人生100年時代にITプロフェッショナルはどう生きるべきか「プログラマ35歳定年説」に完全に終止符を打つ!

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人生100年時代にITプロフェッショナルはどう生きるべきか「プログラマ35歳定年説」に完全に終止符を打つ!

アバナード代表取締役・安間裕氏とネクストスケープ代表取締役社長・小杉智氏。年代は離れているが、共にIT業界を率いる企業の経営者として交流を深め、遠慮のない議論を重ねて、ときには朝まで飲み明かす間柄だ。人々の寿命が伸びて働き方改革が進めば、70歳や80歳になっても働き続けることができる。そんな時代背景を踏まえながら、ITプロフェッショナルのライフサイクルについて語り合う。

「生涯現役」のスタンスで、息子や孫たちと一緒に一線で働いていたい

——「人生100年時代のエンジニア」をテーマに、これからのIT企業のあり方、経営者のあり方について、お話をしていただきます。

小杉:安間さんとは年代の差がありますが、一緒によく飲みに行く仲です。今回の対談テーマについては、世代差があるからこそ、「人生100年時代におけるエンジニアのあり方」がいいのではないかと思ったんです。

僕には4歳の息子がいますが、僕が70歳・80歳になった時にも、その息子や孫たちと一緒に楽しく仕事をしていたい、そんなキャリアを考えているんです。その時、僕は経営者であると同時にエンジニアであり、プロジェクトマネージャーでもある立場で一緒に仕事ができないかと。

エンジニアは若くないとできないとか、若い人でないと起業できないという、業界にはかつて「プログラマ35歳定年説」があった。この問題に対して、誰も結論を出していない。

一方で、エンジニアとしてのキャリアパスは、プログラマからSEになって、プロジェクトマネージャーになるというコースが推奨されていました。しかし、生涯エンジニアでいたいと思う人もたくさんいる。そうした人たちを、経営者としてどう処遇して、評価し、活かしていけるか、そんな話もしていきたいと思います。


株式会社ネクストスケープ 代表取締役社長 小杉 智(こすぎ さとし)氏
1976年生まれ。2000年慶應義塾大学総合政策学部卒業。同大学院政策メディア研究科在学中にネクストスケープを起業。有限会社を2005年に株式会社に組織変更。代表取締役就任。大規模データベースに関するデータモデリング、チューニング、運用設計から、さまざまなビジネスに関するアーキテクチャ設計、システム設計・構築、BPO支援などを行う。大規模プロジェクトにおけるプロジェクトマネジメント、PMO支援、プロジェクト監査の経験も豊富。

安間:僕は小杉さんと飲むときは、いつも半ば本気で「俺は200歳まで仕事をする」と言って笑われます。今だってもちろん自分の発想力が衰えているつもりは全くないですが、小杉さんと話をしているとすごく勉強になるし、なるほどと思うことも多い。

小杉さんが思う、ご自分のお子さんや孫の3世代にわたって同じ空間を共有し、同じ方向を見て仕事ができるような未来。素晴らしいと思います。自分自身がどうありたいのか、子どもたちにもどうあってほしいのか、何らかの理想像を描いているんだと思います。

これはとても重要な観点です。これからは人生100年時代なので、我々が業界全体で考えなくてはいけないことの一つ。これからは60代、70代、いや80代の人たちと、同じ会社で一緒に仕事をしていく時代になっていくはずです。

エンジニアは生涯ずっと現役でいられる。たしかに時代と共に技術や仕事の内容や働く環境は大きく変わっていくでしょう。それでもきっと未来を共有できると思うんですね。


株式会社アバナード 代表取締役 安間 裕(あんま ゆたか)氏
1959年生まれ。明治大学文学部卒。保険会社、商社を経て、1998年にアクセンチュアに入社。アクセンチュア・テクノロジー・ソリューションズ株式会社の設立に携わり、2002年8月に同社代表取締役社長に就任。2009年、アクセンチュア株式会社 執行役員アウトソーシング本部長、2010年執行役員ビジネスプロセス・アウトソーシング統括本部長を歴任。国内ITコンサルティングファームの経営に携わった後、2014年4月にアバナードに入社し、代表取締役に就任。

小杉:プログラマが「いつかプロジェクトマネージャーになりたいです」という目標を掲げていたのは、僕の世代くらいが最後で、「プロマネなんかなりたくない」「面倒くさいだけじゃん」「マネジメントレイヤーに上がりたくない」という人が増えてきました。

会社の若い世代のエンジニアと話をしていると、将来どうなりたいか、何をやりたいかと話をしていても出てこない。
ですが、「何かを得たい」というエネルギーにあふれる若者はまだ存在します。彼らに「どうありたいか」と聞くと、「気軽に周りから技術の質問をされる存在でありたい」とか「チームの中では頼られる存在でありたい」という声は出てきます。「ありたい姿」がイメージできていれば、今のうちに身に付けておくといいスキル・経験などの話ができます。

それは単に技術力だけでなく、コミュニケーション能力だったり、僕の言葉でいえば、相手の空間に入る力だったり、空間を味方につける力だったり、つまりもっとヒューマンスキルの部分だったりします。

安間:僕と小杉さんの共通項の一つは「生涯現役でありたい」というスタンスだと思います。この業界は特に、エンジニアは自分よりもエンジニアとして何か尊敬できるところがないとついてこない。僕はエンジニアとしても、まだまだ使えると自負している。

もう一つは、僕たちはディティールをあきらめていない。「ディティールにこそ神は宿る」というのは僕の座右の銘でもあるので(笑)。

小杉:僕もディティールは突っ込むほうですね。データベースやデータモデルの設計なら若い人たちに負けないという自信があります。

安間:経営者やトップがエンジニアリングのことをちゃんと理解している。しかもざっくりわかるだけじゃなくて、問題点が見えているとか。それこそが、IT業界を引っ張る会社の経営者のあり方だと思います。

要求をつかまえ、要件を生み出すのがITプロフェッショナルの仕事だ

——経営者としての視点の置き方という話がありましたが、優秀なITプロフェッショナル人材をどう育成していくのかという観点はいかがでしょう。

小杉:例えば、1990年代はメインフレーム全盛の時代で、その頃のSEやエンジニアは今でいうフルスタックでした。業務はわかるし、インフラもわかるし、メモリも管理できるし、コードも書ける。それがハードウェアやネットワークが進化すると、今までフルスタックで対応していたことが、水平に輪切りにされるようになります。

業務がOS、ミドルウェア、アプリケーション、インフラというようにそれぞれのレイヤーにスライスされていくわけです。ところが2010年代に入ると、今度はクラウドの登場で、やはりエンジニアは全部わかっていないといけなくなってきた。

では、時代は振り子のように戻っているだけかというとそうではない。時代は螺旋状に発展している。本質的に求められているものは変わっていないが、それを実現するための手段、テクノロジーは進化しているから、それは習得しなければいけない。エンジニアは絶えず勉強を重ねて、新しいニーズをキャッチアップし続ける必要があります。

そこで重要なのは、アルゴリズムの本質を捉えることです。アルゴリズムを理解できれば、コンピュータの本質や細かいところも見えてくる。そうすると、言語が変わろうが、クラウドになろうが、多分こんな風に実装されているんだろうなと想像がつくし、応用も利くようになります。

ただ、クラウドの中がブラックボックスになってしまって、そこに触れる機会がないままだと、エンジニアは本質が理解できなくなるので、自分のスキルを巧みにシフトすることもできなくなる。それはちょっと怖いですね。

安間:僕はそれこそフルスタックのエンジニアとしてスタートしているんですが、当時からつい最近までは、ITエンジニアは縁の下の力持ちとずっと言われてきました。失敗すると怒られるが、成功しても褒められない不遇の職だったんです。

ところが、最近はデジタルトランスフォーメーションが注目され、デジタル化こそが経営の推進力であるという認識が定着してきた。経営者のITに対する見方ががらりと変わって、ITはコストではなく、投資であり、経営の推進力であるということになってきた。

つまり、ついに、我々ITのプロフェッショナルがメインステージに立つ時代がきた。これこそが、デジタルのもたらした最も大きな価値の一つではないかと思います。そういった時代だからこそ、ビジネスからテクノロジーまでをカバーする、フルスタックのプロフェッショナルが求められるのだと思います。

それから、これからのITプロフェッショナルのあり方を考える上で重要なことは、「システム要件」なるものはエンジニアが作らなければいけないということです。デジタルの時代だからこそ、テクノロジーがビジネスをけん引する。そういった時代においては、テクノロジーの分かる我々が、要件を作り出し、「これでどうですか」という形にしてお客さまに持っていく必要がある。

小杉: 要求と要件ですね。要件はやると決めたことだし、要求はリクエスト。エンジニアとしては、顧客が要求していることは何なのかをまず理解しなければなりません。

「顧客と溶ける」ようにプロダクトやサービスを作っていく

小杉:つまり、エンジニアも顧客の立場に立って物事を捉え、「顧客と溶ける」ようにならないといけない。お客さまと一緒に世界を見ていく必要があります。その視点がないと、お客さまが口に出したことが本当に正しい「要求」なのか、正しい「要件」なのかがわからなくなる。

お客さまも間違っている可能性もあるし、当然僕らも間違っている可能性もある。なので、お客さまと一緒になってトライ&エラーを繰り返しながら、プロダクトやサービスを作っていかなくてはいけない。

ところが、従来型のSIerのエンジニアを長くやっていると、そういう視点が持てなくなるんですね。一つのシステム案件に対して「何を作ればいいかわかりません、どうしたらいいかわかりません」とか平気で言うエンジニアがいますけれど、そんなときは、「自分がそのシステムを使う立場だとしたらどういうものを作りたいのか」を問うようにしています。

時にはお客さまにいちいち聞かずに、勝手に作っていいよくらいのことを言っています。出来上がったシステムをお客さまが「それ、いいね」と言ってくれれば、それでいいわけですからね。

安間:あらかじめこういうことをしなさいと言われれば、エンジニアとして考える必要がないから楽かもしれませんが、なんか首輪をはめられた犬みたいで、決して自由とは言えません。

アバナードの社風かもしれませんが、私たちの会社では、すべて自由だと言われる、なんでもやりたいことをやっていいと言われる。どちらが居心地いいかはエンジニアによるでしょうが、言われたことをやっていればよい会社から転職してくると、最初は奇異に感じるかもしれません。

ただ、大事なことは、今まではお客さまが言うことに従うのがエンジニアの美学だったかもしれませんが、ITが主導になった世の中では、それでは困るんです。何を作ったらいいかわからないではなく、我々が世界を作っていくんだ、ビジネスをけん引していくんだという気概がないといけない。僕らもそういう気概を持つ人をどんどん育てて、未来を託していきたいと思います。

この世界は変化する者だけが生き残る。時にはショートカットして最前列に立つのもあり

——技術者が主人公になって未来を創る際に、技術者同士の世代ギャップがネックとなることはないのでしょうか。

小杉:それをなくすためには、若い人と先行世代が一緒に仕事をすることですよね。先行世代には自分たちの技術に誇りもあるし、自分たちが生み出してきたり、作ってきたりしたものに対するプライドも誇りも思い入れもあるので、そこを否定してはいけない。

仮にシステムが不十分でも、そこには、そうならざるをえなかった外部要因がきっとあったはずなんです。例えば、スケジュールが短かったとか、コストが出なかったとか、このインフラでやってくれと押しつけられたとか、その中で彼らはベストを尽くしてきたはずなんです。

安間:今小杉さんが言った先行世代と若い世代のエンジニア同士の協働は、健全なものだと思います。ただダーウィンが言ったように、この世界は「変化する者だけが生き残ってきた」わけで、変わりきれないと滅びていくというのも事実です。

小杉:テクノロジーの進化はとても早いので、変わるべき時に変われなかった人でも、2回目、3回目の波は必ず来ますから、そこで変わればいいと思います。

安間:僕たちはマラソンを走っているわけではないので、追い越されたら、ショートカットするためにたまにはタクシーに乗ってもいいじゃないか、と思います。次の波に乗るということは次の波を飛ばすんじゃなくて、他の人が3か月で覚えた波を5分で覚えて、次に乗っかっていくということ。技術変化のサイクルは速いから、そういうことも今は可能になりました。

コミュニケーション手段や働き方の進化を恐れずに受け入れよ

——多様な働き方がエンジニアの創造性を生み出すということで、経営者としてはこれからのITエンジニアの働き方についてどう考えていますか?

安間:歴史のある企業の経営者は「うちの会社では、隣の人間にメールなんて送らせない」とか、「ちゃんと目を見て話せと言っている」という話を、前はよくしていました。でも、この発想にとらわれている限り、デジタルの時代における働き方改革なんて出来ないと思います。

テクノロジーは、働き方の距離と時間を超えます。隣の人間とコミュニケーションするように、地球の裏側にいる人間とコミュニケーションできるわけです。だから、逆に僕は、隣の人間とチャットで話をしてもいいと思います。コミュニケーションの手段や働き方のあり方はどんどん進化していくので、その進化を我々は恐れずに受け入れていく。そうしない限り、破壊的なイノベーションは起きないと思っています。

小杉:当社では、まだ完全に執行はできていませんが、基本的には副業推進を実施し、定年制撤廃、サバティカル休暇を検討しています。サバティカル休暇については、3年前に中期経営計画でこれからの時代はサバティカル休暇をやるんだと宣言しました。

人生100年時代なので、社員自らが体を鍛えるとか健康に気をつけるというのはもちろんのこと、企業としても健康経営を考えることは欠かせない。人生100年時代には、余暇と働くことと学ぶことをワンセットでアジャイルにして回していくことが大切だと思っています。

ブラックボックス化せずに、探求するのがエンジニアの根幹

——いまを生き抜くエンジニアとして何に注目すべきでしょうか。

安間:それはエンジニア自ら考えてほしいですね。たしかに僕たちも、経営者同士の話の中で、次の注目すべきイノベーションは何かという議論をよくしますが、僕らにわかるくらいなら、それはイノベーションじゃないとも思うんです。

イノベーションというのは集団知から生まれるもので、その集団の中の一人にエンジニア、つまりあなた方がいる。だから、「自分で見つけろ」です。だって、それぞれ一人一人が、新しい未来を創っていくんですから。

小杉:今のITの世界は、きっと何をやっても間違いではないんですよ。例えばいまどきオンプレミスかとか言う人も多いけれど、今はオンプレ上でクラウド環境を作れますからね。Azure Stackやオープンソースでもできます。だから、いまオンプレに取り組むのも決して悪い話じゃない。

安間:オンプレ上でシステムをきちんと組めると、コンピュータがどう動くのかわかる。コンピュータがなぜ動くのかわかると、応用が利くんです。小杉さんが言った「何をしても当たり」というのは、テクノロジーの基礎さえちゃんとわかれば応用がいくらでも効くよ、ということだと思うんですね。

逆に言えば、何事もブラックボックス化してはいけない、ということ。どうしてこういう結果が出るのか、それはきっと向こう側でこんなことが起きているんじゃないかという探求心こそが、我々エンジニアの一番の根幹なんです。

技術の後を追うだけでなく、自分の技術をどうやって社会に装着するかを考える

小杉: ところで、今日僕はここに「35歳エンジニア定年説」に終止符を打ちに来たんですけど、話がそこまで行かなかったですね(笑)。

安間:「昭和30年代生まれの寿命は50歳で終わり」という本があるんですが、それは昭和30年代生まれの人が50歳に至ってなかったときに出た本なんです。つまり、誰もわからないんですよ、仮説が本当かどうかなんて。実際、今どき35歳定年なんて誰も言わないし、エンジニア寿命はどんどん延びている。

60歳の僕自身、今でもエンジニアだと思っているし、当社の超かっこいいプログラマはもう62歳。僕が知っているアメリカのシニア世代のエンジニアもみんな元気だし、給料も高いです。人生100歳が当たり前になってきている時代には、35歳定年なんてあり得ない。脳みそはまだまだ進化し続けるでしょうし、体力さえあれば健康でさえいれば、70歳、80歳までエンジニアでいられるはずなんです。

小杉:そうですね。安間さんが先ほど言ったように、アメリカは日本と違ってエンジニアとの間にSEがいて、PMがいるというような構造じゃない。エンジニア自身がちゃんとユーザー要件を聞いている。エンジニアが上流まで管理している。ビジネスのこともちゃんと理解していますよね。

その一方で、日本にはまだお金の計算できないエンジニアがたくさんいる。PLやBS読めないエンジニアも多い。普通の社会人は会社に入れば自然に読めるようになるけれど、エンジニアは50歳60歳になっても読めない人がたくさんいるというのが現状です。

技術自体を極めることは大切だけれど、エンジニアはそれに止まらず、自分の技術をどうやって社会に装着するかというテーマを常に考えてほしいと思うんです。社会と会話する時のプロトコルは必ずしも技術ではない。他の言葉も必要です。だから、エンジニア35歳定年説に明確に終止符を打つためには、エンジニア自身が直接社会との接点を持つことが欠かせないんじゃないでしょうか。

安間:デジタルシフトがビジネスのメインステージに登場してくると、我々のお客さまは必ずしもIT専門家ではなくなって、経営企画とかマーケティングとか工場の方とかと話す機会が増えてきます。IT用語だけではお客さまを説得できなくなってくるから、他の言葉も必要になるというのは、本当にその通りだと思います。

ところで、35歳が終止符じゃないとすると、我々の寿命は延びたわけで、知識を身につける時間もできたということかな。きっと楽しい時間も増えたのだと思いたい。まだまだやれますね、僕らは(笑)。


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