新卒採用社員向けにAI研修を実施――NTTの枠を超えた人材育成の狙い

インタビュー
去る2020年5月19日に、NTT東日本に入社した新入社員向けにAI研修が行われた。総勢45名の受講者に向けて研修の講師を努めたのは、エクサウィザーズ代表取締役社長の石山さんです。2時間超えの長丁場の研修ながら、高評価のフィードバックを得られたこの研修はどういった経緯で実現されたんでしょうか? この記事では、研修を企画したNTT東日本デジタルデザイン部の下條さんと、社長業を努めながら大学で教鞭を執る立場でもある石山さんに事後インタビューを実施。新入社員向けにAIの研修をした意図から、石山さんの人選、講師としての心がけなどを聞いてみました。
新卒採用社員向けにAI研修を実施――NTTの枠を超えた人材育成の狙い

NTT東日本とエクサウィザーズのタッグで実現したAI研修

――まずはお2人の紹介から話を始めたいのですが、下條さんは現在、NTT東日本のデジタルデザイン部に所属されていらっしゃいます。この部署はいつ頃発足して、どういったミッションを設定されているんでしょうか。

下條:デジタルデザイン部は、2019年7月に発足した部署です。NTT東日本と聞くと、電話とインターネットをイメージされる方が多いと思います。間違ってはいないのですが、この2本柱だけですと収益面での拡大が難しいという課題もあります。そこで、3本目の柱としてデジタル領域に打って出ようというのが発足のきっかけです。

部署のミッションは、お客様のニーズに耳を傾けながら技術戦略を立案して、組織横断的に支援をする「デジタル技術部隊」として活動することです。

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下條 裕之 氏
NTT東日本デジタル革新本部デジタルデザイン部担当課長。2006年4月入社後、法人営業部でシステムエンジニアとして従事。2009年より研究開発センタにてスマートホーム分野の研究開発から商用サービス化までを牽引。その後、海外通信キャリアとのスマートホームに関するIoT技術の共同研究や、大手メーカーとのコラボレーションビジネス創出の経験を経て、2019年にデジタルデザイン部の立ち上げプロジェクトに参画。同年7月より現職にてAI/IoTを始めとしたデジタル技術戦略やパートナー戦略、デジタル人財育成などを担当

――具体的にどういった活動をされてますか?

下條:具体的には以下の3つの大きなミッションに大別できます。

1.ビジネス検討:お客様のニーズあるいはデジタル的なシーズ(seeds)から新しいビジネスを創り出す
2.フィールド支援:作り出したビジネスをお客様に実際に使っていただくために現場に出向く
3.デジタル人材の育成:上記の仕事に対応できる人材育成

――ありがとうございます。石山さんは、エクサウィザーズ代表取締役社長として「AIを用いた社会課題解決を通じて、幸せな社会を実現する」をスローガンに活動されてますが、具体的な事例を挙げていただくとしたらどういったものがありますか?

石山:わかりやすい事例で説明させていただくと、日本における社会課題の1つに超高齢化社会があります。この課題には、高齢者の増加と労働人口の減少という2つの側面があります。

高齢者の増加に関しては「介護×AI」のサービス開発をしています。介護をしている様子を送ると、AIが赤ペンを入れてくれるようなイメージです。これによって、世の中の介護レベルが上がることを想定しています。

一方の労働人口の減少ですと、HRテックで生産性を上げる、ロボットの導入・活用、DX推進などが必要になるので、働く人たちがいきいきと仕事ができるようにAIが仕事をサポートするサービスを提供しております。

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石山 洸 氏
エクサウィザーズ代表取締役社長。東京工業大学大学院総合理工学研究科知能システム科学専攻修士課程修了。2006年4月、株式会社リクルートホールディングスに入社。同社のデジタル化を推進した後、新規事業提案制度での提案を契機に新会社を設立。事業を3年で成長フェーズに乗せ、売却した経験を経て、2014年4月にメディアテクノロジーラボ所長に就任。2015年4月にはリクルートのAI研究所であるRecruit Institute of Technologyを設立し、初代所長に就任。2017年3月、デジタルセンセーション株式会社取締役COOに就任。2017年10月の合併を機に、現職就任。静岡大学客員教授、東京大学未来ビジョン研究センター客員准教授

目的はNTTの枠を超える人材育成

――AIはさまざまな分野に利用されていると思いますが、特に好評なジャンルはあったりするんでしょうか。

石山:AIは汎用技術なので多方面に活用できるんですが、うまく活用できているユースケースが(全体のポテンシャルに対して)まだ2%程度しかないというデータがあります。これは技術とビジネスや社会課題が接続されていないことが原因だと考えています。

エンジニアは技術のことだけ、ビジネスサイドの方はビジネス面だけを考えているケースが多く、今後はこの両面を考えながらやっていける人材の育成が重要になってくると思います。

――石山さんが今回講師を務められたAI研修の一部を拝見させていただきましたが、話をされるのが上手だなという感想です。こういったノウハウはどうやって身につけられたんですか?

石山:私はエクサウィザーズの代表取締役社長のほかに、東京大学の准教授と静岡大学の客員教授をしています。ですので、大学生を社会に送り出す側の立場でもあり、社会に出てきた新卒の方を迎える立場でもあるんですね。

今回の研修は新卒採用された方が対象だったため、半分学生・半分社会人を意識して話をするようにしました。研修の進め方ですが、これまで一緒に登壇した方や進行が上手な方がほかにもたくさんいらっしゃるので、使えそうなワザは拝借してます(笑)。

――研修を受講された新卒採用の方々からのフィードバックもかなり好評だったと聞いてますが、現場から何か声を聞かれてますか?

下條:今日も新卒採用の社員2人と話をする機会があったんですが、共通意見として面白かったと言ってもらえました。「石山さんのつかみが特に良かった」と(笑)。

弊社ではほかにも研修はやっていますが、どうしても固い内容や決まった進行になりがちなんです。ですが、石山さんに担当いただいた内容はそうではなかったですね。研修中に石山さんがお持ちのスマートスピーカーが反応してしまうなど、おちゃめなシーンもありましたし(笑)。

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また、NTTグループは十万人単位の大きい組織です。こうなってくると、NTTグループの人たちである程度のことが完結してしまうため、グループ内の人としかか関わらないことにも繋がります。例えば、NTTグループ内にはAIの研究を行っている組織や会社の研究所もあったりするんです。

これはNTTグループの強みでもありますが、一方でグループ外のイノベーティブな人と触れ合って刺激をもらうことで変革が起こることもあると考え、とても重要だと感じました。ですので、新入社員に限らず、弊社の若手向けにも研修をお願いしたいぐらいです。そう思えるくらい手応えのある研修でした。

――石山さんは社長業に加えて、大学でも教鞭を執られている立場でかなりお忙しくされていると思います。そんな中、講演や研修をお引き受けされるのにはなにか思いはあるんでしょうか?

石山:エクサウィザーズの社長という観点では、大勢のオーディエンスを前に登壇するのは会社のブランディングということを考えると大きな意義や合理性があります。

今回のケースで言いますと、NTTグループが本腰を入れてDXに取り組んでいるという事象は社会的に考えても大きなインパクトがありますし、エクサウィザーズとしても社会の課題解決をするというミッションがあるので、今後なにか一緒にできることがあるんじゃないかという思いで研修を引き受けさせていただきました。

もう1つは、TECH PLAY ACADEMY経由でご紹介いただいた際に、「NTT東日本に下條さんという、NTTらしからぬ方がいらっしゃる」という話を聞いたんです。それで興味を持ってお会いしたら、下條さんから「既存のNTTの枠を超える人材を育成したいんです」と言われました。

このひと言に感銘を受けて、「下條さんがリーダーシップを取ってやってくれるんなら本当になにかが変わるかも」とピュアに感じました。これも大きなきっかけです。

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――とはいえ、歴史の長い企業でもあるNTTでは伝統的なやり方やシステムがあると思います。そんな中で「枠を超える」のは簡単ではないように思いますが、実際に最前線に立たれてみていかがですか?

下條:現在、デジタルデザイン部は40名程度の部隊です。NTTグループの中では小さい世帯の部類ですが、小回りが利くことがあり、細かい部分から変えていく方針でやってます。こういった取材も積極的に引き受けて情報発信をすることで、「NTTの中にこんなことやってる人がいるんだ」ということに気づいてもらえるようにしてます。

石山さんの人選は満場一致で翌日にはオファー

――今回、新卒採用の社員向けにAI講座を実施しようと思ったきっかけはなんでしょうか?

下條:NTTグループは離職率の低い会社です。そういう意味では、NTT東日本の社員は自社の文化しか知らない、NTTグループの文化しか知らないということに繋がってしまい、今と変わらない状態が続いてしまう危機感を持ちました。ブレイクスルーのためには、外の知識をたくさん知ってもらいたいという思いもありましたし。

ですが、今年は新型コロナウィルスの影響もあって、研修をお願いできるとしても期間的に考えて1人の方が限界という制約も……。そんな中で、「石山さんにお願いしたい」となったんです。

AI関連企業の方は何名も知っていたのですが、私の中では「石山さん一択」でした。社内のメンバーにも相談したんですが、石山さんがいい! と満場一致でしたし、思い立った翌日には石山さんに研修のオファーをしたぐらいです。

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――それで石山さんの研修が実現したわけですが、研修を受講した新卒採用の方に期待することはどういったものがありますか?

下條:NTTグループは大きい組織なので、大きな会社しか相手にしていないというイメージがあると思います。ですが、NTT東日本のメインターゲットは中小企業や個人事業主なんです。こういった方々は都心よりは地方にいらっしゃることが多いため、「地方活性化のためにデジタル技術を活用する」ことを会社としてやっていきたいんですね。例えば、地域×AIのようなことです。

そういう意味では、弊社内から石山さんのような人が出てきたらうれしいですね。

――石山さんの人選はすぐに決まったという話でしたが、研修内容について事前の打ち合わせではどういったことをされたんですか?

下條:実は、基本的に事前打ち合わせはしてないんです。私は新卒採用でNTT東日本に入社して現在まで就業していることもあって、私から内容をリクエストすることで研修自体が面白くなくなるんじゃないかと思ったんです。

石山さんとは研修の前に一、二度お会いさせて頂く機会があって、「この方にならおまかせして大丈夫!」という信頼があったので、石山さんが話したいことを自由にやってほしいとお伝えしました。

石山:確かに事前の打ち合わせなどはなかったですし、あえていうならネットワークの接続テストが5分程度あっただけですね(笑)。本当に自由にやっていいんだと思いました。

ただ、過去の経験則でいうと、自由に進行させていただいたほうが高評価に繋がることが多いんです。これは、事前に組み立てすぎてしまうと、受講者向けというより発注者向けの内容に寄ってしまうからだと分析しています。

例えば今回の場合ですと、自分が新卒採用の社員だったらどんなAI研修だと興味を持つかという視点を大事にしました。また、研修にはその現場の湿度といいますか、雰囲気があると思うんです。臨機応変にこういったことに対応するには、自由度高くやらせていただくのがいいと思いますね。

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――お2人のタッグで次の機会の研修を企画するとしたら、どういったことに注力したいですか?

下條:さきほども申し上げましたが、NTTの枠を超える人材を育成していきたいので、引き続き石山さんには自由にやっていただきたいです。

石山:私の特徴の1つは、「実務家」だと思ってます。なので、現場で実務をする目線を大事にお伝えできることをやっていきたいです。

写真:大塚まり
取材・文:辻 英之


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