【後編】6社の事例から学ぶ──ユーザー体験を磨き、サービスを支える技術力とは?
2019年12月1日、仙台市が推進する「SENDAI X-TECH Innovation Project」の一つとして、FiNC Technologies、SHOWROOM、Liquid、ティー・アール・イー、スマートニュース、Retty Innovation Labの技術事例勉強会が開催された。
今回は、モデレーターに及川卓也氏を迎え、テクノロジーで業界の未来を変えるサービスを作っている各社サービス開発の技術基盤について語り合っていただいた。 本レポートでは、当日のイベント後半に行われたティー・アール・イー、スマートニュース、Retty Innovation Labの技術事例を紹介する。
リアル店舗をスマート化するリテールAIの取り組み
後半トップに登壇したのは、トライアルグループのティー・アール・イーCEO 古賀輝幸氏。トライアルで行われている、リアル店舗をスマート化するリテールAIの取り組みについて語ってくれた。
トライアルはWalmartというアメリカのスーパーチェーンに学んだ日本型スーパーセンター。Walmartのスーパーセンターというフォーマットを、日本向けにアレンジした。生鮮食品や日用品、家電など、普段の生活に必要なものを一通りそろえている。店舗数は235店舗、年商4400億円。仙台では名取店がある。
▲株式会社ティー・アール・イー CEO 古賀 輝幸氏
高齢化・少子化の影響による人口減少によって、流通市場も縮小し、売上規模もシュリンク、同時に働く人も減っている。一方で小売業の現場では、勘・経験・度胸に頼って運営していることも少なくない。そこでトライアルは、流通・卸に関するムダ・ムラ・ムリを減らし、AIやITを使って流通の現場を変えていきたいと取り組んでいる。
古賀氏はまず、リテールにAIを持ち込むことで、ショッパー・メーカー・小売に対して、以下のような改革をしたいという。
- ショッパー(買い物に来ている人)にはお得と便利を提供する。
- メーカーに対しては、よりターゲティングしたマーケティングとシェア向上の取り組み
- 小売に対しては、売上が上がり、ロスを減らし、ローコストな運営モデル
補充・発注・レジ・生鮮食品の製造でローコスト運営を図る
流通現場で四大コストと言われているのが、補充・発注・レジ・生鮮食品の製造だ。まずレジについては、セルフレジやセミセルフレジを導入。セルフ化によるレジ待ちをなくし、約25%コストダウンさせた。
今後はさらにスキャナー付きのタブレットをつけた移動するセルフレジカートを開発し、さらにコストダウンを図っていく。会員カードでログインし、商品をセルフスキャンしてもらう。最後は決済レーンを通るだけ。レジ待ちがなくなる。買い物袋を予めセットしておけば、袋の詰め替えも不要となる。
発注に関しては需要予測が重要だが、賞味期限が短い生鮮食品などの予測は難しい。高頻度商品の代表であるバナナを始め、牛乳や豆腐、納豆など毎日食べる食品を切らすとお客が減ってしまう。ちゃんと品揃えできるように、機械学習を使いながら、需要の予測モデルを作成して自動発注につなげたところ、昨年割れが続いていた売上が伸び、昨年超えを果たした。
これはお客が増えたのでなく、担当者が需要を下回った発注をしていた(売り切れる量しか発注していなかった)のを適切な発注量にすることで売上が上がった。価格変動の多い卵についても、売価を機械学習で実際の売数と合わせてモデル化したところ機会ロスが減り売上が向上した。データで分析していけば、数字の改善が大きくできることがわかったと、古賀氏は語る。
需要予測はPOSのデータで予測するので、今日何個売れたのはわかるが、どんな売り場の状況で売れたのかによって大きく違う。欠品状況を把握するのは重要だ。
そこで、カメラを自社開発して、売り場に設置した。マーカーを使ってカメラで何の商品が並んでいるかをデータ化し、売り場の状況を見ながら、本当の需要を捉えていく。
ユーザーの店内行動に合わせたAIによる販促戦略
古賀氏いわく、来店客の7割は売り場に行って商品を見てから、どのブランドの商品を買うか決める「非計画購買」という行動をとることが多いという。店舗の陳列によって、おすすめ商品を買ってもらえる施策が取れるということでもある。
そこで、トライアルでは4つの非計画購買パターンに沿った販促を行っている。
1)想起購買(ex.そういえば●●切れてた、広告で思い出す)
└ 購買履歴からレコメンド
2)関連購買(ex.ビールを買ったからおつまみも買おう)
└ 購入商品と同時購買されている商品をレコメンド
3)条件購買(ex.本日特売だから、ポイントあるから買おう)
└ 特売商品の中からレコメンド
4)衝動購買(ex.店舗のディスプレイを見て、面白そうだから買おう)
└ 店舗内にデジタルサイネージを設置
ベテランの売り場担当者の経験や勘を、売り場にカメラを設置し、人の流れなどを見ながら売場優先順位を自動予測する取り組みも行っている。
技術そのものを目的化しない
このようにトライアルではリテールAIを実現していったが、技術そのものを目的化することもよくあって、AIを使うことが主目的になったりすることもあったと、古賀氏は明かす。
「需要予測のデータを見せて、結構成果が出ていますというと、よく理解していない人からはAIを使ってないからやり直しみたいに言われたりとか。そうじゃないだろうと。成果が出ていればそれでいいじゃないかと。技術があって、それを使うために何かするみたいになりがちだが、そういったところは気をつけながらやっています」(古賀氏)
経営数値の変化にコミットすることも重要だ。
「その仕組みを導入した小売・メーカー、その数値変化がどうかというところが一番気にしなくてはいけないところだと思っている。使われて売上が上がらないとか、経費が下がらないとか、そういったものを提供してもしょうがないので、日々実験を繰り返しながら経営数値の変化にコミットすることを目指しています」(古賀氏)
テクノロジーで世界一のお買い物体験を提供したいと、熱く語る古賀氏。消費者の生活が楽になる未来のお買い物体験が実現できる日も近そうだ。
スマートニュースにおけるサービス規模拡大とバックエンドシステムの変遷
続いて登壇したスマートニュースのエンジニアリングマネジャー真幡康徳氏は、「スマートニュースにおけるサービス規模拡大とバックエンドシステムの変遷」をテーマにセッションを行った。
News Backed Teamでエンジニアリングマネジャー、US-Growth Pillarでソフトウェアエンジニアをしている真幡氏は仙台市若林区出身で、社内では技術勉強会を主催することが多い、と自己紹介。勉強会ではエンジニアが大好きなお寿司を出すことが多いそう。
▲スマートニュース株式会社 エンジニアリングマネジャー 真幡 康徳氏
SmartNewsの構成要素としては、Native Clientがあって、iOS/Androidでサービスを提供。一部HTML5で動いている機能もある。NewsとAdsのインフラはどちらも大部分はAWSで動いている。
SmartNewsの歴史も語られた。共同創業者の浜本氏がプロトタイプを作った創設時を石器時代と表現。当時のサーバーサイドはモノリシックな一枚岩になっていたと紹介した。その後、ニュース記事のクローラー、ニュース記事を分析するアナライザ、ニュース記事を配信するAPIサーバーなどがサービスとして切り出され、システムの保守性が向上した。
真幡氏はアプリやサーバーの改善、データ解析の精度を向上させることで、ユーザーに価値を生み出すことに集中したいと考え、本質的でない仕事を効率よく処理するためにさまざまな取り組みを行ってきた。
「2014年末~2015年初頭にかけて、AWSエンタープライズサポートを契約して現在も続行中。インフラ関連のトラブルシュートは大変で、本当にインフラの問題なのか、アプリケーションの問題なのかなどの切り分けにも苦戦していた。それをAWSの中の人に無限に質問できることは非常に助かっています」(真幡氏)
作らなくてよいものは作らない。AWSの導入に加え、SaaSも積極的に使うことは常に考えているという真幡氏。例えば、モニタリングとアラーティングのために Datadog を活用し、1日4回の定時プッシュ通知が飛ぶタイミングのトラフィックや各種メトリクスを確認している。
最近のSmartNewsはこのようになっている
業務を効率化させるツールを活用することで、本業に集中できるようになったものの、サービス規模の拡大にともないSmartNewsは複雑になってきた。マイクロサービス化により、各サービスの責任範囲が明確になり、組織としてスケールするような構成になってきたと真幡氏は語る。
ただし、完全にマイクロサービス化はしておらず、例えばAPIサーバーを触っているデータベースと、PUSH通知を送るためのネタ元データベースが同じになっていて、ここは完全に責任が分離できていない状態となっておらず「まだチャレンジが残っている状態」と真幡氏は話す。
そもそも組織はどうあると良いのか。真幡氏は「組織の他のメンバーから学ぶことができることが重要」だとし、「様々な専門技術を持っているメンバーの知見を活かし、協調して価値を創り出さなければいけない」と強調する。
「例えばサーバーサイド、クライアントサイド、デザイナーなどの様々な役割を持った人たちが、一つの目標を共有して作ることが重要。もう一つは評価ガチャがないチーム。このチームは目立つことをしているから、給与が上がりやすいみたいなことがないように、地味な仕事をしていても評価されるようにしたい」(真幡氏)
現状のスマートニュースの暫定解は、縦のチームと横のチームを作る「TeamとPillar」で体制をつくること。横のチームはPMやデザイナー、バックエンド、クライアントなどの役割をメインとしたチーム、縦はSquadと呼ばれるミッションドリブンで動いているチームで構成されている。
例えば、タイムセールという機能の開発は、一つのSquadの中で行っている。横のチームがあることで、別のプロダクトの技術などの情報が伝播できる。定期的にミーティングなどを行っている。
「次のステージは、地球規模のスケーラビリティ。グローバル展開に向けて取り組んでいきたい」と真幡氏は未来の話を語り、セッションを終えた。
Rettyにおけるまとめ記事作成AIの取り組み
後半戦、最後に登壇したは、Retty Innovation Labの樽石将人氏。RettyのCTOをやっていたが、転籍してRetty Innovation Labの初代ラボ長を務める。早稲田大学データサイエンス研究所招聘研究員でもある。
現在、オンラインファーストによる働き方改革に取り組んでおり、働いている場所はプライベート変数だと言い、誰よりも早くチャットで返事をすることを実践しているそうだ。
▲Retty Innovation Lab ラボ長 樽石 将人氏
Rettyは「食を通じて世界中の人々をHappyに」をビジョンに、信頼できる人から探す実名制グルメサービス「Retty」を提供している。MAU4,000万と急成長中で、社員約100名の内、エンジニアが30~40名を占めるベンチャーだ。
そのRettyのユーザー数が伸び始めたのは、クチコミを人力でまとめていったまとめ記事がGoogleに評価されたことからだった。例えば、「元商社マンが教える六本木のデートで使えるお店」といった記事が、Google検索などで上位に表示されることで多くの人に読まれたことが要因だったと樽石氏は分析する。
だが、300万UUで伸びが止まってしまう。人力で制作する記事数には限界があると判断。お店を機械的にエリアとジャンルで分類するアプローチで記事数を増やした。MAUは3,000万UUまで伸びたが、また数字が止まった。理由はロングテールで検索されるキーワード記事が少ないからではないかと考えた。
例えば、焼き鳥のお店のページを作る時に、安く食べれる焼き鳥屋もあれば、おしゃれな焼き鳥屋もある。「仙台 焼き鳥 おしゃれ」というページを作ろうとしても、焼き鳥 おしゃれの両方のキーワードに適合した記事をピックアップすることができなかった。
基本的には人力で作った記事が質も良く、評価も高かったが、3000万UUの限界はあるので、これをAIでできないかという発想で作り始めたところ、4,000万UUを突破した。とはいえ、予算が潤沢ではないため、樽石氏が一人で開発・運用する既存のRettyとは独立した形で進めていることになった。
5個のAIを作り、まとめ記事を自動作成
では、どのようなAIでまとめ記事を自動作成するのか。Rettyに投稿したユーザーのクチコミ情報を活用し、以下のような5個のAIを作って記事を作成している。
1.クチコミ分析AI
└ Rettyの強みであるユーザーのクチコミを活用・分析
2.自動キャッチコピーAI
└ クチコミをもとに、お店を説明する見出しを自動生成
3.自動ハッシュタグ
└ ハッシュタグを自動的につけてくれる
4.良い写真AI
└ データベースから写真を発見
5.お店ピックアップ
└ まとめ記事に掲載するお店を導きだしてくれる
Rettyのクチコミの中のコメントでお店を分析し、人力時代にたくさん作ってあったキャッチコピーを教師データに覚えさせ、AIで作れるようにした。さらに、一眼レフ風の写真を見つけ出し、自動ハッシュタグで他の記事を探して共有できるようにしている。ピックアップはよくあるランキングではなく、クチコミの文脈から適合度を判断し、優先的に出すといった具合だ。
Rettyとは別にやると決めたので、AWSのApplication Load Balancer(ALB)を使って、トラフィックを完全に切り分けるように設計。データベースの情報はDocker Imageに同梱し、Retty本体との調整が不要な新機能開発の仕組みを考案し、高速開発を実現する新機能開発基盤を開発した。だが、同じデータを使う必要があるときもあるので、ビルド時にDBを参照できるようにしたという。
「ITサービスを運用していると365日動かし続ける必要がある。特にグルメサービスは忘年会シーズンに障害対応しなければいけないことも多い。そうしたツライ思いをしなくてもいいようなアーキテクチャを作った。技術を使うことを目的にせずに、技術によって、事業課題を解決した。結果が出せたことで社内の雰囲気も変わってきて、技術も使っていこうという感じになった」(樽石氏)
こうして樽石氏が一人で取り組んだまとめ記事AIは、1000万UU記事の開発・運用を実現した。そのまとめ記事のクオリティは驚くほど高いので、気になった人は、ぜひお店検索してみてほしい。(検索例:「仙台 せり鍋 日本酒が美味しい」)
【パネルディスカッション】ユーザー体験を磨き続けるAI・技術力とは
後半のセッション後は、前半と同じく及川卓也氏をモデレータに、パネルディスカッションが行われた。
及川:後半のセッションは、皆さん自身が使われているかは別にして、AI的なものを事業の中で使い、ユーザー体験をつくっていることが共通のテーマだったかなと考えています。その話に行く前に、皆さんに聞きたいと思ったことが数点ありましたので、まずは個別にそこを伺っていきます。
ティー・アール・イーの古賀さん、リアル店舗において、センサーなどのいろいろな顧客体験をつくっていく中で、新規顧客獲得で工夫されてる点はありますか?
古賀:これまでは折込チラシが中心でしたが、あまり効果がなくなってきました。最近はスマホでクーポンを出したり、キャンペーン広告をやったりしています。例えば、一定期間中にお買い物していただいた金額を全部タダみたいなキャンペーンとか。Webやスマホで出しながら、新しく認識して来てもらっています。
及川:いわゆるO2O(Online to Offline)ですね。
スマートニュース真幡さん、SmartNewsは顧客体験をどんどん上げて、最大化していくアプリだと思いますが、バックエンドから見た場合の顧客体験、価値を創造するためにはどういったことをやっているんですか?
真幡:コンポーネントによって責任範囲が違いますが、例えば、APIサーバー側の人たちは記事情報を速く返せることが、ユーザー体験に良い影響を与えると考えています。別なコンポーネント、例えばクローラーであれば、クロール対象が300パブリッシャーから3000パブリッシャーになっても、ちゃんとクロールして検索結果が得られれば、それがユーザー価値になる。
横のチームと縦のチームという話があったと思いますが、縦のミッションドリブンのチームの人たち、例えばタイムセールであるとか無料クーポンなどは、ダイレクトにユーザー向けパーツ機能を作っているので、そういった形で価値を届けています。
及川:そういったパフォーマンス要件は非機能要件としてまとめられた挙句、データベースにひっかかって使いものにならないと炎上することがあります。顧客体験を上げるためにはそうした非機能要件、例えばパフォーマンスやレイテンシーみたいなところできちんと体験を彩るためにはどのくらいやればいいのか、もうしっかりと培われているのでしょうか。
真幡:スマートニュースではOKR(Objectives and Key Results)という目標設定・管理ツールを導入しています。APIサーバーに近い人たちはパフォーマンス、例えば95パーセンタイルのレイテンシーとして許容する値をOKRとしてもっているので、非機能要件も重要であることは会社全体で認識されている状態です。
及川:Rettyの樽石さんは、今回のまとめ記事AI作成以外にも機械学習的なものや、AI以外でもどんどんスケールする仕組みが入っていると思います。Rettyのアプローチとしては、最初は比較的、人力でスタートすることが多かったりするんですか?
樽石:そうですね。基本的にほとんど人力スタートが多いのですが、手段はあまり決めていません。最初に通期経営戦略で2~3年後のKPIを定めて、そこからどうやって達成できるのかで進めています。
及川:経営企画的なことを決める人が技術に疎かった場合、人力で労働集約的に人をどんどん張ってしまうこともあると思いますが、Rettyはどうやって経営と技術のバランスをとっていますか。
樽石:基本的には、まずやれるところまでやってみるというカルチャーが強くて。さらにゴールラインまで人力かテクノロジーかこだわらずにやりきってみて、どこまで数字を伸ばせるのかやってみましょうと。それでだめだったら、次の戦略に切り替えていきます。
ユーザー体験の本質的な価値とは何か?
及川:顧客体験については、CX(カスタマーエクスペリエンス)というキーワードも出てきたりと、注目されています。ただ体験の価値は何かと考えると、実は難しいんじゃないかと思うんですね。
例えば、リアル店舗において購買されたならば、プロモーションしたものに対してちゃんと価値を感じて、購入していただいたと思う半面、本来はそれを食べ物ならば食べてもらい、満足していただいたところで初めて体験が終了すると思います。
スマートニュースであれば、勧められた記事を読んで、その人自身の考えが変わったり、知りたかったことが伝わることかもしれません。Rettyであれば、勧められたお店に行って、本当にその食体験が良かったというところまで、となると思います。
皆さんの顧客体験はどこまでを考えていて、かつ、私が今問題提起させていただいた本質の体験に対して、何か取り組まれているところはありますか?
古賀:今回はあくまでも買い物体験という話し方をしましたが、本来はお店に来ていただくところから、ストレスなく買い物していただける環境を変えていきたい。商品を探さなくても買えるとか、よりお得に買い物できるとか、そういうお買い物体験を目指しているところなんです。
さすがにお客様が食べたかどうかまではわかりませんので、再度その商品を購入しているか や、前回買った同じ商品をリコメンドしたりクーポンを出して、お客様の商品に対する反応はどうかなどの継続性を見たりしています。
及川:スマートニュースの場合、記事を読んでもらったその先までを含めて、というのは結構難しいと思いますが、何か対策していることはありますか?
真幡:記事を読んだ結果、その人の気持ちが変わったかどうかを把握するのは難しいと思いますが、数字に落とせるところは数字にしています。例えば、アプリをインストールしてから直近で一日何回くらい開いているかなど。
あとはチャンネルの記事を表示するときに、ある特定のトピックだけにとどまらないように登録されたチャンネル以外にも、興味を広げるだろうと思われるチャンネルや、おすすめ記事をピックアップしてお知らせする機能が入っています。
及川:それって、今話題の部分ですよね。結果バブルな過学習的なものが入ってしまうと、人は自分の信条に近しいものを読み続けてしまい、どんどん偏見が深まってしまうと。そうした問題があるなかで、そういった対策も実践されているということですね。
以前、アソビューというレジャー施設やアクティビティを検索できるサービスがあったのですが、その検索結果と実際に体験が良かったかどうかで、アソビュー自身の評価が決まってしまうところがあったんですね。Rettyも近しいところがあったりするんじゃないかと。
樽石さんは、Rettyは顧客の体験・食の体験というところでは、どういう取り組みをしていますか?
樽石:まず、Rettyの4000万人ユーザーは大きく二つに分けると、投稿ユーザーと閲覧ユーザーに分けられます。投稿ユーザーの場合は「行きました」「行きたいお店を見つけました」「行きました!よかった!」と、その体験の良さをアイコンで表示できるんですね。トップユーザーさんに限っては、それによって実際の体験についてわかります。
ただ課題はその閲覧ユーザーの方で、情報を見た後どうなったのかは全然わからないんです。アンケートを取ってみると、結構多いのはRettyのまとめ記事で良さそうなお店を見つけたら、他社のクーポンやポイントバックが一番いいところで予約すると(笑)。
初期フェーズは、いろんな人に情報を見てもらうメディアサイトを作ることに注力していましたが、2年前からは情報を見てもらった後に、来店してもらうための機能開発をしています。例えば、Amazonのギフト券が当たる予約キャンペーンの展開したりとか。Rettyを見て来店してもらうために、価値をどんどん提供していこうと取り組んでいます。
ユーザー体験を最大化するための技術選択はどうしてる?
及川:続いては、顧客体験を最中上するために、技術はこだわらないという考え方もありますが、こだわらないと逆に経営リスクになることもあるんじゃないでしょうか。機械学習やディープラーニング、OSSなどを取り入れるときの判断をどうしているのか、技術を使った方がいい部分に対する、目利きみたいなことはどうされているのか聞きたいです。
古賀:ケースバイケースで新しいテクノロジーを使った方がいい場合と、枯れた技術を使った方がいい場合がありますが、実店舗で検証した結果の精度で判断しています。
及川:OSSなど、使う技術のリスク判断は、どうされているんでしょうか。
真幡:まずItamaeが悪いということはないですね。ただ、Itamaeは公式ドキュメントを外れると日本語記事が多すぎて、外国籍の社員は使いづらいというデメリットはあります。
あとは本業に集中するために、OSSやツールなどを使って楽をするけど、やっぱり楽をするための努力を惜しんではならない、そこに尽きると思います。
及川:Rettyは人力をどこで止めて機械化するか、もしくは最初から機械化するかについてはどうバランスを取りますか?
樽石:まずRettyの組織戦略として、毎週の全社週定例でこの2~3年の最重要KPIを全員に共有してます。これが最も大事であるとしているので、「まずは技術」という発想にあまりならないです。目的を合わせてコントロールすることが一番大きいですね。
人力に関しては、この何年かで大分やりつくしたフェーズになってきました。社内の雰囲気やKPIを考えると、人力でやるのは難しいんじゃないかという風土ができ上がってきているので、じゃあ技術でなんとかしようと動きが、エンジニア以外の人からも出始めています。
及川:やはり組織全員がテクノロジーの力を知っているから、そうした発想が出てくるんでしょうね。最後に、地方在住のエンジニアに対して一言いただけたらと。
古賀:私はずっと福岡ですが、昔と比べるとだいぶ物理的なものを、ネットが繋いでくれて、格差が少なくなってきた。その気になれば学べる環境が、我々が若い頃よりは圧倒的に揃ってきたし、そこに対してどれだけ時間を透過するかが、エンジニア一人ひとりの力に代わってくると思います。地の利はありますけど、そこであきらめずに、勉強していくことが大事ですね。
真幡:インターネットがあるので、オンラインミーティングもできるし、スマートニュースでも、上長の許可を取った場合のみ可能なんですが、週あたりの出社日数を制限してリモートで働いている人がいます。仙台に住みながらでもエンジニアの仕事はできると思うので、なんだったら興味がある方はぜひ、当社へ(笑)。
樽石:実はRettyの創業当時の開発チームのオフィスって、仙台にもあったんですね。仙台東口あたりに小さいオフィスを借りて、そこでエンジニアが開発してました。企画は東京にいたので、リモートでオンラインでやりつつ、定期的に出張でみんなで集まって開発していたので、比較的当社の場合はエンジニアはオンラインで仕事をするのは、結構やりやすいのかなって思っています。なので、仙台からRettyに価値を提供したいと思う方はぜひお声がけください(笑)。
及川:インターネットやWebなど、ITと言われているものに関しては、どこに行っても学べるし、どこにいても自分の力を発揮できる要素が増えてきました。特に、エンジニアはその状況を享受できることが多いので、あとはマインドセットの問題かなと。
東京など、エンジニア人口が多い大都市はこのようなイベントや刺激を受けれる場はたくさんあるんですけど、仙台でもたくさんあるし、増えてきていると聞いています。こういった場を利用し、懇親会でも話してもらえればと思います。ありがとうございました。
▶︎前編はこちら!→【前編】6社の事例から学ぶ──ユーザー体験を磨き、サービスを支える技術力とは?
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