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こんにちは、プロダクト部 部長の稲垣です。(自己紹介やこれまでのキャリアについて↓をご覧ください。) tech-blog.rakus.co.jp 社内で口癖のように使っている「製品解像度」と「UX志向」について自分の思考の整理もかねて記事にまとめてみました。 はじめに:私たちは「誰」を見ているのか? 「製品解像度」とは何か? まず押さえたい:製品解像度が低いと起きる“あるある” なぜ「お客様解像度」だけでは不十分なのか? 質の高いアウトプットを生む土壌 UX志向を支える「意思決定」の力 「OR」ではなく「AND」を模索する 「架け橋」としての役割 ラクス プロダクト部としての「UX志向」 製品解像度を高めるために 1. 「越境」を恐れない 2. 「なぜ?」を問い続ける 3. プロダクトの「歴史」と「未来」を知る 製品解像度が上がると何が起きるか:アウトプットの質が変わる 1) 要求仕様が“外れにくくなる” 2) トレードオフの説明責任が果たせる 3) 「事実に基づく」文化が回りやすくなる 4) “作って終わり”から“学習して伸ばす”に変わる おまけ:製品解像度を上げるための「10の問い」(会議で使える) おわりに:最高のUXへの近道 はじめに:私たちは「誰」を見ているのか? 「UX(ユーザーエクスペリエンス)志向」 「ユーザー中心設計」 「顧客視点」プロダクト開発の現場にいると、これらの言葉を聞かない日はありません。私たちプロダクトに関わるメンバーは、常にお客様のことを考え、彼らの課題に寄り添い、最高の体験を届けようと日々奮闘しています。しかし、ここで一度立ち止まって考えてみたい問いがあります。 「お客様のことさえ深く理解していれば、本当に優れたプロダクトは作れるのだろうか?」 という問いです。自分としての結論は“お客様理解だけでは足りない”です。 もちろん、お客様を理解することは不可欠です。しかし、それだけでは「良いプロダクト」を継続的に生み出し、育てていくことはできません。 時に「お客様のため」を思うあまり、ビジネスとして成立しない機能を作ってしまったり、技術的に無理のある実装を強いてプロジェクトを破綻させてしまったりすることさえあります。 では、私たちには何が必要なのか? そこで私が提唱したいのが、 「製品解像度」 という概念です。 今回は、単なる「お客様解像度」を超え、真の意味でプロダクトを成功に導くための「製品解像度」について、その定義となぜそれが不可欠なのかを紐解いていきます。 「製品解像度」とは何か? まず、「解像度」という言葉についてです。自分の中では解像度は写真の比喩が一番しっくりきます。ピントが合っていない写真は、全体の雰囲気はわかるけれど、重要なディテール(表情・文字・境界線)が見えません。プロダクトでも同じで、解像度が低いと、議論が抽象的になり、判断が“気分”や“声の大きさ”に引っ張られます。逆に解像度が高いと、論点が具体になり、仮説と事実が整理され、意思決定が速くなる。 この「ピントの合い方」を、製品を取り巻く全体に広げたものが“製品解像度”として自分は定義しています。具体的には、次のような観点です。 お客様:誰が、どんな状況で、どんな目的で使っている/使おうとしているか (運用中・導入準備中・導入検討・未検討といったフェーズも含む) システム:制約、データの流れ、既存アーキテクチャ、運用条件 UI/UX:主要導線、つまずきポイント、体験の一貫性 ドメイン:業務知識、法令、慣習、現場の「当たり前」 自組織/他組織:意思決定構造、責任分界、依存関係、コミュニケーション経路 事業戦略:何を伸ばし、何を守り、何を捨てるのか(優先順位) 市場:競合、代替、ポジショニング、差別化要因 未来:中長期の方向性、ロードマップ上の“意味” 開発プロセス/役割:どう作り、どう届け、どう改善していくか 製品解像度とは、 プロダクトを取り巻くエコシステム(生態系)全体に対する理解の深さ を意味します。これら全てを網羅し、それぞれの要素がどう絡み合っているかを理解している状態こそが、「製品解像度が高い」状態と言えます。 まず押さえたい:製品解像度が低いと起きる“あるある” 製品解像度が低い状態は、努力不足というより「見えていないから判断できない」状態です。現場でよく起きる症状を挙げます。 顧客要望をそのまま機能要件に翻訳してしまい、根っこのジョブや制約を見落とす 「これが良さそう」という仮説だけで意思決定してしまい、後から前提が崩れて手戻りする “十分な検討のないトレードオフ”になり、関係者の納得が得られない リリース後、成果が測れず、改善が続かない(やりっぱなしになる) 部署間の認識がズレて、会議で「それは誰が決めるの?」が発生する どれも、個人の能力というより「判断材料が揃っていない」ことが原因です。だからこそ、解像度を上げることが、チームの再現性をつくります。 なぜ「お客様解像度」だけでは不十分なのか? 「お客様第一」は美しい言葉ですが、プロダクトマネジメントの現実はもっと複雑で泥臭いものです。なぜ「お客様解像度」だけでは戦えないのか、その理由を構造的に解説します。 The Product Management Triangle Posted by Dan Schmidt, Product Logic ※ラクスのプロダクト部向けにカスタマイズ プロダクト開発には有名な「プロダクトマネジメント・トライアングル」という概念があります。これは、プロダクトが以下の3つの要素のバランスで成り立っていることを示しています。 開発者(Developers) お客様(Customers) ビジネス(Business) この3つの頂点を繋ぐ辺(関係性)を見てみましょう。 お客様 × 開発者 = UX(ユーザー体験) お客様のニーズを技術でどう解決するか。ここから優れたUXが生まれます。 お客様 × ビジネス = 価値交換(収益) お客様への価値提供が、いかに対価としてビジネスに還元されるか。ここから利益が生まれます。 3. 開発者 × ビジネス = 実現可能性(デリバリー) ビジネスの要求を、限られたリソースと技術でどう実現するか。ここから製品が世に出ます。 もし、あなたが「お客様解像度」しか持っていない場合、見えるのは「1. UX」の領域だけです。 「お客様がこう言っているから機能を追加しよう」と提案しても、それがビジネス的に採算が合わない(2の視点の欠如)ものであれば却下されるでしょう。また、技術的に莫大なコストがかかる(3の視点の欠如)ものであれば、開発チームとの信頼関係を損なうかもしれません。 「製品解像度」を持つということは、このトライアングル全体を俯瞰し、3つの辺すべてを 健全に機能させる視点を持つ ということです。 質の高いアウトプットを生む土壌 「アウトプットの質」とは何でしょうか? 単に「見た目が美しいUI」や「バグのないコード」のことでしょうか? プロダクト開発における「質」とは 、「実現可能性(Feasibility)」と「事業性(Viability)」と「有用性(Desirability)」が高い次元で融合していること です。 お客様の要望(顕在ニーズ)に応えることは重要です。しかし、プロフェッショナルであるならば、その要望をそのまま形にするのではなく、「技術的に最も効率的で」「ビジネスとして持続可能で」「かつユーザーの課題を根本から解決する」ソリューションを導き出さなければなりません。 システム構造を知らなければ、非効率なUIを設計してしまうかもしれません。 事業戦略を知らなければ、来年には不要になる機能を作り込んでしまうかもしれません。製品解像度を高めることは、これら「見落とし」をなくし、手戻りを防ぎ、最初から精度の高いアウトプットを生み出すための必須条件だと考えています。 UX志向を支える「意思決定」の力 プロダクト開発は「意思決定」の連続です。 「Aという機能を優先するか、Bという改善を優先するか」 「リリースを早めるか、品質を高めるか」 こうした岐路に立ったとき、製品解像度の差が如実に現れます。 「OR」ではなく「AND」を模索する 解像度が低いと、安易なトレードオフ(ORの決断)に逃げがちです。 「ビジネス側の要求だから、UXは諦めよう(Business OR UX)」 「技術的に難しいから、仕様を落とそう(Tech OR UX)」 しかし、製品解像度が高い人は、各要素のつながりが見えているため、「AND」の解を模索できます。 「技術的にはこの制限があるが、UIの工夫でユーザーの負担は減らせるのではないか?」 「ビジネス目標のKPIは、この機能を少し簡略化しても達成できるのではないか?」 ビジネスの制約(利益・コスト)、技術的な制約、そしてお客様のニーズ。これら全てを深く理解しているからこそ、単なる妥協ではない、創造的な第三の案を生み出すことができるのです。 「架け橋」としての役割 プロダクト部のメンバーには、ビジネスチームと開発チームの「架け橋」としての役割が求められます。 通訳をイメージしてください。英語しか話せない人と日本語しか話せない人の間に入る通訳が、片方の言語しかわからなかったらどうなるでしょうか? 会話は成立しません。 これと同じです。 ビジネスサイドの言語(売上、KPI、市場シェア)と、開発サイドの言語(アーキテクチャ、工数、技術的負債)。そしてお客様の言語(使いやすさ、課題解決)。 これら全ての「言語」を理解し、翻訳できるのが「製品解像度が高い人」です。 ビジネスチームには「なぜこのUX改善が将来の売上につながるのか」をロジカルに説明し、開発チームには「なぜこのビジネス要件が重要で、どう実装するのが最適か」を技術背景を踏まえて相談する。 この動きができる人材こそが、組織の中で真に信頼されるプロダクトパーソンとなれるのです。 ラクス プロダクト部としての「UX志向」 プロダクト部では本組織が組成される前(PdM組織の頃)から、以下を提示して、メンバーや自分自身もこれに従うようにしています。 製品解像度を高めるために では、どうすれば製品解像度を高めることができるのでしょうか? 明日からできるアクションをいくつか提案します。 1. 「越境」を恐れない 自分の担当領域の外に出ましょう。デザイナーなら、売上の数字を見てみる。エンジニアなら、営業に同行してお客様の声を聞く。プロダクトマネージャーなら、システム構成図を書いてみる。 「それは私の仕事ではない」と線を引いた瞬間、解像度の上昇は止まります。 2. 「なぜ?」を問い続ける 仕様書や要件定義書を見たとき、そこに書かれていることの背景を想像してください。 「なぜこの機能が必要なのか?(ビジネス背景)」 「なぜこの実装方法なのか?(技術背景)」 「なぜ今なのか?(市場背景)」 わからないことは、その領域のプロフェッショナル(営業担当やエンジニア)に質問しましょう。彼らは自分の領域に関心を持ってくれる人を歓迎するはずです。 3. プロダクトの「歴史」と「未来」を知る 過去の意思決定の経緯(なぜこの機能があるのか)を知ることで、現在の制約の意味がわかります。そして、ロードマップ(未来の構想)を知ることで、今作るべきものの優先順位が見えてきます。点ではなく、線でプロダクトを捉えましょう。 製品解像度が上がると何が起きるか:アウトプットの質が変わる 製品解像度の価値は、抽象論ではなく、アウトプットに表れます。具体的には次の変化が起きます。 1) 要求仕様が“外れにくくなる” 解像度が高いと、論点の抜け漏れが減り、前提が揃うので、要求仕様(PRD)やデザインが当たりやすくなります。組織の重点取り組みでも「製品を取り巻く解像度を向上し、外れのない要求仕様を策定して開発に提供できる状態」を目指す、と明確に言語化されています。まさにここが、製品解像度が“成果”に変わる瞬間です。 2) トレードオフの説明責任が果たせる UXは必ずトレードオフの連続です。どれを捨て、どれを採るか。その判断が“十分な検討のないトレードオフ”になってしまうと、ステークホルダーは納得しないし、ユーザーも幸せにならない。製品解像度が高いチームは、制約を含めて説明できるので、合意形成が進みます。 3) 「事実に基づく」文化が回りやすくなる お客様の声、利用データ、市場情報、開発・運用の実態。これらを同じテーブルに乗せられるようになると、仮説と事実が区別され、議論の質が上がります。「なんとなくこう思う」から、「この事実があるからこう判断する」へ。UX志向の行動原理と相性が良いのはここです。 4) “作って終わり”から“学習して伸ばす”に変わる 解像度が高いチームは、指標(NSMや関連指標など)を置き、リリース後に成果を回収し、開発にも共有して次に活かします。改善が単発のイベントではなく、学習ループになります。 おまけ:製品解像度を上げるための「10の問い」(会議で使える) この問いは、答えを完璧に揃えるためというより、「ピントが合っていない領域」を早めに炙り出すために使ってもらえればと思います。 おわりに:最高のUXへの近道 「製品解像度を持つべきだ」という主張は、一見するとUX志向とは対極にある「ビジネス寄り」「システム寄り」の話に聞こえるかもしれません。 しかし、逆です。 本当に優れたUXを実現したいのであれば、製品解像度を高めることが一番の近道 なのです。 お客様のことしか見ていない「優しさ」は、時にプロダクトを脆弱にします。 ビジネスと技術という現実の厳しさも含めてプロダクトを愛し、理解する「強さ」こそが、長く愛され続けるサービスを育てる土壌となります。 私たちプロダクト部のメンバー一人ひとりが、お客様解像度だけでなく、この「製品解像度」という武器を持ったとき。私たちの組織は、ビジネスの要請にも、技術の進歩にも、そして何よりお客様の期待にも、かつてない高いレベルで応えられるようになるはずです。 まずは今日、隣の席の別職種のメンバーに、彼らが見ている「製品の景色」について聞いてみることから始めてみませんか? 製品解像度を上げることは、意思決定の質を上げるだけでなく、結果として“お客様の業務が止まらない/迷わない”体験に直結すると自分は思っています。 記事を読んでラクスのプロダクト部に興味を持ってくださった デザイナー/PdM の方 は、ぜひカジュアル面談からご応募ください。 ※プロダクトマネージャーのカジュアル面談は、基本的に私(稲垣)が担当します! ●採用情報 デザイナー career-recruit.rakus.co.jp   └ デザインマネージャー career-recruit.rakus.co.jp /アシスタントマネージャー [ career-recruit.rakus.co.jp
こんにちは、プロダクト部 部長の稲垣です。(自己紹介やこれまでのキャリアについて↓をご覧ください。) tech-blog.rakus.co.jp 昨年、「 オペレーショナル・エクセレンス――業務改革(BPR)の理論と実践 」を読み、2026年に入り、たまたまイベントで同じ話題があったので、自分なりに整理するために記事を書こうと思います。 www.docswell.com 1. はじめに 2. 優良企業が持つ「3つの価値基準」 1.プロダクト・イノベーション(Product Innovation) 2.カスタマー・インティマシー(Customer Intimacy) 3.オペレーショナル・エクセレンス(Operational Excellence) なぜ「3つ全て」を目指してはいけないのか 3. なぜPdMは「オペレーショナル・エクセレンス」を軽視するのか オペレーショナル・エクセレンスは「守り」ではなく「最強の攻め」 4. PdMが再定義すべき3つの戦略アプローチ ① オペレーショナル・エクセレンス戦略: ② カスタマー・インティマシー戦略: ③ プロダクト・イノベーション戦略: 5. プロダクトマネージャーは「機能」ではなく「利益構造」を作る 結論:オペレーショナル・エクセレンスはあらゆる現場で必要である 1. はじめに アメリカのコンサルタントであるマイケル・トレーシー氏とフレッド・ウィアセーマ氏が1995年に著書『 ナンバーワン企業の法則 』の中で提示されている、優良企業に共通する3つの戦略的指標として以下を挙げています。 カスタマー・インティマシー 良い顧客をつかむ プロダクト・イノベーション 良い製品を生む オペレーショナル・エクセレンス 業務で利益を生む 「プロダクトマネージャー(PdM)」という職種において、自分として憧れるのはいつだって「 プロダクト・イノベーション 」です。 iPhoneのような革命的なデバイス、あるいはChatGPTのような世界を変えるAI。誰も見たことのない機能を実装し、技術力で市場を圧倒する──。そんな「製品の力」で勝つストーリーは魅力的ですし、PdM冥利に尽きると感じています。しかし、あえて厳しい現実を直視するところから始めたいと思います。 今の日本の市場環境において、「プロダクト・イノベーション」だけで勝ち続けられる企業がどれだけあるでしょうか? 機能はすぐに模倣され、技術的な優位性は瞬く間にコモディティ化します。初期の先行者利益は、後発の大資本や、より効率的な組織にあっという間に差を詰められてしまうのが常です。 私はこれまでの経験を通じて、感じていることがあります。 事業を継続的に存続させ、さらに成長させるために真に必要なのは、派手なイノベーションよりも、「オペレーショナル・エクセレンス(業務の卓越性)」である、と。 今回は、書籍『 オペレーショナル・エクセレンス 』(田中陽一 著)などで語られる「3つの価値基準」というフレームワークを補助線に、これからのPdMが持っているとよいのでは?という考え方についてまとめます。 2. 優良企業が持つ「3つの価値基準」 まず、企業の競争優位性を語る上で欠かせない「3つの価値基準(The 3 Value Disciplines)」について整理してみます。マイケル・トレーシーらが提唱したこの理論では、市場のリーダー企業は以下の3つのうち「どれか1つ」に卓越しており、他の2つでも「業界平均以上の水準」を維持しているとされます。 1.プロダクト・イノベーション(Product Innovation) 価値: 「製品」そのものが最高であること。 特徴: 最新技術、革新的な機能、デザイン性。他社には作れない製品を市場に投入し続ける力。 2.カスタマー・インティマシー(Customer Intimacy) 価値: 「顧客との関係」が最高であること。 特徴: 顧客ごとの個別ニーズへの対応、手厚いサポート、長期的なパートナーシップ。「私のことを誰よりもわかってくれる」という信頼。 3.オペレーショナル・エクセレンス(Operational Excellence) 価値: 「業務プロセス」が最高であること。 特徴: 低コスト、便利、早い、正確、ストレスフリー。購入から利用までのプロセスが極限まで効率化・標準化されている状態。 なぜ「3つ全て」を目指してはいけないのか 「最高の製品を、最高のサポートで、最安値で提供する」。 一見理想的に見えますが、リソースが分散し、全てが中途半端になる「スタック・イン・ザ・ミドル(どっちつかず)」の状態に陥ります。ここで重要なのは、「自分たちの勝ち筋はどれか?」を明確に定義することだと感じています。 そして、多くのWebサービスやSaaS、B2Bプロダクトにおいて、最も再現性が高く、かつ強固な競合優位性となり得るのは「 オペレーショナル・エクセレンス」 なのではと感じています。 3. なぜPdMは「オペレーショナル・エクセレンス」を軽視するのか 多くのPdMは、どうしても「①プロダクト・イノベーション」にリソースを割きたいと感じますし、自分もこれまでそうでした。「新機能」「AI活用」「特許技術」といった言葉は魅力的です。 一方で、「オペレーショナル・エクセレンス」は地味です。 業務フローの標準化、マニュアルの整備、オンボーディングの自動化、問い合わせ削減、API連携の強化……。これらは「機能」としてプレスリリースを出しにくく、ユーザーの目にも止まりにくい。 しかし、顧客がサービスを選ぶ理由を因数分解してみます。 特にB2Bや実用系サービスの場合、顧客の本音はこうです。 「すごい機能はいらないから、迷わず使いたい」 「担当者と仲良くしたいわけじゃなく、面倒な業務を早く終わらせたい」 「導入コストが安くて、社内稟議が通りやすいものがいい」 これらは全て、製品の「革新性」ではなく、 提供プロセスの「卓越性(オペレーショナル・エクセレンス)」 に対するニーズです。 オペレーショナル・エクセレンスは「守り」ではなく「最強の攻め」 オペレーショナル・エクセレンスを「コスト削減(Cost Cut)」と混同してはいけないと感じています。オペレーショナル・エクセレンスとは、 「競合が模倣できない仕組み」 そのものです。 例えば、ある企業が素晴らしい新機能をリリースしたとします。競合他社は、その機能を3ヶ月あればコピーできるかもしれません。 しかし、その企業が持つ「誰が売っても売れる営業プロセス」「問い合わせが来ないほど洗練されたUI」「ミスが起きない開発フロー」といった 裏側のオペレーションをコピーするには、数年単位の組織変革が必要 になります。つまり、 オペレーショナル・エクセレンスこそが最も深い「Moat」 になるのでは?と思います。 4. PdMが再定義すべき3つの戦略アプローチ では、オペレーショナル・エクセレンスを軸に据えたとき、PdMは具体的にどう動くべきか? 「3つの価値基準」を再解釈し、PdMのアクションプランに落とし込んでみます。 ① オペレーショナル・エクセレンス戦略: テーマ: 「摩擦ゼロ(Frictionless)」と「標準化の強制」 ここでのPdMのミッションは、 「顧客が製品を知り、使い始め、定着するまでのコスト」を極限まで下げる ことです。 徹底した標準化(Config, not Custom): 顧客の「あれもこれもできる」という要望に応えるのは、一見親切に見えて、実はオペレーショナル・エクセレンスを破壊します。PdMは勇気を持って「No」と言わなければなりません。「業界のベストプラクティスはこれです」と提示し、顧客の業務をプロダクトに合わせて変えてもらう(標準化する)。これにより、開発・保守・サポートのコストを劇的に下げ、その分を価格や品質に還元するのです。 「自走型プロダクト」の実現: 営業やCSが説明しなくても使えるUI/UXを目指します。マニュアルを読まなくても直感的に操作できること。これが究極のオペレーショナル・エクセレンスです。「サポートが手厚い」ことよりも、「サポートがいらない」ことの方が、現代においては価値が高いと感じます。その状態において+αのサポートこそ武器となると感じています。 ② カスタマー・インティマシー戦略: テーマ:「スケーラブルな親密さ」 オペレーショナル・エクセレンス重視の場合、一対一のベタ付き対応(ハイタッチ)はコスト構造上できません。しかし、インティマシー(親密さ)を捨てるわけではありません。「データと仕組み」で代替するのです。 データドリブンな先回り: 「最近ログインしていない」「特定の設定で詰まっている」といった状況をデータで検知し、自動でフォローメールを送る、あるいは画面上にガイドを出す。人間が電話をかけるのではなく、プロダクトが「あなたのつまずきに気づいていますよ」と語りかける設計です。 コミュニティの活用: 顧客同士が助け合う場を作ること。これも、企業の工数をかけずに顧客満足度(所属感)を高める高度な戦略です。 ③ プロダクト・イノベーション戦略: テーマ:「入力ゼロ(Zero Input)への進化」 ここでのイノベーションは、「新しいことができる」ではなく「やらなくていい」を作るために使います。 「作業の消滅」を目指す: AIや新技術を導入する目的はただ一つ。「ユーザーの作業を減らすこと」です。 例えば、精度の高いAI-OCRを入れるのは、「すごい技術」を見せるためではなく、「手入力」という不快な作業を消し去るためです。 UXのモダナイゼーション: 機能表には載らない「サクサク動く」「スマホで見やすい」といった品質(非機能要件)への投資です。これは地味ですが、レガシーな競合に対する強力なイノベーションとなり得ます。 5. プロダクトマネージャーは「機能」ではなく「利益構造」を作る これからのPdMに求められるのは、単に「仕様書を書くこと」でも「アジャイル開発を回すこと」でもありません。 「プロダクト、顧客対応、業務プロセス、これら全て(End-to-End)を含めた『勝てる仕組み』を設計すること」 です。プロダクト・イノベーションだけで勝てる企業は、私が知る限りでは少ないように感じています。 一方で、オペレーショナル・エクセレンスを極め、そこに適切なインティマシーとイノベーションを組み合わせている企業は、不況下でも強く、利益を出し続けているように感じます。 結論:オペレーショナル・エクセレンスはあらゆる現場で必要である 「うちはイノベーションで売っているから関係ない」 そう思う現場こそ、私の経験上では危険なように思います。イノベーションで一時的に注目を集めても、それを顧客に届けるプロセスが非効率であれば、利益は出ません。サポートがパンクし、開発がバグ修正に追われ、やがて組織が疲弊します。 逆に、オペレーショナル・エクセレンスという強固な土台があれば、そこで生まれた余剰リソース(金・人・時間)を、次のイノベーションへの投資に回すことができます。オペレーショナル・エクセレンスは「守り」ではなく、 「次の攻め」を生み出すためのエンジン なのです。 もしあなたが今、PdMとして「次にどんな機能を作るべきか」悩んでいるなら、一度視点を変えてみるのもよいかもしれません。 「どうすれば、顧客がこの機能を『説明なし』で使えるようになるか?」 「どうすれば、社内の開発・運用プロセスがもっと『ラク』になるか?」その問いの先にこそ、持続可能なプロダクトの未来があるはずです。 地味で泥臭い「オペレーション」の中にこそ、プロダクトマネジメントの本質が眠っているように思います。 記事を読んでラクスのプロダクト部に興味を持ってくださった デザイナー/PdM の方 は、ぜひカジュアル面談からご応募ください。 ●採用情報 デザイナー career-recruit.rakus.co.jp   └ デザインマネージャー career-recruit.rakus.co.jp /アシスタントマネージャー career-recruit.rakus.co.jp
タイミーのプロダクトマネージャーの飯田です。 今回は、12/4に開催された プロダクトマネージャーカンファレンス (以下pmconf)に参加してきました。このイベントを通じて非常に有意義な学びを得られたため、タイミーのプロダクトマネージャー(柿谷、小宮山、鈴木、小西、佐々木、楠本、飯田)から、各セッションから学んだ内容を、全3回の記事で紹介します。 (本記事は、全3回のうち、Part1です。) ▪️Part2・Part3はこちら pmconf2025に参加してきました part2 pmconf2025に参加してきました part3 どんなPMに機会が与えられるか?与えるべきか? 登壇者: Product People株式会社 / 代表取締役 プロダクトコーチ  横道 稔 氏 株式会社SmartHR / プロダクトマネジメント統括本部 タレントマネジメントプロダクト本部 本部長 松栄 友希 氏 横道さんと松栄さんによるセッションを聴講しました。組織の中で、マネージャーは誰に、どの程度の難易度の機会を渡すのか?その意思決定の裏側にある「アサインの論理」が語られました。 特に印象に残ったのは、機会を引き寄せる要素として挙げられた以下の3点です。 突撃力というコミットメント わからないことがあれば「初めまして!」と飛び込み、20人にヒアリングできるような行動力。「わからないことを、わからないと聞きに来られる人」これは単なる元気の良さではなく、不確実な状況でも「何とかする」という高いコミットメントの証明であり、マネージャーがアサインする上での重要な要素である。 思考力とは「言葉の精度」 よく「地頭が良い」と表現されるが、これは先天的なIQの話だけではなく、「言葉を曖昧に使わず、前提を揃える力」と定義されていた。認識のズレが命取りになるPdMだからこそ、論理的かつ構造的に言葉を扱える能力が不可欠である。 「経験」ではなく「ペイン」に向き合う 「新規事業を経験したい」という自分主語の動機だけでは機会は巡ってこない。「このユーザーのこのペインを解消したい」という課題への執着心があるか。そして、その挑戦が本人のスキルに対して「パニックゾーン」に入りすぎていないか(現実的に遂行可能か)という冷静な判断のもとで機会は与えられる。 感想 自身の転職活動中も「地頭」という言葉を頻繁に耳にし、どこか先天的な才能のように感じて不安になることがありました。しかし、本セッションで「思考力とは、言葉の定義にこだわり後天的に磨けるスキルである」と定義されたことに、非常に勇気をもらいました。 ただ「やりたい」と手を挙げるだけでなく、曖昧さを排除して解像度高く仕事に向き合う姿勢や、不明確な事象・状況でも物怖じしない姿勢こそが、次の仕事の機会を引き寄せるのだと感じました。 (執筆:鈴木亜由子) 海外SaaSに学ぶプロダクト成長の新しい指標 - Product Engagement Score- 登壇者: Pendo.io Japan株式会社 / Technical Account Services PdM Consultant 若松 研二朗 氏 Pendo.io Japan株式会社によるセッションを聴講しました。内容が非常に示唆に富んでいたため、レポートとして整理します。特に、タイミーが今後「事業者の業務深層に入り込むソリューション提供」へ拡張していく上で参考になると感じました。 Pendo.io(ペンド)社について Pendoは、2013年に米国で設立された、プロダクトマネージャー(PdM)のためのオールインワン・プラットフォームを提供する企業です。 「ユーザーがプロダクトをどのように使い、何を求めているか」を可視化・分析し、コードを書かずにアプリ内ガイドなどを実装することで、プロダクトを通じたユーザー体験の最適化(Product-Led Growth)を支援しています。Fortune 500に名を連ねる企業から成長著しいスタートアップまで、世界中で利用されています。 PES(Product Engagement Score)とは PESは、プロダクトの「 真の健康状態 」を測定するための複合指標で、以下の3つの重要指標の平均値で算出されます。 Adoption(採用率) :全ユーザーのうち、コア機能を使いこなしているユーザーの割合 Stickiness(継続性) :ユーザーが毎日、あるいは毎週継続的に戻ってきている頻度 Growth(成長率) :新規・既存ユーザーの増加スピード 【なぜPESが主流になっているのか】 従来の「DAU/MAU(アクティブユーザー数)」などの指標だけでは、「ログインはしているが活用はしていない」というユーザーを見抜くことが困難でした。SaaS市場が成熟する中、単なる集客ではなく「機能の深い活用」が解約防止やLTV向上に直結するため、多角的にエングージメントを測るPESが世界的な標準指標となりつつあります。 海外SaaSにおける導入事例: ① Okta :Adoptionの低い特定の重要機能を特定。Pendoのインアプリガイドを活用してユーザーを誘導した結果、プロダクト採用率25pt向上。 ② Adobe :新機能リリース後のGrowthとAdoptionをPESで常時モニタリング・機能案内を自動化することで新機能が「標準」として使われるまでの期間を大幅に短縮化。 タイミーにおけるPES活用の可能性 今後タイミーが長期アルバイト採用や特定領域のJOBタスク化へとソリューションを広げるにあたり、特定タスクの習熟度などの「Adoption(活用度)」を可視化することで、クライアントの事業成長への寄与を定量化できる可能性があります。 また、業界特有のフローに合わせた操作支援をプロダクト内で完結させれば、CSM(カスタマーサクセスマネージャー)によるサポートに頼りすぎず、レバレッジの効いた事業スケールが可能になると思いました。 (執筆:佐々木富美) 絶対に失敗しない。toB領域プロダクトのGTM戦略フレーム 登壇者: 株式会社estie / 執行役員 マーケットリサーチ事業本部 本部長 久保 拓也 氏 登壇資料: speakerdeck.com 株式会社estie(エスティ)について オフィス不動産データ分析プラットフォーム「estie(エスティ)」、賃貸管理システム「estie 管理」などの開発・運営。 日本最大級のオフィス不動産データ基盤を保有し、不動産業界(デベロッパー、アセットマネジメント会社等)のDXを推進するバーティカルSaaS企業です。 本セッションでは、PMFを「Product × Market × GTM」の掛け合わせととして再定義し、販売チャネル(GTM)まで含めて設計・検証することの重要性が説かれていました。特に、単一プロダクトの成功に留まらず、複数のプロダクトを戦略的に組み合わせる「プロダクトポートフォリオ」の視点が非常に参考になりました。 GTMまで含めたPMFの設計 一般的にGTMは「作った後にどう売るか」という後工程の戦略と捉えられがちですが、本セッションでは「GTMまで含めて設計されて初めてPMFが成立する」という点が強調されました。 プロダクト単体の機能だけでなく、既存資産を活かしていかに効率よく市場へ届けられるかという「勝ち筋」をセットでアセスメントする必要性を強く認識しました。 マルチプロダクトによるWhole Product(ホールプロダクト)の実現 タイミーにとって、圧倒的な集客力を誇る「スポットワーク求人」は、クライアントがタイミーの価値を即座に体感し、プラットフォームへ定着するための「エントリープロダクト」としての役割を果たしていると考えています。 estie社の事例のように、この起点で得たデータを活かし、周辺課題を解決するプロダクトを順次投入して「Whole Product」として顧客価値を最大化させる考え方は、今後の長期アルバイト採用や正社員採用への拡張戦略において不可欠な視点だと感じました。 (執筆:佐々木富美) Part2に続く。 ▪️Part2・Part3はこちら pmconf2025に参加してきました part2 pmconf2025に参加してきました part3

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