【レポート】IoTのUX:日常化されていくIoT[第2部]- TECH PLAY Conference 2017
石から生まれた新素材LIMEXの技術とは
笹木隆之(ささき・たかゆき)/株式会社TBM 執行役員。筑波大学卒。慶應義塾大学SFC研究所 上級所員。株式会社電通での勤務を経て、2016年にTBMへ参画。著書に『自分ゴト化 -社員の行動をブランディングする-』(2011年・ファーストプレス)などがある。
笹木さんが参画したTBMでは「LIMEX」という石灰石から作る新しい素材を開発しています。「LIMEX」とは、石灰石を意味する「ライムストーン」と「X」の組み合わせからとった名前。「私たちはIoTに取り組んでいるわけではありませんが、『LIMEX』には、IoTとUXの大きな可能性があると思います」と笹木さんは説明します。
「LIMEX」の素材である石灰石は、日本の鉱物資源の中で唯一100%の自給率を誇ります。また、世界各地に十分な埋蔵量がある点が特徴です。
TBMではこの石灰石から2つの素材を開発しています。
まず1つ目は、紙の代替素材です。
2014年における紙の消費量は約4億t。現在、ペーパレスの流れが進んでいるように感じますが、2030年には紙の消費量は約8億tに増加すると予測されています。これは、人口が増加することや、中国やインドなどの経済発展に伴い1人当たりの紙消費量も増加するためです。
しかし、通常、紙を1t作るには20本の木材と、100tもの水を使います。ところが、ダボス会議で「今後10年以内に起こるグローバルリスク」として「水問題」が毎年指摘されていたり、約7億人が安全な飲料水を利用できていなかったりと水の問題は極めて深刻な状況です。
紙の代替素材となる「LIMEX」は、この水問題に関して大きなメリットがあります。それは、通常の紙と異なり、ほとんど水を使わずに作ることができるという点です。
「LIMEX」は紙の代替以外に、プラスチックの代替にもなります。これが2つ目の素材です。石灰石を50%以上使った新素材で、既にプラスチックシート、プラスチック成形のどちらにも対応しています。
今後、注力していくのはプラスチックの容器。現在メーカーでは容器リサイクル法に基づき、1kg当たり45円を負担しています。しかし、石灰石を50%以上つかった「LIMEX」の容器ならば、このコストは不要。メーカーの競争力に寄与したい考えです。プラスチックは石油から製造されますが、この「LIMEX」は、石油産油国であるバーレーンからも代替素材として注目されています。
この「LIMEX」は具体的にはどのくらい水の使用量削減を行えるのでしょうか?
東京大学との共同研究の結果、プラスチックの代替素材で37%、紙の代替素材においては98%もの水の使用量を削減できたという数字が明らかになっています。
続いて笹木さんは自社の取り組みを紹介。自社工場を持っているTBMでは、今後製造工程にIoTを導入し、工程の見える化・効率化を目指します。
さらに、マテリアルズ・インフォマティクスの活用も推進します。マテリアルズ・インフォマティクスとは、素材開発において「何と何を掛け合わせるとどのような素材ができあがるのか」という工程を自動化すること。これまでは研究者の知見にゆだねられていた素材開発にもITを活用します。
この「LIMEX」が初めて製品化されたのが、2016年6月にリリースされた「LIMEX名刺」です。この「『LIMEX名刺』のUXには3つのポイントがある」と笹木さん。
まず、「名刺1箱で10Lの水を守る」というコンセプトに基づき、名刺の箱に目盛りをデザイン。使っていくうちに「現在何Lの水を節約できたか」を体験してもらうことで、水問題への意識を啓蒙する狙いです。
次は、「LIMEX」を使用していることがわかるようなクレジットを名刺箱に記載する点です。上記を明記することで、水の節約に取り組んでいる企業であると可視化します。導入企業は1200社以上におよびます。
最後は、ウェブで提供する「LIMEX ACTION」。「LIMEX名刺」がどのくらい流通し、その結果どのくらいの水を節約することができたのかを、月に1度「LIMEX ACTION」上で更新します。導入後にも「LIMEX」を身近に感じてもらうことで、ユーザー体験向上を目指しています。
最後に笹木さんは、「今後のUXは『どのようなプロダクトを作るか』から『プロダクトを何で作るか』にシフトしていく。『この素材からできているからこの商品を購買しよう』と気持ちが動くような活動を行っていきたい」と展望を語りました。
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