【レポート】IoTのUX:日常化されていくIoT[第2部]- TECH PLAY Conference 2017

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UX, IoT

JINS MEMEがもたらす可能性と、ユーザへの価値を設計する

佐藤琢磨(さとう・たくま)/株式会社ジンズ。システム企画室リーダー。「JINS MEME」デベロッパーリレーションズ担当。1979年生まれ。茨城県出身。ITコンサルタントやプロダクトマネージャーとして複数社での勤務を経て、ジンズに入社。

世界で初めてメガネが発明されたのは700年以上前といわれています。しかし、「視力を補正する」といった機能や形状は、当時から変わっていませんでした。ジンズでは、それまでの「外を見る」ことを目的としたメガネのこれまでの概念を覆したプロダクトを2014年に発表します。それが世界で初めて「自分を見る」ことをコンセプトにした「JINS MEME」です。

「メガネであることにこだわり抜いている」ジンズは、普段の生活の中で身につけられるウェアラブルデバイスとして「JINS MEME」を開発しました。そのこだわりから、「JINS MEME」の外観は、通常のメガネとほとんど変わりません。

この「JINS MEME」の最大の特徴は「眼電位」を取得できること。「眼電位」とは人間の眼球が持っている微弱な電位のことで、医療の業界では広く知られています。しかし、「メガネの中で眼電位を取得できたのは画期的だった」と佐藤さん。

この眼電位から「まばたき」と「8方向の視線移動」を取得することが可能です。さらに、この情報を分析すると「心の状態」「頭の状態」「身体の状態」がわかるようになります。ジンズではこれらの情報を「ディープデータ」と呼んでいます。

続けて佐藤さんは「JINS MEME」がどのように作られてきたのかを振り返ります。まず、ジンズ社内で問いかけたのは「何を作りたいのか?(What)」、つまりどのようなコンセプトを商品に持たせるのかという点でした。

他社から発表される様々なウェアラブルデバイスを研究した佐藤さんたちは、多くのプロダクトが「過去のデータ」を映し出している点に気がつきます。そこから、「現在の自分自身」を表すことが「JINS MEME」の独自のベネフィットとなるのではないかという発想に至ります。

この考え方を表す言葉として注目したのが「マインドフルネス」。「心の状態や頭の状態を整える」といった意味を持つ言葉です。さらにこの「マインドフルネス」をブレイクダウンし、「JINS MEME」では「ENERGY(活力)」「FOCUS(集中度合い)」「CALM(落ち着き度)」を表現できるのではないかと考えます。

次に取り組んだのが、この考えをどのようにビジュアルで表現するのかという点です。佐藤さんたちは「ENERGY(活力)」「FOCUS(集中度合い)」「CALM(落ち着き度)」を表すビジュアルについて様々な考えを出しますが、なかなかイメージがまとまりません。そうした状況で「自分で感じて考える」ことが必要だと感じた佐藤さんたちは、チームで禅寺に行くことで考えをまとめようとする試みも実施しました。

伝えたい情報がまとまった後は、「なぜ作るのか?(Why)」「誰のために作るのか?(Who)」についての議論を深めます。キーワードとなったのは「I want to live better」。「高齢化が加速する現代では、より健康に歳を重ねることが重要だ」と佐藤さん。より上質に生きるために、身体とマインドへの強い関心を持つ人々がいると考えるようになりました。

このような議論を重ねコンセプトを作ることができましたが、佐藤さんは同時に疑問も感じるようになりました。それは、「そもそも、通常のマーケティングで使われるSTP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)で、『JINS MEME』の価値を提供したい人々を定義できるのか?」という点であったり、「全く新しい世界を創り出そうとしている『JINS MEME』が、デザイン思考を利用するだけでプロダクト開発ができるのか?」という点でした。

さらに、佐藤さんは疑問だけではなく問題も顕在化してきていると感じていました。それは、「What」や「Why」を突き詰めるプロダクトマネジメントと、現実的にいつどのように開発するのかというプロジェクトマネジメントが衝突すること。さらに、これまでジンズで行ってきたウォータフォール文化でのデバイス開発と、アジャイル文化のモバイルプリ開発が衝突すること。オープンイノベーションにも葛藤を感じていました。

こうした疑問と問題を解決するためにジンズで行ったのが、パートナー企業も巻き込んだ集中合宿でした。外部からの情報をシャットアウトして、決定するまで帰れない状態に追い込んだ結果、辿り着いたのが「Better Me」という言葉でした。

ベストな自分をすぐに作ることはできないが、常に少しでも自分をよくしていきたい。そのために頑張る自分をサポートするウェアラブルデバイスを目指すというのが「Better Me」の考え方。この「Better Me」はチームで共通見解となり、結果論ではありますが、ジンズが掲げている「Magnify Life(生活を拡大する)」というビジョンにも通じています。

最後に、提供しているアプリやハッカソンの開催、ALSを抱えるハンディキャッパーとのプロジェクトなど、チームの中で考えがまとまった後「JINS MEME」として行っている様々な取り組みを紹介して、大西さんは講演を終えました。

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