事例から紐解くDX──IoTのミライが生み出すビジネスモデル変革とは?

イベント
2019年9月2日に開催された「事例から紐解くIoTのミライが生み出すビジネスモデル変革!」イベントには、アビームコンサルティングのプリンシパル、ショッピングセンター「PARCO」のデジタル担当役員、IoT家電のスタートアップCEOなど3名が登壇。IoTの事例、デジタル技術やサービスの発想・実装の際に意識することなどを、プレゼンテーションならびにトークセッションを通じて紹介した。
事例から紐解くDX──IoTのミライが生み出すビジネスモデル変革とは?

デジタル技術は手段であり、目的ではない

まずはアビームコンサルティングの橘知志氏が登壇。Ditigital Transformation(以下、DX)の定義から、導入を進める上での課題、アビームコンサルティングが考えるDX。実際の導入事例などを紹介した。

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▲アビームコンサルティング株式会社 P&T Digital ビジネスユニット IoTセクター 執行役員 プリンシパル 橘知志氏

DXの定義については、昨年12月に発表された経産省の内容を踏襲。「デジタルデータとデジタル技術を使って製品やサービス、新しいビジネスを作り、競争の優位性を確立すること。合わせて、業務・組織・プロセス・企業文化・風土を変革すること」と定義した。

続いてDXを導入・進める上での課題についても、日々クライアントとやり取りしているコンサルタントならではの見解を述べた。

「DXを進める上では、いくつかの課題があると考えています。まずは、やみくもにDXを進めようとするケースです。経営者が一方的にAI・DXを導入しろと部下に言い、全社的なまとまりもなく、言われた社員が小さなまとまりで進めてしまう。大抵そのような場合は小さく始まり、小さく終わることが多いです。実際、我々にも『DX・AIのアイデアください』といった本質を理解していない問い合わせがあります」(橘氏)

橘氏は、「DXをやること」が目的になってしまっていることが問題だと指摘。AIなどのデジタル技術はあくまで手段であり、同技術を使って何がしたいのか。どのようなインパクトをビジネスに興し、結果として業績アップに繋げるかがポイントだと言及。言い方を変えれば、目的が定まっていないと、数多くあるデジタル技術のどれを使っていいのか分からない、と続けた。

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「ご覧のように、デジタル技術は数多くあり、また汎用的です。つまり使用目的がはっきりしていないと、導入するテクノロジー選定およびその活用、価値創出が難しい。またビジネスドリブンでいくのか、技術ドリブンでいくのか。我々は両方進める場合が多いですが、予め方向性を決めておくことが重要です」(橘氏)

プロセス変革、プロダクト変革の2軸がDXを進める上で重要

同社では、データサイエンス、業務プロセス、戦略、IT、OT(オペレーショナルテクノロジー)など、DXを進める上で必要な各領域の専門家を擁する。だが、何でもできます的な依頼や、一昔前のコンサルタントのようなプッシュ型のやり取りは行っていない。

顧客と一緒になってヒアリングなどを通じ、先の目的を検証する。その上で、足りない技術や人材をアサインする形でDXを進めるケースが多いからだ。また短期間でスピーディーに進めるのも最近の傾向だという。

そんな同社のDXの特徴ならびに、実際これまでクライアントに行ったコンサルタントをまとめると、以下スライドの2つの流れにカテゴライズされる。

・プロセス変革:バリューチェーン全体の効率化アプローチ
・プロダクト変革:製品やサービスの付加価値向上アプローチ

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「プロセスを変革するのか、プロダクトを変革するのか、ということです。デジタル技術を活用して生産ラインを効率化する改善は、イラストの左部分で前者になります。一方、最近多く見られるサブスクリプションサービスは後者となります。どちらの領域からDXを進めるかは企業によって異なりますし、両方同時に進めているクライアントもあります。いずれせよ最終的なゴールはビジネスモデルを変革し、業績アップを実現することです」(橘氏)

【導入事例①】SOHO向けプリンターメーカー/プロセス変革

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試作/実験/評価部署の製品チェック業務を、IoTを導入することでデジタル化。得たデジタルデータをAIが解析し、設計開発部署/担当者にフィードバックするDXを行った。さらに同品質評価をアルゴリズム化し、試作プロセスだけでなく、工場の量産や出荷後の製品内にまで組み込み、ユーザーの挙動ログまで収集・解析できるようにした。つまりバリューチェーン全体を横断したプロセス改革となった。

「バリューチェーン各所の挙動データをフィードバックすることで、より高い品質の設計が可能になります。またどの領域で不具合が起きているのかの特定も可能となります。メーカーに勤めている方であればご存知だと思いますが、値段や流通などの影響で、部品および提供元のサプライヤーは日々変わりますよね。しかしこのスキームを活用すれば、新しく取引をはじめたA社の部品はどうも品質がよくない、といったことが分かります」(橘氏)

【導入事例②】住設メーカー/プロダクト変革

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冷蔵庫、ガスコンロ、照明器具などの住宅設備をIoT化すると同時に、スマホやスマートスピーカーと連動させることで、新たなユーザー価値を提供する。さらにこれらのデバイスから得たデジタルデータを活用し、顧客満足度の価値を向上する製品やサービスの創出に繋げようとの事例だ。

「実際に集めたデータを分析すると、誰が何時にどの設備を使ったのか。データ量が増えるにつれ、地域、家族の属性による特徴も見えてきました。そこでこのクライアントは自社製品へのフィードバックだけでなく、集めたデータを必要としているアライアンス先を探す動きも展開。まだ明確なビジネスにはなっていませんが、先のスマートスピーカーのような斬新な製品やサービスを開発しようと意気込んでいます」(橘氏)

ただしこの手のDXは技術的に簡単に実現できるため、アイデアを発想したらすぐに 実行することが重要だと補足した。

【トークセッション開始】会社紹介:PARCO、Shiftall

ここからは3名のトークセッションに。まずは2人の自己紹介からスタートした。

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▲株式会社パルコ 執行役 グループデジタル推進室担当/株式会社パルコデジタルマーケティング 取締役 林直孝氏

:ライフスタイルを提案するショッピングセンターとして開業したPARCOは、今年50周年を迎えます。そんな節目を機に、店舗展開を積極的に進めています。

3月には「錦糸町PARCO」を、6月には初めての出店エリアとなる沖縄に地元の小売事業会社とジョイントベンチャーを設立し「サンエー浦添西海岸 PARCO CITY」を、8月には川崎駅前に「川崎ZERO GATE」を開業しました。そしてまさにここ渋谷エリアには、2016年から建替えのため休業している「渋谷PARCO」を11月22日に開業します。

これら新しいショッピングセンターは、まさに本日のテーマであるIoTなどのテクノロジーを導入する必要があるだろうと、いろいろな施策を仕込んでいます。

* PARCO50周年特設サイト

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▲株式会社Shiftall 代表取締役CEO 岩佐 琢磨氏

岩佐:ランボルギーニという車がありますよね。スピードはむちゃくちゃ速いし、サイズも大きく、カラリーングもど派手。いわゆるぶっ飛んでいるスポーツカーです。

正直、街乗りには向きません。値段も7000万円ほどしますから、顧客も限られている。でも最新のテクノロジーなども導入し、粛々とビジネスを展開している。それも老舗大企業であるフォルクスワーゲングループの中で、あれだけエッジが立ったものづくりやビジネスをしているわけです。

僕の会社Shiftall(読み:シフトール)も、まさに同じような価値観やブランドイメージでビジネスを展開しています。パナソニックという大企業のグループでありながらも、次々と斬新なIT家電を開発しています。

* Shiftallが開発するプロダクト

【トークセッション①】なぜデジタル・新ビジネス領域に踏み出したのか?

新しいもの、ゼロイチのビジネスが好き

岩佐:新しいもの、ゼロイチのビジネスを生み出すのが好きなタイプでした。そこで就職した松下電器(現:パナソニック)で、何か面白いことはできないかと探していたんです。

当時はインターネットが世の中に浸透していく時期で、インターネットで何かできないかと。ただ楽天やlivedoor、Googleなど。パソコン上のネットサービスは既に先駆者がいましたから、これから始めても面白いことには関われないんじゃないか、と。

そんなことを考えていたら、家電などに組み込まれているファームウェアをネット経由でアップデートすることで、家電に新しい機能が追加されるような、今でいうIoTの走りのようなテクノロジーが出てきたんです。これだ、と思いましたね。それで家電✕インターネット領域で勝負しようと思ったわけです。

独立したのは、「IoT? 何言ってんだ、お前」と相手にしてもらえなかったからです(笑)。当時はテレビを作れば作るだけ売れるような時代であり、ニッチな領域を探りに行こうという風潮がなかったからですが。

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:PARCOも岩佐さんと同じように、新しいものが好きな社風です。ですからこれは今聞いて驚いたのですが、岩佐さんより前の2000年に既に、パルコ・シティ(現パルコデジタルマーケティング)という関連会社をつくり、同時期に流行っていたガラケーを使ったインターネット接続サービスiモードのサービスなど、インターネット・デジタル関連のビジネスに着手していきました。

PARCOはお客様に実店舗に来ていただき、店舗でご購入いただく「オフライン✕オフライン」のビジネス形態が出発点です。しかし昨今はスマホやインターネットの台頭、IoTなどのテクノロジーが進化したことで、Amazon Goのように店舗をデジタル化することも可能になりました。

このような背景もあり、オン・オフどちらも交じり合った「アフターデジタル」な感覚で、これからはビジネスを進めていきたいと考えています。実際、先ほどご紹介した新店舗では、まさにそのようなテクノロジーを導入した仕掛けを施しています。

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:当社のデジタル部門には、立ち上げメンバーとして参画していました。ただ実際に設立してみると、これまでのコンサルティング手法が通じない領域なので、あれこれと模索している、というのが正直なところで、最近ようやく手法が分かってきた状況です。

先に紹介した内容です。企業が既に持っているコアなリソースにデジタルをかけ算したり、エッセンスとして加えることで、何か新しいビジネスが創造されたり、あるいは業績アップに繋げていきます。

ただ現在の手法よりも効果的な方法があるのではと、より良い手法を常に模索しています。

【トークセッション②】アイデアの源泉・実現の方法は?

アジャイル開発で作ったMVPは顧客を絞り、“早く”市場に出す

岩佐:新しいアイデアって、実は誰もが思いついているし、発想もしていると思うんですよね。よく例に挙げるのが、新橋の飲み屋で管を巻いているサラリーマンの会話です。「空飛ぶ車がほしい」とか「新橋から渋谷まで1分で行けたら楽だよな」といった、酒の席での他愛もない会話ですが、僕からしてみれば、まさにゼロイチのアイデアだと感じるからです。

ただ、そこから先。会社の中で具体的なプロジェクトとして認められ、実装・マーケットへのローンチをするフローが難しいのだと。

そこで僕らがよくやっている手法を紹介します。アジャイル開発です。アジャイルと聞くとソフトウェアの開発手法だと捉える人が多いようですが、決してそんなことはありません。先のようなアイデアをとにかく素早く形にして市場へ投入する。そして市場からのフィードバックをイテレーション(繰り返し)することで、より良いプロダクトに仕上げていきます。

市場に出してもクレームが出ないギリギリの仕様を備えたMVP(Minimum Viable Product)であること。試す市場はクレームが出づらい、マスではなくニッチな領域であることも重要です。カスタマーを選ぶ、とも言えます。

例えば、ガジェットマニアが集うショップでのみ販売するとか。海外のクラウドファンディングのみで流通させるとか。いずれにせよ大手家電メーカーがやっているような大規模な宣伝広告ではないことがポイントです。

時代背景もこのようなものづくりを後押ししています。以前であれば、僕らが起業した時代(12年前)、数万円程度の家電の最小ロットは数千台~1万台といった規模感でした。しかし最近では日本のスタートアップといえば、中国・深センの工場でも500台ほどの小ロットで生産を受けてくれるとこがありますから。

また発売後のカスタマーとのやり取りにおいても、チャットボットなどを使えば、それほど経費をかけることなく先のフィードバックを得ることができます。

他のサービスやアイデアからヒントを得る

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:アイデアの発想においては、岩佐さんがおっしゃられた通りだと思います(笑)。また実現方法についても、私たちも同じような取り組みをしていて、渋谷の新店舗に備える「BOOSTER STUDIO(ブースタースタジオ)」はまさに象徴です。

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* BOOSTER STUDIO詳細

このスタジオの目的は商品を売ることではありません。そのためレジもありません。置かれている商品は先のMVPと同じく、テストマーケティング段階の商品となります。その開発段階の商品を、お店を訪れたお客様に使用していただき、良い点、悪い点、追加してほしい機能や仕様などをヒアリングします。

そこで得た情報を製品づくりに携わるメンバーや組織にフィードバックし、より良い製品やマーケティングに繋げようとの取り組みで、日本初となる実証実験に特化したショールームでもあります。

市場の選択に関しても、岩佐さんの意見に近いと感じています。スタジオの運営やユーザーからのフィードバックは、クラウドファンディングの大手・CAMPFIRE社とパルコが共同運営するクラウドファンディング「BOOSTER」上でも行っているからです。

アイデアの発想においては、もうひとつ付け加えたいことがあります。既に世の中にある便利なツールや魅力的なサービスからヒントを得て、採用できるものはする、というスタンスが大事だと考えているからです。

例えば、2014年から運営しているスマホアプリ「POCKET PARCO」。お買い物やチェックインなど、お客様の挙動に対してポイントを付与するサービスですが、スタート時は、無印良品さんの「MUJI passport」にインスパイアされています。

機能についても同じです。後から追加した2つのサービスは、既存のサービスでいいと思ったものからヒントを得ています。例えば、購入後のアンケート・評価機能はライドシェアサービスアプリなどの評価の仕組みを参考にしています。

館内を一定距離歩くとポイント付与される機能は、位置情報と連携したゲームアプリなどからヒントを得ています。そのため後者に関しては、今は一律同ポイントの付与となっていますが、いずれは個々のお客様に、まさにゲームアプリのように異なるサービスを提供したいと考えています。

実装できるかどうかはとりあえず置いておくとして、こんな機能を自社の製品やサービスに取り入れたら、ユーザーは喜んでくれるだろうな。このような視点は、常に持っていることが大切だと思います。

海外出張に行ったらAirbnbで泊まる

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岩佐:今のお話に関連しますが、僕も海外に出張した際は、現地のAirbnb(エアビー)で泊まるようにしています。どんな種類の調味料が置いてあって、電子レンジはどのようなスタイルのもので、どこに置いて使っているのかなど。現地の人がどういう生活をしているかをリアルに知ることができるからです。

Airbnbであれば、部屋の様子からだけでなく、物件オーナーと話す機会もありますから、気になる製品やサービスがあったら、直接聞くこともできます。例えば、先日北欧に行ったんですが、向こうでは洗濯機はなぜか押入れのような場所の中に格納されていました。

このように日本でまだ知られていない情報を知ることは、新しいアイデアを発想したり、実装する際には、必ずやアドバンテージになります。

:私もお2人のご意見、新橋の飲み屋で管を巻きながらの発想に共感します(笑)。付け加えるとすれば、我々がよく行っているのは、既存ビジネスの延長に、ある工夫を提案することで、新たなビジネスにしたり、業績アップを実現していくことです。

例えば、フィルムメーカがあったとします。100メートル単位の製品では価格競争で儲からないとの課題があったとしたら、300メートル単位のフィルムとすることで、他との差別化を図ってみるなどの、トライをしてみます。

また我々はイスラエルやシンガポールといった、海外スタートアップのネットワークを持っています。先のようなアイデアも含め、お客様の課題解決を実現する海外人材をマッチングするサポートも行っています。

【トークセッション③】今後、デジタルテクノロジーは世の中をどう変える?

:VR、スマートグラスが気になっています。何か商売に活用したいと数年前から思っていて、ミックストリアリティ(Mixed Reality)という観点から言えば、店舗で新しい試みを実験的に行ってます。

例えば「ビジュアルディスプレイ」です。壁に向かってタブレットをかかげると、画面には商品や洋服などをコーディネートした人が映し出されます。同サービスを使えば、そこに商品がなくてもあたかもあるような、リアルとバーチャルが融合した、まさにミックストリアリティな体験ができます。また同テクノロジーを活かした別のサービスも11月にグランドオープンする渋谷PARCOでは展開していきたいと考えています。

岩佐:今後というよりも、既に今の世の中がデジタル変革の真っ只中にいるので、これ以上の変化速度にはならないと考えています。言い方を変えれば、今の変化を着実にキャッチアップし続けることが、いい意味で今の劇的な変化を継続できると考えています。

また林さんの前では言いづらいですが、ここ5年ほどの間にメーカーとカスタマーの距離が、めちゃくちゃ近づきましたよね。パソコンは直販が増えましたし、自動車においてもテスラのようにディーラーを介さず、Webサイトで販売するメーカーも出てきていますから。

PARCOさんのような小売は、先のようなスタジオも含めた新たなバリューチェーンを考える必要が出てくるでしょう。同時に、メーカーとしてもカスタマーとのコミュニケーションスキルが求められる時代になると考えています。

:先ほど話したように、バリューチェーンそのものが変わりつつあります。そして岩佐さんがおっしゃられたように、以前であればカスタマーの動きをそれほど気にしていなかった、石油・ガス・素材など上流領域の企業も、カスタマーの動向を知りたがっています。デジタル技術を使いカスタマーとの距離が近づいていく流れは、今後トレンドになることは間違いないでしょう。 最後にもうひとつ。日本でDXやAIをテーマにすると、どうしてもディスラプターやAIによるシンギュラリティなど、マイナスの発想が目立ちます。一方海外では、楽しみながらデジタル・IoT化を進めています。そんな海外のトレンドも参考に、国内の企業ももう少し楽しみながら、デジタルによる世の中の変化を進めていく姿勢が必要ではないかと思っています。

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