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2026 年 7 月 29 日、ファッション・アパレル業界のお客様が集まり、第一回ナレッジ共有会を開催しました。本会は、店舗業務支援 AI エージェント SMART(Store Manager Agent for Retail Tech) を起点に、各社が取り組んできた AI エージェント開発の実践ナレッジを、企業の垣根を越えて共有し合う場です。当日は 6 社 20 名のお客様にご参加いただき、各社から取り組みを発表いただきました。経営層・DX/IT 部門・現場出身のメンバーまで多様な参加者が一堂に会し、熱気にあふれる発表と質疑の時間となりました。本記事では、その模様をレポートします。 取り組みの背景 — SMART から広がる業界の共創 AWS はこれまでも、小売業界、ファッション・アパレル業界のお客様に向けて、 業界ユースケースにフォーカスした合同生成 AI ワークショップ や、 店舗業務にフォーカスした小売業界向け AI エージェント活用ワークショップ など、業界の共通課題に向き合う場を継続的に提供してきました。こうした場では、「自社に役立つものを内製でも作ってみたい」という意見もあれば、「アイデアやものづくりに終わらせないための工夫が知りたい」「近しい業界での他社の実践的な取り組みからぜひ学びたい」という声も多くいただいていました。本ナレッジ共有会は、そうしたお客様の声に応える場として企画したものであり、受け身の勉強会イベントではなく、業界共通課題をテーマに各社がそれぞれ挑戦し、そしてそこで得た知見を共有し合う、業界共創の歩みの中間地点にあたります。 きっかけは、AWS Prototyping Program を通じて誕生した、店舗業務支援 AI エージェント SMART です。SMART は、店舗スタッフの日常の言語化・データ化を支援しフィードバックする AI エージェントのサンプルアセットで、2026 年 4 月に GitHub(aws-samples) で公開しました。6 月に開催した AWS Summit Japan での事例紹介では、ファッション・アパレル以外の店舗事業者様からも多くの関心の声をいただきました。 私たちは、SMART のアセット公開とともに、4 月には SMART の合同ブートキャンプを開催しました。ここでは、AI コーディングエージェント Kiro も活用しながら、SMART のデプロイとカスタマイズを体験いただき、そこから参加企業各社の取り組みが始まりました。SMART をベースに自社利用のために拡張開発を決めたお客様、店舗以外の業務領域での新規 AI エージェントの開発に挑戦を決めたお客様など、各社がそれぞれの現場課題に向き合い、業界としての取り組みへと広がっています。そして 7 月、本記事で紹介する第一回ナレッジ共有会として、各社の実践ナレッジを持ち寄る場が実現しました。4 月のブートキャンプに参加し、そこから活動を開始した 3 社が、どんな課題に直面しどう乗り越えたか、作って終わりにならないための、その実践的な取り組みと学びについてご紹介します。 各社発表 サザビーリーグ IRIS 様:SMART を発展開発 — 麺屋 猪一 の日報改善から全店舗利用へ 株式会社サザビーリーグ IRIS 様からは、グループの飲食ブランドであり、ミシュランガイド ビブグルマンに 9 年連続選出されたラーメン店 麺屋 猪一 を対象に、SMART をベースとして現場に必要な機能をカスタマイズ・発展開発した事例を発表いただきました。 株式会社サザビーリーグ IRIS 管理システムグループ 吉川 真由 氏、大谷 美月 氏のご登壇の様子 猪一における、これまでの店舗の売上日報はチャットツールで本部スタッフにテキストで送る運用でした。そこから IT 主導で要件定義を行い、売上入力の画面や店舗間の状況を可視化するダッシュボード機能などの開発を進められていました。その後、店舗運営マネージャーにデモを通じてヒアリングを重ねて、日報そのものより週報・月報の作成負担が大きいという真の課題を発見し、週報・月報を自動生成する機能を Amazon Bedrock 、 Amazon EventBridge 、 AWS Lambda 、 Amazon S3 Tables 、 Amazon Athena 、 Amazon SNS などを組み合わせて約 1 ヶ月半で開発されました。 店舗 PoC の結果、約 15 分かかっていた週報の作成時間は 0 分に短縮。「言語化が苦手でも AI が言葉にしてくれる」という現場の声も紹介されました。開発では、Kiro と向き合いながらも、実際に使う事業部門や店舗スタッフとのコミュニケーションを繰り返したことで、真に求められるもの、課題解決につながるものへと進化を遂げた過程が印象的な発表でした。そして 7 月の PoC を経て、現在は 8 月にオープンした新店舗を含む全 4 店舗での利用が始まっています。 週報・月報の自動生成を実現したアーキテクチャ 取り組みと成果のまとめ ジンズ様:店舗のリアルを、生成 AI で本部へ繋ぐ — IT 未経験・店舗出身者が Kiro と 2 週間で挑んだ Web アプリ開発 株式会社ジンズ様からは、店舗スタッフ出身で IT 組織への異動後まもないメンバーが、わずか 2 週間で店舗フィードバック収集 Web アプリを開発した事例を発表いただきました。 株式会社ジンズ IT デジタル部 陳 蘇 氏のご登壇の様子 役員から「音声で店舗のフィードバックを収集したい」というミッションを受けて、 Amazon Transcribe による音声テキスト化、Amazon Bedrock による感情分析・ペイン分類、改善案の自動生成と Excel 出力までを、 Amazon API Gateway 、AWS Lambda、 Amazon DynamoDB などで構成されたサーバーレスアーキテクチャとして実装されました。多言語表示・多言語音声入力への対応やいいね機能など、店舗経験者ならではの現場目線の工夫も凝らされています。 AWS の知識ゼロの状態からのスタートでしたが、AWS と一緒に要件整理と想定アーキテクチャをホワイトボーディングするところから始め、議論した内容を Kiro に繰り返しインプットして設計を進めていきました。わずか 2 週間という短期間の中、ただサーバーレス構成で作るだけでなく、多言語対応や非同期処理に作りかえる工夫も行い、ユーザー体験を第一にこだわって作られているのがとても印象的でした。「技術のために現場があるのではなく、現場を助けるために技術がある」という力強いメッセージと、活動を通じて IT 用語の壁を検索や同僚への相談で乗り越えたエピソードは、参加者アンケートでも最も多く言及された発表のひとつとなりました。 音声テキスト化から感情分析・Excel 出力までを担うサーバーレスアーキテクチャ 店舗の声を集めるアプリ コエポスト の画面 アンドエスティ HD 様:Kiro と 2.5 ヶ月で挑む在庫消化 Agent 株式会社アンドエスティ HD 様からは、SMART とは異なる業務領域への挑戦として、商品の売価変更や店舗間移動といった、在庫消化業務を支援する AI エージェントの開発事例を発表いただきました。 株式会社アンドエスティ HD DX本部 鈴木 向陽 氏のご登壇の様子 在庫消化は利益を左右する重要業務でありながら、その判断がベテラン社員の経験に依存しているという課題を感じておられました。そこで、今のやり方をそのまま自動化しても解けないと判断し、担当の業務部門と AI とともに業務そのものを構造化するところから着手されました。判断観点をスコア化して共通の物差しを作り、「AI は判断しない。作戦を複数提示し、人が決める」という設計思想を事業部門と合意した上で、 Amazon Bedrock AgentCore を活用した開発を進めています。 鈴木様は、AWS での開発経験がほぼゼロの状態から、 AWS のサポートも得ながら、Kiro を駆使し、事業部門と何度もプロトタイプをもって壁打ちし、2.5 ヶ月開発を進める中での壁と学びも率直に語られました。発表時点では、AI が売価変更・店舗間移動の候補として挙げるアイテムがベテラン実務者の判断と概ね重なる精度まで到達しており、本番導入を見据えて開発が続いています。「AI エージェントを作る過程で、形のなかった業務フローが構造として見えるようになってきた」という気づきのお話も印象的でした。 形のない業務を業務側 & AI と一緒に構造化する設計思想 俯瞰・検証・深掘りを支えるダッシュボード画面 参加者の声 会の最後に実施したアンケートでは、CSAT 4.65 / 5(回答 20 名)と高い評価をいただきました。第二回への参加意向として 7 割が「ぜひ参加したい」と回答し、参加を希望しないという回答はゼロでした。いただいたコメントの一部をご紹介します。 IT 未経験の店舗出身メンバーが Kiro を使いこなしているのはまさにイノベーティブな取り組みだと思い、とても刺激的でした AWS サービスの初心者、開発の初心者でも短期間で現場が必要な機能・システム(日報、在庫、ご意見箱など)を開発できるのがすごいと思いました 経験がないメンバーが開発できることで事業スピードだけでなく、事業会社でも IT を経験して IT のキャリアアップできる可能性が大きく広げられると感じました 業界近しい他社事例を伺うことで、新たな気づきや取り入れたいアイデアを得ることができ、大変有意義な時間となりました。早速明日から自社の取り組みに組み込めるか検討します 継続的な取り組みを行うことが業界全体の活性化に繋がると思います 次回に向けて — 第二回ナレッジ共有会へ クロージングでは、次のチャレンジの方向性として 3 つの選択肢を示しました。 SMART をさらに発展 :機能拡張・本稼働からのフィードバックループで価値を深める 店舗業務の別領域へ :店舗に関わる別業務のエージェントを追加開発 AI エージェントを他業務へ :店舗以外の業務領域への適用 11 月に予定している第二回ナレッジ共有会での成果共有に向けて、各社の挑戦と業界の活動をさらに飛躍させていきます。 おわりに 今回共有されたナレッジは、各社が業界の課題に向き合い、目標を定めて実際に手を動かし、そして現場とのコミュニケーションを繰り返したからこそ生まれたものです。AWS Prototyping Program から生まれた SMART が、オープンソース化とブートキャンプを経て、業界全体の取り組みへと広がりつつあります。各社で共通していたことは、IT に閉じた活動ではないことです。AI とだけ会話を継続するのではなく、素早く構築したプロトタイプをもとに事業部門、ユーザー部門と何度もやり取りをしながら、さらなる開発と検証を進められたことが最も大きな成功要因であったと考えております。そして今回、多くの CIO や IT,DX 本部長の方々にも参加いただきましたが、そういった方々のスポンサーシップが、本活動を大きく前進させる力になったと感じております。 AWS は今後もブートキャンプ、そして本ナレッジ共有会のような場を通じて、ファッション・アパレル業界のお客様の AI エージェント活用や内製化の挑戦を支援してまいります。お客様の声に耳を傾けて、今後も期待に応える企画を考えてご提供していきます。本取り組みにご興味をお持ちの方は、ぜひ担当営業・ソリューションアーキテクトまでお声がけください。 著者について 濱上 和也(Kazuya Hamagami) アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 ソリューションアーキテクト 流通・小売業のお客様の技術支援を行っています。SMART の開発にも関わっています。好きな AWS サービスは Amazon Connect Customer で、業界問わずコンタクトセンター関連の技術支援も行っています。
はじめに こんにちは。2026年4月にInsight Edge(以下、IE)へデータサイエンティストとして新卒入社した田中です。 本記事を執筆している2026年9月時点で、入社から約5か月が経ちました。新卒データサイエンティスト(DS)の2期生として、新卒研修から最初の案件への参画までを経験する中で、入社前には見えていなかったIEの特徴が少しずつ分かってきました。本記事では、実際に働いて感じたことを新卒の視点からお伝えします。 IEへの新卒入社を検討している学生の方はもちろん、商社グループでデータサイエンティストとして働くことに興味がある方にとっても、本記事が参考になれば幸いです。 目次 1. 自己紹介とIEを知ったきっかけ 1.1 大学での研究 1.2 IEを知ったきっかけ 2. 新卒でInsight Edgeに入社した理由 2.1 幅広い事業領域と少数チームの機動力 2.2 メンターから感じた高い技術力と温かい人柄 2.3 学び続けながら柔軟に働ける環境 3. 入社して初めて分かった3つのこと 3.1 分野横断の研修と早期の案件配属 3.2 オフィスで実感した住友商事との距離の近さ 3.3 案件外の活動を通じた学びと交流 4. まとめ 1. 自己紹介とIEを知ったきっかけ まずは自己紹介として、学生時代のバックグラウンドとIEを知ったきっかけについて紹介します。 1.1 大学での研究 大学時代は、経営工学を専攻しており、さまざまな産業領域のテキスト・表・画像・動画データから知識抽出をすることに焦点を当てた研究分野と、自動運転を中心とする強化学習の応用研究の両方を専門とする研究室に所属していました。当時は25人ほどいた学生のうち6〜7割が留学生で、ミーティングは常に英語で行われる国際色豊かな環境でした。 修士の頃は、産総研との共同研究として、スポーツの試合から収集したプレーデータや映像をもとに、テキスト速報や実況・解説を生成する応用研究に取り組んでいました。 1.2 IEを知ったきっかけ IEを知ったきっかけは、修士1年の夏に受講した大学のデータサイエンス講義です。毎回異なる企業が登壇し、さまざまなデジタル活用事例を紹介する講義でした。ある回にIEの社員が登壇し、そこで初めてIEを知りました。 講義では、IEが住友商事グループ内のDX推進を担っている会社であることが紹介されていました。また、案件としては商社ならではの幅広い産業分野を扱い、その中でPoCからプロダクト開発までを内製の少人数のチームで進めていることも知りました。 講義を通じて、私はIEに次のような魅力を感じました。 さまざまな事業領域に触れられそうで、面白そう 海外案件に関わり、研究室で英語を使ってきた経験も生かせそう 優秀な技術者と働きながら、若いうちから裁量を持って成長できそう いずれも自分の就職活動の軸と合っていたため、講義の最後に案内されたインターンシップへの応募を決めました。 その後、面接を経て、2024年夏の1か月間のインターンシップに参加しました。このインターンシップは、講義だけでは分からなかったIEの詳しい仕事内容や組織体制などを、より深く知る機会になりました。その内容については次の章で詳しく説明していきます。 また、インターンシップで取り組んだ内容は、 こちらの記事 で紹介していますので、興味のある方はぜひこちらもご覧ください。 2. 新卒でInsight Edgeに入社した理由 本章では、インターンシップでの経験を踏まえた、私がIEへの入社を決めた理由について、3つ紹介します。 2.1 幅広い事業領域と少数チームの機動力 IEは住友商事グループの内製的なパートナーとして、コーポレートや、グループ内の事業会社の方々と目標を共有しながらプロジェクトに取り組みます。案件によっては、提示された要件を実装するだけでなく、課題がまだ明確になっていない段階から議論し、PoCや開発、現場での活用まで継続して関わります。IEがデータやAIに関する知見を提供する一方で、クライアントからは業務や事業について学び、双方の知見を持ち寄って解決策を考えられることに、内製パートナーならではの健全な関係性を感じました。 また、住友商事グループには多様な事業会社があり、海外案件を含むさまざまな業界の事業や課題に触れられることも魅力でした。IEは、住友商事グループの幅広い事業基盤をフィールドとしつつ、比較的少人数でのプロジェクトを進めます。新しい技術を積極的に取り入れ、まずは自分たちで検証してみるという姿勢が根付いており、成長環境として理想的だと感じていました。 2.2 メンターから感じた高い技術力と温かい人柄 インターンシップでは、3人の方にメンターとしてご指導いただきました。皆さんが豊富な経験と高い技術力を備えながらも、新しい技術に強い好奇心と探究心を持ち、学んだことを楽しみながら仕事に生かそうとする姿勢を持っていたことが印象に残っています。経験を積んだ後も学び続ける方々と働ける環境は、技術者として成長していくうえで非常に魅力的だと感じました。 加えて、私の話や疑問へ耳を傾け、気さくに応じてくださった姿も印象的でした。入社後に活躍できるか、不安を持つ新卒もいると思いますが、私の場合は、「IEであれば大丈夫」と思えたことも入社を決めた理由の1つです。 2.3 学び続けながら柔軟に働ける環境 働く環境や制度の充実も、IEへの入社を決めた理由の1つです。例えば、業務時間の一部を自己研鑽や勉強会に充てられる制度があります。目の前の案件に必要な知識だけでなく、自分が興味を持った技術を試し、将来の仕事につなげる時間も用意されています。そこに、社員の継続的な成長を大切にする姿勢を感じました。 また、業務内容やチームの状況に応じて、テレワークやサテライトオフィスを利用できる点にも魅力を感じました。私自身は出社派で、対面で働くことから得られるものも大きいと感じています。一方、その日の業務や生活に合わせて働く場所を選べる点は、ライフステージが変化しても働き続けるうえで大きな魅力だと思いました。 IEに入社してから、「いろいろな選択肢があった中で、なぜ新卒でIEに入社したの?」と聞かれることがあります。私にとっては 大企業グループの幅広い事業にパートナーとして関われること 技術力と人間的な魅力を備えた社員の方々と働けること 新しい技術を学びながら柔軟に働けること の3つが、私がIEへの入社を決めた大きな理由でした。以上が本章のまとめです。 3. 入社して初めて分かった3つのこと 夏季インターンシップ後に本選考を経て、内定をいただきました。その後、自ら志願し、修士2年の4月から約6か月間、内定者インターンシップに参加しました。途中で1か月の研究留学を挟みましたが、このインターンシップでは音声対話型マルチエージェントに関する調査に主に取り組みました。この内容に興味がある方は、ぜひ こちらの記事 をご覧ください。 2つのインターンシップを通じてIEへの理解は深まりましたが、それでも、入社して初めて分かったことがいくつかありました。ここからは、新卒研修や最初の案件への参画を通じて特に強く感じたことを、3つに分けて紹介します。 3.1 分野横断の研修と早期の案件配属 研修 入社後の最初の2か月間は、新卒研修として座学とアプリ開発に取り組みました。開発したアプリの詳細は割愛しますが、アプリ開発研修では1つのアプリを企画から開発まで形にしました。参加者は私一人だったため、データサイエンティスト(DS)だけでなく、エンジニア(ENG)やプロジェクトマネージャー(PM)の業務も体験しました。各職種に求められる基礎知識と、プロジェクトにおける役割を学べるように設計された研修でした。 新卒研修で体験したPM・ENG・DSの役割(筆者作成) この研修で特に良いと感じたのは、アプリ開発の進捗に合わせて、その時点で必要となる技術を座学で学べるようなスケジュールが組まれていたことです。座学で得た知識をすぐにアプリ開発で試せるため、知識を学ぶだけで終わらず、実践を通して理解を深めることができました。 この座学研修で学んだ内容を、DS・ENG・PM・その他の分野に分けると、次のようになります。 分野 座学研修で学んだ分野 DS ・データ前処理・後処理 ・時系列分析 ・画像処理 ・統計 ・数理最適化 ENG ・エンジニア心構え ・データベースモデリング ・オブザーバビリティ ・Webを支える技術(TCP/IP) ・ソフトウェアテスト ・AIコーディング ・生成AI概論 ・GitHub/Gitワークフロー ・IaC・CI/CD ・UI/UX ・良い設計・良いコード ・セキュリティ PM ・プロジェクトマネジメント ・開発プロセス その他 ・テクニカルライティング ・スライド作成技術 研修を通じ実感したことは、DSに求められるのは、与えられたデータを分析してモデルを作ることだけではないということでした。IEのプロジェクトでは、エンジニアチーム内のPM・ENG・DSがそれぞれの専門性を持ち寄ります。PMの視点を知ることは、プロジェクトでのヒアリングや課題整理、検証計画について、技術者の立場から意見を出す際に役立ちます。また、ENGの視点を知ることで、PoC後の本番開発を見据えてコードやインフラを整備したり、PMが整理した要件を開発へつなげたりしやすくなります。 生成AIをはじめとするツールによって、技術の調査やコーディングの進め方は変わりつつあります。だからこそ、これからのDSには自分の専門領域だけに閉じない姿勢が必要で、PMやENGの仕事も自分ごととして捉え、プロジェクト全体を前に進める力がより重要になると私は考えています。分野を横断して学ぶこの研修は、私にとって、将来どのようなDSを目指したいかを考えるきっかけを与えてくれました。 案件配属 5月に研修を終え、6月から実際のプロジェクトチームに参画しました。私が配属されたチームは比較的少人数で、新卒の私にも早い段階からタスクを任せていただき、議論の中で意見を求められました。たとえばMVP開発の方針提案を検討する場面では、対象モデルの仕様を調査し、その内容をチームに報告した上で、推奨する活用方針などを提案しました。指示された作業をこなすだけでなく、研修や学生時代に学んだことをプロジェクトに生かし、技術者の一人として自分の考えをチームに伝えることが期待されている点は、入社前の想像以上に印象的でした。 早い段階からタスクを任せていただきながら、一方で分からないことや判断に迷うことがあれば、いつでもメンターに相談できる環境が整っていました。案件への配属後も、案件について相談する機会や、仕事の進め方・今後伸ばしたいスキルについて話す機会が設けられています。 このサポート体制には、現在も大きく助けられています。うまくできた点は評価していただき、改善すべき点は具体的に指摘していただけます。そのため、これまでの経験を振り返り、学びを次にどう生かすかを考える力を日々鍛えることができています。一人の新人にきちんと向き合い、成長を支えてくれる方々がいることは、IEの良さだと感じています。 3.2 オフィスで実感した住友商事との距離の近さ 私は新卒DSの2期生ということもあり、入社前は、IE社内で同世代とのつながりをどの程度持てるのかは、少し気になっていたポイントでした。実際に入社してみると、1つ上の先輩方が優しく接してくださったので安心しました。 また、オフィスの同じフロアには、住友商事の複数のデジタル関連部門が集まっています。そこで働く新卒社員の方々に自分から声をかけ、一緒にランチへ行くなど、会社や部署の枠を越えて交流できました。IE社内に限らず、住友商事グループまで視野を広げて同世代とのつながりを持てることは、入社前には想像していませんでした。 交流の中では、互いの仕事や担当領域について話すこともあります。そうした会話を通じて、住友商事の方々がどのような視点で事業やデジタル活用を捉えているのかを知ることができます。一方で、私から技術的な考え方を伝えることもあり、それぞれの立場や専門性を生かした意見交換ができています。将来同じプロジェクトに関わる際も、こうした日頃の関係が連携のしやすさにつながると感じています。 「住友商事グループと近い距離で働く」という言葉を、入社前は主に仕事上の関係として捉えていました。実際には同じフロアで働き、日常的に会話できる環境があります。そのため、同じグループの仲間として働いていることをより実感できました。 3.3 案件外の活動を通じた学びと交流 IEには、担当案件以外にも、業務時間内の自己研鑽や、社員同士で交流するための活動があります。 私が実際に参加している学習活動には、次のようなものがあります。 勉強会 :業務時間の10%を目安に自己研鑽へ充てる取り組みがあり、執筆時点では、私は先輩社員と一緒に統計の勉強をしています。疑問点を相談し、考え方を共有しながら学べることに、一人で勉強する場合にはない良さを感じています。 DSチームのLT会 :DSチームのメンバーが最近学んだ技術や試したことを、短い発表形式で共有する会です。自分の担当案件だけを追っていると触れにくい技術も知ることができ、継続的なキャッチアップの機会になっています。 海外グループとの技術交流会 :私は有志として、住友商事グループの海外拠点で働く方々と英語で技術情報を交換する会に参加しています。海外での技術活用や異なる考え方に触れられるだけでなく、実際に英語で技術について議論する経験にもなっています。これは将来、海外案件に参加するための良い練習だと感じており、積極的に参加しています。 このように、基礎をじっくり学ぶ機会、新しい技術を社内で共有する機会、海外の方々から異なる視点を得る機会など、案件外でも自分を高める機会がたくさんあります。こんなにたくさん学びの機会があるとは入社前は知りませんでした。 また、技術に関する活動だけでなく、部活動やシャッフルランチなど、社員同士の交流を目的とした取り組みもあります。仕事の性質上、少人数のチームで案件を進め、テレワークも利用できる環境では、担当案件が異なる社員との接点が少なくなることもあります。そのため、こうしたイベントが会話のきっかけとなり、案件や職種を越えて、社内にどのような経験や専門性を持つ人がいるのかを知ることができます。 入社前は、勉強会や社内活動を、それぞれ独立した制度のように捉えていました。しかし実際には、技術を学ぶ場であると同時に、普段は一緒に仕事をしない人とつながる入り口にもなっています。用意された機会を自分から活用することで、学べる範囲も、相談できる相手も国内外へ広げていけることが、入社して分かったIEの特徴の1つです。 4. まとめ 入社前の私は、IEに対して「住友商事グループの幅広い事業に関われる」「優秀な技術者と働ける」「新しい技術に挑戦できる」という印象を持っていました。入社して5か月が経った今、その印象は大きく変わっていません。一方で、実際にIEの一社員として働いたからこそ、それぞれの魅力をより具体的に理解できるようになりました。 分野横断の研修を経て、早い段階から案件に入り、新卒でも一人の技術者として意見を求められること。その一方で、メンターをはじめ、困ったときに相談できる方々がいること。住友商事のデジタル関連部門と同じフロアで働き、会社の枠を越えて日常的に交流できること。そして、案件外にも技術を学び、人とつながるための機会が用意されていること。これらは、入社前には十分に想像できていなかったIEの姿でした。 IEは私にとって、データサイエンスの専門性を深めるだけでなく、他職種やグループ内会社の方々と協力しながら、技術を企業価値につなげる経験を積める環境だと感じています。一方で、こうした環境を生かすためには、自分から学び、周囲に働きかける姿勢も必要です。入社からまだ5か月で、私自身も学ぶことばかりですが、これから1つずつ経験を積んでいきたいと思います。 本記事が、IEへの新卒入社や、商社グループでデータサイエンティストとして働くことに興味を持つ方にとって、少しでも参考になれば幸いです。 Insight Edgeでは、新卒採用に加えてインターンシップの募集も行っています。少しでも興味を持っていただけた方は、ぜひ 新卒採用、インターンシップ募集ページ をご覧ください。
製造業のデータ利活用は、AIツールを導入する段階から、事業成長や顧客価値の創出につなげる段階へ移りつつあります。欧米の先進企業では、データを資産として扱うData as a Productの考え方を取り入れながら、生成AIだけでなく、物理世界を動かすフィジカルAIをコア業務や人材育成に組み込んでいます。これを実現する上で注目すべきは、ITなど一つの中央部門に依存せず、データ活用の主導権を各部門に分散して持たせるデータメッシュアプローチです。これらを通じて、データ基盤の再設計と組織変革を同時に推し進めています。 本記事では、Dow、Siemens、Rockwell Automationの取り組みをもとに、製造業のデータ利活用を成果につなげる企業の共通点を整理します。これらの製造業DX事例から見えてくるのは、DXの成否を分けるのは個別技術の導入ではなく、データを事業の勝ち筋に変える仕組みを持てるかどうかです。 製造業のデータ活用は「導入」から「成果」へ移っている 製造業におけるAI活用は、検証や一部業務の効率化にとどまらず、事業成果や競争優位につなげる段階へ移っています。2010年頃から、いわゆるビッグテック企業は世界の時価総額上位を占め、デジタルインフラに近い立ち位置を確立してきました。彼らの培ったテクノロジーとデータを活用してビジネスを最適化するアプローチは、金融や小売だけでなく、素材、電機、産業オートメーションなどの伝統的な製造業にも広がっています。 金融業界が伝統的な産業で先頭を切ってフィンテックやデジタル技術を取り入れて業態を変えていったように、製造業でも、これまでデータ活用と距離があった企業が、AIやデータを中核に据えた変革を進めています。 ただし、AIを導入すれば成果が出るわけではありません。2025年の マッキンゼーのAI導入調査 では、88%の企業がAIを導入している一方で、AIを利益の源泉として活用し、EBIT(利払前・税引前利益)の5%以上をAIで創出している「 AIハイパフォーマー 」は6%にとどまるとされています。 AIハイパフォーマーに見られる特徴は、主に次の3つです。 目的設定 : 単なるコスト削減をゴールとせず、売上成長や新規ビジネスの創出(イノベーション)を目的としている 手段の進化 : 新たな技術を積極的に取り入れ、スケールさせている。例えばAIエージェントは全体の62%が実験を開始する中、ハイパフォーマーは他社の3倍以上の割合でエージェントを実際の業務に組み込み「スケール」させている 組織の変革 : 既存業務にAIを足すのではなく、AIやエージェントの存在を前提としてワークフローや人材、業務を根本から再設計している (ハイパフォーマーは65%が実施、その他は23%) これらの「組織の変革」や「業務の再設計」という特徴は、特に製造業において重要な示唆を持ちます。製造業のデータ活用では、設備、工程、品質、在庫、販売、アフターサービスなど、多様なデータが存在します。だからこそ、個別のAIツール導入ではなく、全社としてデータを扱う体制・仕組み作りが重要になるのです。 データメッシュは現場主導のデータ活用を支える考え方 データメッシュとは、各部門が自部門のデータのオーナーシップと責任を持ち、他部門も再利用できる形で提供する分散型のデータ管理アプローチです。2019年に Zhamak Dehghani (martinfowler.com) が提唱した、シリコンバレーのテック企業でも見られるデータ管理の考え方であり、AI活用のスピードに中央集権型の体制だけでは追いつきにくくなったことを背景に広がっています。製造業でデータ活用を広げるうえでは、現場が必要なデータを必要なタイミングで使える状態を作る考え方として重要です。 従来のデータ活用では、IT部門やDX部門が中央集権的にデータを管理し、各部門からの依頼を受けて分析結果を返す形が一般的でした。この体制はガバナンスを保ちやすい一方で、現場が求めるAI活用のスピードや、日々の意思決定の速度に追いつきにくくなるという課題があります。 現場では、品質、設備、原材料、作業条件、需要、在庫などのデータが業務ごとに分かれて存在します。これらを中央の専門部署だけで分析を行う場合、現場特有の背景やニュアンスが十分に反映されなかったり、分析結果が出るまでに時間がかかったりします。 データメッシュの特徴は、次の4点に整理できます。 ドメイン思考の所有者 : 現場部門が、自部門(ドメイン)のデータに対する管理責任と所有権を持つ プロダクトとしてのデータ : データを一度きりの分析素材ではなく、再利用可能な「プロダクト」として扱う セルフサービス基盤 : 各部門が、中央組織を介さずに必要なデータや分析ツールを利用できる環境を整える 連携型ガバナンス : 中央組織は、データ品質、権限、セキュリティ、標準ルールなど、全体ルールを一元管理する このアプローチは、製造業のデータ活用における「現場を巻き込めない」「データがサイロ化している」「分析が一部の専門家に閉じる」といった課題の解決策になります。 中央でのポリシー管理と、現場での分散活用を高度に両立させる具体的な仕組みは、 AI時代のデータ活用の鍵を握る統合データガバナンス で解説しています。 特にAI活用では、モデルの精度だけでなく、モデルが使うデータの品質、定義、更新頻度、そして実際の業務にどう紐づいているか(業務との接続)が成果を左右します。データメッシュは、AIの前段にあるデータ基盤と業務設計を整えるためのアプローチだと言えます。 フィジカルAIは生成AIの次に来る製造業の重要テーマ フィジカルAIは、テキストや画像などの二次元のデジタル空間に閉じていた生成AIなどの技術を、機械、設備、ロボット、工場、車両などが存在する三次元の物理世界へと拡張・実装し、自律的な判断・実行を行うAI技術です( NVIDIA の公式用語集 も同様に定義しています)。 生成AIが、文章作成、検索、要約、コード生成、業務支援など、主に情報処理の領域で力を発揮する一方で、フィジカルAIは、センサーデータ、シミュレーション、制御技術、現場からのフィードバックを高度に組み合わせ、物理世界の動的制御や状態の最適化に関わる判断と実行を担います。 生成AIとフィジカルAIの違いは、次のように整理できます。 項目 生成AI フィジカルAI 主な対象(AIが働きかける空間・対象物) デジタル空間(テキスト、画像、コード、文書など) 物理世界(設備、製造工程、ロボット、車両、工場など) 主な役割 情報の生成、要約、検索、対話、業務支援 物理世界の状態理解、シミュレーション、制御、最適化、自律的実行 製造業でのユースケース例 作業手順書の要約、PLCコード作成支援、保全履歴の検索 製造条件の最適化、設備制御、デジタルツイン、自律運用 必要なデータ 文書データ、業務データ(日報、マニュアル、FAQ等) センサーデータ、工程データ、制御データ 製造業にとって重要なのは、生成AIとフィジカルAIを対立するものとして捉えるのではなく、相互に補完し合うものとして活用することです。生成AIは、現場の情報探索や作業支援に優れ、フィジカルAIは、設備や工程の最適化、自律化に近い領域で価値を発揮します。 そして、この2つのAIを業務成果に結びつけるための共通の土台となるのが、データ基盤です。マニュアルや業務記録といったデジタルのデータ(IT)と、現場のセンサーや設備のデータ(OT)が分断・サイロ化されず、統合・整理されて常に使える状態になっていなければ、どんなに優れたAIも真価を発揮することはできません。 データ基盤そのものの考え方は、 データ基盤の基礎知識 で解説しています。 製造業のAI活用事例: 欧米先進企業3社に見るデータ利活用の共通点 欧米先進企業の事例から分かるのは、製造業のAI活用は「個別ツールの導入」ではなく、「データ基盤・人材・ユースケースを一体で設計する経営テーマ」だということです。3社はそれぞれ異なる強みを持ちながら、AIを業務の周辺機能ではなく、オペレーティングモデルを変える基盤として扱っています。 Dow: データの民主化により、全社の意思決定と研究開発を高度化している Siemens: 制御技術とデジタルツインを組み合わせ、フィジカルAI時代の顧客価値を作っている Rockwell Automation: ITとOTを統合し、自律工場やAI駆動型オペレーションへつなげている 3社に共通するのは、「データを集める」「AIを試す」段階で止まっていないことです。データ基盤や分析ツールを全社で再利用できる形に整備し、人材を育て、社内の成功モデルを顧客やエコシステムに広げています。 国内製造業での具体的なユースケースは、 製造業におけるAI活用事例 で紹介しています。 Dow: データの民主化で、現場データを競争力に Dow(ダウ)は、前半で解説したデータメッシュアプローチを、大規模な伝統的企業が実装し、成果を上げている先進事例です。この実現には、データ利活用を是とする組織文化の変革が必須であり、一般的にその実行難易度は非常に高いとされています。 同社はデータ活用を企業の競争力の中核に位置づけ、全社的なデータの民主化を進めてきました。世界中で事業を展開する同社には、もともと膨大なデータが蓄積されていたものの、全社で効果的に活用できる仕組みが十分に整っていないことが課題でした。そこで2022年、データの民主化を軸に据えた全社デジタル戦略を始動します。 Dowの取り組みで注目すべき点は、単に分析ツールを導入したことではありません。データ基盤、人材育成、ユースケースを一体で進めている点です。 主な取り組みは次の通りです。 データ基盤 : データメッシュ型の「Integrated Data Hub」を構築し、構造化データと非構造化データを統合 ガバナンス : 中央でルールを管理しながら、各現場がデータをプロダクトとして提供 人材育成 : 全従業員を対象に、役割別のData & Analytics Literacyプログラムを展開 ユースケース : Market Intelligence Hub、Carbon Footprint Ledger、Predictive Intelligenceなどへ活用 出典: Dow プレスリリース , Databricks Data+AI Summit 2025, “Manufacturing Cleaner: How Data Intelligence Cuts Carbon, Not Profits” by Dowを基に作成 同社は、現場主導の高度なユースケースを次々と生み出し、世界的に権威のあるITイノベーションの賞 「CIO 100アワード」を5年連続で受賞 するなど、顕著な成果を上げています。その代表的なユースケースは以下の通りです。 Market Intelligence Hub(市場分析の高度化) : 生成AIを活用し、社内外の膨大なデータから市場動向や競合状況などを瞬時に要約。市場の変化に対する迅速で戦略的な意思決定を可能にしています。 Predictive Intelligence(研究開発の短縮) : ポリウレタン事業において、100万以上のデータポイントを用いた機械学習シミュレーションを導入。従来は数ヶ月を要していた新素材の配合探索プロセスを大幅に短縮しました。 Carbon Footprint Ledger(環境負荷の可視化) : サプライチェーン、サステナビリティ、財務データを単一基盤に統合。製品ごとのカーボンフットプリントを可視化し、顧客に対して信頼性の高い証明書(PCF)を提供することで、バリューチェーン全体の脱炭素化に貢献しています。 Dowの事例から見えるのは、データ活用を一部の分析チームだけに閉じないという考え方です。現場やビジネス部門がデータを使える状態を作り、全社の意思決定スピードを高めることが、AI・データ活用の前提になっています。 Siemens: フィジカルAI時代を見据え、データ基盤とエコシステムを再設計 Siemens(シーメンス)は、データ・AIを活用して物理世界とデジタル世界を融合させる戦略で、製造業におけるデータ活用を進めている事例です。同社は、社会インフラ、工場設備、ソフトウェアまでを手掛ける総合電機メーカーです。前段で触れたフィジカルAIの台頭に対し、Siemensは長年培ってきた制御技術や物理的な動作原理への深いノウハウをAIと掛け合わせれば、他社を凌駕する価値を生み出せると考えました。 そのため同社は物理世界とデジタル世界を融合させる「ONE Tech Company」への変革を掲げ、全社で共通のデータ基盤「3つのFabric」を構築してきました。AIを機能させるにはビッグデータやグローバルなプラットフォームといった「規模」も不可欠になるとの考えに基づき、グローバルで組織の壁を打ち破り、データをリアルタイムでAIモデルに供給できる体制へと会社を作り替えたのです。 この事例で重要なのは、フィジカルAIを単なる先端技術として扱っていない点です。制御技術、物理的な動作原理、デジタルツイン、生成AIアシスタント、エコシステムを組み合わせ、業務と顧客提供価値の両方を再設計しています。 主な取り組みは次の通りです。 3つのFabric: データ基盤、テクノロジー基盤、セールス基盤を全社で一元化 Siemens Xceleratorを通じて、自社やパートナーのソリューションをデジタルマーケットプレイス上で提供 NVIDIAとの協業によるデジタルツイン構築など、エコシステム形成を推進 全従業員を対象にしたSiTecSkills Academyで、デジタルの「雇用適格性」を確保するためのリスキリングを体系的に実施 Microsoftとの協業で、製造現場向け生成AIアシスタント「Siemens Industrial Copilot」を開発 同社は、これらの基盤と世界のトップテック企業との協業を活かし、インフラや製造現場を自律化する高度なユースケースを次々と実装しています。代表的なものは以下の通りです。 Siemens Industrial Copilot(産業用生成AI): Microsoftとの協業で開発。これまで高度な専門知識が必要だった自動化プログラム(PLCコード)の作成やデバッグを自然言語で瞬時に実行します。自動車部品大手Schaefflerなどの先行導入企業において、コード作成時間が劇的に短縮されたことが実証されています。 Building X (スマートビルの自律運用SaaS): エネルギー管理や設備保全など分断されていたドメインデータを統合。AIが天候などの変化に適応してリアルタイムで最適化し、ビルのエネルギー消費量の30%削減と、純営業利益(NOI)の10%向上を実現しています。 産業用メタバースとデジタルツイン: NVIDIAとの協業により、現実とほぼ完全に同期する物理ベースのリアルタイムシミュレーションを構築。まずバーチャルのデジタルツインで試し、確信を持った結果のみ現実に反映するという次世代AI工場の実現を主導しています。 製造業におけるフィジカルAIの事例として、Siemensの取り組みは先進モデルと言えます。AIは単に現場作業を自動化するだけでなく、設計、制御、運用、販売、顧客向けサービスを横断して価値を生み出す基盤になりつつあります。 Rockwell Automation: 自律型AIと人材投資で、つながる工場を高度化 世界最大の産業オートメーション(FA)専業メーカーであるRockwell Automationは、ハードウェアの売り切り型ビジネスから脱却し、現場の設備とクラウド(SaaS)をシームレスに繋ぐ「The Connected Enterprise(つながる工場・企業)」戦略を推進しています。 同社は、製造業が直面する人手不足やサプライチェーンの複雑化といった課題を解決するためには、AIによる高度な自律化が不可欠であると考えています。その自律化の最大の障壁となるのが、「IT(情報技術)」と「OT(Operational Technology:運用技術)」の分断です。 OTとは、工場内のロボットやセンサー、生産設備を直接制御・監視するための技術です。従来、経営管理やデータ分析を担うITと、現場を直接動かすOTは別々のシステムとしてサイロ化されていました。 Rockwellは、現場のあらゆるOTデータを単一のアーキテクチャ(Logix)で統合し、それを経営層のITシステム(Plexなど)へリアルタイムに繋ぐという、強固なIT/OT統合データ基盤を構築し、この壁を打ち破っています。 このシームレスな統合基盤の上で、同社は 今後5年間で自社のインフラと人材に総額20億ドルという大規模投資をコミットし、社内では年間約100万時間の学習機会を提供 しています。さらに特筆すべきは、自社の枠を超えた取り組みです。ManpowerGroupと連携し、退役軍人を高度デジタル人材へリスキリングし、人材難に悩む顧客企業へ直接供給するという、業界全体の人材不足という構造的課題を主導して解決する取り組みも進めています。 シンガポールの自社工場では、大規模言語モデル(LLM)やデータの因果関係を理解する因果AI、自律実行するAgentic AIを組み合わせた「Factory AI(AIアシスタント)」を現場に導入しました。工場内で機械の停止や品質の異常など問題が発生した際、このAIアシスタントが即座に介入。リアルタイムの診断データから原因をAIが特定し、現場のオペレーターに対して「今、何をどうやって直すべきか」という復旧プロセスをガイドします。これにより、生産ラインの最適化、廃棄物の最小化、そしてダウンタイムの削減を実現しています。 この事例の最大の成果は、新規オペレーターの育成期間の大幅な短縮です。通常、組み立てラインに新しい従業員を配置して一人前に仕事ができるようになるまでには、約6ヶ月の期間を要していました。しかし、AIアシスタントがトラブル時の対応をリアルタイムで横からガイドし、AR/VRで手順を視覚的に教えることで、 この習熟期間をわずか数週間にまで短縮することに成功しました 。この画期的な取り組みは高く評価され、Dowと同じく、優れたITイノベーションに贈られる「CIO 100アワード」を受賞しています。 実務上の示唆: 統合: PlexとLogix Architectureで、経営・ITレイヤーと現場・OTレイヤーを接続 セキュリティ: SecureOTで、IT/OT統合に伴う産業環境のリスクに対応 現場価値: 予兆保全、品質最適化、AIアシスタントによるオンボーディング短縮に展開 Rockwell Automationの示唆は、AIを分析画面の中で完結させず、IT/OT統合とセキュリティを前提に現場の判断と実行へ近づける点にあります。 データ利活用で成果を出す企業に共通する3つのパターン Dow、Siemens、Rockwell Automationの事例に共通するのは、AIを単発のツール導入で終わらせていないことです。各社は、製造業のデータ活用を企業のオペレーティングモデルそのものの再設計として捉えています。 共通パターンは、次の3つに整理できます。 1. コア業務で成功モデルを作り、顧客価値へ広げる 成果を出す企業は、まず社内のコア業務でAI活用を試し、成功体験を蓄積しています。そのうえで、得られた知見を顧客向けサービスやパートナーとのエコシステムに広げています。 この流れは、製造業のデータ活用において重要です。品質改善、製造条件の最適化、需要予測、保全、製品開発など、社内で価値を確認できるユースケースから始めることで、AI活用の説得力が高まります。 2. 現場とビジネス部門がデータ活用を主導できる人材育成を行う データ活用は、データサイエンティストやIT部門だけでは定着しません。製造業では、現場の工程理解、設備知識、品質管理の経験、顧客やサプライチェーンへの理解が欠かせないためです。 先進企業は、全社展開のリテラシー向上プログラムや役割別の教育を通じて、ビジネス部門が自らデータを使い、AI活用を主導できる体制を整えています。 3. データを再利用できる資産として扱う AI活用の成果は、個別の分析テーマだけでなく、データを継続的に使える状態にできるかに左右されます。 データメッシュの考え方に代表されるように、先進企業はデータを分析のたびに集める素材ではなく、再利用可能なプロダクトとして扱っています。品質、説明可能性、権限、更新性を担保したデータを整えることで、AIモデルや分析業務の再現性が高まります。 日本の製造業では、現場データを活かす仕組みが鍵になる 日本の製造業でデータ活用を進める場合、重要なのは、現場の知見とデータを切り離さないことです。熟練者の経験、設備条件、品質データ、工程間の関係性を、AIが扱える形に変換し、現場の意思決定に戻す仕組みが必要です。 日本の事例として、 JFEスチール株式会社の取り組み があります。ハイテン鋼(高張力鋼)は従来の汎用鋼材と比べ、製造条件の微妙な変化が品質に大きな影響を与えます。大量生産を前提とする製鉄業では早くから統計的手法に基づく技術革新が図られ、同社においても従前よりハイテン鋼のデータ分析に取り組んできました。一方、従来の方法では、各種センサーの増設によるデータ量の飛躍的な増大もあり、ハイテン鋼に対応した緻密な解析は困難になりつつありました。 そこで、サイバー空間上に製造プロセスを再現するCPS(Cyber Physical System: サイバーフィジカルシステム)を展開し、現実世界から収集したデータをdotDataで解析しました。理想の品質を正解データとして入力し、関連するデータから品質に影響する複合的な要因やパターンを抽出し、現場のオペレーションにフィードバックする取り組みです。 dotDataによるデータ解析の結果、従来は気が付かなかった複数の要因による製造プロセスにおける相関関係が発見され、そこからの知見を元にオペレーションを最適化することにより、歩留まり率の向上につながりました。 取り組みの詳細は、 JFEスチールのハイテン鋼における歩留まり改善の導入事例 で紹介しています。 同社では、データサイエンティストによる高度なデータ分析も並行して行っていますが、dotDataを活用した現場エンジニアによるこうしたデータ利活用は、今後、より迅速な意思決定に大きな役割を果たしていくことが期待されています。 この事例が示すポイントは、単にAIモデルを作ることではありません。現場を熟知したエンジニアが解析に関わり、複数工程にまたがる要因を見つけ、意思決定のスピードを高めている点です。 製造業のデータ活用では、以下のような観点が導入判断の軸になります。 どの業務課題を、最初のユースケースにするか 現場部門がデータの意味を説明できる状態になっているか 設備、品質、工程、需要、在庫などのデータが連携できるか 分析結果を、現場のオペレーションに戻す仕組みがあるか AI活用を一部の専門家に閉じず、継続運用できる体制があるか 生成AI、データメッシュ、フィジカルAIは、それぞれ別々の流行語ではありません。製造業がデータ活用を事業成果につなげるために、情報処理、データ基盤、物理世界の制御や最適化をどうつなぐかという一連のテーマなのです。 まとめ: 製造業のデータ活用は、AIを使う業務設計から始まる Dow、Siemens、Rockwell Automationといった欧米先進企業の事例から見えてくる最大の共通点は、AIやデータの利活用を単なるIT部門のテーマや個別ツールの導入として終わらせず、経営課題と捉え、全社の取り組みとして推進しているという大前提です。 AI活用を経営課題とし、企業のオペレーティングモデルそのものを再設計している欧米先進企業の事例から見える共通点は、次の3つです。 コア業務でAI活用の成功モデルを作り、顧客価値やエコシステムへ広げる まずは自社のコア業務やR&DでAIを使い倒して生産性向上の成功モデルを確立し、その成果を顧客向けのサービスや、業界全体を巻き込んだ共創エコシステムへと昇華させています。 現場やビジネス部門がデータを使えるよう、人材育成と役割設計を進める データ活用を専門家だけに閉じず、全社展開のリテラシー向上プログラムや役割別の教育を通じて、現場の業務プロセスや設備を熟知したビジネス部門自らがAI活用を主導できる体制を築いています。 データを再利用可能なプロダクトとして扱い、ガバナンスとスピードを両立する データメッシュのアプローチに代表されるように、データを分析のたびに集める「素材」ではなく、他部署も利用可能な「プロダクト」として扱うことで、全社的なガバナンスを効かせながら現場の分析スピードを最大化しています。 日本の製造業においても、品質改善、製造条件の最適化、予知保全、需要予測、サプライチェーン最適化など、データ活用の余地は多くあります。重要なのは、個別のツール選定の前に、自社の業務課題とデータの使われ方を整理することです。 dotDataは、製造業におけるデータ活用やAI活用の支援を通じて、現場の知見とデータを結びつけ、 業務に使えるインサイト を引き出す取り組みを支援しています。また、データ主導の組織づくりを支える ビジネスアナリティクス人材育成サービス も提供しています。製造業でAI活用を検討する際は、まず自社のどの業務課題から始めるべきか、どのデータを活かせるかを整理することが、次の一歩になります。AI・データ活用のご相談や、貴社の課題に合わせた最適なアプローチについては、ぜひお気軽に お問い合わせ ください。 The post 製造業のデータ活用事例: 欧米先進企業に学ぶAI・データ基盤・人材変革 appeared first on dotData .






















