジェクトマネジャーという狭い枠に止まっていたんじゃないか、という反省が得られました。誰もが、その役割を任されると、自分にできる範囲でタスクを考えがち。しかし、どこかでそのタガを外さないと、ビジネスはスケールしない。当社のサービスを例にとると“au占い”というのがあるのですが、普段はプロダクトマネジャーはWebサービスの改善だけに目が行ってしまう。
ですが、サービス全体の発展を考えれば、Webだけに限定せず、あえてリアルな“占いカフェ”のビジネスに乗り出したって構わないわけです。メンバーの発想を広げる、そのためのタガを外すという役割も、プロダクトマネジャーにはあるんだなと思いました」
今後は、「社内のプロダクトマネジャー同士の横の繋がりを深めること」が課題だ。
「隣のプロジェクトではどんなふうにプロダクトマネジメントを行っているか、これまではよく見えなかった。今後、それぞれの知識を共有して組織知に高めるなかで、mediba流のマネジメントの“型”が生まれてくると思います。
ただ、型にはめることが目標ではない。たえずそのスタイルは変化していくべき。そうしたmedibaらしいプロダクトマネジメントのカルチャーを生み出すための原動力になるような知識やスキルを、今回の研修では体得できたのではないかと思います」
10月の研修で得たノウハウを組織にインプリメントしながら、2020年1月には3回目のセッションが行われる。研修で学んだことを実践に移す上での課題や、プロダクトマネジャーのリーダーシップについて、さらに深い議論が行われるはずだ。
TECH PLAY AcademyのIT研修プログラムはオーダーメイド研修を謳うだけあって、日程やカリキュラム自体を受講企業とともにカスタマイズしながら作り上げていくもの。Day1の成果を踏まえて、Day2、Day3の内容を微修正するなど臨機応変な対応も可能だ。
「3回目が終わったら、講師の及川さんを囲んで打ち上げというか、飲み会をやりたいですね。そこで杯を重ねながら、及川さんの体験を学んでいきたい」と、岡氏は次回に期待をにじませている。
今回の研修を担当した「TECH PLAY Academy」では公開講座を行っており、岡氏が講師を務める講座もある。
これまで数々のサービスを見てきた岡氏だからこそ伝えられる、サービスデザインについて学べる実践講座だ。
■岡氏が講師を務める講座の詳細・予約はこちら
またmedibaではプロダクトマネジャーの採用も行っている。
■詳細はこちら
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