【レポート】データ活用ビジネスの始め方:デジタルマーケティング[第2部] - TECH PLAY Conference 2017
マーケティング活動のプロセスをデザインする
2人目の登壇は「コトバDMP」開発にあたって、マーケティングの側面から小学館を支援したベストインクラスプロデューサーズの菅さんです。
菅恭一(すが・きょういち)/株式会社ベストインクラスプロデューサーズ 代表取締役社長。1973年生まれ。株式会社朝日広告社での17年の勤務を経て、ベストインクラスプロデューサーズの創業に共同出資者として参画。代表取締役に就任。蒙古タンメン中本のファン。
まず、菅さんはマーケターが直面している問題の背景として、タッチポイントが多様化したり、情報量が肥大化したりするといった「コミュニケーション環境の変化」を挙げます。その結果、マーケティングとしてはマスマーケティングが限界を迎え、連続性を持った施策が重要になり、顧客体験をいかに良質にしていくかが問題になっていると指摘します。
さらに、事業会社のマーケターを取り巻く環境として、ペイドメディア、オウンドメディア、アーンドメディアの「トリプルメディア」に対して、マス、デジタル、リアルのそれぞれの観点から様々なパートナー企業が個別最適しているといった問題が挙げられます。
「マーケティングプロデュース」を事業とするベストインクラスプロデューサーズでは、ブランドの横に立ち、マーケティングのプロジェクト設計をし、戦略を作り、実行マネジメントを行うことで、こうした問題の解決を目指します。ブランドは、ベストインクラスプロデューサーズのスペシャリストに「良質な顧客体験の創出」と「事業課題へのコミットメント」をチームの一員として担保されるのです。
続いて菅さんは、ベストインクラスプロデューサーズの設計思想について説明。現在、デジタルの領域では、新しいテクノロジーや利活用できるデータはどんどん増加しています。AIやDMPなど魅力的なテクノロジーが広まっていますが、テクノロジーが目的になってしまうと失敗するケースが多いと指摘します。
「あくまで事業の目的が大切です。その目的に関する世の中やお客様のインサイトはどのようなものなのか。そのインサイトを充足するアイディアはあるのか。さらにそのアイディアを体験やサービスに落とし込むとどうなるのか。テクノロジーやデータはこれらを支える手段なんです」
ところが、現実ではこの流れが分断されてしまいます。「トラディショナルとデジタル」「目的とテクノロジー」「戦略と実行」「ブランドマーケティングとダイレクトマーケティング」などはしばしば二項対立で語られます。なぜこのような分断が起きるのでしょうか?
「トラディショナル」「目的」「戦略」「ブランドマーケティング」は、プロジェクトのリーダーシップをとるもの、人間で言えば「脳」の役割です。一方、「デジタル」「テクノロジー」「実行」「ダイレクトマーケティング」は、プロジェクトのパフォーマンス、人間で例えると「筋肉」のような役割です。
「分断が起こってしまうのは、この『脳』と『筋肉』をつなぐ『神経』がないからだ」と菅さん。つまり、「リーダーシップ」と「パフォーマンス」をつなぐための「プロセス」が欠落しているのが問題なのです。
続いて、菅さんはそのプロセスをデザインする考え方を紹介します。「施策ありきでスケジュールが引かれることは多いものですが、まずはマーケティング活動を行う上でのプロジェクトの目的、問題の把握、仮説設計、ロードマップ設計など『プロジェクト設計』を行うことが大切です」
プロジェクト設計に次いで、顧客を理解するなど「コミュニケーション戦略」を打ち立て、さらにそれを支えるデータ活用戦略を立案します。その後に施策を実行するというように「活動をプロセス化する」ことが「分断」を防ぎます。
菅さんは「プロセス化」以外にも大切な点を説明します。まずは「価値を言語化すること」。デジタルの時代では、新しいサービスや事業が世の中やお客様にどのような価値を提供するのかが重要になっています。菅さんが勧めるのは、その価値を文脈から設計して作り出す「コンテクストプランニング」という手法。特に、チームがどのようなステートメントで、何を目的に活動するのかを言語化することが大切だと指摘しました。
次に挙げたのは「シナリオ設計」です。「シナリオ設計」はお客様のステージごとに、「ビジネスの問題」や「顧客の行動」「インサイト」などに分解してコミュニケーション設計するためのフレームワーク。まず、「ビジネスの問題」から「コミュニケーションの課題」を導いて、「施策・KPI設計」を行います。そして、「パートナー要件」を策定して「チームビルディング」を実施し、プロジェクトマネジメントするという方法です。
大切なことは、「ビジネスの問題」は事業会社にとっての問題であり、お客様が抱えている問題ではないということ。顧客ステージごとに「ビジネスの問題を解決するためには、お客様のインサイトをどのように充足していけばいいのか」を考えるわけです。
小学館の「コトバDMP」のケースでは、まず新しいチームが発足し、そのチームでSWOT分析を行うなどワークショップを実施するところからプロセスが始まりました。「小学館がデータを活用することで、業界やお客様にどのような価値を提供できるのかをきちんと言語化したのです。ここがポイントになったと思います」と菅さんは振り返ります。
小学館の強みはコンテンツを作る力です。テクノロジーに目が向いてしまうとメディアは「持っているデータをDSPで流したい」という話になりがちです。しかし、小学館では「元々の事業が持っている価値の源泉にデータ活用を掛け合わせる」という定義が行われたため、活動指針となりました。
そこから、サービスのコンセプトを策定し、サービスデザイン、テストマーケティング、商品設計、PR戦略の策定を経て、ローンチに至りました。これら一連のプロセスを振り返ると、「マーケティングの支援」という言葉から想起される活動よりも、新規サービスの開発に近いという特徴があります。つまり、プロセスに基づいたサービス開発そのものがマーケティングでもあるのです。
プロジェクトには5人〜10人、部門を横断するとさらに多くの人間が関わります。そこでプロセスを描けば、次の5点がメリットになると菅さんは紹介します。
- 思考する手順が共通言語化され、施策の精度が高まる
- 施策だけでなく、プロセスの振り返りが可能になる
- プロセス自体が修練され、独自のメソッドに進化する
- 応用のあるワークフローとして組織に定着する
- メンバー、パートナーにおける再現性が高まる
最後に菅さんは、マーケティングプロデューサーとしての活動を「問題と課題を整理する」「プロセスとロードマップを描く」「マーケティング活動を構造化する」「チームを作る」「プロジェクトをマネジメントする」の5点にまとめて、講演を終了しました。
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