ちょまどさん×パーソルホールディングスCIO古川昌幸氏が対談 ──DX成功の鍵は、エンジニアとの信頼関係にある

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ちょまどさん×パーソルホールディングスCIO古川昌幸氏が対談 ──DX成功の鍵は、エンジニアとの信頼関係にある
パーソルグループとしてDXを進めるために、昨年パーソルホールディングスのCIOに就任した古川昌幸氏。グループデジタル変革推進本部をヘッドクォーターにして、組織・業務・事業改革を同時に進めている。CIOと現場のエンジニアはどのように連携しているのか。 ITエンジニア兼マンガ家の千代田まどか(ちょまど)さんと、エンジニア目線での熱いトークを展開した。

プロフィール

古川様
パーソルホールディングス
執行役員CIO 古川 昌幸氏
1986年野村総合研究所(NRI:当時は野村コンピュータシステム)に入社。大手証券会社の基幹システムのグランドデザインを担当し、その経験を踏まえてシステムコンサルタントに。NRI主席コンサルタントとしてさまざまな企業に対して、経営戦略を実現するためのITの活用方法について提言活動を行う一方、食品大手企業に出向して情報企画部長を務めたこともある。経営企画部長として、自社の経営戦略策定にも携わってきた。2020年7月にパーソルホールディングスに移り、執行役員CIOに就任。

千代田様
ITエンジニア兼マンガ家
千代田 まどか(ちょまど)さん
大手外資系 IT 企業で働くエンジニア。国内外での IT 系登壇多数。副業で漫画家もしている。著作『マンガでわかる外国人との働き方』(共著) や、内閣サイバーセキュリティセンターとサンライズ『ラブライブ!サンシャイン!! 』のタイアップ公式漫画『みんなで叶えるためのサイバーセキュリティパンフレット』の漫画を全9話を描いた。 Twitterのフォロワー 8.1万人 (2021年2月現在)
https://twitter.com/chomado

労働市場の動きをシミュレーションするデジタルツインを作って、将来予測へ

ちょまど:古川さんは昨年、野村総合研究所からパーソルホールディングスに移り、CIOに就任されたそうですが、具体的にはどんなミッションを担っているのですか。

古川:一言でいえば、パーソルホールディングスやパーソルグループのデジタル・トランスフォーメーション(DX)の旗振り役ですね。データの力を使ってパーソルホールディングス傘下パーソルグループ全体の業務改革、経営改革を進めることはもちろんです。

さらに、データを活用することで、パーソルグループに登録されている派遣スタッフの方や、転職を考えている人、つまり登録ユーザーの皆さんにとっての変革を起こすことも私の使命です。その意味で、CIOという肩書きの「I」には「 Information」と「 Innovation 」の2つの意味を込めています。

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ちょまど:パーソルグループは人材に関する多様な事業を展開していますね。

古川:人材派遣サービス「テンプスタッフ」、転職サービス「doda」のほか、ITアウトソーシングや設計開発など、人と組織に関わる多様な事業を展開しています。テクノロジー人材のエンパワーメントを掲げる「TECH PLAY」もそうですし、中にはクラウド型モバイルPOSレジ「POS+(ポスタス)」というサービスもあって、まさに多種多様です。

それらの事業を通して、働く人たち、生活する人たち、学ぶ人たちの多様なデータを集積しています。パーソルは働くことについてのプラットフォーマーになれる。そう考えると、とてもワクワクします。

まずは、こうしたビッグデータを抽出してペルソナ化し、人材と企業双方のマッチングを高め、人々の生活をより充実させたいと考えました。まさにパーソルのグループビジョンでいう「はたらいて、笑おう。」をデータの力を使って実現したかったのです。

ただし、これだけの多様な事業体のデータを一つに統合する難易度は非常に高い。もちろん、個別最適しすぎるのも問題です。個別最適と全体最適のバランスを取ることが大切だと考えています。将来的には、労働市場のダイナミックな動きをシミュレーションするデジタルツインを作って、将来予測をできるようにしたいですね。

なぜ、うまくいかないのか?現場のエンジニアが陥る「DX迷子」問題

ちょまど:エンジニアは本来、ものごとを効率化するのが大好きですよね。だから、デジタルの力を使ってビジネスの構造を改革していくDXも大歓迎だと思います。一方で、本気で構造的な改革を進めるとなると、様々な要因に巻き込まれ、立往生してしまうことも少なくないそうです。

たとえば、「我が社もDXのリーディングカンパニーを目指そう」という企業トップの掛け声に応じて、真に受けた現場がやる気出して、実際にしっかりプラン立てても、「コストがかかる」「予算がない」「投資が回収できない」「それでどのぐらいお金を生むのか」「費用対効果が」などと踏み倒されいわれて、気持ちをへし折られるという悲しい話もよくいろんな人から聞きます。

また、「上の人たちが現場を見てない」「リモート会議ツールを導入しただけで DX やった気になってる」「DXと名のついた謎のプロジェクトが乱立するけど、何も決まらず進まない」など、そういったカオスな状況も、現場ではよく発生しているというツイートも頻繁に見ます。

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古川:DXを推進することが目的になってしまって、何のためにDXをやるのかが明確でないとそうなってしまいますね。そもそもDXには現状の効率化を目指すものと、より本質的でイノベイティブな取り組みを行うもの、その2つがあると思います。

効率化にはROIのような費用対効果の指標がありますが、より深いイノベイティブな取り組みは、その指標化が難しい。リターンはあるのかと言われても、誰もやったことがないので、その効果を予測するハードルはかなり高いですよね。

まずはテーマと取り組みを分けて考えて進めないと、DXに関わる人が迷子になってしまうというのはDXあるある話です。

大切なのは、DXに取り組んだ後の世界をイメージすること。何を目指しているかゴールがわからないと、いくらデータ解析ツールを入れても、それがどのような効果を生み出しているかがわからなくなってしまいます。

ちょまど:最近、私が驚いたのは、コロナ禍でリモートワークを始めたものの、リモートワークの申請書が紙のままなので、それを提出するために(実際に物理的に) 出社しなくちゃならないという、なんちゃってDXエピソード。

また、オフィスの一角にわざわざ『リモートワーク部屋』を作って、そこで作業したら『リモートワーク』扱いということにしている会社もあると聞きました。それぞれの会社にそうせざるを得ない事情があるのでしょうが、すこし本末転倒かもしれないと思ってしまいました。

古川:経営者は単純に世の中のトレンドだけではなく、その中身に関心を持つことが必要です。たとえば、オンライン会議のツールを導入するとしたら、それが企業経営にもたらす本質的な意味を捉えないといけない。

「リモートワークで交通費が削減できる」でもいいし、「地方在住の人を採用できる」でもいいのですが、明確な目的がないと、DXの効果を測ることができません。

CIOの役割は、多彩な能力をオーケストレーションすること

ちょまど:DXを進めるためには、企業トップと現場のエンジニアの思いが一致していることも重要ですね。まずは、リーダーが「現場をより良くしたい」と考えていないといけない。その前提として、「組織のトップがエンジニアをリスペクトしていること」が必要です。それがあれば、エンジニアはトップを信頼して、それについていきたくなる。

古川:若いエンジニアは、僕らが社会に出た頃よりもはるかに優秀です。彼らの「能力を無駄遣いしない」というのが私の基本的なモットーですね。

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ちょまど:パーソルではどのようなテクノロジー組織を作ろうとしているんですか。

古川:あまり「型」にとらわれないほうがいいと思っています。一個の型にとらわれると、最初は良くても、状況は絶えず変化しますから、組織にも柔軟性が必要なんです。言い換えると、「最初から100点を目指さない」こと。

まずは30点でいいから、アクションを始めることが大切ですね。自分たちで考えて、まずは試してみる。その結果を受けて、柔軟に変えていく。どの方向を向いていても、歩みさえ止めなければ、いつかはゴールに辿り着けると思います。

ちょまど:パーソルのエンジニアや技術組織には、何か特徴はありますか。

古川:パーソルホールディングスにはエンジニアだけで200人のメンバーがいます。グループ各社のIT担当を全部含めると、1000人規模の組織です。特徴としては、まず年齢が若いというのがありますね。入社5年以内という人が多い。これが一つの強みです。

キャリア採用の人も多く、それぞれ得意、不得意分野がある。それをどう組み合わせるか。私や部長クラスのトップが、彼らとうまくオーケストレーションすることが欠かせないと考えています。

ちょまど:私も転職して5年目になりますが、ようやく全体が見えてきた頃。入社早々は右も左もわからなかったものの、5年目となると慣れてきて、後輩たちも増えてきて。チャレンジが楽しい一方で、失敗したらどうしようとも強く考えるようになりました。最初はリスクよりも無邪気にチャレンジを選べていたのですが…。

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古川:失敗しても許されるのは5年未満までと言いますからね。ただ、それでも、失敗を恐れて守りに入るより、失敗してもアクションを起こす人のほうが将来が楽しみですよ。

コロナ禍をチャンスに変化するエンジニアたち

ちょまど:話題が変わりますが、コロナ禍で進んだこと、遅れたことはなんですか。

古川:コロナ禍で新しいことが生まれたかというと、たぶんそれはないと思います。ただ、今まで先延ばしにしていたことを、すぐにでもやらざるをえなくなったことはある。リモートワークやペーパーレスがそうですね。

リモートワークをはじめ、コロナでワークスタイルが変化したことは、ある意味、残酷なフィルターでその変化に対応できる人と、そうでない人をあぶり出してしまった。働き方という意味でも、変化をきちんと受けいれられるかどうかのフィルターにもなっていますね。

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ちょまど:私は、コロナ前と後では働き方ではあまり変わっていないですね。全ての会議がコロナ以前からオンライン・オフラインどちらでも行っていましたから。ただ、世間的には急激な変化が起こりました。サティアも言っていましたが、2年分のDXが2か月で起きたような印象です。  

古川:リモートワークの推進で良かったことは、カンファレンスがオンラインで開催されるようになり、世界のIT企業のリーダーの話を身近に聞く機会が増えたことでしょうね。以前だったら、肉声を聞くためには、飛行機に乗ってアメリカまで行かなくてはなりませんでしたから。

ちょまど:物理的な距離が一挙に縮まり、阻むものは時差くらいになりましたね。むしろ、成長に繋げている組織もあります。たとえば、開発者コミュニティ。私も以前から、よくエンジニアの勉強会に参加していますが、コロナが蔓延し出した頃は、勉強会が全部中止されました。人が集まってはいけなくなりましたからね。しかし、すぐにオンライン会議ツールやバーチャル空間を使った形式で再開されました。

特に、地方のとあるエンジニアコミュニティの方が、こう言っていたのが印象的でした。「以前は10人集まれば大成功だったのが、オンラインで開催したら200人も来た」と。オンライン化により、移動や物理的な場所のキャパシティの制約がなくなり、全国から参加者をたくさん集めることができる。そのアドバンテージをどう活かすかですね。

たとえば、1900年のニューヨークは馬車がたくさん走っていたのに、20年後の1920年には、すべてのニューヨークの馬車が自動車に置き換わってしまった話があります。当時は、馬車業界、たとえば、馬の蹄を磨く職業の人がモータリゼーションに抵抗した。ところが、その人たちも数年経つと、蹄を磨く技術を活かして車を磨く職業に転換していたのです。

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AIで既存の職業が奪われると恐れる人もいますが、それによって新たなクリエイティブや仕事が生まれることもたしかです。外的要因に対応できれば人は生き延びることできる。組織もそうですよね。外的要因に柔軟に対応できる組織を作ることが大切だと思うのです。

古川:私たちの組織作りでそれができているかどうかはわかりませんが、常に変化対応の軸を大切にしていれば、メンバーのマインドセットも変わっていきますね。

同じプロトコルで現場と会話して、エンジニアの突破力を引き出す

ちょまど:エンジニアの生産性を上げるためには、何が重要だとお考えですか。

古川:「生産性」という言葉は漠然としていますね。時間あたりのアウトプットを高めるのか、利益を最大限にするのか。かつては私もエンジニアでしたから、そこで何を考えながらコードを書いていたかというと、世界で誰もやったことのないやり方で、世界で誰も作ったことのないシステムを作ろうと目指していました。

もちろん、ゼロからそれを思いつける人は限られています。たいていは誰かの作ったものの真似から始まりますが、次はそれよりも少しはいいものを作る。必ず何かをプラスするということですね。それが「エンジニアの生産性を上げる」ということだと思います。

ちょまど:なるほど、そうですね。

古川:オープンソースの考え方もそうですよね。誰かが作ったものをコントリビュートすることで、より良いものを生み出す。その運動の過程にこそ、エンジニアリングの醍醐味がある。だからこそ、エンジニアは常にガツガツと学び続けるわけですから。

ちょまど:古川さんのようにエンジニアをリスペクトして、エンジニアとしてのバックグラウンドがある人がトップに立つと、エンジニアとしては話しやすいですね。同じコミュニケーションプロトコルを共有していると思います。

たとえば、そうですね。極端な例で言うと「AI使っていい感じにして売上げ倍にしてよ、AIなら何でもできるんでしょ」みたいなことは、古川さん絶対言わないですよね。こう、「水の上を歩けるよね、水の表面を歩けばいいんだからさ」みたいな(笑)。

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古川:「水に潜る前にどれだけの加速が必要か。水の抵抗を受けながら、どれだけのスピードで足を繰り出せばいいのか」ということをエンジニアは論理的に考えますからね(笑)。

ちょまど:そうそう(笑)。組織はリーダーが最初にカルチャーを作るので、古川さんもそうした役割を担っているのでしょうね。

古川:とはいえ、一人では何もできません。やはり共感してくれる仲間作りが大切で、そこにちゃんと時間を費やさなければならない。そのためにもトップが旗を振り続けることが必要です。

ちょまど:仲間を集めるための求心力。それもCIOに必要な特性の一つですね。それと現場の裁量範囲が広く、みんなオープンマインドで話ができる環境も組織作りには必要だと思います。

古川:これまでの技術の延長線上で行ける世界と、そうでない世界がありますね。ここ数年の技術動向を見ていると、やはり違う世界に行かなければならない。バックエンドの基幹システム一つをとっても、リフォームではなく、リノベーションが必要。そうしないとレガシーの悪いところを引きずってしまい、DXを前に進めることができなくなります。

だからこそ、私はエンジニアの突破力というものを信じているのです。パーソルのエンジニアにはそれだけのポテンシャルがあります。その潜在している力を最大限に引き出すのがCIOの役割だと考えています。

ちょまど:私も2社目のスタートアップ企業に転職したとき、その会社にどんなエンジニアがいるかを徹底的に調べました。技術やものづくりが大好きで、尊敬できるエンジニアがいれば、より多くのことを吸収できる。

さらに、そうしたエンジニアをリスペクトする経営者がいれば言うことなしです。古川さんが、パーソルをそんな会社をしたいと考えていることが、今日のお話でよくわかりました。

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