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こんにちは。AWS シニアソリューションアーキテクトの崔 祐碩です。首都圏を中心に 125 店舗のスーパーマーケットを展開する サミット株式会社 (以下、サミット)では、DX 推進の一環として AI コーディングアシスタント「 Kiro 」を活用し、情報システム部門が自らの手で業務アプリケーションを素早く形にする取り組みを進めています。本ブログでは、サミット 情報システム部 企画・開発グループの小池様に、Kiro 導入の背景や具体的な活用事例、今後の展望について伺いました。 サミット株式会社について サミット株式会社は、東京・神奈川・埼玉・千葉の 1 都 3 県で 125 店舗を展開するスーパーマーケットチェーンです。1963 年の設立以来、「嘘の無い仕事」を経営理念に掲げ、売上高約 3,488 億円(2025 年 3 月期)、従業員数約 18,000 名の規模で事業を展開しています。「サミットが日本のスーパーマーケットを楽しくする」という事業ビジョンのもと、お客様一人ひとりに寄り添う店舗づくりとリテイル DX の推進に取り組んでいます。 Kiro との出会い ― 「これは運命でした」 DX 推進における課題 ― 「作りたいもの」が形にならない AWS: そうした課題を抱える中で、 Kiro とはどのように出会われたのでしょうか? 小池様: もともとはコードエディタを使って、チャットボットの画面でコードを書いてはコピー&ペーストする、というループでコーディングをしていました。他の AI コーディングツールも使っていましたが、当時の生成 AI が読み込めるコンテキスト量と、出力されるコードの品質には限界がありました。 様々な AI コーディングツールが出てきた中で、AWS の担当者からの紹介もあり、 Amazon Q Developer を試していたところ、ちょうど Kiro がリリースされたんです。自然な流れでたどり着いた、まさに運命的な出会いでしたね。 AWS: 他のツールと比較して、Kiro を選ばれた決め手は何でしたか? 小池様: 開発ツールの選択は好みの問題になりがちですが、企業として使っていく上での条件を考えると、Kiro が最もリスクが少なく安心できるものでした。ポイントは大きく 3 つあります。 シンプルさと展開のしやすさ: Kiro はインストールしてログインすれば、すぐに使い始められます。初期設定の手間が少なく、環境の再現性が高いため、チームへの展開もスムーズです。 ガバナンス: Kiro はログインしないと使えない。これは企業利用において非常に重要です。拡張性が適切に管理されていることも、ガバナンスの観点ではメリットになります。何でもできてしまう環境は、統制が効かなくなるリスクがあります。 クラウドとの統合: AWS のバックエンドと統合したプロダクトを作ることを考えると、Kiroを使っておけば開発環境からクラウドまで一貫した体験が得られるという安心感があります。 つまり、「王道」のやり方ができるツールだと感じました。スタンダードで、シンプルで、ガバナンスが効く。企業の情報システム部門が安心して採用できるツールだと思います。 Kiro で作ったもの 事例 ① :店舗クラスター分析ダッシュボード ― 12 時間で PoC を実現 AWS: 具体的に Kiro で開発されたものを教えてください。 小池様: 最初の事例は、リテイル DX チームからの依頼で作った店舗データの分析ダッシュボードです。店舗の従業員に対して、クラスター分析の結果を可視化して見せたい、PoC をやってみたいという要望がありました。 当初はBIツールなどを導入する話もありましたが、PoCの段階では新たなツールの導入には時間とコストがかかります。費用対効果が見えない中での意思決定にも時間を要するため、まずは自分の手で素早く形にしてみようと考えました。 AWS: 実際にどのくらいの時間で完成したのでしょうか? 小池様: 初期バージョンは約 12 時間で完成しました。HTML ベースで Excel データを読み込んで表示するダッシュボードです。Kiro の Spec-driven Development の機能を活用して、要件から設計、実装までを一気に進めました。 店舗データ分析 BI ツール AWS: DX チームの反応はいかがでしたか? フィードバックからすぐ改善 小池様: 「こんなにすぐできたの?」という驚きの声がありましたね。フィードバックを受けて修正する作業も、5 時間程度で何回かのイテレーションを回せました。しかも、別の打ち合わせをしながら、Kiro にプロンプトを投げて結果を待つ間に会議に参加する、という並行作業ができたんです。 フィードバックの内容も、機能を減らしたいとか、表示するタブやグラフの切り替え、初期データの自動読み込みといった調整レベルのもので、設定の切り替えで対応できるものがほとんどでした。 AWS: 従来のアプローチだと、同等のものを作るのにどのくらいかかると見積もられますか? 小池様: 通常、このような PoC を外部に依頼する場合、要件定義からパートナーとの契約、見積もり、稟議、発注というプロセスだけで 1〜2 か月はかかります。開発自体も 1〜2 人月程度は見込まれ、全体では少なくとも 3 か月、費用も数百万円単位になることが一般的です。それが Kiro を使うことで、一人の担当者が 12 時間 + フィードバック対応 5 時間で実現できたというのは、非常に大きなインパクトです。 事例 ② :3D インタラクティブプレゼンテーション ― 外部発表資料を 1 日で AWS: 他にも Kiro で作られたものはありますか? 小池様: Vibe コーディングの事例を外部に発表する機会がありました。外部への発表ですから、それなりにクオリティの高い資料が求められる場です。 最初は HTML ベースで資料を作り始めたのですが、途中で「せっかくなら 3D 効果を入れてみよう」と思い立ち、Three.js を使った 3D インタラクティブなプレゼンテーションに仕上げました。聴衆が自由に 3D 空間を動き回れるよ うな体験型の資料です。 AWS: 制作時間はどのくらいでしたか? 小池様: 他の作業と並行しながらも、約 8 時間で完成しました。3D 効果を入れずにシンプルなスライドにするなら 1〜2 時間で終わったと思いますが、外部発表の場ということもあり、表現にこだわりました。 3Dバーチャル展示会を回遊しながら楽しむプレゼンテーション 通常、外部向けの発表資料は、構成の検討からデザインの調整まで含めると 1 週間程度かかることも珍しくありません。それが Kiro を活用することで 1 日で完成し、さらに 3D インタラクティブという新しい表現も実現できました。 この経験から、社内の部会資料や共有資料も HTML ベースで作れるようになるといいなと考えています。議事録やメモをマークダウンで書いて、Kiro でスライド化する。そういう文化が社内に根付けば、資料作成の負担は大幅に減る はずです。社内の便利ツールとしても展開していきたいですね。 事例 ③ :店舗エリア分析マップ ― 国土地理院 API を活用した地図アプリ AWS: 最後にもう一つ、事例をご紹介いただけますか。 小池様: マーケティング業務で使う地図ベースのエリア分析ツールを Kiro で作りました。店舗番号を入力すると、国土地理院の API から市区町村のデータを取得して、対象エリアを地図上に可視化するものです。 例えば、特定のエリアに何人住んでいるのか、商圏の人口分布はどうなっているのか、といったことを視覚的に確認できます。 AWS: こちらの制作時間は? 小池様: これも 12 時間未満ですね。もともとコードエディタでベースを作っていたものを Kiro で作り直したのですが、モデルも良くなっているので、かなり実用的なものに仕上がりました。外部 API との連携や地図の描画処理など、自分でゼロから調べてコーディングしようとすると相当な時間がかかる部分を、Kiro が一気にやってくれます。 店舗エリア分析マップ これからの夢 ― リバースエンジニアリングと、パートナーとの新しい協業 AWS: 今後、Kiro を使ってどのようなことに取り組みたいとお考えですか? ① レガシーシステムのリバースエンジニアリングと刷新 小池様: 一番やりたいのは、レガシーシステムのリバースエンジニアリングです。 多くの企業で、過去に作られたシステムが「なぜ動いているか分からない」状態で残っていると思います。担当者が変わり、ドキュメントも残っていない。コードだけが正しい、という状況です。 Kiro を使えば、既存のコードからドキュメントを自動生成できます。実際に私はすでにこれを始めていて、コードを Kiro に読み込ませてリバースエンジニアリングでドキュメントを作らせています。 AWS: そこから先の展望も見えてきますね。 小池様: はい。まず、今まで見える化すらできなかったレガシーコードの中身が、ドキュメントとして可視化される。これだけでも大きな一歩です。そして、そのドキュメントをチームでレビューして内容を正しく整理したら、今度はそれをスペック(要件定義)として Kiro に渡して、要件に合った新しいシステムを AI で作り直す。 つまり、古いコード → ドキュメント化 → スペック整理 → 新規開発 という流れです。 今までは、このドキュメント化の工程自体が膨大な手作業で、現実的に手が付けられなかった。それが Kiro によって一気に可能になる。ドキュメントさえできれば、そこからメンテナンスもしやすくなりますし、新しいメンバーへの引き継ぎも格段に楽になります。 ② パートナーとの協業を「動くもの中心」に変える 小池様: もう一つの夢は、パートナーとの協業モデルを根本的に変えることです。 実は一部の案件で、Kiro で実際に動くモックアップ ― 単なる画面イメージではなく、実データを読み込んで画面遷移も動作もするレベルのもの ― を作って開発パートナーに渡すという試みを始めています。パートナーがその意図を正しく理解できた場合は、こちらの期待の 120% のものが返ってくることもあり、手応えを感じています。 これを全面的に展開していきたい。Kiro は Spec-driven Development なので、モックアップを作る過程で仕様書( Spec )も自動的に生成されます。つまり、動くモックアップと仕様書をセットでパートナーに渡せる。パートナーはコードと仕様書の両方を参照しながら本番実装を進め、レビュー会では動くものを見ながらその場で修正する。1〜2 回のイテレーションで最終版に近づけて、完成後はレビューを通じて更新された仕様書に加え、運用ドキュメントなども Kiro で追加生成する。 Kiro を活用した新しいアプローチ 従来はドキュメントだけが共通言語でしたが、新しいアプローチでは動くコードと Kiro が生成した仕様書の両方が共通言語になる。要件定義をドキュメントから始めるのではなく、動くものと仕様書を同時に作り、開発・レビューを経てドキュメントも一緒に育てていく。日本の IT 業界に根付いたウォーターフォール文化を、もう少しアジャイルに変えていけるのではないかと思っています。 Kiro を使うコツ ― セッション管理とステアリング AWS: Kiro を効果的に使うためのコツがあれば教えてください。 小池様: 一番大事なのは、セッション情報の管理です。AI コーディングツール全般に言えることですが、長時間の開発ではコンテキストの引き継ぎが重要になります。Kiro ではこれを効率的に管理する仕組みがあり、私はそれを積極的に活用しています。 私はプロジェクトごとにセッション情報を記録するルールを設けていて、Kiro に「このタイミングでセッション情報を保存して」と指示しています。再開時には、最新のセッション情報とプロジェクトメモリーを参照するようにルールで定義しています。 もう一つのポイントは、 Steering  の活用です。ステアリングには、プロジェクトごとの統制ルールや、セッション再開時に参照すべき情報、コーディング規約などを定義しています。例えば「セッション再開時はプロジェクトごとの最新セッション情報とプロジェクトメモリーを必ず参照すること」といったルールです。 さらに、Steering の内容自体も Kiro との対話を通じて作成できます。「こういうルールをステアリングに追加して」と指示すると、Kiro が内容を整理して記録してくれるため、開発環境の設定も対話の中で完結します。 今後の展望 AWS: 最後に、今後についてお聞かせください。 小池様: 私は Kiro を活用した AI 開発によって、コードの品質向上や開発スピードの改善を実感しています。この流れをチーム全体に広げていきたいと考えています。 そのためにも、Kiro が Web 経由でクラウド環境から利用できるようになることや、AWS のサービスとの連携がより深まっていくことに期待しています。ローカル PC への環境構築が不要になれば、開発経験が浅いメンバーでもすぐに使い始められます。チーム全員が統一された環境で AI 支援を受けながら開発できるようになれば、社内での活用をさらに拡大していけると考えています。 著者について 小池 朋昭(こいけ ともあき)の紹介 サミット株式会社 情報システム部にて、ハイブリッドクラウド化やレガシー刷新をPM/テックリードとして推進。データスチュワードとして全社データの活用基盤整備も主導。現在はVibe コーディングによる内製開発やアジャイル 開発体制の構築に取り組み、業務・IT・データを横断した全社DXを牽引している。 崔 祐碩 (Woosuk Choi)は AWS Japan Senior Solution Architect としてエンタープライズ・商社のお客様を担当し、データ分析基盤やプライベートクラウドの構築、DevOps/SREの運用経験を活かして、クラウド導入やData/AIソリューションの実装を支援しています。
はじめに スクラム開発は、短いサイクルを繰り返しながら、価値の高いプロダクトを継続的に届けることを目的としたアジャイル開発手法です。 そのスクラムを支える重要な考え方の一つが「ロール(役割)」です。 アジャイルやスクラムを学び始めた方の中には、「プロダクトオーナー」「スクラムマスター」「開発者」といった言葉は聞いたことがあるものの、「なぜ役割を分ける必要があるのか」、「役職と何が違うのか」が分かりづらいと感じる方も多いと思います。 本記事では、スクラムにおけるロールの全体像と考え方を、初心者向けに分かりやすく解説します。 各ロールの詳細な業務内容については別記事に譲り、ここでは「ロー
  本稿は、三菱電機株式会社 名古屋製作所が新たに開発した AI を活用した商談支援サービス「 Memory Tech 」について、これを主導された三菱電機株式会社 名古屋製作所 江口 貴紀様、的場 祐弥様より寄稿いただきました。 はじめに 背景・課題   三菱電機株式会社 名古屋製作所 (以下、当製作所) は、FA (Factory Automation) 機器の開発・製造を手がける拠点です。シーケンサをはじめとする制御機器は製造業の現場で広く使われており、当製作所はこれまで製品の品質向上や機能強化を通じてお客様の課題解決に取り組んできました。   しかし、製品そのものの改善だけではお客様の課題を全て解決できるわけではありません。当製作所では、従来の製品起点のアプローチから一歩踏み出し、お客様の業務プロセス全体に目を向ける取り組みを開始しました。製造業のお客様に対して、商談から納品までの全工程を対象に「どこに課題があるのか」を徹底的にヒアリングしました。設計者、営業、調達部門といった職種を問わず、経営層から担当者まで幅広くアンケートやインタビューを実施しています。当製作所としてこのような顧客起点のヒアリングを体系的に実施するのは初めての試みでした。   その結果、コミュニケーションの齟齬による手戻りが深刻な課題であることが明らかになりました。手戻りによるコスト的なロスは数百万円から、最大で数億円に達するケースもあり、回答者の過半数が手戻りを課題として挙げています。さらに齟齬の原因を掘り下げたところ複数の要因が特定され、その中でも「口頭による認識齟齬」が最も優先的に解決すべき課題として浮かび上がりました。   FA の商談現場では、億単位の高額装置であれば仕様書を作成するものの、比較的安価な装置の場合は口頭でのやり取りで済ませてしまうケースが多くあります。この習慣を変えることは現実的ではないと判断し、「現場の習慣を一切変えずに課題を解決する」という方針を立てました。喋るという行為は必ず発生するため、喋った内容をいかに正確に記録するかという発想から、商談支援サービスの開発に至っています。   なお、競合サービスの存在も検討しましたが、多くの方が課題と認識しているにもかかわらず既存のツールが使われていないという事実から、市場にはまだ十分に浸透していないと判断しました。展示会に出展した際にも「こんなことができるのか」という驚きの反応が多く、この領域にはまだ大きな可能性があると確信しています。 開発体制   Memory Tech の開発は、当製作所にとって複数の「初めて」が重なるチャレンジでした。アジャイル開発、Web プログラミング、クラウドネイティブなサービス開発。いずれも従来の製品開発とは異なる領域です。しかし、お客様の課題を迅速に解決するためには、従来のウォーターフォール型ではなく、仮説検証を素早く繰り返せるアジャイル開発が不可欠でした。当製作所はこの機会を、顧客課題の解決だけでなく、組織としての開発力を根本から強化する契機と位置づけています。   開発体制はスクラムを採用しました。プロダクトオーナー (PO) を江口が務め、スクラムマスターは社内メンバーが担当しています。テックリードには KDDI アジャイル開発センター株式会社 (以下、KAG) のエンジニアに担当いただき、技術面でのリードとスクラム運営のサポートをお願いしました。特筆すべきは、KAG との協業を単なる開発委託ではなく、スキルトランスファーの場として設計した点です。KAG のエンジニアとペアプログラミングを行いながら社内エンジニアの育成を並行して進め、将来的に自社メンバーだけで開発を回せる体制を見据えています。実際に、スクラムマスターがコードも書く「半々」のスタイルで実践力を高めており、少人数でも自律的に開発を進められるチームへと成長しています。   また、AWS からは初めてのクラウド活用ということもあり、技術選定の段階から手厚いサポートをいただきました。サーバーレスアーキテクチャの設計方針やコスト最適化に関する助言をいただき、少人数のチームでも安心してクラウドネイティブな開発に踏み出すことができました。 ソリューション概要 システム要件   PO からの要件は明確でした。特別な機材の購入は不要とし、営業担当者が普段使っている Web ブラウザやスマートフォンだけで録音から議事録生成までを完結できること。そして、録音終了後 2 分以内に議事録を確認できること。この「その場で確認できる」というスピード感は、商談直後にお客様と内容を確認し合うために不可欠な要件でした。 採用方針   社内エンジニアは Web 開発やクラウド、インフラ運用の経験を持っていなかったため、インフラの管理・メンテナンスに工数を割くことなく、アプリケーション開発に集中できる環境が必要でした。また、成功するかどうかまだ未知数のサービスだからこそ、スモールスタートで始めて必要に応じてスケールできるクラウドのメリットを最大限に活かす方針としました。これらを踏まえ、AWS のマネージドサービスを最大限に活用したサーバーレス構成を採用しています。コスト面でも、サーバーレス構成による従量課金モデルにより、サービス開始当初の月額コストは数万円程度に抑えられました。また、初めてのクラウド活用ということもあり、AWS から手厚い技術サポートをいただけた点も大きな後押しとなりました。 要件に対応したソリューションの特徴   中核となるのは AWS Amplify Gen 2 です。AWS Amplify はフロントエンドからバックエンドまでをマネージドに提供するフルスタックの開発プラットフォームであり、AWS Amplify Gen 2 では AWS Cloud Development Kit (AWS CDK) ベースでインフラを定義できます。これにより、少ないコード量でバックエンド全体を構築でき、最初の議事録生成機能は約 1 ヶ月で PoC を開始できる状態に仕上がりました。KAG に AWS Amplify の豊富な実績があったことも、この技術選定を後押ししています。認証には Amazon Cognito を採用し、セキュリティの基盤を AWS に委ねることで、少人数のチームでも安全なサービスを提供できています。   バックエンドの処理フローは、 AWS Step Functions で構築したワークフローが中心です。録音データがアップロードされるとイベント駆動でバックエンド処理が開始され、文字起こしの結果が Amazon Bedrock に渡されて生成 AI が議事録を自動生成します。AWS Step Functions と AWS Lambda 、そして AWS Amplify のストレージやデータ機能を組み合わせ、全て Infrastructure as Code (IaC) で管理しています。この構成により、「ブラウザだけで完結」「2 分以内に議事録を確認」という PO の要件を実現しています。   Amazon Bedrock の採用は、AWS のエコシステム内で全てを完結できる点が大きなメリットでした。インフラ管理なしで生成 AI の機能を呼び出せるだけでなく、ストリーミングレスポンスにも対応しているため、ユーザーへの応答速度も確保できています。さらに、Amazon Bedrock が提供する複数の基盤モデルを柔軟に切り替えられる点も重要です。実際に Anthropic Claude のバージョンアップに合わせてモデルを切り替えたり、入力トークンが大きくなるフィラー削除処理には Amazon Nova を採用してコストを最適化するなど、用途に応じたモデルの使い分けを行っています。 図 1 : Memory Tech アーキテクチャ図 アプリケーション紹介   Memory Tech は、Web ブラウザまたはスマートフォンから利用できる、AI を活用した商談支援サービスです。ユーザーは商談や打ち合わせの音声をブラウザ上で録音するだけで、録音終了後 2 分以内に議事録が自動生成されます。特別な機材やアプリケーションのインストールは不要で、営業担当者が普段使っているデバイスだけで完結します。   生成される議事録は、単なる文字起こしではありません。Amazon Bedrock の生成 AI が会話の要点を抽出し、構造化された議事録として出力します。商談直後にその場でお客様と内容を確認できるため、「後から送っても見てもらえない」という従来の課題を解消しています。 図 2 : Memory Tech アプリケーション画面 ビジネス成果   Memory Tech は PoC の段階から非常に高い評価を得ています。社内外合わせて多くの方が PoC に参加し、アンケートのフィードバック結果も好評でした。無償 PoC に参加いただいた企業の多くがそのまま有償に移行しており、積極的なマーケティングは行わず、口コミベースでの展開にもかかわらず着実に契約数を伸ばしています。   社内利用はさらに急速に拡大しています。日々新たなユーザーが増加し、利用部門も FA 以外の事業部門にも広がっています。B2B の SaaS モデルとして解約率は極めて低く、安定的な収益基盤となることが期待されています。   技術面では、1,000 名を超えるユーザーが利用する状況においても、録音や議事録生成といったコア機能はスケーリングの問題なく安定稼働しています。少数精鋭の体制で、インフラの運用管理を意識することなくサービスを提供できている点は、AWS のマネージドサービスを全面的に採用した設計方針の成果といえます。1,000 人がアクセスしても問題なく動いていることに、開発した我々自身が一番驚いています。   また、Memory Tech はこれまで FA の主要顧客であった製造業の設計・生産技術部門だけでなく、営業や調達といった幅広い職種、さらには製造業以外の業界にも展開できる商材です。既存の取引先への新たな接点としても機能しており、当製作所の事業領域を広げるドアオープナーとしての役割も果たしています。 まとめと今後の展望   Memory Tech は、製造業の現場で長年見過ごされてきた「口頭コミュニケーションによる認識齟齬」という課題に対し、現場の習慣を変えることなく AI の力で解決するサービスです。AWS Amplify を中核としたサーバーレスアーキテクチャにより、少人数のチームでも迅速な開発と安定した運用を実現しました。   当製作所にとって、Memory Tech の開発はアジャイル開発や Web プログラミング、クラウドネイティブなサービス開発への初めての挑戦でもありました。KAG との協業によるスキルトランスファーを通じて社内の開発力を着実に高めており、この経験は今後の新規サービス開発の基盤となっています。   今後の展望として、まず海外リージョンでの SaaS 提供を視野に入れています。さらに、Memory Tech を単なる議事録ツールから「ビジネス支援プラットフォーム」へと進化させる構想があります。蓄積された会話データを活用し、商談におけるアドバイスの提供や、過去のナレッジを組織横断で活用できる仕組みなど、会話データを起点とした新たな価値創出を目指しています。   先行者として、ユーザーの声を取り入れながら AWS の開発スピードを活かし、常に一歩先を走り続けたいと考えています。 執筆者 江口 貴紀 三菱電機株式会社 名古屋製作所 ソフトウエアシステム部 エンジニアリングソフトウエア戦略グループ。Memory Tech の開発プロジェクトではプロダクトオーナー (PO) を務める。趣味の一つは旅行で、訪れた土地ならではのお酒や食事を楽しむことが大好き。 的場 祐弥 三菱電機株式会社 名古屋製作所 ソフトウエアシステム部 エンジニアリングソフトウエア戦略グループ。初めて触った AWS サービスである AWS Amplify Gen 2 に魅了される。FA (ファクトリーオートメーション) 業界の課題解決に取り組む新規事業企画に従事。Memory Tech を中核としたフルスタックエンジニアとして、企画立案からプロトタイプ、実装、運用まで一貫して担当。

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