プロジェクトを成功に導くPMと技術スペシャリストの存在 ──NTTデータ流プロジェクトの進め方#1

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プロジェクトを成功に導くPMと技術スペシャリストの存在 ──NTTデータ流プロジェクトの進め方#1
国内金融機関の大型プロジェクトに長年取り組んできた、NTTデータの第二金融事業本部。ミッションクリティカルな勘定系システムはもちろん、これからの金融DXを念頭に置いた情報系システムの構築・運用にも強みがある。そこでは、単なる既存システムの運用・メンテナンスだけではなく、クラウド・AI・IoTなどの最新技術を顧客に提案し、攻勢的にプロジェクトを革新するリーダーやマネージャーの役割が重要になる。難易度の高いプロジェクトを担うプロジェクトマネージャー(以下、PM)と、その技術を支えるスペシャリストたちの連携を取材した。

トップシェア「BeSTA®」ファミリーで地銀共同利用システムを構築

北囿(きたぞの)達也氏は2013年の入社以来、一貫して地方銀行の共同利用システムの開発に従事してきた。このシステムはNTTデータが開発した、銀行業務に必要な機能を提供するパッケージ「BeSTA®」注1をベースに構築されている。

BeSTAは、預金取引、融資取引などの様々な勘定系業務をこなすアプリケーションを一つのパッケージにまとめたシステム。これをベースに北囿氏が現在構築・運用しているのが、5つの地方銀行が共同で利用する「MEJAR(メジャー)」注2というシステムだ。

「各銀行での開発・運用維持コストを削減し、さらなる業務効率とサービスの向上を実現することが目的です。NTTデータが現在進めている数多くのSI事業の中でも、金融分野を代表するシステムで、時期によっては500人規模の体制になる大規模プロジェクトとなります。特に現在は現行維持に加え2024年1月にメインフレームからオープン化へ移行を予定していてIT投資抑制や消費電力削減によるグリーンIT推進にも貢献するプロジェクトです。注3勘定系の他にもオンラインデータ連携基盤注4やクラウド適用を推進、異業種連携を強化し業務の自動化・効率化と新しいことにも積極的に取り組んでいます。複数のサブシステムがあり、私はそのサブシステムの機能を開発するプロジェクトチームのリーダーを務めています」


株式会社NTTデータ 第二金融事業本部 第三バンキング事業部 プロジェクト統括部
バンキング開発担当 課長代理 北囿 達也氏

NTTデータの金融機関共同利用システムとしては、2004年にサービス提供を開始した「地銀共同センター」がある。これも「BeSTA」をベースにしたシステムで、主に日立製作所のメインフレームで稼動している。

全国の地銀による共同利用が進む中、地銀間の経営統合などの影響もあり、NTTデータが新たな共同利用システムとして2010年に稼働させたのが「MEJAR」だ。さらに別の共同利用システムである「STELLA CUBE®」や「BeSTAcloud ®」も含め、同じBeSTAをコア・パッケージとして使っていることから、「BeSTAファミリー」と呼ばれる。BeSTAファミリーは、地銀共同利用システムとして国内最大級のシェアを誇る。

地銀共同利用システムを最初に開発した“猛者”たちが集う職場

「地銀共同利用システムの構築には、先輩たちが非常に苦労してきたと聞いています。MEJARには、先行システムのノウハウや経験が詰まっており、それが安定したシステムに繋がっていると思います。もともとマルチプラットフォームで、稼働するコンピュータを選ばない設計になっているため、お客様の要件要望に応じてハードウェア構成等を自由に選択できる点も大きなメリットだと思います」

北囿氏は、MEJARの中核的なサーバーシステムが設置されているお客様拠点に常駐し、そこに設けられたNTTデータ専用の開発室で仕事をこなしている。客先常駐とはいえ、NTTデータの社員だけで100人以上がおり、まるでNTTデータの一つの部署のようだという。

そこには、インターネットバンキング等を提供するネットワークサービス「ANSER®」や、前述の「地銀共同センター」など、NTTデータの大規模システム開発を経験してきた猛者が集っている。

「お客様である銀行からの高い要求を満たして、大規模プロジェクトを成功させてきた先輩たち。時に現場に張り付いて、プロジェクトを成功へと導いてきました。そうした先輩たちを私たちは、猛者と呼んでいます。その経験談には、貴重なヒントが詰まっています」


だが北囿氏には、新しい技術を吸収して開発する力がある。クラウドやオープン系システムもその一つだ。

「MEJARプロジェクトのクラウドに関する案件については、私が必ず入り、プロジェクトマネジメントを含めて開発をリードする立場にあります」

「実施要領」は、歴代の知恵と汗が詰まった虎の巻

北囿氏たちが開発するのは、一つの小さな障害でも多くのユーザーに影響を与えてしまうミッションクリティカルな銀行システムだ。品質を担保しつつ、新技術も駆使したシステム開発が求められる、非常にチャレンジングなプロジェクトである。

北囿氏自身も入社早々「コードを一行書き替えるだけでも、上長承認が必要」という職場の習慣に驚いたことがある。そのコード変更が、将来のバグにつながるかもしれない。誰がいつどこを書き替えたのか、トレーサビリティを担保した仕組み作りも先輩たちが築き上げた文化だ。

一方で、技術や経験が属人的に止まっていては、プロジェクトの継続性や発展性、さらにはシステム自体の品質を保証できない。こうした人的ノウハウを補うのが、「実施要領」と呼ばれるドキュメントだ。

「実施要領は、プロジェクトの立ち上げ方から、進行中のプロジェクトの工程管理、品質管理、進捗管理、セキュリティ管理などのルールをまとめたドキュメント。過去のトラブルや開発実績を元に、ブラッシュアップが繰り返されてきました。MEJARの実施要領も、かつての地銀共同利用システムからのノウハウを積み上げて作られています。現時点でざっと150種類ほど存在します。」


NTTデータでは、プロジェクト管理やPM育成に向けたPMBOKなどの標準フレームワークの導入を進めており、NTTデータ全体としての開発方針も定めている。それと並行して各プロジェクト内で実施要領を作成している。

過去のプロジェクトが何につまずき、それをどう乗り越えたのか。いわば汗の結晶がここに詰め込まれている。進行中のプロジェクトはもちろんのこと、新たなプロジェクトにアサインされたPMやプロジェクトリーダー(以下、PL)が、まずは目を通すべき“プロジェクト虎の巻”とも言える。これを通して、PM、PLの資質を養うことができるのだ。

「プロジェクトマネジメントの一般的なノウハウに加えて、プロジェクト固有の観点も加えています。この実施要領に沿って開発を行うと、プロジェクトマネジメントの基本が学べるだけでなく、プロジェクトの性質についての理解も深まります。さらに、実施要領があることで、システム開発のゴールが明確になる。これが一番重要ですね」

多様な開発案件を進める中で、何をもって開発したシステムをOKと判断するかは難しい問題だ。しかし、実施要領で網羅されている品質確認観点というのをチェックし、それらをクリアできれば一定の品質が担保できるのはとても分かりやすい。

「システムテスト一つとっても、バクの検出密度をどのぐらいに設定すべきか、バクが多かった場合にはどういうアクションを取るべきか。そこまで書かれています。開発工程の途中で目指すところが常に見えている状態なので、チームメンバー間でゴールを可視化し、それを共有できる点においても役立ちます」

風通しのよい職場で将来の技術を徹底的に語れる

これまでのノウハウの集積、ルールのドキュメント化に加えて、北囿氏はMEJARチームで仕事のしやすい点をもう一つ挙げる。

「業務後にみんなでボウリングに行ったり、マラソン大会に一緒に出場したりなど、イベントが結構あります。MEJARチームは、業務中に上司のデスクを訪ねて、雑談交えた会話を普段からよくしています。コミュニケーションがとても取りやすいんですね。そこで、新しい技術の取り組みについても、語り合うことができます」

つまり、職場の雰囲気がフランクなのである。北囿氏はそれを「和気藹々」と表現した。

最近はリモートワークが増えてきたが、マイクロソフトのTeamsを活用し、オンラインでも積極的にチーム内のコミュニケーションが取れるようにした。

「事業部長レベルの方ともTeamsを通して、チャットで気楽に会話するようになりました。オンライン会議でさらにチーム内の風通しがよくなった。これは、コロナ禍に対応して社内のコミュニケーション基盤を整備してくれた、技術革新統括本部のおかげでもあります」


技術革新統括本部の話が出たところで、もう一人の人物、森氏にも登場してもらおう。

技術スペシャリスト集団「技統本」との密な連携

森氏が所属する技術革新統括本部は、NTTデータのSI事業を全社横断的に支える技術スペシャリスト集団だ。技術革新統括本部はシステム技術本部、品質保証部、技術開発本部等で構成され、全体の人員も多い。

生産技術、セキュリティ技術など、技術要素に特化した部署があり、SI事業で重大トラブルや技術的課題が発生したときは事業部門と速やかに相談・連携し、課題を解決する役割を担っている。

森氏は、もともと金融分野で銀行顧客の勘定系、情報系システムを開発するエンジニアとしてキャリアをスタートした。その後、特定顧客に特化するのではなく、広く最新技術を深掘りし、NTTデータ全体の技術向上に寄与したいと8年前に異動してきた。

まずソフトウェア技術センタに属し、オープン系システム開発のためのNTTデータの総合ソリューション「TERASOLUNA(テラソルナ)」関連やITILに則ったツールをクラウド提供するための開発に従事。その後、現在のクラウド技術センタに移った。


株式会社NTTデータ 技術革新統括本部 システム技術本部 生産技術部
クラウド技術センタ 森 哲平氏

MEJARプロジェクトからも、新しい技術案件の相談があると事例を調べ、情報を提供している。北囿氏とはリアルに対面することは少ないが、Teams上で毎日のようにコミュニケーションする関係だ。

「MEJARのチームには、新しい技術に前向きに取り組む風土があります。相談に応じるだけでなく、こちらから新技術を提案すると、積極的に受け入れてくれる。新しい技術を全社の事業に展開する時に、最初にチャレンジさせてもらえる、頼もしい強連携先です。」と、森氏は言う。

最近、MEJARプロジェクトでは、共同利用システムの維持・運用に、米ServiceNow社が提供するクラウドアプリケーションサービス「ServiceNow」を適用し、金融システムに求められるセキュリティと作業効率化を両立する取り組みを始めた。維持・運用作業を自動化することで、作業の間違いとオペレーターの負荷を低減するのが狙いだ。

この導入を支援したのが、クラウド技術センタだ。

「ServiceNowの標準仕様のままでは、お客様の業務・運用フローに必ずしもマッチしないので、そこをカスタマイズしました。自動連携のために、ServiceNowとMEJARのシステムを閉域網でつなげることも行ったのですが、ここはハードルが高かった。社内の各部署やNTTグループの他社ともタッグを組むことで、ようやくシステム連携が可能になりました。最終的には、セキュリティ技術部とも確認し、全社展開できる仕組みを整えました。」

システムの自動連携が進むことで、ServiceNow側からプログラムの自動配信ができるようになり、MEJARプロジェクトの維持運用コストの削減にも繫がっている。システムの一部で行った試行運用では、新しいプログラムの反映にかかる作業時間を83%削減、維持運用にかかる作業を全体で約3%削減できた。具体的な成果を確認できたことから、2021年8月から本格的な運用を始めている。

だが、これは新しい技術やサービスの導入プロジェクトの一例にすぎない。北囿氏は、事業部にとっての技術革新統括本部の役割をこう述べる。

「私たちの仕事を進めるうえで、なくてはならない技術スペシャリスト集団です。技術面で精鋭部隊がカバーしてくれる。会社の中にこうしたバックアップチームが存在することが、とても心強いです」

それに対して森氏もこう答える。

「私たちが直接、外部のお客様を持つことは少ないです。つまり、直接の利益を生むプロフィットセンターではありません。自社の技術を絶えず維持・向上させるために、そこに積極的な技術投資をしているのは、やはりNTTデータのすごいところだと考えています」


「技統本塾」——率先して学ぼうとする者を後押しする文化

事業部に属するエンジニア、SE、PMたちに、より一段のスキルアップを促す研修プログラムを用意するのも、技術革新統括本部の役割だ。北囿氏は3年前に、銀行業務における仮想化基盤の導入を構想すべく、半年間「技統本塾」に通った経験がある。

「自分が関心を持つ技術分野の深掘りのために、自身でテーマを決めて研究し、それを社内や社外で発表します。私は仮想化基盤をテーマにし、VMwareの塾に参加しました。VMware社認定を受けている社内のエキスパートや、VMware社のエバンジェリストから、VMwareを使うとこんなことができると学べる。講義というよりはハンズオン型の実習で様々なことを体験できました」

塾に入る前は、VMwareについてはほとんど知識がなかった。人気の講座には入塾面接もある。北囿氏は「今後は業務で実際に使うことになる。そのために、MEJARプロジェクトの中では、VMwareに関しては自分が一番のトップ技術者にならなくてはいけないのです」と必死でアピールして、入塾できたという。

本務の傍らのいわば自己啓発の時間。そこで得た知識は、必ずプロジェクトの未来に反映されると上司を説得。すると、上司は北囿氏にアサインする業務量を調整してくれた。率先して学ぼうとする者を後押しする文化が、NTTデータにはあるのだ。

NTTデータの技術者研修プログラムは、OJT、OFF-JTも合わせて、大手SIerの中でも有数の規模。社員が自発的に目標を持ち、学び成長することを、組織が支援するのが基本だ。テクニカル系だけでなく、ビジネスパーソンとして能力向上を図るビジネス系研修、グローバル対応力を鍛えるグローバル系研修も用意されている。

銀行業務のDX化はもはや待ったなしの状況にある。MEJAR利用行もオープンAPIやクラウドなど先進的な技術への取り組みに熱心で、DX推進にも力を入れている。

最近もMEJARプロジェクに対して、今後の銀行業務への機械学習やパブリッククラウドの適用について検討したいというオファーがあった。


「お客様が先を行くのなら、私たちはさらにその先を見据えて動かなければなりません。そのためにも、勉強しなければならないことはまだまだあります。技統本の支援も受けながら、地銀共同利用システムを最新の技術にフィットするように、整備していきたい。MEJARチームの猛者と呼ばれるような開発者になるのが、目下の目標です」

北囿氏は、これからの抱負をそう語ってくれた。

注釈
注1  「BeSTA」(Banking application engine for STandard Architecture)は、ベンダーを
           特定しないNTTデータの標準バンキングアプリケーションです。

注2 MEJARは、NTTデータが構築・銀行が主体で運営する、地方銀行・第二地方銀行向け
    基幹系共同センター。参加行は以下のとおり(利用開始および銀行コード順)
    横浜銀行、北海道銀行、北陸銀行、七十七銀行、東日本銀行

注3 NTTデータ 2021年4月1日ニュースリリース
   「横浜銀行、北陸銀行、北海道銀行、七十七銀行、東日本銀行と次期共同利用システムに関する
   基本契約を締結~銀行業界初、共同利用する勘定系システムのオープン化を合意~
」を参照

注4 NTTデータ 2021年1月28日ニュースリリース
   「横浜銀行と開発した業務アプリケーションの他行提供について~金融機関同士のアプリ相互利
   用により顧客サービスエコノミーの構築を目指す~
」を参照

・ 「BeSTA」「STELLA CUBE」「BeSTAcloud」「ANSER」は日本国内における株式会社NTTデー
   タの登録商標です。

株式会社NTTデータ
https://www.nttdata.com/jp/ja/
株式会社NTTデータの採用情報(UpToData)
https://www.nttdata.com/jp/ja/recruit/careers/

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